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拙著「ソーシャルゲームはなぜハマるのか」にて、「ゲーミフィケーション・フレームワーク」(以下、GFW)という考え方を提示しています。その後、自分 自身あるいはゆめみとしてのお仕事でもこのフレームワークを使って実践する機会が増えてきました。様々な場面で使うことが出来る考え方だと実感しているの で改めてこちらでもご紹介しようと思います(そういえば、本ブログではちゃんと取り上げたことがありませんでした)。
GFWはこのような図で表現されます。様々な意味がこの図には込められているのですが基本的にここに書かれている6つの要素で構成されています。こ れはゲーミフィケーションのコンセプトを実際のサービスに導入する際に、何をどのような手順で考えていけばいいのかということを提示するものです。ここに 記載されている番号順に考えていくことでゲーミフィケーションをサービスに適用することができます。
1)目的と利用者
図の一番上に表現されている「目的」を定めるのが第一歩です。そのためにはまず利用者をしっかりと理解する必要があります。利用者はなぜこのサービスを使 うのか?真の動機をつかむのがこのステップで実施することです。誤解してはいけないのは、ここではあくまで利用者に動機にフォーカスを当てることです。決 して、サービス提供者(企業であることが多いでしょう)の動機ではありません。
以前、「広告主がいるサービスの場合、広告主の動機にもフォーカスを当てるのか」という質問を頂いたことがありました。おっしゃるようにこの場合にはサービスの利用者として、
の2種類が考えられます。この場合でも後者の動機にフォーカスを当てます。一般ユーザが満足してこそ広告媒体としての価値がでますので、順序はそこからです。
「動機が複数考えられる場合はどうするのか?」という質問を頂いたこともあります。理想的にはそれぞれの動機を満たすようなゲーミフィケーションデ ザインを考えることですが、実際は複雑さの度合いが増すためまずは1つの動機に絞るほうが現実的です。より多くの人の動機となっている方を選ぶのが効果が 出やすいためまずはそれを仮説として1つ設定してみてはどうでしょうか。
2)可視化要素
動機を1つ絞れば、次にそれを可視化することを考えます。可視化とは、数値化と考えても構いません。動機の実現に近づいていることを表現する数値を設定し てみましょう。例えば動機が「健康になりたい!」であるとすると、「健康度」を数値で表現することを考えることになります。あるいは「自分の知見を披露し たい!」なら「披露出来ている度」を数値で表現することを考えてみましょう。
このような数値は、実際はどのような要素に分解されるでしょうか?ゲーミフィケーションを適用しようと考えているサービスが提供できる何かを基準に考えてみてもいいですし、その数値がそもそも表現していることを基準に考えてみてもいいでしょう。
例えば健康度であれば、Nike+を例に取れば「ジョギング」という切り口でこれを表現することになります。走った距離、スピード、継続日数、など といった要素への分解が考えられます。また燃焼したカロリー量、体重、血圧といった要素もあり得ますね。また仮にNike+を拡張して、ジョギング以外の 切り口で健康を実現することを含めるとすると、食事、睡眠、といった要素を新たに加えてもいいかもしれません。
ここでは、「この数値が向上・改善すれば動機の実現に近づくであろう」と考えられる数値を出来るだけたくさん挙げてみましょう。
3)目標要素
3−1)アクションの決定
可視化要素としてあげたこれらの数値について、全てが実際のサービスの中で取得できるわけではありません。ここでは実際のサービスの中で具体的に取り得る アクションを基準として、2)で挙げた数値のうちどれを表現することが可能なのかを検討します。ここでいうアクションとは、例えばNike+であれば 「ジョギング」が主となりますが、Webサービスであればログインした、商品を閲覧した、検索した、購入した、レビューを書いた、フェイスブックでシェア した、といったアクションが挙げられます。
Nike+の上記の例ですと、体重はNike+単体としては直接には取得しづらい数値になりますので、一旦省いたほうがいいでしょう。
ただし、現在のサービスに用意されている機能としては取得できない数値であったとしても本来的にあったほうが良いという場合には、将来的な機能拡張の有力な候補となりますのでそれはそれで拡張を考えても良いでしょう。
サービスの中で取り得るアクションは様々にあると思いますが、それらの複数回、あるいはいろいろなアクションの組み合わせが具体的な目標要素となります。
ちなみに1)で考えた「目的」とは言葉が似ていますが、GFWではこの2つは明確に区別しています。目標は具体的なアクションとして記述でき、達成したかどうかが明確に判定可能なものです。目的は(健康になりたい、というように)必ずしも達成が明らかではありません。
3−2)難易度のデザイン
こうしたアクションが決まってくると、今度は難易度を考えます。当然ながら簡単な目標と達成が難しい目標があります。Nike+の例で挙げれば1km走るのは容易でも100km走るのはそう簡単ではありません。
アクションの量、頻度、結果などに応じて達成が困難な目標と容易な目標をいくつか設定します。2)で分解した各数値要素を表現するアクションについ て、簡単にできることとなかなかできないこと、いろいろな段階を設けて表現してみましょう。それぞれが利用者にとっての目標となります。
3−3)フィードバックのデザイン
最後に、それぞれの目標を達成した時にどんなフィードバックを利用者に返すのかをデザインします。簡単なものであれば簡単なりの、難しいものであれば難しいなりのフィードバックを考えましょう。
この際に、そのサービスならではの特典があるとなおよいです。
さて、長くなりそう(というか、今日は力尽きた・・・)なので続きは以下に。
前回は、
1)目的と利用者
2)可視化要素
3)目標要素
について説明をしました。今回はその続きからです。
4)ソーシャルアクション
4−1)ソーシャルアクションを洗い出す
「ソーシャルアクション」という言葉自体が馴染みのない言葉ですよね。日本語で検索すると社会的に良い行動という意味で使われているケースの方がよ く出てきますが、ここで使っているのはそういう意味ではありません。ソーシャルグラフを直接的・間接的に使って利用者同士のインタラクションが発生し得る ような機能のことをここではソーシャルアクションと呼んでいます。
ここで押さえておきたいのは、「いいね」ボタンの設置がソーシャルアクションではないということです。ソーシャ ルアクションは非常に幅広く存在しています。例えば「ランキング」もソーシャルアクションの1つとして考えることができます。これは典型的な、間接的ソー シャルインタラクションです。ランキングに載ることやランキングが表示されていること自体がなにか直接的な利用者同士のインタラクションを生み出すわけで はありません。ただ、利用者の心理には色々な影響を与えます。
「ランキングに載りたい」
「上位のアイツを追い越したい」
「頑張ってる利用者はこんなにやりこんでるのか!」
などなど。こうしたこともソーシャルアクションの効果の1つです。どんなソーシャルアクションが考えられるのかということについてはむしろ既存のソーシャルゲームを見たほうが具体的な例がたくさん見つかることでしょう。
あとは、現実の世界で行われていることをソーシャルグラフを使ってWeb上で表現しようとするとどうなるか、ということを考えてもソーシャルアク ションのアイデアが出やすいかと思います。特に間接的なソーシャルアクションはちょっとわかりにくくはあるのですが、使いやすいものが多くあります。例え ば学校のテスト中、隣の席のA君は順調に答案を書き進めているというのは横を見ればわかります。「あ、こいつしっかり勉強してきたな」とわかります。 ちょっとあせるかもしれませんし、負けずに頑張るぞと思うかもしれません。こうしたことをWebで表現しようとするとどうなるでしょうか?
ソーシャルアクションとはこうしたものなのですが、実際にサービスにこちらを導入する際にはまずどんなソーシャルアクションがあるのかということの イメージをつかむため、ソーシャルゲームや現実世界などを参考に色々と洗い出してみることから始めます。実際問題として、ここはアイデアを広げればいくら でも考えられる部分ですので調子に乗ってくると結構楽しい感じです。
4−2)順序を検討する
ある程度洗い出しを終えると、今度は実施の順序を考えます。通常のWebサイトの場合、そもそもソーシャルアクションはほとんど導入されていないというケースが多いでしょう。あるとして先ほどの「いいね」ボタンを設置しているというくらいではないでしょうか。
これは即ち、そのサイトの利用者はそのサイトのなかでソーシャルなインタラクションを取ることにまだ慣れていないということを意味します。こういう 利用者に対し、いきなり直接的なソーシャルインタラクションを用意してもなかなか使ってもらうことができないでしょう。もう少し気軽に使えるソーシャルア クションを用意して、利用のハードルを下げてあげることが必要になります。また、間接的なものを中心に用意するということも最初は有効です。相手にいいこ とが必ず起きるようなソーシャルアクションも有効です(いいねボタンなどはこの典型です)。
慣れてきた利用者同士の間では、より濃いインタラクションができるソーシャルアクションが用意されている方が盛り上がりやすくなります。「コミュニ ティ」はその典型です(一般にコミュニティをいきなり用意してもなかなか盛り上がらないのはこの順序が考慮されておらず、不慣れな利用者が中心なのに濃い インタラクションをいきなり求めているということが多いように思います)。ただここに至るまでの道のりは短くはないので、そこは十分に考慮する必要があり ます。
現実的には、ソーシャルアクションは開発コストがかさみやすいところですので何をどこまでやるかは予算との相談となるケースが多いかと思います。
5)プレイサイクル
プレイサイクル、というのも聞きなれない言葉かと思います。これも、厳密にこういう言葉として存在しているのかやや微妙ではあるのですが、ここでは 利用者が遊びながら徐々に初級者から上級者へと登っていくプロセス全体を指してプレイサイクルと読んでいます。「サイクル」という言葉を使っているのは、 基本的に利用者の辿るステップが
1)目標を定める
2)目標を達成するために行動する
3)目標を達成する、1)に戻る
というサイクルになっているためです。1)に戻った際に設定される目標は、以前に定めた目標より少し難易度が上がることが通常です。
プレイサイクルのフェーズで重要なことは、利用者それぞれの状況に応じて適切な難易度の目標を提示するようにうまくバランスを考えることにありま す。・・・といっても、実際に利用者が使ってみないと最終的なバランス調整は困難なので、まず考えるべきことは初心者向けの施策です。これを「オンボー ディング」という言葉を使って呼びます。
オンボーディングでは、特にこのサイトが利用者にとってどんな価値があるのかを簡潔に伝えることが大切です。ここでも必要になるのは利用者理解で す。どんな経路で何を求めてアクセスしてきたのか、ということを元に伝えるべきメッセージの内容を決めます。またこのサイトをどんな風に使えばいいのか、 まずどこから始めればいいのかといったこともここで伝えます。ソーシャルゲームでは「チュートリアル」と呼ばれるフェーズがこれに相当しますが、同様のア ウトプットになるケースもあります。
また、上級者向けの使い方を考えることもプレイサイクルを検討する上で重要なことになります。ただ最初から上級者向けを用意しない場合もありますので、スタート時点ではなくても構わないでしょう。準備をしておくというのが実際的かと思います。
6)適用後の改善・運用
最後に考えるのが運用フェーズについてです。これまでの5つの検討を経ることで、概ね初期段階で必要なゲーミフィケーションデザインについて考える ことができました。ただ、実際に手を動かされるとわかるのですが、かなり色々な仮説に基づいています。仮説というと聞こえはいいですが、見えない中で想像 しながらデザインしていくような印象に近いかもしれません。ですので実際にその仮説が正しいかどうかははじめてみないとわからないのです。
ですので、むしろここからが本番。これまでのステップで考えたことが正しいかどうかを実践を経て検証することであるべきゲーミフィケーションデザインに近づけていきます。
その際に、準備しておかないといけないことがあります。それは「なんの指標(KPI)を見るか?」ということです。ゲーミフィケーションが正しく機 能しているかどうかを識別する指標を事前に定めておきましょう。導入するWebサイトにおいて、利用者が盛り上がっているといえるためにはどんなKPIが 向上していればいいでしょうか?
KPIを考えると共に、システム的にはそのKPIがちゃんとデータとして蓄積され、見れるようになっていることが必要です。意識して準備しておかないとそもそもデータがとれていないということはよくありますので注意しておきましょう。
さて、ゲーミフィケーションフレームワークの説明は以上です。ブログでは説明しきれない部分もありますが大筋の考え方はこの2回でご説明してきたと おりです。実際に我々がご依頼を受けて進める場合、丁寧に進行する際にはこのステップで考えています。また、この考え方自体は様々な場面で応用することが できます。6つのステップ全てを必ずしも考えなくても、部分的に取り入れるだけでも効果が出せる場合もあります。是非、応用を様々に考えてみてください。