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[地球回覧]米富裕地域で独立ドミノ 効率優先、自治体に格差
米南部ジョージア州のサンディスプリングス市。州都アトランタに近い高級住宅地と商業地が中心の人口10万人の新興都市に、世界中から見学者が訪れる。サウジアラビア、中国、ウクライナ――。自治体運営に民間ノウハウを極限まで活用する「小さな政府」を見に来るのだ。
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伝道役はオリバー・ポーター氏(75)。同市の独立を数十年訴えた市民リーダーだ。かつてAT&Tに勤めハイエクの自由主義を信奉。「民間の競争原理や知恵をもっと取り込めば自治体運営を改善できる」と主張し続けた。
元はフルトン郡の一部だったが非効率な行政サービスに不満が膨らんだ。多額の固定資産税で郡全体の財政を支えるのはサンディスプリングス住民なのに、警官はすぐ来ないし道路も荒れたまま。「ニーズに迅速に応える自治体を」と2005年に住民投票し、94%の賛成を得て郡から独立する「市制化」を決めた。
市として独立すれば、その地域の固定資産税などが自分たちの財源に使える。行政サービスは引き続き郡に委託できるが、選んだのは最大限民間を活用する道。発足当初は職員2人という状態からスタートし、警官や消防など一部を除き大半を委託した。道路や排水の管理、市の会計や裁判所業務まで契約した民間企業の社員が行う。IT(情報技術)導入で、24時間体制で住民の要望を受ける。
シティ・マネジャーという肩書のジョン・マクドノー氏(48)が実務を仕切る。「住民に何が必要か。優先度を決め、実現するのが私の務めだ」。徹底した競争入札で昨年だけで、年間7百万ドルの経費を削減した。
さながら「サンディスプリングス会社」。エバ・ガランボス市長(84)は市民の満足度調査の高さに目を細める。「次の目標はダウンタウンの開発」と意欲満々だ。
実は市制化は隠れた効果がある。「既存の公務員年金や医療費という大きな債務を切り離せる」(ポーター氏)。新規採用した職員に提供するのも確定拠出年金。実際、市の長期債務は極めて小さく、健全財政が実現するのだ。
ジョージア州は全米でも特殊で、特定地域の住民投票だけで市制化が可能だ。残りの地域の賛成は不要。豊かな財源を持つ地域だけで抜け出せばいい――。新設の公園には地元住民が集っていた。「市制化は大正解。税金も上がってないわ」。モリー・ワブナーさん(70)は満足げだ。
この成功は、近隣の富裕地域を中心に「市制化ドミノ」を引き起こした。すでに5市が誕生。しかし、「所得の低い地域は取り残される。金融危機でその痛みはもっと深刻になった」(ジョージア州立大学のウォーラス教授)。
近隣のデカルブ郡では今年末、ブルックヘブン地域が市制化する。「それだけで郡は税収の2500万ドルを失う。赤字の財政は一段と厳しくなる」。郡のブレナン広報担当は苦渋の表情だ。郡の中で再配分機能が働かない。
推進派の代表、J・マックス・デイビス氏(42)は「自分たちの払う税金と釣り合う行政サービスを実現する」と力を込める。ただ、ブルックヘブン内でさえ意見が割れた。市制化を問う夏の住民投票では、反対が45%あった。
反対派のマリー・イムレイ氏は「多くの分野は今後も郡に頼るし、低所得地域への配慮もいる」と話す。実際、甘い見通しによる予想外の支出急増や不透明な資金使途が問題になる例も出てきた。
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10月15日、米大統領選の期日前投票の初日。南フルトンの役場に行列があった。サンディスプリングスなどが抜けた残りの地域だ。「週末の教会をご覧なさい。職がなく残された者の貧しさを」。エスタ・ボリンさん(68)は、だからこそ選挙に足を運んだ。
小さい政府か、大きい政府か。自治体の究極の効率運営が輝くほど、残された影もまた濃くなる。分断された米国。その縮図にも見えた。
(米州総局編集委員 藤田和明)
[日経新聞10月21日朝刊P.13]
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