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アンドロイド端末はテレビ受信機と同じ末路を辿る
2012年11月9日(金) 田代 真人
家電業界の下方修正が止まらない。パナソニックは先般、2013年3月期通期業績予想を7650億円の最終赤字へ下方修正した。年間配当も63年ぶりに無配に転落する。シャープも4500億円の通期赤字見通しを発表し、英米系格付け会社のフィッチ・レーティングスは同社の長期格付けを「BBBマイナス」から「Bマイナス」へ6段階引き下げた。「Bマイナス」とは「非常に投機的」の中でも最低ランクで、投資に非常に高いリスクを伴う企業と烙印を押されたわけである。
テレビで稼げない時代
従来、家電メーカーの収益の柱はテレビだった。しかし、もはやテレビを含めた映像・音響分野は、エアコンや冷蔵庫などをはじめとする白物家電分野にも劣るほど弱っている。
そもそもテレビの役割とは何だったのだろうか?
簡単に言うと、放送局、もしくは放送局から依頼された番組製作会社が番組を制作し、その番組を観る装置である。つまりコンテンツを閲覧するハードウェアである。設置するだけでは何も映らない。電源はもとより、アンテナをつなげ、設定しないと役割を果たさない。
アンテナもしくはケーブルテレビのモデムをつなげるとニュース・ドラマ・映画・バラエティ・スポーツなどの番組を観ることができる。結局これらがないとただの置物。自分でコンテンツをつくることもできないわけだ。
だからこそだれも「テレビを使う」とは言わない。モノではなく表示装置にすぎなかった。それらコンテンツの“器”を作り続けたのがテレビメーカーだった。器であれば、食器と同じように中に入れるものがなければ意味がない。ただ、食器は中に入れる料理によって様々なデザインのものを揃え、複数購入するが、テレビはそうはいかない。
映画やスポーツを観る時は大画面の方が臨場感が増すが、だからといってニュース映像用に小さな画面のものを購入することは少ない。大抵は“大は小を兼ねる”として、大画面のテレビを購入すれば、それでいい。だからこそ昨年の地デジ化導入の際、多くの人が、より大画面のテレビをエコポイントで購入してしまい、その後のテレビ販売は大きく落ち込んだ。
そしてまた“器”だからこそ、そこには本質がない。ある程度の品質があれば、どれも一緒。しかも品質は、これ以上必要ないほどに上がってしまい、値段もいまは32インチのテレビが2万円台で購入できるほどにコモディティ化してしまった。機能により差別化することができず、値段だけが勝負の“器”になってしまった。
だからこそ、ユーザーにとっては、そこに映る映像のみが差別化要因となる。しかし、ここに関して、これまでテレビメーカーはスポンサーになる以外なにもやってこなかったのである。コンテンツが主役にもかかわらず、あくまでテレビというハードウェアを彼らのコンテンツとして製造してきたのだ。
主役はコンテンツ
テレビ番組の劣化が言われて久しい。いわく制作費として予算枠が小さくなったがために低予算で手軽に制作できるバラエティ番組ばかりになったという。たしかにもっとも面白い“ドラマ”は、既にライブで映し出されるスポーツ番組になっている。とはいえ、NHKなど予算がそれなりにある放送局の番組は見応えのある番組もそろっている。
このように、もはやテレビという番組表示装置を作って売るだけでは、メーカーは利益をとれないのだ。考え方が「コンテンツ主役かどうかではない:というのは、人々の言い方でよくわかる。
私たちは通常のテレビ番組を語る時、「テレビを観る」とは言っても「テレビで観る」という言い方はあまりしない。逆にコンテンツを主役とした映画やスポーツ中継などでは「テレビで観る」と言う。
ではパソコンはどうだろうか。「パソコンを観る」とは言わないが「パソコンで観る」とは言う。つまりパソコンとはそもそも基本的にコンテンツが主役のハードウェアなのだ。だから「テレビを使う」とは言わなくても「パソコンを使う」とは言う。
スマホも同様だ。「スマホを観る」ではなく「スマホで観る」。スマホは“使う”のである。
アップルがiPodを発表した時、既にスティーブ・ジョブズのアタマの中にはiTunesストアの構想があったと言われる。そう。彼のアタマの中にはiPodというハードウェアと同時に楽曲というコンテンツ=ソフトウェアの販売まであったのだ。そしてそれがアップルという企業を強くすることを知っていた。
ソフトウェアからも利益を得る。そして、iPodを何万というコンテンツであふれさせる秘策が、代理店などを通して登録さえすればだれでも自分自身の楽曲を販売することができるというもの。アマチュアがプロと同じ店の棚に自分の楽曲を並べて販売できるのだ。
そして、そのためにアップルは2004年、『GarageBand』という楽曲作成ソフトを発表し、写真ソフト『iPhoto』、映像編集ソフト『iMovie 4』、DVD焼き付けソフト『iDVD 4』とともに『iLife04』というパッケージソフトで販売した。しかしこれらはその後販売されたハードウェアのiMacやノートブックには無料でインストールされていた。
これは何を意味するか?
つまり世にあふれている才能のあるアーティスト予備軍に無料で使える“道具”を与え、そこから生み出されたコンテンツをiTunesストアで売ってもらう。そして“上がり”の30%をアップルが獲るという戦略なのだ。ハードで儲けて、ソフトでも儲ける。しかもコンテンツを作ることができる“道具”はマッキントッシュでしか動作しない。
逆にコンテンツを販売するiTunesストアはWindowsでも利用できる。彼らにとってアップルユーザー以上に存在する何億人というWindowsユーザーは敵ではなく“お客さん”だ。彼らにも販売して利益を得る。開拓した販路は格段に大きい。
そして現在、アップルは、その販路をiPhone&iPadにまで拡げているのである。モバイル端末にまで販路が拡がった今年初め、アップルは電子書籍を簡単に作ることができる『iBooks Author』というソフトウェアの無料配布を始めた。
これも作家などアーティスト予備軍が簡単に魅力的なマルチタッチブックを制作して、iTunesストアで販売できる。閲覧は書籍アプリ『iBooks』だ。日本ではまだ販売できるシステムは提供されていないが、無料で配布することはできる。近いうちに販売もできるようになるだろう。そして30%の手数料収入がアップルへ。
日々あふれ出す無料のコンテンツ
もちろんYoutubeなど無料動画コンテンツプラットフォームの登場も大きい。アマチュアが、自分たちで撮影した動画や演奏した音楽を日々際限なく生み出し、それらがアップロードされていく。当然、それらを閲覧するためにスマホやタブレットなど閲覧用ハードウェアは売れていく。
一方、Google陣営もスマホとタブレット用のモバイルプラットフォームとして、AndroidというOS(基本ソフト)を開発して各端末メーカーが無料で使用できるように配布している。これはリナックスと同様オープンソースソフトウェアとして、だれでも自由に改変して使用できるものだ。
Googleは、それらAndroid上で動作するように最適化されたメールソフト『Gmail』、アップルのiTunesストア的なアプリ『Google Play Store』や地図アプリ『Google Maps』、音声通話・ビデオ通話・チャットができる『Google Talk』などを提供している。
Androidを無料で配るGoogleの狙いは、ずばり彼らのビジネスモデルの基本である広告のためだ。そこで私たちのあらゆる情報を入手している。その情報は、パソコンで収集するよりもモバイル端末で位置情報と結び付けて収集するほうが格段に“使える”。
ちなみにGoogleの『プライバシーポリシー』を見てみよう。まず、『Googleが収集する情報』として、大きく2つ。Googleアカウントの登録時に入力した、氏名・メールアドレス・電話番号・クレジットカードなどの『お客様からご提供いただく情報』と『サービスのご利用時にGoogleが収集する情報』だ。
この『サービスのご利用時にGoogleが収集する情報』とは、端末情報や・現在地情報、それにログ情報などがある。また、このログ情報には、Googleサービスの使用状況の詳細(検索キーワードなど)・電話のログ情報(お客様の電話番号、通話の相手方の電話番号、転送先の電話番号、通話の日時、通話時間、SMS ルーティング情報、通話の種類など)・インターネットプロトコルアドレス・端末のイベント情報なども含まれるのである。
そしてこれらの情報は以下のように利用される。
Google は、どの Google サービスから収集した情報も、そのサービスの提供、維持、保護および改善、新しいサービスの開発、ならびに、Google とユーザーの保護のために利用します。Google は、お客様に合わせてカスタマイズしたコンテンツを提供するため(関連性がより高い検索結果や広告を提供するなど)にも当該情報を利用します。
Googleはアップルとは異なる戦略で、独自のエコシステムを構築しようとしている。
Android端末はテレビと同じ末路を辿るのか
Googleは、利益創出の戦略の一つとして、サムソンなど各端末メーカーにAndroidを利用して端末を作らせ、その上で『Google Play Store』でアプリなどを販売し、手数料として30%を得ている。台数としては、既にiPhoneを抜いたAndroid端末は、Googleにとって十分に大きなアプリ販売チャネルである。
しかし、冷静に考えるとAndroid端末のメーカーは、どこかテレビメーカーと似てはいないだろうか。そう。コンテンツではなくハードウェアだけ。Androidを入れる“器”のみを作っているように見えるのだ。
これは、Windows勃興期のパソコンメーカーと似ている。パソコンメーカーはWindowsというOSが動く“器”だけを作り、そのうちDellやHP、そして台湾メーカーが安価で高性能なハードウェアを販売。ついには巨人IBMはパソコン部門を中国企業Lenovo(レノボ)に売却し、メーカー事業から撤退してしまった。
スマホの世界は動きが速いので、すぐにもそういう状況が訪れるのではなかろうか。もちろんサムソンなどはGALAXYシリーズに独自のアプリストア『Samsung Apps』をプリインストールして、専用のアプリを流通させて手数料ビジネスに参入しようとしているが盛り上がっているという話は聞かない。
スマホという“器”も早晩コモディティ化してしまい、テレビやパソコンと同じように、メーカーは利益を生み出すのに大変な苦労を強いられることになるだろう。いまはまだキャリアから分割で代金を回収できているが、この販売価格がずっと続くとはかぎらない。
7インチタブレットが変えるスマホ至上主義
今年、Googleは、彼らの独自端末『Nexus』シリーズの発売を開始した。まずは画面が7インチのタイプで持ち歩くのにちょうどよい大きさと340gという重さ。そして、Google自身が開発した最適化された標準アプリ。
その上で『Google Play Store』で675,000タイトル以上という、様々なアプリやゲームなどをダウンロードして楽しめる。もちろん有料のものは購入してもらい、手数料を得るというアップルと同じ戦略もある。
しかし広告収入が莫大なGoogleは端末で利益を得ることを考えず、『Google Play Store』でのコンテンツ販売から手数料ビジネスで儲けを得ようとし、端末を原価で販売するということも考えられる。
実際、先日発売された『iPad mini』は16GBモデルが2万8800円。対する『Nexus7』は同じ16GBモデルで1万9800円である。カメラ搭載の有無など機能の差があるとはいえ、割安感では『Nexus7』に軍配が上がる。
現在持ち歩きに便利な7インチタブレットは続々と登場している。アプリやゲーム、音楽など、利用できる機能やコンテンツはスマホと同じだ。これを持ち歩けば、逆にスマホは必要なくなる。通話とメール、そしてテザリングができるケータイがあれば事足りるのである。テザリングとはケータイで無線LAN環境を作る機能だ。
ここでスマホではなく“ケータイ”と記したのはわけがある。つまり、7インチタブレットがあれば、高機能で高価なスマホは必要ない。携帯電話は『おサイフケータイ』も付いた、いわゆるガラケーでいいのである。ドコモにはアクセスポイントモードというテザリング機能がある。もちろんテザリング機能が付いた型落ちの格安スマホでもいい。これ以上の進化は必要ない。
そうやって端末メーカーは、ますます細っていき、次なる収益の柱を見つけないともはや生き残れない。冒頭のパナソニックもシャープもまだスマホ端末を作り続けている。両社にかぎらず、ときに「スマホ事業を収益の柱に」という報道も見られるが、それはありえない。生産拠点を海外に移してコモディティを作るか、もしくは新しいビジネスモデルを創出しなければ、もう先がないのである。
田代 真人(たしろ・まさと)
編集者。株式会社メディア・ナレッジ、株式会社マイ・カウンセラー代表。駒沢女子大学講師。1986年九州大学機械工学科卒業。その後、朝日新聞社、学習研究社、ダイヤモンド社と活躍の場を変え、ファッション女性誌からビジネス誌まで幅広く取材・編集。20年以上にわたるメディア経験のなかでインタビューした経営者は1000名を超える。2007年メディアプロデュースを専業とする株式会社メディア・ナレッジを創業。同時に携帯メール悩み相談サイト、株式会社マイ・カウンセラーの代表就任。著書に『電子書籍元年』(インプレスジャパン)、構成作品に『もし小泉進次郎がフリードマンの『資本主義と自由』を読んだら』(日経BP社)がある。
「売る」と「売れる」境界線のコミュニケーション力
著者がこれまで取材してきた経営者やものを売る現場の担当者たちの言葉や経験から、ものを“売っていく”コミュニケーションと、ものが“売れていく”コミュニケーションの違いに焦点をあてて解説。ものが売れるとはどういうことなのか。論理的に解明していきたい。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20121105/239067/?ST=print
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