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【第59回】 2013年10月10日 早川幸子 [フリーライター]
高額療養費の上限額が最大7割引き上げ!
私たちの暮らしはどう変わるのか?
健康保険の高額療養費は、病気やケガをして医療機関の窓口で自己負担したお金が一定額を超えると払い戻しを受けられるというもの。この制度があるおかげで、日本では際限なく医療費がかかるという心配はない。
たとえば、70歳未満で月収53万円未満の人なら、たとえ医療費が100万円にかかっても自己負担は9万円程度。300万円かかっても自己負担は11万円程度でよい。
高額療養費の自己負担限度額は、これまで所得に応じて3段階だった。しかし、今年8月に発表された社会保障制度改革国民会議の「能力に応じた負担を求めるべき」という提言を受け、現在、厚生労働省では大幅に見直すことが検討されている。
この見直しは、私たちの暮らしのどのような影響を与えるか。70歳未満の人の医療費で見ていこう。
見直しの有力案は5区分
引き上げ幅は最大7割!?
高額療養費が創設されたのは、福祉元年と言われた1973年(昭和48年)。当時、会社員の健康保険の窓口負担は「初診時200円」などの定額制だったので、会社員本人の負担は非常に低く抑えられていた。
しかし、扶養家族は3割の定率制で、療養が長引いたりすると自己負担が高額になることもあった。その負担を軽減するために、まずは会社員の扶養家族の1ヵ月の自己負担の上限を3万円にすることで高額療養費はスタートし、やがて自営業者などが加入する国民健康保険にも広がっていった。
1984年(昭和59年)、会社員の健康保険も1割の定率制が導入され、会社員本人にも高額療養費制度が適用される。そして、低所得層の負担を軽減するために、一般的な所得の人は5万1000円、住民税非課税世帯などは3万円と2つの所得区分が作られた。
その後、自己負担限度額はじわじわと引き上げられてきたが、大きな変更があったのは2000年(平成12年)。収入に応じて医療費を負担してもらうという考えを強めるために、それまでの2区分から3区分に変更して、収入の高い人の「上位所得者」を創設。国民に医療費のコスト意識を喚起するという名目で、医療費に連動して1%の負担も付け加えられることになった。
その後、窓口負担の引き上げなどに連動して、高額療養費も少しずつ引き上げられ、現在の所得区分は次のようになっている。
この図のように、所得区分が「一般」の人の年収は210万〜770万円と幅がある。年収700万円でも、年収250万円でも同じ負担をするのは不公平で、中低所得層の負担が大きいということが、以前から指摘されていたのだ。
そこで、所得区分を細分化し、中低所得層の限度額を引き下げる代わりに、高所得層の負担を引き上げることで、できるだけ財政のバランスを計ることが検討されているのだ。
厚労省が示している、見直し案は次の3つ。
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この3つの中で、有力なのが所得区分を5つに分けるBの案。現在は「一般」に区分されている人のうち、所得が低い年収370万円未満の限度額を5万7600円に引き下げる代わりに、「上位所得者」を2つに分けて限度額を、それぞれ16万7400円+1%、25万2600円+1%に引き上げるというものだ。
この案が通れば、低所得層は現状より負担が3割減るが、高所得層は現状より最高で7割の負担増となる。
実際に影響を受けるのは
中小企業の会社員と自営業
高所得のサラリーマンの多くは、大企業に勤めている。彼らが加入する健康保険組合は、法律で決められた法定給付に加えて独自の保障を上乗せする付加給付がある。
高額療養費の自己負担限度額も、所得に関係なく一律月2万円などと手厚い保障の健保組合もあるため、たとえ国の制度が変わっても実質的には負担が増えない人もいるだろう。
直接、影響を受けるのは、こうした付加給付のない協会けんぽに加入する中小企業の従業員、国民健康保険に加入する自営業者などだ。
国民会議の報告書では、これまで、給付を受けるのは高齢者中心で、負担をするのは現役世代中心だった構造を見直して、全世代が「支払い能力に応じて負担する」社会保障制度への脱皮を求めている。たしかに、年齢に関係なく収入や資産に応じて負担をするという考えは、高齢者社会に向けて必要不可欠な改革だと思う。
だが、今回の高額療養費の見直しは、病気やケガをして「患者」という立場での自己負担部分で行われるものだ。低所得者の負担を減額するなどの配慮はあって当然だが、所得が高いからとって病気やケガをしたときの窓口負担に大きな差をつけるのは、果たして「応能負担」と言ってよいものなのか。
本来、支払い能力は一国民としてはかられるべきで、保険料や税金の徴収で行うのが筋だろう。本コラムで何度も指摘してきた通り、健康保険を支える源である保険料は、加入する組合によって保険料率に大きな差がある。2013年度の会社員の健康保険は、中小企業の従業員が加入する協会けんぽは全国平均で10%なのに対して、大企業の組合健保は平均で8.635%。年々、保険料は上昇しているとはいえ、協会けんぽに比べれば余裕があると見ることもできる。
大元の不平等を改善しないまま、自己負担部分で過大な引き上げを行うのは、制度への信頼を揺るがしかねない。
日本で半世紀以上、国民皆保険が維持されてきたのは、強制加入の仕組みもさることながら、制度への信頼があったからだ。毎月、それなり保険料を負担しているのは、「病気やケガをしたときは、少ない負担で必要な医療を受けられる」ということを期待しているからで、私たちはそれを実感している。
保険料を負担しているのに、さらに高い自己負担も求められるのは、いくら富裕層といえども納得できるものではないように思う。
過度な自己負担の引き上げは、保険としての魅力を半減させ、制度への信頼を失うことになりかねない。健康保険を持続可能なものにしていくためにも、本来の意味での「応能負担」の原則に立ち返った議論を求めたい。
http://diamond.jp/articles/print/42834
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