01. 2013年11月05日 06:38:25
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JBpress>日本再生>明日の医療 [明日の医療] 子宮頸がんワクチンの現状と未来 徒然薬(第5回)〜子宮頸がんワクチンは有効か 2013年11月05日(Tue) 谷本 哲也 前回に引き続き、子宮頸がん予防ワクチン(以下、HPV[ヒトパピローマウイルス]ワクチン)を取り上げる。 2013年10月28日、厚生労働省の予防接種・ワクチン分科会の第4回副反応検討部会が開催され、4月から7月までに143件の重い副作用報告があったことが報道された。 HPVワクチンはその安全性が問題視されるようになり、定期接種の中止にはなっていないものの、積極的な接種勧奨が一時的に差し控えられるという状態が6月以来続いている。 定期接種のワクチンは原則無料となるが、HPVワクチン接種をどう扱うべきか臨床現場でも悩ましく、実際、筆者の外来でも接種希望で新たに来院する方はほとんどいなくなっている。 ワクチン接種後の副反応 HPVワクチンで今特に問題となっているのは、接種後の痛み、しびれ、脱力などの副反応だ。これらの症状とHPVワクチンとの関連性は、科学的にはまだ明らかになっているとは言えないが、2013年10月11日には厚生労働省の研究班が診療体制を整備することを発表した。 しかし、これ以外にも未知の副反応が今後判明する可能性は存在する。例えば最近では、オーストラリアとイスラエルで、HPVワクチン接種後の早発卵巣不全について症例報告がされている(BMJ Case Reports、Wiley Online Library)。 これも因果関係は現段階では十分に明らかになっておらず、今後の情報集積を待たなければならない。 感染症予防のワクチンは非常に多くの健康な人を対象とすることに特徴がある。残念ながら、副反応が全くないワクチンを開発するのは今後も困難だろう。また、多数の人への接種経験が積み重なることで、非常に稀に生じる副反応が見つかる可能性は常に存在する。 副反応がある程度生じることは織り込んだ上で、どの程度であれば有効性と比べ受け入れられるのかを冷静に判断しなければならない。 薬の「有効性」という用語 では、HPVワクチンはどの程度の有効性があるのだろうか。 薬について「有効性」というのはよく耳にするフレーズだ。若い医師たちと話をしていても「有効性が示されています」といって論文を持ってきてくれることはしばしばある。 しかし、安直に有効性という用語に惑わされず、何を持って有効性があると言っているのか、その情報を読み解くには常に注意を払わなければならない。 薬における有効性という用語は実に幅広い意味を含んでおり、病気が完治しなくても有効性があると幾らでも主張できるからだ。寿命がほんの少し伸びるだけでも、病巣が少し小さくなっても、はたまた検査の数字が少し改善するだけでも有効性があると言えるのだ。 HPVワクチンは日本を含め世界中で既に承認され、有効性が認められると言われている医薬品ではあるが、その有効性の中身を詳しく考える必要がある。 HPVワクチンの有効性 ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染と子宮頸がん発症との関連は、2008年のハラルド・ツアハウゼン(Harald zur Hausen)博士のノーベル医学・生理学賞につながった重要な発見だった。 子宮頸がんのほぼ100%にHPVが関与しているとされ、それ以外にも肛門・性器や口腔・咽頭の腫瘍や尖型コンジローマなどの性感染症との関連も指摘されている。そのため米国などでは、若い女性のみならず、男性に対してもHPVワクチンの1つガーダシルの接種をする効能効果が認められている。 HPVは100以上のタイプ見つかっているが、その中でも16型と18型が特に問題であり、この2つだけで子宮頸がんの約70%に関連性があるという報告もある。 サーバリックス グラクソ・スミスクラインとジャパンワクチンのHPVワクチン「サーバリックス」は、この16型と18型に有効性を持つ日本で初めてのワクチンとして2009年12月に発売された。 このワクチンの有効性を証明する上で最も重要な臨床試験は、2007年に英国の医学誌ランセット誌上で発表された(HPVパトリシア研究)。 15歳から25歳の女性を対象に、9319人にサーバリックス、別の9325人に他のワクチンをランダム化して接種し、比較するという臨床試験の方法で行われている。どちらのワクチンも公平に接種して意図的な差が出ないよう、ランダムにどちらかのワクチンが接種されることをランダム化という。 しかも、接種された側も接種した医療者側もどちらのワクチンか分からない状態で、厳密に公平さを保ちつつ評価する二重盲検という、最も信頼性の高い手法が採用されている。 有効性の指標となったCIN2+ このとき、有効性の指標となったのが「CIN2+」という評価の項目だ。 子宮頸がんの対策は早期発見、早期治療がいまや常套手段となっている。定期的な検診で、早期の細胞の異常を見つけ、がんになる手前の「前がん病変」の段階であっても外科治療をしてしまうのだ。 CINは「子宮頚部の上皮内新生物(Cervical Intraepithelial Neoplasia)」の頭文字をとったもので、正常、ごく軽度の異常(CIN1)、中等度から重度の異常(CIN2/3)、がん、の各段階に細胞の検査(細胞診)で分類する指標であり、CIN2+は中等度から癌までのいずれかの異常を含むことを意味している。 過去の子宮がん検診の研究からは、CIN2+の病変を外科的に治療することで子宮頸がんは減少することが証明されているという。したがって、HPVワクチンによるCIN2+の減少が、子宮頸がんの減少になるというのは三段論法になる。 HPVワクチン反対派の主張の1つとして、「子宮頚がんそのものを予防する効果は証明されていない」という指摘がある(薬害オンブスパースン会議)。CIN2+の減少を証明しただけでは不十分というわけだ。 ただし、現在の医療水準で、前がん病変を見つけて何もせず本物のがんになるまで待って確認するというのは非倫理的だろう。 がんの段階で見つかる患者もいるだろうが、そのごく少数の患者で有効性を確実に証明するためには、1万8000人で行ったHPVパトリシア試験よりもさらに大規模の人数での試験を長期に渡って検討しなければならないかもしれない。 HPVワクチンの有効性に「子宮頸がんそのものの予防効果の証明」まで厳密に求めるのは非現実的ではないかと思う。実際、予防ワクチンが子宮頸がんに効果が出るのは20年以上かかるだろうと専門家の間でも見積もられている。 HPVパトリシア研究での有効性 さて、前述のHPVパトリシア研究では、14.8カ月時点での解析で、HPVワクチンを接種した中では2例、他のワクチンを接種した中では21例のCIN2+病変を持った患者が見つかった。 その結果、HPVワクチンの16型と18型によるCIN2+病変に対するワクチン効果は、90.4%と計算された。さらに、その後の34.9ヶ月時点での解析でも、ワクチン効果は92.9%と依然として高く、また16型と18型以外のHPVタイプにも効果があることが報告された(The Lancet、The Lancet Oncology)。 なお、このあたりは、競合相手のガーダシルというワクチンで6、11、16、18型の4つのHPVタイプに有効性があるとされているため、企業間のマーケティング争いの側面も見てとれる。さらに、がんそのものも減らす可能性があることが昨年報告されている。 その報告によれば、すべての対象者でのワクチン効果はCIN3+で45.7%、上皮内がん(AIS、adenocarcinoma in situ)で76.9%、HPV16型と18型にもともと罹っていない女性に限って解析してみるとCIN3+病変とAISではともに100%であった。 ただし、HPVパトリシア研究の付け加えとして行われた検討のため、統計的に確実に証明されたわけではない。医学研究の解釈の難しいところで、臨床試験の結果は、確実度の高いものから噂レベルのものまで様々だ。 確実度の高い(エビデンス・レベルが高い)情報だけでは残念ながら診療行為は成り立たない。エビデンス・レベルが高くはないといっても、HPVワクチンで子宮頚がんそのものを予防する効果も見え始めているようだ。 ガーダシルとフューチャー研究での有効性 さて、もう1つのHPVワクチン、MSDのガーダシルの有効性はどうだろうか。ガーダシルは2006年10月に世界初のHPVワクチンとして米国で承認されたが、日本ではサーバリックスよりも2年弱導入が遅れ、2011年8月に発売された。 最初に有効性を報告したのが、2007年に米国の医学誌ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスン誌上で発表されたフューチャーII研究だ。 1万2267人の15歳から26歳までの女性が二重盲検下でランダム化比較され、CIN2からがんまで含めた病変に対するワクチン効果は、3年の時点で全ての患者では44%、過去の感染の経験が全くなく実際に規定の治療を受けた患者では98%とされた。 さらに、16歳から24歳までの5455人の女性を対象に、がんだけでなくHPVで起こる性器のいぼまでの病変を含めた予防効果をみたフューチャーI研究でも、100%という高いワクチン効果が報告されている。 その他、24-45歳の性成熟期に達した年齢層での研究、若年男性や同性愛者を対象にした研究も報告されており、ガーダシルの接種によりHPVに関連した病変が減少する効果が示されている。 有効性に見合う安全性はあるのか 以上大まかにみたように、数々の研究の積み重ねにより、HPVワクチンはある程度の有効性を持つワクチンとして世界の医学界では受け入れられるようになっている。 有効性という言葉が幅広い意味を含むのと同様に、安全性という言葉も幅広い意味を含んでおり、その中身を詳細に検討した上での判断が必要だ。 ある医薬品の安全性が認められているとして世の中に流通しているとしても、毒物そのものである抗がん剤と、限りなく副作用が少ないことが望まれる感染症予防ワクチンとでは、安全性の中身に大きな隔たりがある。 今回紹介したいずれの臨床試験でも、比較対照とHPVワクチンで安全性に大きな差はないとされている。 ただし、大きくても数千人規模の安全性データが集められたに過ぎないため、今回日本で問題になっているような、1万人に数件あるかないかの重篤な副反応が十分評価できているとは言えない。 筆者の知る限り、海外で日本と同様な事象が問題になり始めているという報告はないようだが、ごくまれな副反応の可能性と有効性をどう天秤にかけるべきなのか、科学的な判断が求められる。 過去の医薬品行政は「勘と度胸」で行われていた時代もあったと聞くが、21世紀はレギュラトリー・サイエンスが世界的な潮流だ。筆者らのグループもランセット誌上で日本のHPVワクチン問題に関する見解を既に発表している。 接種の推奨を再開するかどうか、年内にも判断する方針と報道されている。世界水準での評価に耐えうる科学的な方針決定ができるのかどうか、日本のレギュラトリー・サイエンスの真価が問われている。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39058
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