01. 2013年7月18日 02:49:35
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【第54回】 2013年7月18日 早川幸子 [フリーライター] 70〜74歳の医療費窓口負担いよいよ引き上げ? 高齢者を狙う「病気でも入れる保険」に要注意 7月9日の定例会見で、田村憲久厚労相は、1割に据え置かれたままになっている70〜74歳の医療費窓口負担を、早ければ来年4月から2割に引き上げる可能性を示唆した。 70〜74歳の窓口負担は、2006年に成立した医療制度改革関連法で、2008年4月から2割に引き上げることが決められていた。しかし、2007年の参院選で自民・公明の両党が大敗。高齢者の票離れを恐れた自公政権が、実施を見送ったという経緯がある。 民主党政権下でも凍結され、年間2000億円の補正予算を組んで70〜74歳の窓口負担は1割に据え置いてきた。しかし、医療費を負担する経済界や健康保険などから「法律で決まったことなのだから、早く2割に引き上げるべき」という意見が毎年のように噴出していたのだ。 来年4月から確実に引き上げられると決まったわけではない。だが、健康保険の提供体制を決める厚労省の社会保障審議会医療保険部会でも、高齢者の代表委員から低所得者対策を盛り込むことで引き上げを認める意見も出ており、引き上げの可能性は高まっているといえるだろう。 こうした医療制度の変更によって、今から気をつけておきたいのが高齢者をターゲットにした「病気でも入れる」がキャッチフレーズの民間医療保険の勧誘だ。 引受基準緩和型の医療保険は 保険料が一般的な商品の2倍! 民間の医療保険は、一定の確率で病気やケガをすることを前提にして契約者から保険料を集め、そのお金で加入者全体の保障を賄っている。健康状態の悪い人ばかりが加入すると、その前提が崩れて約束通りに給付金や保険金を払えなくなる可能性もある。保険会社は利益を上げられず、経営を圧迫することにもなる。そこで、民間の保険に入る前には、健康状態や職業などを告知してもらって、加入させる・させないの選別が行われている。 告知書は、保険会社との契約を交わすための重要な書類で、保険加入を希望する人は過去の通院歴、現在の健康状態などを詳細に伝える義務がある。病歴をごまかしたりすると告知義務違反となり、加入できても肝心の給付金や保険金を払ってもらえなくなる。 病歴があると一般的な民間の医療保険にはなかなか加入できないが、高齢になると誰でも持病のひとつやふたつは抱えているものだ。そこで、持病のある人をターゲットにしたのが、「病気でも入れる」がウリの医療保険だ。 病気で入れる保険で多いのは「引受基準緩和型」というタイプで、一般的な医療保険に比べると健康状態を伝える告知内容が簡単で、持病があっても加入しやすい。 たとえば、「過去3ヵ月間に医師に検査、入院、手術を勧められたことがある」「過去2年間に入院、手術をしたことがある」「過去5年間に肝硬変、がんと診断されたことがある」のいずれにも当てはまらなければ、加入できるといった感じだ。 高血圧や糖尿病などの生活習慣病の人でも加入できて、その病気で入院や手術をしても給付金はもらえるので、持病を抱えている人には魅力的な商品かもしれない。だが、契約から1年間は、入院や手術の保障額が減額されるといった条件もついており、給付面では一般の商品よりも見劣りする。 何よりも問題なのは、その保険料の高さだ。一般的な医療保険に比べて、引受基準緩和型は倍近い保険料が徴収される。 たとえば、70歳の男性が、A社の引受基準緩和型の終身医療保険(もらえる入院給付金は1日につき1万円、1回の入院で保障される限度日数は60日のタイプ)に加入した場合、毎月支払う保険料は1万8290円。80歳までの10年間加入したとすると、保険料総額は約220万円にも及ぶ。 70〜74歳の医療費の窓口負担が1割から2割に引き上げられると、これまでよりも負担は増えるのは事実だが、割高な保険料を払ってまで、引受基準緩和型の医療保険に入る必要はあるのだろうか。 民間の医療保険に加入しても 日常的な医療費はカバーできない 窓口負担が1割から2割に引き上げられると、70〜74歳の人の自己負担は単純に考えてもこれまでの倍になる。たとえば、かかった医療費が5000円の場合、これまでは窓口で500円支払えばよかったのが1000円になる。高齢になると、若い頃より医療機関を受診する機会は多いので、確かに出費はかさむ。 不安になるのも当然だが、民間の医療保険は、入院や手術を伴わない通院による生活習慣病の投薬治療などは対象外。たとえ保険に入っていても、残念ながら日常的な医療費の負担をカバーすることはできないのだ。 では、入院したり、手術を受けたりした場合はどうだろうか。保険会社が認める入院、手術をすると、加入者は入院日数や手術の種類に応じた給付金をもらうことはできる。だが、そもそも健康保険には高額療養費という制度があるので、際限なく医療費がかかるという心配はないのだ。 現在、70歳以上で一般的な所得(月収28万円未満で住民税課税世帯)の人の1ヵ月の自己負担限度額は、通院がひとり1万2000円(1医療機関あたり)。入院もすると4万4400円。同じ世帯に70歳以上の人が複数いる場合は、世帯の1ヵ月の限度額が4万4400円になる。 たとえば、夫婦ともに70歳で、1ヵ月の医療費が夫100万円、妻100万円かかったとしても、最終的な自己負担額は夫婦合わせて4万4400円でよいということだ。70歳未満の場合、ひとりの人が1医療機関で1ヵ月に自己負担したお金が2万1000円を超えないと世帯合算できないが、70歳以上は金額にかかわらず自己負担したお金をすべて合算して高額療養費を請求できる。 もしも70〜74歳の窓口負担が1割から2割に引き上げられると、高額療養費の自己負担限度額も変更され、通院はひとり2万4600円、入院した場合は6万2100円になる予定だ(ただし、過去1年間に高額療養費の適用になったことが3回あると、4回目からは4万4400円)。 たしかに、これまでより自己負担額は増える。だが、入院するとレジャー費などの遊興費は使わなくなるので、その分のお金を回せば、なんとか賄える金額ではないだろうか。 民間の保険に入っていても、給付の条件を満たさなければお金は受け取ることはできない。それなのに保険料は割高で、先のA社のケースのように、引受基準緩和型の医療保険に10年加入すると、支払う保険料総額が200万円を超えることもある。 あえて虎の子の年金から割高な保険料を払って民間の保険に加入するよりも、その分のお金を貯めておけば入院や手術にかかる医療費はもちろん、日常的な通院にも対応できるはずだ。 高齢化社会に対応するために、国は、自宅や介護施設などでも必要な医療を受けられるように在宅医療や訪問看護の体制を整えようとしている。ますます入院日数は短縮することが予想されるため、入院や手術をしなければお金を受け取れない民間保険は、出番がなくて宝の持ち腐れになる可能性は高い。 今後、医療費の自己負担アップなどのニュースが流れると、民間の医療保険の営業活動は活発になるはずだ。病歴があって一般的な医療保険に入れないとなると、引受基準緩和型に入ろうかと思うこともあるかもしれない。だが、それは、高い保険料を払ってまで加入する価値のあるものなのか。実際の医療費の自己負担額を調べたり、手持ちの預貯金も考えながら、加入前には慎重に判断するようにしよう。 |