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■突然の反対運動
ここ数日、振って沸いたようにネット上で「ACTA批准反対運動」が盛り上がっている。
「ACTAでネットが封鎖される」と煽り、ネット署名や議員への抗議を募るものだ。
斎藤やすのりや三宅直子といったネット利用者にはお馴染みの国会議員、さらには
Project99%の安部芳裕といったネット著名人も反対に乗り出したし、抗議活動の模様が
ネット中継されるなど、抗議の勢いは増すばかりである。
筆者も基本的にはACTAに反対すべきだと考えるが、じつはこの反ACTA運動には
大きな誤解といくつかの疑問点が潜んでいる。
■これまでの経緯
たしかに現実問題として、ACTAの審議が(TPPほどかはともかく)こっそりと
進められてきたことは間違いない。またEUでACTAに反対する大きな抗議デモがあり、
否決に至ったのも疑いようのない事実だ。
さらにはACTAについて、日本のマスコミが「EUで否決された」時点まで全く報道を
避けていたことも、じつに疑わしい。なるほど、これらの点を考えればACTAが
建前通りの「海賊版取締りのための条約」と受け取ってしまうのはあまりに拙速だ。
とは言え、ACTAの存在自体はけして日本に全く知らされていなかったわけではない。
仮にマスコミに緘口令が敷かれていたとしても外務省のHPには以前から
書かれているし、知財関係の専門家も長いことACTAの問題を追っていたようだ。
何よりEUでのデモは今年の2月である。なぜEUで否決され、ACTAの発効が
難しくなりつつある今(8月上旬)になって、急に国内で反対運動が勢いを増したのか。
参院可決は7月31日であり、残るは衆院のみという状況。明らかに抗議運動が起こる
タイミングとしては遅過ぎるのである。
■ACTAを注視していた専門家の意外な見解
現実問題として、ACTA反対に同調している人々の中でどれだけの人間が実際に
その条文に目を通しているのだろうか。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/ipr/pdfs/acta1105_jp.pdf
http://www.mofa.go.jp/policy/economy/i_property/pdfs/acta1105_en.pdf
ACTA反対派が問題視しているのは
・「非親告罪化を盾にした、ネット封鎖の恐れ」
・「モンサントなど、遺伝子組換特許企業が有利に」
・「途上国がジェネリックを使えなくなる恐れ」
ということになろう。ところが、知財の専門家である山田奨治のブログによると、
微妙に話が異なっているようだ。
http://yamadashoji.blog84.fc2.com/blog-entry-577.html
・「非親告罪化の各国への義務化
→義務ではなく、適当な場合には定めることが出来るとしているだけ(26条)、
外相は非親告罪化はしないと答弁」
・「司法による特許種子などの差し押さえ
→暫定措置の項目が存在するが(12条)、じつは日本の現行法で十分可能」
・「ジェネリック薬の規制
→国境措置から特許は除外(13条)、よってジェネリック薬の製造技術そのものは
含まれない(ただし商標を模倣していたら別)」
何ともまあ、「危険ではない」とまでは断言出来ないのがもどかしい、非常に曖昧な
内容となっている。ちなみにTPPではこれら全部がアウトと目される。
ACTAが確実に国内に影響するのは先日のDVDリッピング規制化が固定化されてしまう
ことだろう(27条)。弁護士の福井健策も、ラジオ番組で「ACTAの基準は日本は既に
満たしている。ACTAに入らなかった危険な内容がTPPに入る」と言及している。
■議員事務所が電話クレームに大弱り?
じつは共産党は参院でACTAに賛成してしまった。匿名情報だが、このために
共産党の議員事務所に電話によるクレームが殺到しているとも言う。
「じつは共産党もうまく説得工作されてしまった」のか「本当に現在のACTAがそれほど
危険でなくなった」からなのかは分からない。ただ共産党の弁護をしておくと、
同党はTPPや後述する各種ネット規制には反対していることが多い。
仮にこの電話クレームの情報が事実なら、むしろ第一党の民主や、常日頃から
一貫してネット規制に賛成し続ける自公両党にこそ抗議すべきではないのか。
なお、反対派による電話クレームと言えば、かつて東京都の青少年条例改定の時も
同様の話があった。マスコミやネット上では漫画規制と騒がれた同条例だが、
漫画については「出版そのものの禁止ではなく、認定制度と書店での取り扱い」を
改める一方、じつは「未成年の携帯電話にフィルタリングを義務付ける」という
それこそネット規制と呼べる問題は全く黙殺されてしまった。
恐らく当時も、都議への電話クレームの中には出版そのものの禁止と勘違いしたものが
多かったのではないか。それに乗じて、規制推進派が都議に「反対派は内容を
勘違いしているような輩ばかり」と吹き込んでいたとしたら。あるいは議員が
電話やネットによるクレームを軽視する一因になってしまったとしたら。
同じことがACTA反対運動でも当て嵌まってしまわないだろうか。
なお、都条例の時もネット署名を煽る向きがあったが、日本ではネット署名に
法的な意味はない。ネット署名して、それで何かしたつもりになるのは危険だ。
■とにかく正確な情報を
とは言え、けして「安心していい」と言うつもりもない。現に非親告罪化に関する条項
(26条)がある以上、それを口実に、その動きに乗り出すことがないとは言えない。
外相の答弁など平気で反故にするだろう。
他の条項にしても、それを根拠に過剰な規制や部局の新設、予算の執行が行われる
可能性はあろう。反対するなら、きちんとそうした反対の理由を理解することだ。
過激な反対派は「議員は内容をよく知らずに賛成した!」と言うが、じつは自分達が
内容をよく知らずに反対していたというのでは話にならない。
■言論規制を食い止めろ
最後に。反対派も知るように、ACTAよりもTPPの知財部門の方がより危険な内容だ。
それこそネット規制に繋がりかねない。一方、EUでの否決をマスコミが報じた時点で、
もはやACTAはネット規制を進める勢力にとって重要でなくなっているのかも知れない。
さらには言論規制法案は、他にも複数存在することを知っておくべきだ。
・「秘密保全法案」
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2012/120111.html
・「人権委員会設置法案」
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2012/120113.html
・「児童ポルノ法改定案」
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2010/101116.html
・「青少年健全育成基本法案」
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2004/2004_30.html (※ただし古い情報)
と目白押しである。いずれも日弁連が声明や意見書を出しているのに、マスコミが
その内容に触れない点も似ている。しかも児ポ以外は条文が公開されていないのに、
審議の動きだけが先行している。先日の違法DL刑事罰化のように、電撃的に審議、
可決される恐れすらある。
仮にACTAやTPPを止めても、こうしたネット言論規制法案を1つでも認めてしまえば、
蟻の一穴、矢継ぎ早に「庶民のためにならない法案や条約」が知らぬ間に可決され、
原発の被害が表面化しても周知出来なくなってしまうだろう。
本当にネット言論を守るためには何をすべきか。まずその議論に耳を傾けるべきだ。
ただ煽られるまま、人に言われるままに動くのは敵の思う壺である。
また、せっかく言論規制の恐ろしさを知ったわけで、より広い視点で規制の防止に
取り組んでみてはいかがだろうか。
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