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http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Interview/20140131/533808/?ST=ittrend&P=1
「萌えるSE残酷物語」をコンセプトにした夏海公司氏のライトノベル「なれる!SE」は、新人エンジニアの桜坂工兵が、個性豊かな上司や顧客に囲まれて成長する物語だ。
同作では、プロジェクトの修羅場でSEがバタバタと倒れる様など、IT業界の暗部がリアルに描写されていることでも話題になった。このライトノベルを通じてIT技術者にどのようなメッセージを伝えたかったのか、IT業界が抱える問題点は何か、などを作者の夏海氏に聞いた。
(聞き手は浅川 直輝=日経コンピュータ)
夏海さんのIT業界における経歴を教えて下さい。
「なれる!SE」作者の夏海公司氏(顔出しNGなので後ろ姿)
「なれる!SE」作者の夏海公司氏(顔出しNGなので後ろ姿)
IT業界にいたのは10年ほどです。最初は金融系のSIer(システムインテグレータ)に就職しました。ある金融機関のメインフレーム保守担当として、COBOLのプログラムを書いていました。
ただ、その顧客企業に特有の業務にばかり詳しくなってしまい、「技術者としてつぶしがきかなくなる」と感じたため、2〜3年後に第2新卒でベンチャー企業に転職したんです。
その後は、外資系IT企業などいくつかの企業を転々としました。その間に、UNIXやLinuxなどのITインフラ、データベース、ネットワーク、アプリケーション開発など広範に体験させてもらいまいた。その後、いつのまにかラノベ作家になっていました。
いやいやいや、いつのまにかということはないでしょう。どのようなきっかけで作家に転向したんでしょうか。
実は、勤めていた外資系企業が、円高などの環境変化で受注が減り、社内で仕事がなくなってしまいまして……。時間が空いたので、好きだった文章でも書いて応募してみようかな、と。
そこで、電撃文庫に原稿を送ったところ、2007年に賞(第14回電撃小説大賞 選考委員奨励賞)をいただきまして。2008年に初の単行本(「葉桜が来た夏」)が出ました。しばらくはITの仕事と作家業を並行していましたが、請け負った仕事に片が付いた時点で作家専業になりました。
IT業界を題材にラノベを書こう、と考えたきっかけは。
最初のシリーズが完結した後、次をどうしようか、という話になったのですが、出した企画がことごとくボツになりました。なかなか突破口が見いだせなかった頃、編集担当の湯浅さんと飲みながら雑談していて、「SEの頃は大変なことがありまして」…と話したところ、そこに湯浅さんが飛びつきました。
ライトノベルでは職業モノは人気がないのですが、SEならライトノベル読者層と重なり、親和性があるのでは、というのが湯浅さんの見立てでした。そこで2009年から執筆を始め、2010年6月に第1巻を発刊。あとは2〜3カ月に1冊のペースで発刊しました。
第7巻「目からうろこの?客先常駐術」では、目下デスマーチ中の客先常駐案件を描いて話題になりました。Amazonにも「良い意味で吐き気をもよおすリアル観」「ここまで陰惨な話をライトノベルで書いてしまって良かったのか」など、現役SEからの悲痛なレビューが並んでいます。
やはり、半分は実体験を元にしています。あるSIerが構築・運用で入っていた案件で、その業者が途中で逃げ出しまして。その空いた穴を埋めるため、私を含む10人ほどのチームが入りました。
とはいえ、やはり案件自体に無理があり、チームの一人が過労で倒れました。そこで代わりの業者を見つけ、引き継ぎ先を見つけて我々も撤退した…つまり、我々も逃げざるを得ませんでした。
第9巻「ラクして儲かる?サービス開発」では、独自サービス開発のコツから落とし穴まで、良くできた教科書のように読めました。
この巻で取り上げた「IPv4-IPv6変換」は、サービス開発ではなく個別インテグレーションの案件で経験したものです。同じく別の技術で独自サービスを開発した経験もあり、それらの経験を組み合わせて書いたものです。
「なれる!SE」は、メッセージ性の高いライトノベルのように思えます。夏海さんは本作を通じ、IT業界のどのような面を読者に伝えたかったんでしょうか。
本作のコンセプトは「萌えるSE残酷物語」ですが、残酷な面だけを描くだけなら、SE出身者なら誰でもできます。私の経験から、伝えたいと思ったことが二つあります。
「なれる!SE」の主人公、新人SEの桜坂工兵
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一つは、SEならではの達成感です。大変な思いをしてシステムを作り上げ、カットオーバーさせたときの快感。あるいは、顧客からものすごい無理難題を押しつけられながら、「あ、こんな風にシステムを設計すれば要件を満たせる」と気づいたときの、「俺、すごいかも」という全能感。そこをきちんと表現したかった。
もう一つ、「IT技術者といっても、いろんな立場があり、見え方が変わる」ということを書きたかったですね。例えばシステム構築のエンジニアを長くやっていると、自分以外の部署が馬鹿に見えてくるんですよ。「運用(部門)は頭が固すぎる」とかね。それが運用担当になると、「構築(部門)が馬鹿な引き継ぎしやがって」とか思うわけです(笑)。
IT技術者のそれぞれのポジションには、それぞれの正義があります。一つのトラブルも構築から見た側面と、運用から見た側面は大きく変わります。そこを表現したかった。
PG(プログラマー)の視点とPM(プロジェクトマネージャー)の視点も大きく違います。PGをやっていたときは「PMは毎週の進捗管理だけで、なんであんなに高い報酬をもらってんだ」と不満を持っていました。それが、いざ自分がPMになってみると、調達・運用・手配、どこかの歯車が狂ったら“おしまい”という、恐ろしくプレッシャーのかかる職種であることが分かりました。
PMといえば、主人公の工兵が上司の藤崎さん(藤崎伊左次)にPMの極意を聞いたときの「みんなが気持ちよく仕事できるようにすること」という言葉が印象に残っています。
この言葉は、以前に在籍していた会社で、先輩に言われた言葉を拝借したものです。「だから、納期は僕に任せて、君は気持ちよく仕事してくれよ」と。
ITベンダーでは、いまだに単なる顧客担当者にPMという肩書きを付けるなど、PMを安易に捉える風潮があります。私もPMP(Project Management Professional)の勉強をしていたので分かるのですが、PMには体系化された方法論があります。
多重下請けに代表される、国内IT業界の商慣習についてはどのように捉えていますか。「多重下請けは必要悪」という意見もありますが…。
難しい話ですね。本来なら(ユーザー企業のIT部門がシステム開発を主導する)内製という形が望ましいのですが、「プロジェクトに向け、今からIT技術者の採用を始めます」というわけには行きません。
多重下請けは、リーズナブルな価格で、かつ短納期でシステムを構築するための必要悪という側面は確かにあります。PMとしてプロジェクトを立ち上げる際、孫請けだろうがひ孫請けだろうが、必要なスキルセットを持つ技術者を手配しないと、プロジェクト自体が回りません。
ただ、その弊害も大きい。私がいたプロジェクトルームでは、どこの会社に所属しているか分からない人ばかり。私がメンバーの面談を行っていましたが、レジュメ(履歴書)を見ていると「半年前まで寿司屋でバイトしていた」といったような未経験者が多かった…。
寿司屋のバイトからの転職で半年ですか…。
IT企業で3カ月間研修を受けた後、そのままプロジェクトルームに送られていました。IT技術者の供給がそんな形で行われている以上、技術者の工数が買いたたかれるのは当然です。
プログラミング経験のない人がIT企業にいきなり就職することのデメリットは、もう一つあります。プログラミングが非常につまらなくなることです。
3カ月の研修でコーディング規約を学び、顧客の要求に忠実に、規約に従って黙々とコーディングする。これではつまらないのも当然です。
本来のプログラミングの楽しさは、生活で面倒なことがあれば、自分でパソコンソフトやスマホアプリを作って自動化してみるといった、創意工夫にあります。そこの楽しさを体験しないまま、というのは良いことではありません。
長期的にIT業界が目指すべき方向があるとすれば、「あれも欲しい、これも欲しい」というユーザー企業の要望を総花的に組み込むモデルではなく、「今後はこれが主流になります」といった提案型モデルに持っていくことですね。
例えば独SAPのようなパッケージ導入のビジネスは、ユーザー企業に「このグローバルパッケージに合わせてください」と提案するモデルです。これならITベンダー側で、納期もコスト構造もコントロールできる。米アップルもユーザーに「慣れてください」というスタイルでしょう。受け身で引き受けず、自ら提案することです。
話題を「なれる!SE」に戻しますが、あの個性豊かなキャラクターをどのように造形したのか、教えていただけないでしょうか。
基本的には、仕事で付き合いがあった方々のイメージを組み合わせてキャラクターを作っています。
例えば、主人公のOJT担当である室見立華は、私の最初のOJT担当が原型です。小説での室見さんと同じく、平気でモノを投げつけるような方でした。……男性ですけど。そこに、同じく仕事で付き合いがあった「どう見ても外見が中学生な女性エンジニア」を重ねてキャラクターを作りました。
そのOJT担当に、当時新人だった私は大いにシゴかれました。私が平日中ではどうしても仕事が終わらず、休日に会社に出社したとき、そのOJT担当も職場にいたんです。OJT担当には仕事がなかったはず、と聞いてみると「おまえのためにいるんじゃないぞ。やることがあったからいるんだ」と。そんなツンデレ的な性格が室見に反映されています。
ユーザー企業のシステム部担当の橋本文月課長にも、これまた男性ですがモデルがいます。橋本課長のキャラと同じく「表情の読み取れない方」で、どうにか仲良くなろうと思ったら、実は飲み会ではかわいらしい、というギャップがあって驚きました。
意外とIT業界には可愛い(男性の)方が多いと…。最後に、次の巻に向けた抱負を聞かせて下さい。
最新刊(第11巻)の最後で、室見さんの過去を知る人が登場しました。室見さんの過去については11巻まで引っ張った格好ですが、まず12巻でその点を解決させようかと。13巻からは新展開を考えていますが、まだ白紙です。
まだIT業界で取り上げていないテーマとしては、業務アプリケーション開発、でしょうか。
うーん。架空の会社の業務フローを考えるのはさすがに大変なので、難しいかもしれません…。
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