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2011年05月26日 09:38 JST PJニュース
http://www.pjnews.net/news/909/20110526_3
【PJニュース 2011年5月26日】「コンピューター監視法案」、ついに実質審議入りも、疑問の声多数噴出している。さまざまなところで反対意見が報じられてきた「コンピューター監視法案」(正式名称 情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律案)だが5月25日、衆議院法務委員会において、ついに実質的な審議入りがなされた。しかし、この件に関しての大メディアの動きは鈍く、本記事を書いている現段階では、審議入りの事実はほとんど報じられていないのが現状だ。
一方で、「令状無しでの保全要請」、「ウィルス作成・取得・保管罪設置」、「わいせつ物基準広範化」など、この改正案には多くの問題点が指摘されている。実際の審議の場でも、民主党の複数の議員が、法案に懐疑的な立場で質問を行う事態となった模様だ。
なお、質問にあたった民主党、橘秀徳議員は、公式ブログ内で「民主党でも多くの議員が反対しながら閣議決定され、国会に提出されたものです」(http://ameblo.jp/tachibana-hidenori/entry-10902790263.htmlより)とも述べている。こうした現状は、与党どころか民主党内でも異論が多数存在することをうかがわせるもので、内閣が党内の異論すら押し切り、法案を通そうとしているのではと推測させるに足るものがあると見られても仕方のないところだろう。
5月23日付けで日弁連も、様々な問題点を提示した上で、「慎重な審議がなされるよう求める」との会長声明を出すなど、(http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/statement/110523.htmlより)議会に限らず反対する意見が出ているという状況だが、審議入りした以上、早々に採択が行われ、可決される可能性が非常に高いとも考えられている。
さて、問題は、震災や原発被害という未曽有の危機に直面した現在の状況で、異論が噴出しているこれらの規制案を成立させる必要性が一体どこにあるのかという部分だ。しかも、多くの刑法が一度に改正される形を取っているので、全く種類の異なる法律の改正案が同時に提示され、法案を一つずつ精査していくのが難しい形となっている。
本来、単一案件としても、多くの議論を必要とするような改正案が、言わば「抱き合わせ」的な形で、設置され、あるいは変更されようとしている。法案改正の是非は置くとしても、「タイミング」と「方式」の二点については、今回の場合、批判するに足るものがあると思われる。
多くの法案を変更させるだけの喫緊性のある問題が存在するとするなら、十分な議論を保証する必要があるし、議論に必要な時間が得られるタイミングをはかる必要があるはずだ。
●「ウィルス作成・取得・保管罪」は本当に必要なのか?
今回の「改正」の目玉の一つが、コンピューターウィルスなどのサイバー犯罪に対応するためとされている「ウィルス作成罪」だ。しかし、ウィルスを作成し配布したりした人間が既存法で対処できないというわけではない。現に、「イカタコウィルス」を作成・配布したとされる容疑者は、器物損壊罪で検挙されている。
少なくとも、悪質なウィルス作成・配布者を検挙できる枠組みは出来上がっていると言える。となれば、わざわざ「ウィルス作成罪」を新設して対処にあたる必要性は見いだせない。
「ウィルス」を取得、あるいは保管しただけで法的処罰対象にするという条文は、なおさら必要性が薄く、多くの危険性が指摘されてもいる。
「予防拘禁」的に、ウィルスの取得や保管という罪状を利用するなら、その対象は極めて多岐に及ばざるを得ず、いつ感染したのかといった認識をユーザーが持てないといった実情もあり、「誰でも逮捕される状況」が作り出されてしまう危険性が大きい。
これについて法務省からは「正当な理由がないのに、無断で他人のコンピューターにおいて実行させる目的で、ウイルスを保管した場合」に成立するものだとして、単にウイルスを送りつけ られて感染させられた場合などは、そもそもウイルスであるとの認識を欠く場合も多いと考えられる上、仮にウイルスであることを知ったとしても要件を満たさ ないため罪は成立しないと説明している(http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20110519_446861.html)」との説明があったと報じられているが、その「目的」をでっち上げられる危険性、あるいは「自白」させられるというような懸念が払しょくされていない以上、法務省の説明があるから安心だということにはならないだろう。
こうした点を総合的に考えて、既存法によって対処できる状況がありながら、わざわざ法律を新設するメリットは非常に少なく、デメリットは大きいと考えることができる。
●令状なしの「保全要請」は本当に「問題がない」のか?
「令状がない状態で、捜査機関によるプロバイダーなどに通信履歴の保全要請が可能になる」部分も、一連の改正案が批判されている有力な点の一つだ。これに関しても法務省は、「通信履歴を一時的に消去しないよう求めるものに過ぎず、保全要請の対象となるものもその時点でプロバイダーなどが業務上記録しているものに限られると説明。保全された通信記録を捜査機関が手に入れるためには、これまでと同じように令状が必要となり、捜査機関が無令状で通信記録を簡単に取得できるようなものではない(http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20110519_446861.html)」と説明している模様だが、では何故、令状が無い状態で、「通信履歴を保全すべし」との要請を出し、当局が民間に介入できる枠組みを作らねばならないのかという疑問が生じる。
事件に際して、証拠隠滅のおそれがあるならば、しっかりと令状を取り、事件化して対処すべきであって、それができない事例なら、そもそも強引に介入する必然性は見いだせない。「便利だから」と、越権的な基準を作ってしまうことは、それだけで、国民・市民の生活を監視することに繋がるものだと言えるだろう。
●「わいせつ物」範囲拡大によって、ネット上などへのアダルトコンテンツへの影響が懸念
また、今回の一連の改正案では、「わいせつ物」の定義の拡大も盛り込まれている。
具体的には、「電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者」という基準が設けられており、ネットワーク上での「わいせつ」な記録を送信した等々の場合でも法的処罰の対象になることが明記された。また、旧来の「わいせつ物」の定義の中にも「電磁的記録に係る記録媒体その他の物」が含まれ、これによって、ゲームやアニメ、実写ポルノなどを記録したDVDなども「わいせつ物」に含まれると、より明示される形となった。
「わいせつ物」の基準は、かなり曖昧な部分があり、しかも「松文館事件」に見られるように、実写か漫画などの二次元創作物かを問わない。つまり、同人誌のDL販売やゲーム、アニメなどのDVD、そして、電子的ネットワーク上で、アニメのイラストを送信したり公開したりした場合でも、「わいせつ」だと「判断」された段階で、法的処罰の対象となり得るという規定だ。
この規定の変更で、どこまで規制がかかるかは未知数だが、最悪の場合、ネット上に掲載されているアダルトコンテンツや、アダルトコンテンツのDL販売等々に対して、かなりの摘発がなされるという危険性もある。
また、摘発を恐れた事業者側が、「18禁」のコンテンツを排除するという萎縮効果が発生する懸念もある。もちろん、法律が変わっても、ほとんど変化はないことも考えられ、そうしたケースが、表現の自由の保護といった観点からは最も望ましいとも考えるわけだが、「被害者のいない犯罪」の代表格で、表現の自由を制約するような運用がなされてきた「わいせつ物」規定が、今になって拡大されることで、さらなる不利益がもたらされる危険性は大いにある。
かなり長くなったが、一連の刑法改正案は、民主党内からも多くの批判があり、しかも前述したような具体的な問題性が指摘されてもいる。そうした法律を、「抱き合わせ」的に、この時期に一挙に可決させようというのは、いかにも拙速で危険だ。閣議決定はなされたが、党内からの懸念や疑問も存在していることを踏まえて、今一度、白紙状態から考え直すべきなのではないだろうか。【了】
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