03. 2013年4月22日 13:32:36
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from MRIC □ 「余命告知」で4500万円を請求された病院 あらゆる医療が損害賠償の対象 となる時代に? ■ 多田 智裕:武蔵浦和メディカルセンター ただともひろ胃腸科肛門科
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3月4日徳島地方裁判所に「医師から余命告知をされた母親が精神不安定になり、十分 ながん治療を受けられず死亡した」として、徳島大学病院に4500万円の損害賠償を求 める訴訟が提訴されました。 報道によると、2011年3月に「余命数カ月」と診断され告知された70歳代の女性が精 神的に不安定になり、通院で治療を続けたものの、薬を飲まなくなったりして、十分 ながん治療を受けられず、1年後の2012年4月に死亡したとのことです。遺族の方々の 主張は「告知によって患者に精神的ショックを与えないよう配慮する義務が医師には あった」とのことです。 もちろん、何事にもものの言い方はあり、患者の心をズタズタにするような告知の仕 方は避けるべきです。しかし、どんな言い方でもがんを告知されて絶望の縁に陥らな い人はいません。どんなに配慮したとしても、精神的ショックを与えない告知は不可 能なのです。 ショッピングセンターで、落ちていたアイスクリームの上で滑って転倒した70歳代女 性が店を相手に2600万円の損害賠償を請求し、「店はアイスが落ちていないように注 意する義務がある」として勝訴する時代ですから、医師ががん告知に関連して訴えら れるのも当然のことだと思う方もいるかもしれませ ん。 しかし医療従事者は衝撃を受けています。この訴訟によって、「間違っていない医学 的判断を下すことすらも、高額な賠償金の対象となり得る」ということが判明したの です。つまり、「あらゆる医療が損害賠償の対象となる時代」の幕開けを告げる象徴 的な訴訟に思えてならないのです。 ●病名告知なしのがん治療はあり得ない 20年ほど前の1990年代、がんの告知を患者に行うかどうかについて、日本ではまだコ ンセンサスが得られていませんでした。がんの告知をしないまま治療を行うこともし ばしばあったのです。 しかし、10年後の2000年までに告知はほぼ必須となりました。2002年には最高裁で末 期がん患者に対して告知をしなかった医療機関が「対応が不十分」として敗訴したく らいです。 ですから、現状においては本人への病名告知なしのがん治療は特殊な場合(本人が認 知症を発症しており理解できない場合など)を除き、あり得ないのです。例として、 家族の要望で胃がん告知なしで治療を行った場合を考えてみれば、がん告知が必須と なった理由は明らかです。 毎日のように診察を行い点滴などの治療するのですが、数カ月経っても病状は横ばい、 またはやや悪化傾向です。「胃潰瘍と言われて入院したのに治らないのはなぜなんだ ろう?」と疑問を持たない方がおかしいでしょう。医療従事者に対する病状が改善し ないことに対する疑念は深まるばかりで、不信感から会話がほとんどなくなってしま います。 そして、家族の方たちも事実を隠したまま会話をすることに疲れてはててしまい、お 見舞いにくる回数が減ります。さらには、お見舞いに来ても、病室を訪ねるのは一瞬 であとはロビーなどで時間をつぶして帰るだけになってしまうのです。家族や親族の 方と話したいことを話せないまま最期を迎えることが、本当に本人とって良いことだ ったのでしょうか? 「ショックを受けるから告知をしないで」と家族が要望し、患者の知る権利を制限し た結果は、大方このようなものだったのです。 ●「インフォームドコンセント」の真の意味とは 1997年に医療法が改正され、医療者は適切な説明を行って、医療を受ける者の理解を 得るよう努力する義務が明記されました。いわゆる「インフォームドコンセント」 (説明と同意)をしっかり行う義務が、初めて法律として明文化されたということで す。これにより、医師が握手して「○○さん、私に 全てお任せくださいベストの治 療を行いますから」といった医師に丸投げの医療は完全に否定されました。 このインフォームドコンセントの真の意味が十分に世間で理解されていないのではな いか?と私は考えます。 現在の医師は、専門知識と経験からアドバイスを行うだけの立場なのです。それを患 者側が自分の価値観で判断をすることで医療が成り立つのです。 会話例で言うと、「今回、内視鏡を使って大腸ポリープを切除しましたが、一部がん 化していました。切除したポリープを顕微鏡で詳しく調べたところ、粘膜下層への浸 潤とリンパ管の侵襲を認めました。この場合、リンパ節に転移している可能性が10% ほどあるので、腸を追加で切除する手術の適応があります」 これが私の消化器内視鏡医師としての診断とアドバイスです。 これに対して、患者さんは「転移で命を落とす可能性については理解しましたが、手 術は受けません」でも構いませんし、「10%の転移可能性があるのなら、追加手術で 完全に切除しておきたい」でも問題ないのです。 つまり、インフォームドコンセントとは「充分な情報提供がなされたあとの、患者の 自己決定権が最大限に尊重されるべきである」という考え方です。患者側にも病状の 理解と自己責任による判断を要求しているのです。 ですから現在の医療では、「本人がショックを受けるから告知をしないで治療をしろ」 と医師に要求すること自体が、そもそも無茶なことなのです。 ●高額な賠償請求は医療崩壊を進めるだけ 私自身、まだ全国的に多くはない痔の日帰り手術を行っているのですが、本来数日間 の入院で行う手術を日帰りで行うためには、細かく気を使う部分が多々あります。 そんな中、手術を完璧に終えたあと、その日の夜に「傷が痛む。どうしてくれるんだ」 と半ばクレームじみた電話をもらうと、「痛み止めを飲んで下さい」とは答えるもの の正直言ってかなりへこみます。「日帰り手術なんて無理して続ける必要ない、やめ ようかな」などと考えてしまうこともあります。 患者さんは、医師が良かれと思って行った診察や治療にクレームをつけることがあり ます。そうしたクレームさえなくなれば、医療は大変だけれど本当にやりがいのある 仕事だと思います。 いろいろな意見があるとは思うのですが、「病名告知」は医師として当たり前の行為 です。医師の伝え方にクレームをつけるならまだしも、高額な訴訟を起こすのは医療 崩壊を進めるだけです。 医師は、自らの良心に従い、患者さんのためを思って診療の結果を伝えています。患 者さんはインフォームドコンセントのもと、その結果を納得して受け止め、治療を受 けていただきたいと思います。それこそが、医療再生に最も必要なことではないかと 思うのです。 ------------------------------------------------------------------------ 皆様からのご寄附をお待ちしております!!出産の際に不幸にしてお亡くなりに なった方のご家族を支援する募金活動を行っています。四人のご遺族に募金をお 渡しすることができました。引き続き活動してまいります。 周産期医療の崩壊をくい止める会より http://perinate.umin.jp/ ---------------------------------------------------------------------------- MRIC医療メルマガ通信 ( http://medg.jp ) MRICの配信をご希望される方はこちらへ > ( info@medg.jp ) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●○○JMMホームページにて、過去のすべてのアーカイブが見られます。○○● ( http://ryumurakami.jmm.co.jp/ ) |