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患者トラブルと言えば、医療機関にやって来て騒いだり、特定の職員をターゲットに攻撃してくるクレーマー患者を思い浮かべる人が多いだろう。今回紹介するのは、その手の迷惑患者とは異なるが、いざ遭遇すると対応にとても苦慮する事例だ。それは、詐病(さびょう)患者である。
ご存じの通り、医師の出す診断書は、公的な給付や保険金、賠償金支払いなどの裏付けとなる。そのため、詐病によって医師に診断書を書かせ、不当に利得を得ようとするやからが出現する。長く医療現場にいる方々は、こうした患者に何度か遭遇した経験があるのではないだろうか。
以下に紹介するのは、「視覚障害者の認定を受けたい」と来院した患者の事例である。院長は患者の行動から詐病の疑いを持ったが、それを相手に面と向かって言ったら、一悶着起きることはまず間違いない。かといって、詐病の疑いを持ったまま、認定に必要な診断書・意見書を書くわけにも、もちろんいかない。
さて、どのように対応したらいいのだろうか。
【ケーススタディー】 「視覚障害認定の診断書が欲しい」
「患者から視覚障害者認定のための診断書・意見書が欲しいと言われているのですが、どう見ても詐病なんです。患者は50代後半の男性で、体が大きく、顔もこわもて風。正面切って詐病を指摘したら大変なことになりそうで……。いったいどうしたらいいのでしょうか」
電話をかけてきたのは、大阪郊外でA眼科医院を開業しているA院長だった。詐病患者に関して、過去に相談を受けたことは何度かある。今回と同様、障害者認定を狙ったものだ。もし詐病が事実なら、私としては断じて許せないし、野放しにしておくべきではない。気を引き締めて、A院長から話を聞くことにした。
患者Xは今年初めに交通事故に遭い、民間病院にかかった。本人の弁によると、それ以降、視力がどんどん落ちていったそうだ。初めにかかった病院から大学病院を紹介され、視力や視界に関するさまざまな検査を受けたが異常は発見されなかった。その後、大学病院から「これ以上、診ることはできない」と言われたらしく、紹介状を書いてもらい、A医院にやってきた。
A医院は繁華街のビルの4階にある。Xは妻に付き添われながらエレベーターで4階に上がり、A医院の受付へよろよろと歩いてきた。そして「視覚障害者認定のための診断書・意見書が欲しい」と告げたそうだ。
大学病院からの紹介状には、視力と視界の検査をすると確かに悪いデータが出るが、眼底検査、眼圧検査、眼球の超音波検査などのほか、頭部CTも撮ったが異常は認められなかった、と書かれていた。
視覚障害者認定には、市が指定した医師による診断書・意見書の提出が必要だ。確かに、A院長はこの市の指定医である。Xは市の障害者福祉課で指定医を調べていたようだった。
A院長は紹介状を見て、これを書いた大学病院の医師も指定医であることに気づいた。そして、おそらくXは大学病院でも診断書・意見書を書いてくれるよう求めたが、応じてもらえなかったのではないかと推測したという。A院長としては、交通事故直後のXの容体を診ているわけではなく、かつ、事故からかなり時間がたっているので、まったく気乗りがしなかった。しかし、拒否すると「応召義務違反」になるのではないかと思い、とりあえず診たそうだ。
妻に付き添われて診察室に入ってくるなり、Xは手で何かを探るような仕草をして、目が見えにくいことを強調しようとしていた。だが、Xをじっくり観察すると、床に置いてあった箱をうまくよけたり、「そこのイスに座ってください」と斜めに向いたイスを勧めると、手で方向を直してさっと座ったりした。視力が低く視野が狭いはずなのに、この動き方は怪しい、とA院長は感じた。
Xの視力は右0.1、左0.2、自動視野計で計ると両眼とも5〜10度しかない。2回計ったが同じ結果だったそうだ。ただし、この二つの検査は、患者に「これは見えますか」と尋ねて答えてもらう、応答式の検査である。一方、眼底検査、眼圧検査、細隙灯(さいげきとう)顕微鏡検査、超音波検査などでは、まったく異常はなかった。
「診断書を書くには時間がかかりますし、今日の検査結果を少し検討したいので、3日後に来てください」。こう伝えると、Xはまた手探りのような仕草をしながら立ち上がり、妻に手を引かれて診察室を後にした。その後、受付で支払いを終えると、妻に付き添われてエレベーターの方にとぼとぼ歩いていった。A院長はとっさに職員に、「先に階段で1階に降りて、あの患者の様子を見てきて。詐病かもしれないから」と指示した。
職員の目撃談によると、Xはエレベーターの扉が開くと、妻の手を借りずにすたすたと早足で玄関付近に止めてあった自転車まで歩いていき、ポケットからカギを取り出すと、戸惑うことなく解錠。自転車にまたがり、信号が青になると一気に漕ぎ出した。妻も自転車に乗ってその後ろに付いていった。その姿を観察していた職員は、「目が悪い患者の行動とはとても思えなかった」と言っていたという。
ちなみにA医院はスクランブル交差点の角にあり、付近の交通量も多い。2台の自転車が見えなくなるまで、職員は見届けたという。
職員から報告を受けたA院長は、Xの詐病を確信した。おそらく障害者年金の給付が目当てなのだろう。しかし、その事実を突きつけたら、Xは逆上するかもしれない。そう考えると心配になり、私に電話をかけてきたというのが、おおよその経緯だ。
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/series/naniwa/201310/533098.html
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