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日経メディカルブログ:裴 英洙の「今のままでいいんですか?」
2012. 9. 20
医師の「不本意な出世」が患者を不幸にする
著者プロフィール
裴 英洙(メディファーム(株)社長)●はい えいしゅ氏。1972年生まれ。金沢大学大学院医学研究科修了。外科医・病理医として勤務後、MBAを取得し2009年に起業。医業経営コンサルタントの仕事の傍ら、再建先で臨床医として医療現場に携わる。
ブログの紹介
医療機関の経営問題を解決しないと、医師が意欲を持って働けない―。そんな危機感からMBAを取得し、コンサルティング会社を設立した異色キャリアの医師。これまでの経営支援の経験から、病医院で見過ごされがちな問題やエピソードを語ります。
関連ジャンル: 医療経営 医師のキャリア
「ふたを開けてみたら、分からないことばかりです。医師の経験は20年以上ありますが、実際に一度もやったことがない分野なので『今日から全て任せます』と言われても、一体何をすればいいのか…。裴先生、まずはどこから手を着ければいいのでしょうか?」
このセリフは誰が言ったものか、お分かりだろうか? 下の選択肢の中から1つ選んでみてほしい。
(1)手術室改善プロジェクトリーダーに任命された内科医
(2)初めて手術をするベテラン研究職医師
(3)国内最高難度の胸部外科手術に初めて取り組むブランクのある外科医
(4)就任したばかりの自治体病院の院長
数十万人規模の患者の命がかかっているのに…
答えは(4)。就任したばかりの自治体病院の院長から聞いたセリフである。副院長の経験もなく院長にいきなり抜擢された彼は、経営を任されて途方に暮れ、私にぼやいたというわけだ。皆さんは正解を選べただろうか?
よくよく4つの選択肢を見ると分かるが、冒頭のセリフは(1)〜(4)のどの医師が言ってもおかしくない。ただ現実的には、(1)〜(3)のケースが病院内で許可されることはまずない。どれだけ外科医不足にあえいでいても、これまで手術の経験がない内科医や研修医が、(1)のように手術室の中心的役割を任されることは少ないだろう。また、いくらベテランでも、研究一筋の医師やブランクのある医師がメスを握ると医療事故のリスクが大きいので、(2)と(3)も考えにくい。
では(4)はどうだろうか? 私は、医師としてのキャリアはたかだか十数年しかないが、経営経験の乏しい医師が自治体病院のトップに就任するケースは十指に余りあるほど知っている。病院経営は、医療圏における数十万人規模の患者の命がかかっている最重要分野にもかかわらず、なぜ無謀にも経営の「素人」にいとも簡単に経営権を渡してしまうのだろうか?
恐らく、一般的な企業のサラリーマン社長と同じように、医療機関でもトップが次の人にバトンを渡していると思われる。だが、企業のサラリーマン社長と、医療機関の経営者では、マネジメントに関する経験値が違いすぎる。
医師が経営指標に触れる機会が極端に少ない
例えば、企業の社長の場合、当然ながら過去に事業部長や部長職として、1つ以上の部門のマネジメント経験がある。そのため、収益予測や経費配分など、基本的な簿記の知識や数字の読み方をある程度理解している。さらに人事権を持っていたケースも少なくなく、新卒や中途人材の採用、キャリアパスの作成、人事考課などを手掛けていた場合もある。このほか、職歴によっては、在庫管理や宣伝・広告、販促・PRなどを担当していた人もいる。
つまり、執行役員や取締役になった時点で、自分の得意分野とは別に、マネジメントに関わる一通りの知識を備えているケースがほとんどなのだ。そのため「役員10人抜きで社長に抜擢」されても、十分に社長職をこなせるだけの土台は固まっていると言っていい。
一方、医療機関は完全な専門家集団であるため、例えば産科の医師はその分野には強いものの形成外科分野に弱いといった具合に、組織横断的な知識を身に付けているケースはほとんどない。損益計算書や貸借対照表といった経営指標に触れる機会も極端に少ない。ましてや、在庫管理などに精通している医師はごくまれだ。
もちろん、部長や副院長を経て院長になるパターンは多いが、その部長時代・副院長時代でも依然として臨床のメーンプレーヤーであり、経営に専念できる環境である方が少ないのではないだろうか。つまり、医師としてのキャリアを磨いても、医療分野への専門特化こそすれ、マネジメントに関する知識は十分に蓄積していないのが実情なのだ。
医師はどこで経営を学べばよいか?
私が医学部にいた頃、授業で経営学は教えてもらえなかった。リーダーシップ論、組織行動学、マーケティングなどの医療機関経営・マネジメントに関する講義が一切なかったからだが、それは今でも同じだと思う。大半の病院では研修医や若手医師の養成プログラムを用意しているが、医療経営層の育成プログラムが充実している医療機関はほとんどないだろう。
では、医師はどこで経営を学べばよいのか? 難しい問題だが、医療機関の経営に少しでも興味がある医師は、実際の現場で悩みながら学び、実行し、修正し、また実行し、そこから学ぶしかないのだ。教科書を読むだけ、何も読まず勘に頼って実行するだけ、というのではいけない。経営とは、悩みながら、学びながら、それでも意思決定して問題解決を続けていくしかないのだ。「開業すれば安泰」「病院は何もしなくても食べていける」という時代ではないことは、もはや周知の事実だろう。
実を言えば、私自身、臨床現場から遠ざかっていることに対して、負い目がないわけではない。そんな自分に対して、今でも臨床医時代の恩師の言葉が突き刺さる。
「裴君は今でも立派な医師です。医師でないとできない視点で頑張ってください」
目の前の患者さんを救うのも医師、病院を立て直して地域医療を救うのも医師。恩師の言葉を胸に、私は今日も白衣を脱いで依頼主の病院に向かい、自分にしかできない方法で問題解決に取り組んでいる。
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コメント(4件)
Dr. v(^o^)/(2012/09/21 10:44)
院長が経営責任を負わされるということ自体が問題のような気がします。院長はあくまで医療面でのリーダーシップに専念できるような体制や環境を創出すべきであり、そのために必要なのは事務方による適切なサポートです。自治体病院レベルの規模であればなおさらです。 日本で問題なのは、このサポートが十分に得られない場合が多いということです。その結果、全部院長が背負う羽目になる。そして、「どこから手を着ければいいのか…」のボヤキが聞こえてくるわけです。 もちろん医師が経営センスを持つことにも一定の意義はあるでしょう。しかし、数十万人規模の患者に対応する病院に求められるのは、医学・医療について医師と同レベルの見識を持った事務担当エキスパートの存在かと思われます。そういった人材の不足が、“無謀にも経営の「素人」にいとも簡単に経営権を渡してしまう”、あるいはそうせざるを得ない状況を作っているのではないでしょうか。 本当に必要なのは、「経営学を教える医学部」ではなく、「医学を教える経営学部」かもしれません。
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楽勘医(2012/09/21 09:01)
20年程前に米国のトップ5の病院に10ヶ月出張した時に、病院運営のやり方を見ていまして、日本と相当違うことを学びました。幹部の多くが、日本と異なり、医師ではないオフィサーで、その人達が21世紀に向かって、戦略を練っているのです。帰国して、国立大学病院を見ていますと、院長は当然医師であり、経営戦略などを真剣に考えている姿ではありません。この20年余り、臨床医でありながら、組織運営の経験をしておりますが、裴さんの「医師でないとできない視点で」というのは、病院運営について非常に参考になりました。
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uranちゃん(2012/09/21 07:50)
多くの自治体病院で、院長人事を決めるのは、事務職です。従って、医療の能力、ましてや経営の能力などはまったくわからず、決めているのが現状だと思います。私の経験した、いくつかの病院でも、突然、天下りのように、どこかの教授であった人物が院長となり、やみくもに自分の専門分野だけの発想で管理を行っていました。そもそもそういう人は、極端に狭い視野で長い人生を過ごして来たのだから、経営などという分野に携わるべきではない。にもかかわらず、素人官僚には、元大学教授という肩書きがとても魅力的に映るのでしょう。なにもわからないから、事務部長の言いなりになりやすく、現場叩き上げの部長とは対立することもあります。 病院の院長には、臨床医として広い分野を見て来た経験と、個人の責任である程度の大きさの組織を運営してきた実績(収支や効率を求められない、国公立の大学などは組織運営とは言えない。自分に経済的な最終責任がかかるような運営でないと)の両方がないと不適切だと思います。もちろん、就任してからの勉強で、1年後には職責を果たしている、立派な先輩方もあったことは知っていますが。
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/blog/hai/201209/526803.html
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