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混合診療のおかげで私は死の淵から蘇った
日本が禁止する本当の理由〜清郷伸人氏・著者インタビュー
2012年11月06日(Tue) 川嶋 諭
清郷伸人さんは、腎臓にがんが見つかり、その後転移して、抗がん剤は効かないし手術は危険、治すのが非常に難しいと主治医に宣告された。しかし、転移の進んだ難しいがんから見事に立ち直る。いまでは闘病生活から離れて生き生きとした生活を送っている。
清郷さんに“奇跡”を起こしたのは混合診療と呼ばれるものだ。簡単に言えば、保険の利く治療は保険治療を行い、保険の適用外の高度治療は全額患者負担で行う診療方法である。
腕のいい医師に患者が集まるのを恐れる医師会
とても合理的な方法と思えるが、いまの日本では認められていない。保険診療と同じ医療機関で保険適用外の治療を受けると健康保険を取り消され、保険が利く治療が含まれていても全額自己負担になる。
その理由はこのあとのインタビュー記事で詳しく触れているので繰り返さないが、一言で言えば医師会と厚生労働省の既得権益を守りたいがためである。患者のためと言いながら、実は患者のことは後回しになってしまっている。
混合診療を入れたくない最大の理由は、保険と非保険治療を組み合わせて最も効果の高い治療方法を工夫した医師に患者が集まり、そうでない医師が困ってしまうということだろう。しかし、競争のない世界には成長もない。
もちろん日本の健康保険制度は素晴らしい。しかし、どんなに素晴らしい制度も必ず制度疲労を起こすことは歴史の教訓である。少子高齢化が進み、国民の医療費負担は日本が抱える最大のテーマと言っていい。
ここで、日本は世界最先端の医療システムを構築できるのか、あるいは旧来のシステムのまま疲弊していくかは、医療界のみならず日本全体の大問題でもある。
今回は知られているようで知られていない混合診療の問題を追った。ここには「赤信号みんなで渡れば怖くない」式の発想しかできない大メディアの問題も含まれている。
混合診療を週刊誌に暴露され、治療継続が不可能に
『官僚国家vsがん患者 患者本位の医療制度を求めて』(清郷伸人著、蕗書房、1429円・税別)
川嶋 清郷さんが、がんに罹患されたのはいつですか。
清郷 2000年10月に職場の検診で左腎臓にがんが見つかり、翌年1月に神奈川県立がんセンターで摘出手術を受けました。しかしその6カ月後に、頭と首の骨に転移していることが分かりました。
当時53歳で、主治医にはいい治療方法がないと言われました。腎臓がんに抗がん剤は効かないし、頭の手術は非常に危険で難しいと。
それで免疫治療をやりますかと勧められたんです。それまで保険診療でインターフェロン療法を受けていたんですが、それと併用することにしました。
川嶋 その免疫治療というのはどういうものですか。
清郷 活性化自己リンパ球移入(LAK)療法といい、自分の血液50ccからリンパ球を取り出し、インターロイキン2という薬剤とともに培養して増殖、活性化させ、それをまた体内に戻すというものです。自分の血液ですから安全です。
ところが、4年後の2005年10月に中止せざるを得なくなりました。週刊誌に、これは厚労省が禁止している混合診療だと暴露されてしまったからです。
川嶋 「週刊朝日」ですよね。何が問題だったわけですか。
清郷 その時まで私は知らなかったんですが、LAK療法は健康保険の利かない自由診療だったんです。日本では同じ医療機関で保険診療と自由診療の併用を受ける、いわゆる混合診療は禁止されています。私が受けていた治療は混合診療だったわけです。
川嶋 法律に違反するとはいえ、悪質なものじゃないですよね。「週刊朝日」は混合診療を認めたくないわけですね。
清郷 私も編集部に抗議文を送りましたが、向こうの言い分は、そうはいっても健康保険制度を破壊する行為だからということでした。つまり国と医師会の主張に沿った姿勢です。行政べったりで、朝日のすることかと思いましたけどね。
あとで分かったんですが、当時、LAK療法は特定療養として厚生労働省も認めていて、保険診療との併用(混合診療)も可能だったんです。つまり、LAK療法の有効性と安全性を認めていた。
ただし実施できるのは、総合病院であるという要件を満たした特定承認保険医療機関だけでした。神奈川がんセンターは小児科がないので総合病院ではなく、特定承認保険医療機関ではなかった。
川嶋 しかし本来、がんセンターというがん治療の総本山でやってほしい治療ですよね。
清郷 まったくその通りです。それでも病院の研究費を使って、私たち患者を治療してくれていたんです。
週刊誌に暴露された後、病院側はLAK療法を続けるなら他の医療機関を紹介すると言ってくれました。しかし、自己負担が月50万円するというので、家計を考えて断念しました。
川嶋 それでも清郷さんの場合、インターフェロンとLAK療法との併用が功を奏したわけですね。
清郷 そうです。主治医からは当初、予後は厳しいと言われていましたが、こうやって元気に生きていられるのは、治療の効果としか思えません。今もがんが治ったわけではないですが、悪くなっていません。
がん患者を経済的窮地に追い込む制度の理不尽さを訴える
川嶋 その後、国を相手取って訴訟を起こされたわけですが。
清郷 だってがん患者が助かるかもしれないんですよ。現に私もこうして今、普通に暮らせています。それに、限られた特定承認保険医療機関以外の保険医療機関で自由診療や保険外併用療養としての評価療養を行うと、その病院の保険指定が取り消される(最長5年)。
加えて、保険診療に支払われた保険(通常医療費の7割)の返還を命じられます。しかも、給付された保険の返還は患者の負担になる可能性があるというんです。たった1つの自由診療を受けただけで医療費が全額自己負担になるなんて制度は、あまりに理不尽じゃないですか。
混合診療を禁止するというのは、厚労省と国による間接的な殺人じゃないかと、未必の故意による殺人じゃないかと、著書の中では激しい言葉を使いましたが。それはこれだけ多くの人ががんで死んでいるからです。
例えば、海外で認められている標準治療だけれど、日本では認められていないという治療法がたくさんあります。抗がん剤の場合、海外で普通に使われているもののうち3割くらいは日本では使えません。
隣の患者さんが肺がんで受けているすごくよく効く抗がん剤があり、卵巣がんにも効くと言われているけれども、日本では卵巣がんには使えない。卵巣がんの患者さんが主治医に使ってほしいと頼んでも、日本ではそのための認可がないからと。
そういうジレンマや苦しみを、患者も良心的な医師も持っているわけです。厚労省はもっと医師と患者を信頼して、患者が医師から十分なインフォームドコンセントを受けて決めた治療に対して介入しないでほしいんです。
川嶋 裁判は結果的に、1審では勝訴しましたが、2審と最高裁では敗訴しました。
清郷 1審の裁判官は、保険給付を定めた健康保険法を純粋に精査して、現状と法律の矛盾や違法性を認めました。行政の意向などはいっさい考慮せずに、法律の条文と現状の規制が合致していない、法的根拠はないから違法であると。純粋に法律的な判決なんです。
2審以降は、現状の制度を追認した上で、そういう法律があるから認められないんだよと。私は、その法律そのものが違憲じゃないかと問うてるんですが・・・。必要性があるからそういう法律がある。だからいいんだよと、行政追認の裁判でした。
2審以降は明らかに政治的な判決です。
川嶋 司法も現状を維持したいということですね。
既得権益を守るために厚労省と医師会が結託
川嶋 患者にとっては保険医療で自分を診てくれるお医者さんに自由診療もやってもらう方が安心で便利ですよね。混合診療の方が合理的なのに、厚労省はなぜ認めないんですかね。
清郷 私見ですが、省益とか官僚益にすぎません。厚労省がその規制を手放さないのは、どの医療をどの病院ができて、どの病院ではできないというのを自分たちですべて決めたいんです。
川嶋 医者が勝手にいろんなことをやられては困ると。
清郷 確かに医療の安全性とか質を担保するには、規制は必要だと思います。
しかし、それが行きすぎて、科学的根拠のある先端治療があるにもかかわらず、あるいは効く薬があるにもかかわらず、混合診療はいっさいダメだという。仮にやったとすればあまりにも重いペナルティーを科す。
川嶋 今までやってきた行政を変えることは、自分を否定することだから認めないということですね。
清郷 官僚の特徴というのは結局、自己保身ですよね。よく前例主義と言いますが、厚労省が金科玉条のように言うのは、一部の悪徳医がいて、自由にさせたら患者が被害を受けると。
自由診療で高い治療をやったり、安全性が認められていない治療をやったりということの危惧を言うわけです。
それは確かにゼロではないですが、想像上の一部の悪徳医のために、大部分の良心的な医師や難病に苦しむ患者を犠牲にしている。ごく一部の部分利益、官僚の省益のために国益全体を損なっています。
それともう1つ、官僚は現在の既得権側につくんですね。医療に関するステークホルダーの中で、最大のステークホルダーは国民なんです。しかし国民、患者は置いておいて、既得権側つまり医師会や医療産業などの方に軸足を置いて行政を行っている。
川嶋 医師会も混合診療には反対しているわけですね。
清郷 そうです。個々の医師は必ずしもそうじゃないんですけが、よく言われるように個人と組織は違う。医師会は基本的に開業医の団体ですから、混合診療が可能になると医療の競争が始まるので、開業医はイヤがるんです。
川嶋 競争が起きるというのは患者にとってはいいことですよね。
清郷 その通りです。情報が開示されて、どこの医療機関は優れているというような判断材料があれば患者は助かる。しかし、それを一番恐れているのは医師会です。
旧態依然たる保険診療だけで、極端に言うと二千数百万円の年収と、開業医の世襲率9割が守られている。安易な楽園です。混合診療に関しては厚労省と医師会は完全に結託しています。
ホンネとタテマエの健康保険制度。混合診療は隠れて行われている
清郷 厚労省も最高裁の判決もそうでしたが、医療は平等でなければならないとか、安全性や有効性が担保されなければならないと言うわけです。
しかし、平等についていうと、受ける医療は一人残らず決められた医療以外を受けてはならないというのが厚労省のタテマエですが、実際には自由診療がある。それはおカネ持ちしか受けられない。それのどこが平等なのか。
川嶋 清郷さんが受けていたLAK療法も自由診療であれば可能なわけですよね。
清郷 そうです。自由診療ならばやれます。しかし、月に何十万円もかかるので普通の人では難しい。
先ほども言いましたが、患者が主治医の病院とは別の医療機関に行って、自由診療の治療を受けることはできるんです。けれども、同じ病院で同じ医師がやるのはダメなんです。これは非常に矛盾しています。
それでも実際には良心的なお医者さんは私の場合がそうだったように、研究費を使って自由診療を併用している場合があります。
川嶋 制度に抜け道があって、現実には混合診療を受けている患者はけっこういると。
清郷 そうです。カルテを改竄したり、病名を変えたり、いろんな工夫をしてやっているんです。保険当局もおそらく把握しているけれども、悪質でなければ見逃しているんだと思います。つまり実体は矛盾している制度なんです。
逆に言うと、だから危険なんです。自由診療に特化している医療機関の中には、カネ儲け主義のところもある。そういうところで治療を受ける方が危ない。保険医療機関で併用した方が安全性が高いんです。
そういう実態があるのに、目をつぶって、怪しげな治療はダメだの一点張りなんですね。安全性が損なわれると。逆に禁止しているから安全性が損なわれるんですけどね。
また、厚労省が混合診療を認めない理由として、自由診療で病状が悪化した場合に、それを保険診療で治すというのは国の予算のムダ遣いだと言うんです。それならば自由診療そのものをすべてなくすしかない。だって世の中にはいくらでも自由診療があって、マジナイみたいなものだってある。サプリメントもそうです。
厚労省の理屈は、それらをすべて取り締まってこそ初めて言える話ですが、そんなことができるわけがない。つまり論理矛盾なんです。
川嶋 要するに今の保険制度は、現実には徐々に崩れつつあるわけですか。
清郷 ホンネとタテマエの世界で、法律というタテマエはしっかりしている。しかし、ホンネの部分の医療現場は矛盾だらけです。ですから、それを是正して患者にとって最良のやり方が堂々と普通に行われるべきなんです。
保険財政の破綻は目の前、医療制度を考え直すとき
清郷 これからは、ある程度の貯金があり、保険もかけていた普通の国民が、がんになってなかなか治らない時に、日本の保険では認められていないけど海外では普通に使われている薬や治療を、しっかりとした保険医療機関で受けられるようにすべきだと思うんです。
保険と保険外のものを併用する、つまり混合診療の制度を設けるのはごく普通のことだと思うんです。他の先進国では普通にやっているわけですから。
清郷 ただし誤解していただきたくないのは、私は何でもかんでも解禁せよと主張しているわけではありません。先端医療に保険を使えとも言いません。
しかし、CT検査や血液検査には健康保険が使えるのが当たり前じゃないですか。混合診療をしたからという理由でそれらすべてに保険が利かないとなれば、家計は破産ですよ。破産するか、治療をやめて死ぬか。
また、混合診療をどの医療機関でやっていいとも思っていません。ある程度の実績のあるしっかりとした病院のみでできるようにすれば、それだけでも大きな進歩です。がんセンターや大学病院など大きな医療機関だけでも開放すれば、ぜんぜん違うと思います。
日本の国民皆保険はいい制度です。しかし、それを守るためと称して、人の自由を奪い、難病の人たちを見捨てている。そんなことをしなくても皆保険は守れます。日本の医療技術は高くても、医療制度はガラパゴスですよ。
川嶋 不思議なのは、これだけ悩んでいる人がいて、治療を求めている人がいて、なぜ清郷さんのような声が大きなうねりにはならないんですかね。
清郷 がんなどの重い病気や難病以外、普通の病気は保険診療だけで治りますから。大多数の人は困っていないということだと思います。
また、私の場合は週刊誌に暴露されたこともあり、失うものがなかったので声を上げることができましたが、さっき話したように、表に出ないようにやっている場合は自分に不利になってしまうので大っぴらにできないんです。
そこで私は本人訴訟で東京地裁に訴えを起したのですが、結局裁判では制度を変えることは不可能でしたから、あとは政治家ですね。立法府です。
川嶋 しかし政治家は医師会の献金などで身動きが取れないわけですよね。
清郷 そういう政治だと絶望的ですね。
この問題でもう1つ重要な点は、保険財政がもうもたないということです。なぜなら、先端医療は高額だからです。2人に1人ががんになる時代に、それらを保険に入れていったら医療費はどんどん増えます。
そうすると今のようにすべてを保険で賄うのはムリになる。ですから、ある程度おカネがある人は、先端医療は10割自己負担で、同時に今まで認められてきた医療に関しては保険を使う。そういう方向で政治が動かないとダメだと思います。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/36307
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