02. 2013年4月09日 11:18:00
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クローズアップ2013:再生医療に法の網 厚労省専門委が報告書 毎日新聞 2013年04月09日 東京朝刊 新法で想定される再生医療規制の流れ 厚生労働省の「再生医療の安全性確保と推進に関する専門委員会」は8日、美容や病気治療の目的で幹細胞を点滴・移植する「幹細胞治療」すべてについて、国への届け出を義務づける報告書をまとめた。これを受け、厚労省は再生医療規制法案の今国会提出を目指す。効果や安全性が未検証の幹細胞治療が「自由診療」で広がり、実態把握が難しい現状に法の網をかけるための一歩だが、同時に人工多能性幹細胞(iPS細胞)による再生医療の早期実現も国家的課題。厚労省はアクセルとブレーキの両方を上手に操ることが求められる。【再生医療取材班】
◇幹細胞治療「公的承認制」に iPS細胞の作製など、世界の先頭を走る日本が再生医療を規制することは、英科学誌ネイチャーが論説で取り上げるなど世界の注目を集めており、専門委員会の報告書は「一歩前進」といえる。 国内では、先端研究が進む一方で、効果や安全性が確認されないままの幹細胞治療が、医師の裁量のもと、「再生医療」と称して民間の自由診療で広がっている実態がある。昨年12月、福岡市のクリニックが多くの韓国人患者に幹細胞を投与するなど、自国で禁じられた医療行為を日本で受けさせていることが判明。2010年9月には京都市のクリニックで、幹細胞投与を受けた後に韓国人男性が死亡する事故が起きたが、行政は規制どころか実態把握すらままならない状況だった。 報告書は、幹細胞を治療目的で使うすべての医療行為に事実上の「公的承認」を求める厳しい内容だ。「抜け道」を作らせないため、違反行為があれば治療中止を求めるなどの罰則を盛り込んだ。治療後の患者を追跡する狙いから、事故も含めた治療実績の定期報告を義務付け、国がデータベース化して公表する。 実際には、幹細胞などを使う治療を細胞の種類や投与方法など人体へのリスクで三つに分け、それぞれに規制をかける。iPS細胞や胚性幹細胞(ES細胞)など、ヒトへの応用が始まっていない「リスク高」と、体性幹細胞を使った「リスク中」の治療については、国が認定し、新たに設ける「地域倫理審査委員会」の了承を義務づける。リンパ球など幹細胞以外の細胞を使う「リスク低」も、国への届け出を求める。福岡のクリニックのようなケースの多くは「中」に分類されるとみられ、事実上の公的承認制となる。また、「高」については施設に厳しい基準を定めるため、実施できる医療機関は限定される可能性が高い。 課題もある。リスクの分類は厚労省の審議会などで行うとしたが、根拠にはあいまいさが残る。同日の委員会では「リスクをどう判断するのか」などの質問が出た。また、地域倫理審査委員会は前例のない取り組みで、審議の公平性や人材確保に不安が残る。再生医療や医療倫理に通じた専門家の数は限られ、国の審議会などでも委員をかけ持ちする有識者は珍しくない。「A地域の審査委では了承されなかった治療がB地域では了承された」となれば、患者が不利益を被ることになる。委員からは「委員の選任や事務機能を担保するための財政基盤がいる」といった意見も出された。 ◇推進へ「自由診療」にメス 厚労省が規制の仕組みづくりを急ぐ背景には、安倍政権が経済活性化にもつながるとして再生医療を推進する中で、規制の網にかからない治療が自由診療で進んでいる現状を放置できない事情がある。医療行為を制限する法律は、臓器移植法を除いて他に例がない。 安倍晋三首相は、日本発の技術であるiPS細胞を使った再生医療の推進を表明し、文部科学省の研究費として10年間で1100億円の助成を約束した。国会でも、自民、民主、公明などの超党派議員が、研究開発から応用まで再生医療を安全に進めることをうたった「再生医療推進法案」を国会に提出。近く成立する見通しだ。 厚労省で再生医療研究を担当する原徳寿(のりひさ)・医政局長は「日本の技術力の高さをアピールして世界をリードできるとして、再生医療を推進しようという期待が高く、(iPS細胞を作った山中伸弥京都大教授の)ノーベル賞受賞も後押しになっている。一方で、再生医療を進めるためには、安全性をしっかり法律的なもので確保しないといけない」と、今後作る規制法の意義を説明する。 再生医療の推進に向けた仕組みづくりでは推進法に加えて薬事法上の規制緩和への取り組みも進んでいる。例えば、ヒトへ投与するために再生医療技術を使って加工した製品(再生医療製品)は、薬事法の承認を得るのが本来の形だ。だが現在の薬事法は化学物質で作った薬剤を想定しており、細胞を原料にする再生医療製品には不都合な点が多い。 効果や安全性を確かめるために多くの患者に投与する治験(臨床試験)も難しいため、現在国内で薬事法の承認を受けた再生医療製品は培養皮膚と軟骨の2品目のみにとどまり、欧州の20品目、米国の9品目、韓国の14品目(いずれも昨年末現在、経済産業省調べ)と比べて少ない。 こうした現状から厚労省は、速やかな承認を可能にする薬事法の改正を目指している。具体的には、再生医療製品を少数の患者に投与して安全性を確認できれば、条件付きで承認し、医療機関で使えるようにする。その後、使用した医療機関で患者の病気に効果が出ているかどうかの有効性の検証を製造会社に義務づける仕組みだ。 ============== ■ことば ◇幹細胞治療 患者自身の脂肪や骨髄などから採取した、臓器や組織の元になる能力を持つ「幹細胞」を利用する治療。幹細胞を体外で培養し、必要な量まで増やして注射などで患部へ移植するのが一般的。大学などでは、厚生労働省の指針に沿って効果や安全性を確かめる「臨床研究」が行われているが、こうした手続きを踏まずに民間のクリニックで自由診療として行われる事例が多く、実態もよく分からず問題化している。 関連記事 「再生医療」:美容クリニックなど広告規制強化 厚労省 (04月08日 21時17分) 心臓移植:松永さん支援の会が解散 (04月06日 15時37分) 話題:心臓移植道のり険しく/独で手術の松永さん、喜びかみしめ/「助ける会」6年の活動に幕 (04月06日 13時25分) ことば:後発(ジェネリック)医薬品 (04月06日 06時01分) 後発薬:17年度末まで普及率6割以上を目標に…厚労省 (04月05日 20時51分) オススメ記事 【関連記事】 厚労省:「再生医療」広告規制へ 効果や安全性懸念(2013年4月9日 6時09分) 【関連記事】 ことば:幹細胞治療(2013年4月9日 6時01分) |