02. 2013年1月14日 13:35:44
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医薬品「対面かネットか」はナンセンスケンコーコム、後藤玄利社長に聞く 2013年1月12日(土) 西 雄大 、 中川 雅之 一般用医薬品のインターネット販売を巡り、ケンコーコムとウェルネットの2社が国を相手に販売権の確認を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁は1月11日、国側の上告を棄却し、ネット販売を厚生労働省が省令で規制するのは違法との二審判決を支持した。一審で敗訴した2社の逆転勝訴が確定し、ケンコーコムは即日、ネット通販を再開した。ケンコーコムの後藤玄利社長に、今回の裁判の意義と、医薬品ネット販売の将来について聞いた。 2009年5月に東京地裁に提訴してから、約3年半かかって結審した。ケンコーコムにとってこの期間は長かったか。 後藤:インターネットの技術の進化は早く、3年半という時間を失ったのは、ほかの業界で例えるなら10年近い歳月を失った感覚だ。この間にライバルはだいぶ増えた。アマゾンをはじめとしたEC(電子商取引)企業に加え、ドラッグストア、コンビニ、スーパーもインターネット通販へ進出しようとしている。奇しくもそんな時に禁止が解かれた。 ケンコーコム社長の後藤玄利氏(写真:的野 弘路、以下同) ECの市場環境は大きく変わった。
後藤:医薬品に限らず、ECの位置づけが変わった。ECはニッチで、何か特別なものを買う場とされていた時代が長かった。しかし、この2〜3年で日常生活に必要なすべての商品をネットで購入し、実店舗を補完的に使う消費者も増えてきた。 いま、医薬品のネット通販業界を(自動車レースの)F1に例えるなら、我々がトップを走っていたレース中に、国というセーフティカーが無理やり入ってきて、何周も何周も待たされていた状態だ。いろんなプレーヤーがセーフティカーの後ろで、ぐっとアクセルを踏み込もうとしている。 とはいえ、我々はセーフティカーの真後ろにいると思う。コースを熟知しているので、セーフティカーがいなくなったら、すぐに加速できるように取り組んでいる。 一般医薬品、ネット通販が1〜2割に 市場はどのように成長するとみているのか。 後藤:流通市場全体では、ECが1〜2割を占めようとしている。医薬品でも同じような市場規模になるだけのポテンシャルがある。一般医薬品市場6000億円のうち、1〜2割がネットにシフトしてもおかしくない。 厚生労働省は「郵便等販売に関する新たなルールを早急に検討する」との厚生労働大臣名の談話を発表した。 後藤:損害賠償請求の前に、厚労省の取り組みに協力したい。お金よりも時間の方がはるかに大切だ。今後に向けた話し合いの機会を持たれるのならば、まずは、そちらを優先したい。 損害賠償請求をする可能性はもちろんある。大きな損失を被った。ただ、お金の問題だけではない。ネットを使って良い世界を作ろうと思っている。形だけの省令だけが残っているという、いびつな状態にしておくのはよくない。 今回の裁判を行政冤罪と指摘する声もある。 後藤:我々のように新しい技術を使って新しいビジネスに取り組むと、既得権益者と行政が一緒になってつぶしにかかる。あってはならないことだと思うが、昔からあることだ。 例えば星製薬の創業者の話がある。息子の星新一氏が著書「人民は弱し 官吏は強し」で書いている。父親が星製薬を立ち上げたところ、既存の企業と行政から、ものすごい嫌がらせにあった。何とか生き残りはしたが、失意の後世を送った。行政の嫌がらせに屈し、死ぬ間際に、訴訟をすればよかった、司法に訴えれば良かった、と言っていたという。 それに比べると、現代は良くなった。最高裁もきちんと判断してくれたし、厚労相の談話を聞く限り、前向きに進めて頂けると期待している。 僕らと同じ問題はドイツでも起きている。日本と同じ規制をやったが見直した。日本は他の先進国と比べて10年近く遅れたが、正常な姿になりつつある。 国を訴えるのは相当、体力が必要で苦労が多い。後藤社長の動機付けは何だったのか。
後藤:たしかに小さい会社が国と戦うのは勇気がいる。ここまでこぎつけるのは相当大変だった。 医薬品のネット販売と類似した問題はごまんとあり、日本の活力を削いでいる。規制で作られた国内の参入障壁は数多くある。「お上がいうことだから仕方がない」と渋々従ってしまっては、新しいビジネスが生まれない。 新しいビジネスが立ち上がって少しでも目立つと、既得権益者が行政と一緒になって新興企業をボン、と叩いてしまう。今回はおかしいと思ったことをしっかりと言ったら、国も分かってくれた。私が実践することで、多くの起業家を勇気付けられると信じている。若い起業家に何らかの参考になることをしたかった。敗訴した一審であきらめてしまったら、若い人も絶望してしまう。だから途中でやめることは全くチョイスになかった。 安全性根底に利便性追求 参入事業者が増え、今後小さな事故でも発生すると、また「ネットは危ない」と言われかねない。対策は。 後藤:今まで以上に緊張感を持っていなくてはいけないと思う。日本オンラインドラッグ協会として、一般用医薬品のインターネット販売に関するガイドラインといったルール作りもしている。 厚労省には法令をしっかり作って、安全性を損なう事業者を食い止めたり、罰したりすることをやって欲しい。厚労省がルールを作ったうえで事業者はルールを守り、自由に競争して健全に発展していくようになりたい。 根底にあるのは安全性だ。そのうえでいかにして利便性を追求するかを考えていく必要がある。 小売店の業界団体「日本チェーンドラッグストア協会」も、ルール作りが大事だといっている。 後藤:厚労相の談話によると近々、議論する場があるのだろう。我々もドラッグストア協会が参加されるのならウェルカムだ。 ただし、彼らが2012年9月にまとめた報告書は論外。初回購入時は対面販売を条件とするといった、ネット販売が安全でないということが前提になっている。 ルール作りの目的は副作用を防ぐためにはどうすれば良いのか、だ。対面販売とネット販売、それぞれの手法をどうすべきかを考えるのが、正しい議論だ。 一筋縄ではいかないような気がします。 後藤:長い間、ドラッグストア協会とは話をしていない。急いで省令を見直すためには、早急に何らかの話し合いの場が持たれなければいけないが、あくまでも最高裁の判決が土台だ。それをないがしろにすることはありえない。 対面か、ネット販売かなんてナンセンスなことを、いまだに言っているのは薬剤師だけじゃないかと思う。 中川 雅之(なかがわ・まさゆき) 日経ビジネス記者 ニュースを斬る
日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、日経ビジネス編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。 |