18. 2013年1月30日 09:39:51
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「インターネットの父」が見る未来米グーグル副社長兼チーフ・ネット・エバンジェリスト、ヴィント・サーフ氏に聞く 2013年1月30日(水) 原 隆 「賢者が描く10年後のインターネット」の3回目は、米グーグル副社長兼チーフ・ネット・エバンジェリストのヴィント・サーフ氏だ。インターネットの標準プロトコルであるTCP/IPの誕生に重要な役割を果たし、「インターネットの父」の1人と呼ばれるサーフ氏に、彼が描いている未来について話を聞いた。本誌の特集「シリーズ動き出す未来(4)ネット化する70億人」とあわせてお読み頂きたい。 あなたは「インターネットの父」と呼ばれています。当時、思い描いていたインターネットと現在の状況を見て、何が大きく異なりますか? まず最初に言っておきたいのは、私は“インターネットの父”と呼ばれるが“唯一の父”ではないということだ(笑)。ロバート・カーンと2人でTCPのデザインをしたのは事実。しかしその後、何千万人という人がネットに貢献してきたからね。普及に関しては政府も後押ししてきた。その前提でお話することにしよう。 私たちがインターネットのデザインを始めたのは1973年の春だ。今年で40年が経とうとしている。9月にお祝いする予定だよ。基本的に当時と今とで起きていることは変わらないと考えている。その理由から説明しよう。
あれは1991年の12月25日だった。英国の計算機科学者であるティム・バーナーズリー氏が、ワールドワイドウェブを世に送り出したのだが、正直な話、世界中のほとんどの人が気付かなかった。ただ、気付いた人間も少しいた。それが初代ブラウザーであるモザイクをつくった全米スーパーコンピューティング・アプリケーションズ・センターのマーク・アンドリーセン氏とエリック・ビナ氏だ。多くの人がモザイクの存在には気が付いたのだ。 なぜだろう?それは人々が様々な情報を載せ始めたからだ。ウェブページが次々と生まれ、画像が公開され、情報が掲載され始めた。それは人々が持っている情報が誰かにとって有益であると信じ、多くの情報を共有したいと考えたからにほかならない。 そして今、ネットの世界で起きていることは20年前と基本的には同じだ。人々はウェブが広がり始めた時から、常に世界中と情報を共有したいという考えで動いてきた。それが友達なのか、家族なのか、会社なのか、世界なのか、つまり誰を対象に共有していくのかを長年磨き続けてきたに過ぎない。 ただ、この30年間で私が想像すらしていなかったことも起きた。まず、ここまで利便性が向上するとは思っていなかったし、そしてそこから得られる想像を絶する膨大な情報量については想像すらできなかった。90年代半ばに情報が増殖し始め、人の手ではもはや探せないという状態になったところで生まれたニーズが「検索エンジン」だった。そこにビジネスを見出したのがヤフーであり、マイクロソフトであり、グーグルだったわけだね。しかし、ここで問題が起きてしまう。情報を探すという根源的な問題、情報の価値を見定めるということだ。 具体的にはどのような問題を指しているのでしょうか。 グーグルはあなたが興味を持っていることを、あなたに回答として提示しようとする。だが、実際に提示された情報を信じるかどうかはあなた自身が判断しなければならない。それが事実なのか、情報として使えるのかという根本的な部分はユーザー自身でやるしかない訳だ。 個人的にはね、これは問題としては捉えていない。迷えるだけの情報量があるということだからね。図書館に(答えと思われる)本が1冊しか無い時代には、迷うこともできなかったのだから、いいことだとすら思っている。しかし、人によっては違う。意図的であろうがそうでなかろうが、誤った情報に接触してしまう可能性がある。その1つひとつの判断を強いられるのは、ある種の負荷とも言える。そして、ここに攻撃に対する脆弱性が潜む。 私が最も望んでいない“酷いこと”は、ウイルスやスパム、偽造サイトなどの横行だ。それらに私たちは対処していかなければならなくなった。組織的に戦うための対処法はある。例えば、私が会長を務めている「StopBadware.org」だ。これはウイルスや悪意のあるプログラムに感染してしまったウェブページを掃除するための組織だ。検索エンジンでは、プログラムがインターネット上を走り回り、ウェブページをデータベースに登録していくが、危険なサイトがある場合はメモを残しておく仕組みになっている。 グーグルの場合はユーザーがそのウェブサイトにアクセスしようとすると、それでも訪問するか否かの判断ができるように、警告を出す仕組みになっている。もちろん警告が出るウェブサイトの運営者は怒ってしまうけど。ただ、こうしたエコシステムによって安全性に貢献できないかと考えているんだ。
パスワードも、よく使うにも関わらず、弱いことが多い。コンピューターによって簡単にハッキングできてしまう。グーグルが1回しか使えないパスワードを発行する「ワンタイムパスワード」を提供しているのもこれが理由だ。「2段階認証方式」などとも呼んでいる。私がグーグルの社内で常に持ち歩いているUSBキーをパソコンに挿入すると、6けたの暗号化されたパスワードが1度だけ表示される。頭の中で覚えているパスワードとほかの要素を組み合わせてセキュリティを高めている。 グーグルはこの仕組みを皆さんに開放している。ユーザーはUSBキーの代替手段として携帯電話を使う。ちなみに、「Eating your own dog food(自分で自分のドッグフードを食べる)」という英語のことわざがあるが、グーグルは常に自分たちでこういった技術を使ってから出すようにしている。 望んでいないことをしても、子供は子供だ こうした諸問題が出てくると、国もインターネットに対して対策を講じようとしてきますね。 望んでいないことをしてしまうとしても、私にとって“子供”は“子供”だ。政府も危惧している。そして今、ここに駆け引きが起きている。 インターネットを安全に保ちたいというのは我々にとっても政府にとっても、共通の願いだ。市民を守るというのが政府の役割だからだ。ただ、時として彼らは手法が極端でもある。極端な手法を選択することは、本来ネットが持っているオープン性や開放性に抵触する。ネットの周辺で経済的な爆発が起きているのは、このオープン性や開放性があったからだ。ここで私は1つの概念を紹介したい。それはパーミッションレス・イノベーション(許諾の必要のない革新)」と呼ぶものだ。 ラリー・ペイジとサーゲイ・ブリンの2人がグーグルを創業したとき、彼らはISP(インターネット・サービス・プロバイダー)から許諾を得ていなかった。ただ、彼らがグーグルを作ったことによって人々に様々な発見をもたらした。これが大事だ。 もう1つ大事なのは自己表現としてのインターネットだ。これまでは届かなかった声が届き、互いに発見することができ、共通の趣味・関心を共有できる。これはインターネットがオープンだからできることだ。グーグルのエリック・シュミット会長が最近、北朝鮮に訪問して提言してきたことも、まさにこのことだ。北朝鮮の経済的な発展のためには外の世界を見る必要がある。なぜなら外の世界の方が豊かだからだ。日本が成功した理由もまさにここにある。国の中、外の両方を満足させる経済成長を続けたからに他ならない。 国が規制を強めなくとも、クラウドサービスの乱立でインターネットが本来備えているオープン性は徐々に失われていかないでしょうか? 起源を考えるとクラウドはタイムシェアリングに過ぎない。開発した同僚たちは僕がそういう言い方をすると嫌がるけどね(笑)。クラウドの原理から考えたときに、個々が独立しているということではない。情報を探せるということ、さらに多くの情報を提供できるという点において根本的には一緒だ。 しかし、あなたの懸念もまた、正しい。法人向けのサービスは独立していなければならないし、実際、我々も独立したサービスを提供している。ただ、クラウドコンピューティングは、まだ新しい分野だということを念頭に置いてほしい。クラウド同士がお互いに会話し、交流するということが実現できていない。
クラウド同士の会話、実現は早い 1970年代、既にIBMやDEC(デジタル・イクイップメント・コーポレーション)、HP(ヒューレット・パッカード)は、それぞれネットワークを持っていた。各ネットワークは完成していたが、お互いにネットワークを接続できていなかった。今日のクラウドと同じ状況だったわけだ。ただ、遠くない未来にクラウド同士が直接交流できるようになる。 今は情報を引き出して、ほかに移そうとしたら、自分自身でパソコンなどに入れなくてはならない。これには大きなストレージ容量が必要になってしまう。クラウドの間に大きなパイプが必要になるわけだ。思い描いている「インタークラウド」によってこの交流ができるようになる。私たちが40年前にインターネットを築いたようにね。 私の野心はこれにはとどまらない。いま、クラウドを使おうとすると多くの人は1つしか使っていない。私が思い描いているのは利点や特徴を踏まえて2つ以上のクラウドを使い、互いに会話するということだ。この基準はまだ描かれてはいないが、実現するだろう。実際、これに興味を示している人や研究機関が既にある。 10年で実現するかって?30〜40年前にネットが生まれたときよりもずっと早いスピードで実現するだろう。当時はネットの利便性にはなかなか気付かずにいたが、今はインタークラウドの利便性を思い描くことができる。皆が開発する必要性を知っている。 コンシューマー分野でもデバイスからソフトウエア、クラウドサービスに至るまで垂直統合型のビジネスを大手ネット企業が繰り広げ、陣地争いをしているように見えます。 グーグルにおいてはその表現は適切ではないね。私たちが様々なアプリケーションを用意したいと思っているのは正しい。事実、メールサービス、ドキュメント、検索、地図、翻訳など様々なものを提供してきた歴史がある。ただ、グーグルにはポリシーがある。「データの解放」だ。グーグルのサービスに情報を入れると引き出すこともできる。もちろん、グーグルを末永く使ってほしいのは山々だが、もしあなた方がほかの場所に行きたいというのであれば、それも我々はサポートする。 これは消費者だけに当てはまる話じゃない。ビジネスパートナーについても同じだ。我々には有償と無償のユーザーがいる。多くの場合、それは広告主と我々のサービスを利用する一般コンシューマーを意味する。この両方について私たちは解放手段を用意している。広告主が抜けてどこかに行きたいという場合でも我々はそのサポートを怠らない。 私たちは様々なツールによって情報を共有できるが、同時にその情報へのアクセスをコントロールする権利も、またあるはずだと考えている。1つの例として「Google+(グーグルプラス)」を挙げよう。多くの人がグーグルプラスをソーシャルネットワーキングのツールとして考えている。それも正しい。だが、同時にビジネスのツールでもある。例えば、ハングアウトはソーシャルの要素はあるが、ビジネスでも利用できる。また、誰と共有するかというのを選ぶために「サークル」という概念を用意しているのだ。多くのグーグルの製品においてテーマとなるのは「コラボレーション」と「共有」だ。これらの背景にあるのがビジネスであり、リサーチであり、ソーシャルとなる。どの用途であれ、共有して使えるようにしているわけだ。 10年後のネットの世界を描いてほしい。何が起きると考えるか。 4つのことが起きると考えている。インターネットはより大容量化し、モバイル化が進み、センサーネットワークが拡がり、IOT(Internet of Things:モノのインターネット化)が進むだろう。最初のトレンドは電化製品や電子製品がインターネットにつながるところから始まるが、その後はグーグルが研究している自動走行車、AR(拡張現実)技術を使った眼鏡など様々なものに広がっていく。 服にセンサーがつき、運動量やどのようなものを食べているかを把握できるようになり、生活する身の回りでどのような石油製品を使っているか、フィードバックが得られるようになるだろう。 妻は50年で初めて声を聞けるようになった 脳とのコネクションの観点からも見てみよう。現在、耳が不自由な人には人工内耳がある。外部の音をマイクが取り込み、スピーチプロセッサーが分析し、ワイヤーによって人口内耳に伝わり、脳に直接働きかける。脳は実際に聞いたかのように勘違いして、音を聞ける。これはインターネットのデザインが始まった1973年の頃から作り始めているため、既に基本的な技術になっている。実際、私の妻は50年間まったく耳が聞こえなかったが、この人工内耳を2つ入れることによって初めて声が聞けるようになった。いや、正確にいえば脳が騙されて聞いていると勘違いしているのだけれど。 耳の次は目だ。目の見えない人をサポートし、脳をだますことによって見えるようになる。脊椎だって考えられる。脳に直接シグナルを送ることによって手足が不自由な人達が動かせるようになる。これらは15〜20年間で実現していくだろう。一部は既に実現しており、今なお実験が進められている段階だ。こうしたことが実現し脳とネットを直接つなげることによって、すごい力が発揮できるようになる。 最近、私たちが採用した面白い人間にレイ・カーツワイル氏(編集部注:発明家であり、思想家、未来学者)がいる。彼は、コンピューターの成長があまりにも早いため、そのうち人間よりも頭が良くなるだろうと言っている。結果として、我々は自分自身をアップデートできるようになるのではないかと発案している。私たちはこれを「特異点」と呼んでいるんだ。 人の人知を越えてコンピューターが成長することで、人は宇宙までも見ることができるようになる。恐らく、彼はその世界を築くまで長生きするつもりだろうな(笑)。ただ、グーグルとして彼にここにいてもらう理由はそのためではなく、コンピューター自身が自らのパワーを成長させていくのを、どういう風に活用していけばいいのか、アドバイスしてもらうためだ。 惑星をインターネットで結ぶ 惑星間インターネットも現在進行形で開発している。NASAだけでなくJAXAからも参加してもらっている。太陽系システムにおいて惑星間でインターネット通信を実現していくためのプロトタイプを作っている。その一部は火星にもあるし、宇宙ステーションにもある。以前、ディープ・インパクトと呼んだ彗星探査計画でも、宇宙で通信するためのプロトコルが載っている。現在、様々な国が参加する国際的な連合によって研究が進められているが、いかんせん光の速度が遅いといった問題もある。ただ研究成果は今後何十年かで見えてくるはずだ。 最後にもう1つ、グーグルが実現しようとしているのは、人間同士のコミュニケーションと同様にコンピューターとコミュニケーションをできるようにすることだ。人がコンピューターに合わせるのではなく機械が人に合わせるようになる。そのために音声認識、翻訳、画像解析の精度を高めている。グーグルが進めているAR技術を採用した次世代眼鏡「プロジェクト・グラス」は、まるで友人のようにコンピューターを通して現実世界を見ることができる。 実際にこのコミュニケーションが実現すると、SFテレビドラマシリーズ『スタートレック』の世界が実現に近づく。船長とも交流できるようになるだろう。コンピューターがもっともっとパートナーになることによって、打ち込んだり検索したりすることなく会話ができるようになる。何がやりたいのかを推測して動いてくれるようになる。スタートレックには「アンドロイド(人型のロボット)」が出てくるが、私たちが自分たちのシステムをアンドロイドと名付けたのも本当に興味深い(笑)。 原 隆(はら・たかし) 日経ビジネス記者。日経BP社入社後は日経パソコンに約7年勤務。その後、日経コミュニケーション、日経ネットマーケティング(現日経デジタルマーケティング)を経て2010年1月よりビジネス編集部に在籍。電機・ITグループ所属、主にインターネット業界担当。趣味は酒と麻雀とピアノ。宮崎県出身、高田馬場在住15年目。「鳥やす」で焼き鳥とビールを飲むのが好き。Twitterアカウントは@haratakashi。飲んだときにしかほとんどつぶやかない 賢者が描く10年後のインターネット
農業革命、工業革命、そして情報革命――。 20世紀の終わりに発生した第3の革命はまだ始まったばかりだ。 しかし、20年前と比べれば生活の変わりように気づくはず。 圧倒的利便性によって、インターネットは急速にライフラインになった。 もはやこの便利な生活を放棄して後戻りすることはできない。 2008年に1兆だったページの数は現在、30兆。 ネット利用者数もまた現在の23億人からさらに膨れ上がっていく。 あらゆる情報がネット上に集約され、人が互いにつながる世界、世界全人口の70億人がネット化する未来とは。 「インターネットの父」や「AI(人工知能)研究の第一人者」と呼ばれる賢者の言葉から、10年先のネットの世界を展望する。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20130128/242920/?ST=print http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=9c6W4CCU9M4 |