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【第37回】 2012年10月25日 早川幸子 [フリーライター]
入院から退院まで2週間以内が当たり前!?
長期入院させてもらえない病院のウラ事情
食道がんと診断されたAさんは、がん治療を専門に行う大病院で食道を切除し、胃を釣り上げる手術を受けた。がんは取り除けたものの、手術後しばらくして釣り上げた胃が破裂し、肺に膿が貯まるようになった。
急きょ、肺に細い管を挿入し、膿を体外に排出する処置がとられ、背中には胃から排出される内容物を入れる袋が取り付けられた。口から食べることもできず、静脈に埋め込んだカテーテルから点滴で栄養補給する状態になった。
管だらけになり、「退院はまだ先だろう」と思った矢先、Aさんは担当医にビックリすることを言われたのだ。
「Aさん、退院していいですよ」
退院前には、自分でガーゼの交換や点滴をする方法が指導され、背中に取り付けた袋に溜まった胃の内容物の捨て方も教えられたが、自分でできるかどうか不安が募った。正直なことを言えば、もう少し入院していたい気持ちが強かったが、有無を言わさない流れの中で、栄養補給の点滴パックを大量に持たされてAさんは退院した。
今や、こうしたことはAさんに限ったことではない。国の医療制度の変更で、長期入院はなかなかできなくなっている。患者からすれば非情とも思える強硬な退院が行われる背景には、どんな事情が隠されているのだろうか。
日本の平均在院日数は
先進諸国ではダントツに長い!?
2010年の日本の総医療費は37.4兆円。その約4割にあたる14.1兆円が入院で使われている。この中には入院中に行われる検査や手術も含まれているが、入院医療費を押し上げている要因として指摘されているのが、日本の病院の入院期間の長さだ。
2009年の先進諸国の平均在院日数は、アメリカ6.3日、イギリス7.8日、ドイツ9.8日、フランス12.8日。一方、日本は33.2日と飛び抜けて長い。医療技術の進歩や制度変更によって、1990年の44.9日より10日以上短縮したものの、日本の入院期間の長さは相変わらずだ。
日本の医療費は、原則的に検査や手術など実際に行った診療行為を積み上げて決まる出来高制だ。入院も1日あたりの単価に入院日数をかけて計算するので、以前は入院が長引くほど病院の利益も増えるようになっていた。
しかし、医療費を削減したい国は、平均在院日数の短縮化を打ち出し、いつまでも患者を入院させるのではなく、手厚い医療体制をとって、早く病気を治して患者を退院させたほうが病院の利益が増えるような政策誘導を図ったのだ。
入院して2週間たつと
診療報酬がガクンと下がる
現在、入院の基本的な費用は、医療機関がどれくらい看護師を配置しているかによって異なる仕組みになっており、手厚い医療体制をとっているほど、高い診療報酬になる。
具体的には、1人の看護師が受け持つ入院患者が7人、10人、13人、15人という区分によって入院の医療費は異なり、いちばん手厚い患者7人に対して看護師1人(7対1入院基本料という)の場合、1日あたりの入院基本料は1566点(1万5660円)だ。さらに、入院日数によって、次のような加算がある。
●1日あたりの入院基本料
(患者7人に対して看護師を1人配置している一般病棟に入院した場合)
・ 1〜14日 450点加算 ⇒ 1日2016点(2万160円)
・15〜30日 192点加算 ⇒ 1日1758点(1万7580円)
・31〜90日 加算なし ⇒ 1日1566点(1万5660円)
入院して最初の2週間は高い診療報酬がつくが、段階的に引き下げられ、30日を超えると加算がなくなる。さらに、難病患者やがんの治療で重い副作用が出ているなど特別な事情がないのに、91日以上の長期入院をしている場合は、1日あたりの入院費が939点(9390円)に引き下げられるというルールもある。
この入院基本料に加えて医療器材や医療スタッフを充実させると上乗せできる加算などもあるので、実際の医療費はこの金額にはならないことが多いが、いずれにせよ手術や化学治療など高度な医療を行う大病院では2週間以内に患者を退院させて、次々と新しい患者を受け入れたほうが高い診療報酬が取れる仕組みになっている。
さらに、7対1入院基本料を取りり続けるには、入院患者の平均在院日数は18日以内で重症患者が全体の15%という条件がある。これを満たさないと、高い診療報酬を取れなくなるため、冒頭のAさんのケースのように、手術など高度な治療が終わった段階で、完治していなくても次々と退院させられるというわけだ。
切れ目のない医療に必要な
入院計画が形骸化している現状
病気が治って晴れて退院できるならいいが、Aさんのように体に慣れない管をつけたまま、突然、退院を言い渡される患者は不安だろう。しかし、国が入院日数の削減を打ち出したのは、たんに医療費を削りたいというだけではない。背景には2025年問題がある。
2025年になると、いわゆる団塊の世代が後期高齢者(75歳)になり、認知症などで介護が必要な人が増えることが予想されている。年間死亡者数も、現在の約120万人から約160万人になる見通しだ。
現在、日本では8割を超える人が医療機関で亡くなっている。このままの構造が続くと、2025年には病院のベッドは終末期の患者で埋め尽くされ、本来の病院が行うべき手術や救急患者の受け入れなどができなくなってしまう。
そこで国は、大病院では高度な医療を担当し、中小病院や診療所は生活習慣病や慢性期の治療を行うなど役割分担を明確にし、地域で連携を取りながら切れ目のない医療を提供できる体制作りを急いでいる。
それを実現するには、Aさんのようにがんの手術などを受けた患者は、本来なら入院中から退院後の療養生活を見据えて、地域の診療所や訪問看護ステーションを紹介するといった診療計画を立てなければならないはずだ。
しかし、現実は地域の医療機関での連携が取れていなかったり、そもそも受け入れてくれる開業医や中小病院などが不足している地域もあり、計画自体が形骸化している。その結果、次の受け入れ先が見つからないまま放り出される患者が後を絶たないのだ。
今年行われた診療報酬の改定では、在宅医療の充実に予算が投じられたが、誰もが安心して地域で医療を受けられる状態にはなっていない。
こうした状況を改善するには、国や医療機関が率先して在宅医療の充実、地域連携を強化していくのはもちろんだが、市民も国がどのような医療体制を築こうとしているかを理解しておく必要があるだろう。
超高齢化社会に突入し、医療機関の機能分化が図られている今、病気やケガをしても、これまでのようにひとつの医療機関で最初から最後まで治療してもらうのは難しくなっている。安心して医療を受けるには、自分の病気の状態に合わせて、適切な医療機関の規模を選んで受診しなければならない。
しかし、素人が適切な医療機関を見つけるのは難しいことだ。いざ病気になったときに何でも相談できるように、ふだんから信頼できるかかりつけの診療所を見つけておくことが大切だ。
http://diamond.jp/articles/print/26829
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