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[真相深層]訪問診療 医師が消えた
診療報酬改定、思わぬ波紋 「制度乱用」排除が裏目に
厚生労働省が決めた4月の診療報酬改定が思わぬ波紋を広げている。医師が高齢者施設で多くの患者を一度に診察し、高い訪問診療料をとる事例が頻発したため、同じ建物への訪問診療料を大幅に減らした。その余波で訪問診療から撤退する医師が相次ぎ、施設事業者が窮地に陥っている。混乱する現場を訪ねた。
高齢者施設が悲鳴
「5月からはもう無理だと言われた。他を当たっても返事が来ない」。4月、千葉県市川市の介護付き有料老人ホームの幹部は頭を抱えた。訪問診療に来ていた地元のクリニックが今回の料金引き下げで「医師の人件費が賄えない」と、辞退を申し出てきたためだ。
料金が下がった訪問診療に手を出さないのは他の医療機関も同じ。自ら通院できない入居者は別の施設を探すか、救急車を呼ぶほかない。地元では代わりが見つからず、ようやく東京都内の医師に5月から来てもらうことで一息ついたが、「先々不安」なままだ。
「全国特定施設事業者協議会(特定協)」など高齢者向け施設や住宅の団体の調べでは、訪問診療をやめる医療機関が1割、規模を縮小するのが3〜4割。5割は続けるとしたが「様子見やいずれ撤退するといった声も多い」(特定協の長田洋事務局長)。
主な引き下げ対象はある患者を月2回以上定期的に診察すれば毎月定額を受け取れる「医学総合管理料」。もともと厚労省が在宅患者を手厚く診る「かかりつけ医」を増やそうと、患者1人あたり最高月5万3千円と料金を高くしていた。
これを4月からは月1万5千円に72%引き下げた。厚労省は引き下げの理由を高齢者施設で1人あたりの診察時間を数分と短くし、多くの患者を診る「不適切な事例」(宇都宮啓医療課長)への対策と説明する。
同省は昨秋までに全国20カ所でこうした事例を確認した。月2回の訪問診療を受けることが入居の条件となっているサービス付き高齢者向け住宅や、本人が同意しているかどうかにかかわらず、9割超の入居者に訪問診療を受けさせた軽費老人ホームもあった。
大阪府の訪問診療専門の50歳代のA医師は「若手医師を時給1万〜2万円で集め、大がかりに高齢者施設に訪問診療する専門クリニックがある」と証言する。
これらは昨年12月に訪問診療の報酬を不正請求したとして保険医療機関の指定を取り消された大阪市の歯科などの事例とは違い、直ちに不正とはならない。だが高い料金目当ての「過剰な診療」とみて、料金下げで抑制しようとした。
在宅推進に逆行
「まともな診療まで一律に規制するのは暴挙」(A医師)との意見に加え、ちぐはぐな国策の矛盾を問う声も強まる。3月末に日本医師会が都内で開いた臨時代議員会では北海道の医師が「政府による在宅医療の推進に逆行するのではないか。現場の士気は著しく落ちている」と訴えた。
厚労省は高齢化に備え、在宅医療・介護に政策の重点をシフト。集合住宅で必要に応じて医療や介護を受けられる施設を増やす流れにある。民間企業の参入で、有料老人ホームの定員数は10年余りで10倍近い30万人超まで伸び、2011年度に始まったサービス付き高齢者向け住宅も3月末で14万6千戸を上回った。こうした住宅が「特別養護老人ホーム並みの重度者を受け入れる例も多い」(A医師)。
料金引き下げを見直すよう医師や事業者の要望を受けた与野党議員の国会質問に、田村憲久厚労相は「場合によっては見直しも含めて検討させていただく」と答弁。厚労省は一部例外を設けながら診療報酬改定は実施し、訪問診療の撤退があれば医師会が医師を紹介する仕組みを作るとした。
だが福岡県の医師会に所属し、有料老人ホームに訪問診療する医師は「(24時間対応の負担の重さを敬遠し)消極的な医師会もある」と明かす。医療費削減に向けて、診療報酬の引き下げは避けて通れない課題だが、現場の実態には十分な配慮が必要だ。(武田敏英)
[日経新聞5月2日朝刊P.2]
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