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「新型うつってなんですか?」精神科医・冨高辰一郎氏に聞く(前編) 急増したワケは、新薬発売に伴う啓発活動
http://www.asyura2.com/09/iryo03/msg/548.html
投稿者 MR 日時 2012 年 6 月 20 日 22:26:54: cT5Wxjlo3Xe3.
 


http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20120614/312489/
世の中、これでいいんですか〜ゆとりの社会学習 第1回
「新型うつってなんですか?」精神科医・冨高辰一郎氏に聞く(前編)

『うつ病患者が急増したワケは、新薬発売に伴う啓発活動の影響もあるんです』

• 2012年6月18日連載ウォッチ(構成・文/加藤レイズナ 企画/アライユキコ)
 この時代を生き抜くために必要な知識ってなんだろう? 本物の社会常識を身につけたい! 2年間にわたる人気連載「ゆとり世代、業界の大先輩に教えを請う」を経て、1987年生まれ、ゆとり世代のフリーライター、加藤レイズナが仕事の現場、プロの研究を突撃します。第一回のテーマは「新型うつ」。若者に増えているなどと話題の新しい「うつ病」の真実について、『うつ病の常識はほんとうか』の著者で精神科医の冨高辰一郎さんに聞きました。
うつであると自己診断して来院する人が多い
――新型うつってどういうことなんでしょう。
冨高 やっぱりそこですか。
――最近よく聞きます。「週刊文春」でも大型キャンペーンとして「『新型うつ』は病気か? サボリか?」という記事が連載されています(2012年6月7日号〜)。うつ病の診断書をもらって「診断書ゲット!」とツイッターに書き込んだり、休職中に海外旅行をしたり。それは果たしてうつなのか、サボリじゃないのかとか。

冨高 辰一郎(とみたか しんいちろう)
1963年生。大分県出身。九州大学医学部卒。内科研修後、東京女子医大病院精神科にて精神科研修。日本学術振興会在学特別研究員としてカリフォルニア大学サンフランシスコ校にて薬理研究。みやざきホスピタル勤務、東京女子医科大学精神科講師を経て、現在パナソニック健康保険組合健康管理センターメンタルヘルス科勤務。専門は、産業精神医学、精神薬理、性格学、医療情報。著書に『うつ病の常識はほんとうか』(日本評論社)、『なぜうつ病の人が増えたのか』(幻冬舎ルネッサンス)がある。
冨高 最初から診断書が欲しいだけで受診するような計算高い人を診たことはないです。新型うつが注目されるのは、二つ理由があって、一つは啓発活動の影響で病状の軽重に関わらず様々な患者さんが受診するようになったことです。もう一つはこれまで日本の精神医学が「うつ病患者は几帳面で責任感が強い」とステレオタイプ化して説明してきたので、その反動がでているのではないでしょうか。日本以外の国では、うつ病患者の性格をそこまでステレオタイプ化せず、むしろいろんな性格の人がうつ病になると説明することが多いのですが。
――最近のうつ病は若い人が多いんですか?
冨高 どの世代も増えています。日本の外来患者だと男女比では1対2で女性が多い。年代でいうと男性は30代から50代が一番通院している。女性は30代から70代までが多く、実は女性の60代以上の人が一番多いです。
――年配の方のほうが多い。
冨高 昔は「うつは中高年が多い」と言われていました。最近は若い人も受診するようになりました。で、この表を見てください。CES-Dといううつ病のスクリーニングをする調査票で一般人3万人を調べたものです。
日本人3万人の抑うつ調査(保健福祉動向2002)

新型うつが多いと言われている理由は、抑うつ軽度の人たちの受診が増えたため。(資料提供:冨高氏)
――すごい山になっている。
冨高 60点満点で、右側に行くほど抑うつのレベルが重くなります。一番多いのが10点くらいで、抑うつ感ゼロの人は少ない。この図で軽度に分類されるような人が多く受診するようになったわけです。抑うつが重ければうつ病の診断をするのは容易ですが、軽くなるほど難しい。たとえば、失恋した女子大生が「辛くて死にたい」と受診してきた場合、病気というよりは悩みに近いのかもしれませんが診療対象にはなります。時間と共に回復する可能性が高いとは思いますが。
――かくいう僕も、このインタビュー用に資料を読むうちに、じぶんもうつなんじゃないかと思えてきちゃって。
冨高 とてもそんなふうにはみえないですよ(笑)。
――ネットで調べていたら、すぐにDSM-IV(9つの項目をはい・いいえで答えるうつの診断基準)が出てきて、これをやったあとに受診する人も多いのかなと。
冨高 たしかに、いまは自分がうつであると自己診断して来院する人も多いですね。
――それはうつ情報が広まって、カジュアル化した影響も大きいんですかね。書店に行くと、まず「うつコーナー」がありますしね。『ツレがうつになりまして。』もヒットしました。
冨高 あの漫画よくできていましたね。
――僕も読みました。サラリーマンの夫がうつになり、大変な闘病を経て、最終的に妻が「うつでよかった」と言う。会社を辞めて趣味の料理を楽しんだり、違う人生を発見するんだと。映像化もされましたね。うつの闘病記が一種の「いやし」本のように読まれているのは変な気がしますね。
冨高 いまはいろいろあって、困るのは怪しげな民間療法を説く本。「うつを治す秘訣は○○を飲む」とか(笑)。二次情報をコピーしているだけという本もあるし、情報が豊富なのはいいと思うんですけど、そこから取捨選択しないといけない時代です。

『うつ病の常識はほんとうか』日本評論社

 日本ではバブル崩壊後、社会が低迷したため自殺者が増えている。真面目な人はうつ病になりやすい。抗うつ薬は標準量の最大量を投与しないと効果が出ない。いままで真実のように伝えられてきた定説は、実はしっかりと検証されてはいない。
「なぜ自殺者は3万人を超えているのか?」「ストレスは増えているのか?」「どんな性格の人がうつ病になりやすいのか?」「うつ病の診断基準とは?」「抗うつ薬の適正量とは?」
 本書では、論拠がしっかりしている一次資料をもとに、うつ病にまつわる様々な定説について検証を行なっている。
 たとえば第1章。現在の日本の自殺者数は3万人を超えている。1900年には1万人前後しかいなかったので、右肩上がりで増えている。なぜか。1番の原因は日本の総人口が増えたからだ。しかし、人口10万人あたりの自殺者数で検証すると、ここ100年間で、20±5人の幅で変動しており急増はしていない。
 100年間の人口構造の変化も考える。自殺リスクがほとんどない10歳未満の人口が減少し、自殺リスクの高い40代から60代の人口が増えれば、当然自殺率は上昇する。この影響を排除すれば、標準化した自殺率は低下していることになる。不況、競争化社会だから自殺者が増えているという安易な発想は間違っていたのだ。
SSRIの発売とうつ病の増加
――冨高さんの著書『うつ病の常識はほんとうか』を読むと、日本の自殺者数は年間3万人を超えて、増えているように見えて、そういう報道も多い。けれど、一番の原因は日本の総人口が増えたからだという。自殺者の統計のうそを暴いていました。
冨高 うそを暴くというより、条件を同じにして比較しただけです。もっと正確に言うと、人口構造が変化した影響を除いて比較したということです。1980年から2009年にかけて、日本の総人口は1億1700万人から1億2700万人と、それほど変わっていません。しかし、10歳未満の人口は約1850万人から約1100万人へと大幅に減少し、60代の人口は843万人から1780万人と2倍以上に増加しました。自殺のリスクがほとんどない子供が減り、団塊の世代が自殺好発年齢となったことで、日本全体の自殺者数が大幅に増えたんですよ。人口構造を同じにして比較すると現在の日本人の自殺率は高度成長期と変わっていないし、戦前や50年代60年代初期よりも大幅に減っています。
日本の10万人あたりの自殺者数

「上記は人口構造を標準化していないグラフであるが、現在の自殺率はなべ底不況と同じぐらいであり近似直線の傾きはX軸と平行である。標準化したグラフでは、現在の自殺率は大幅に低下し、1975年と同じレベルになる。近似直線は右肩下がりとなる」(冨高氏)
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20120614/312489/zu02.jpg

――その一方で、自殺報道が増えると、自殺者も多くなるという話も説得力がありました。

拙著『プリキュア シンドローム!』を読んでくれていた冨高さん。企画の成り立ちの話など、インタビュー以外も盛り上がりました。
冨高 自殺の過剰な報道は、むしろ自殺を誘うほうに働く可能性が高い。1933年、女子学生が伊豆大島の三原山火口へ投身自殺を行いました。当時としては前例のないほど報道が過熱し、結局その年だけで数百人が三原山火口に身を投げて自殺したというエピソードがあります。人口構造の影響すら説明せずに自殺者3万人越えとやみくもに報道するとむしろ自殺を増やしてしまう可能性もあります。そういった過剰な自殺報道は自殺への注意を呼びかけるというより、厭世感を膨らませ、自殺を増やす方向に働く可能性があるからです。
――マスメディアの影響は大きいですね。新型うつが増えた話と似ているなとも思って。
冨高 「新型うつ」ブームもメディアの影響は大きいですね。若者に多いとか、それは最近の教育のせいだといったステレオタイプ化した報道が中心になってきている。うつ病の性格論もそうなのですが、日本人は性格をステレオタイプ化して、分類するのが好きなのかなと感じます。ABO血液型、草食系と肉食系、農耕民族と狩猟民族、といった分類が人気ありますよね。
――占いレベルの。
冨高 これは精神科医にも問題があって、精神科医の先生ですら、新型うつと従来型うつに分けて本を書いたり、講演で話したりする。僕にうつ病の講演の依頼が来ると、必ず「新型うつへの対応の話を入れてほしい」と言われますよ。そのたびに「新型うつとは、啓発活動の影響でうつ病受診者が多様化した影響が大きい」とグラフを見せて説明しますけど、ちょっと物足りなさそうですね。そこに現代若者論が入らないと納得しないのかもしれない。
――もっとはっきりとしたことを聞きたいんですかね。恐るべし新型うつ! こうやって対処しろ! みたいな。『なぜうつ病の人が増えたのか』を読んで驚いたんですけど、「SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)」という新規の抗うつ薬が導入されてから、うつ病患者も増えた。これが本質的な問題なのでしょうか。
冨高 日本も含め先進国ではSSRIという抗うつ薬の新薬が発売されるとうつ病受診者が急増するというグローバルな現象が起きました。新薬発売にともなって行われるうつ病の啓発活動の結果、うつ病に対する社会の認識が高まり、自分はうつ病ではないかと疑い受診する人が増えたということだと思います。
     日本の抗うつ薬市場の変化
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20120614/312489/zu03.jpg

SSRIが発売されたのは1999年。企業の啓発活動により、「自分はうつ病なんじゃないか?」と受診する人が急上昇。(資料提供:冨高氏)
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20120614/312489/hyo01.jpg

生産者と消費者の情報格差
――新薬発売をきっかけにうつ病受診者が増えるとは。
冨高 うつ病が増えたのはバブルの崩壊のせいだとか、競争化社会になったからだとか、DSMといううつ病診断基準が入ったからだとか言う人は多いです。しかし、そういった説はストーリーとしてはもっともらしいのですが、論拠がほとんどないのです。実際は統計を取ると、どの国でも新薬発売と共にうつ病受診者が急増していることがはっきり分かる。
――うーん、病気の啓発活動ってそんなに社会に影響があるものですか。
冨高 それが現実なので認めるしかないと思います。企業活動がそれほど世の中に影響を与えることについて不思議に思う人は多いと思います。しかし考えようによっては、宅急便がはじまったのはクロネコヤマト、コーヒーが気軽に飲めるようになったのはスターバックスやタリーズ、ハンバーガーはマクドナルド、インターネットでものが買えるのはAmazonがそれぞれがんばったから。世の中が変わるときは、企業が関係している部分がとても多い。
――うつ病の薬とハンバーガーがいっしょなんだ……。
冨高 うつで悩んで困っている人にたいして、製薬会社がソリューションを提供する。お薬を飲んで治しましょうと提案すること自体は変な話ではないですよ。基本的にまっとうなビジネスです。
――『ツレがうつになりまして。』でもふつうに薬を飲んでいましたね。
冨高 ひとつ問題があるのは、ハンバーガーやコーヒー、携帯電話は、消費者もある程度商品の良さを判断できますよね。食べてみて美味しくない、操作性が悪いとか。ただ、薬だと売り手と買い手の間に圧倒的な情報格差があるわけです。医者や製薬会社がこの薬を飲んだ方がよいですよと言ったら、患者さんは信じるしかない。

http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20120614/312489/hyo02.jpg

冨高氏提供資料の「うつ病への薬物療法」について。最初からは抗うつ薬を使うべきではないという意見もあるそうです。
――なにも分からないですね。処方された薬の名前なんて知らずに飲んでいます。
冨高 医療の場合は、生産者と消費者の間にどうしても大きな情報格差が存在する。経済学でいう「情報の非対称性」です。いまのうつ病の啓発活動は「お薬を飲めばうつは治ります」とかなり単純化している。しかし実際はもう少し複雑です。例えば軽症うつ病に抗うつ薬を使うかどうかについては、実は学会でも議論があって、軽症うつ病の場合は有効性があまりないし、ある程度の確率で軽い副作用もでるので最初からは抗うつ薬を使うべきではないという意見もあります。実際英国やカナダでは軽症うつ病には最初から抗うつ薬を勧めないというのが国のガイドラインです(しばらく様子をみて改善しなければ軽症うつ病でも抗うつ薬を使ってよい)。一方で重症には最初から抗うつ薬を使った方がよい。丁寧に説明するとこんな感じになります。残念ながら製薬会社の作っているうつ病の啓発活動のパンフレットやホームページでそこまで誠実に説明しているものは見たことがないですね。
――ずるいなー。でも、「あ、調子悪かったけど、もしかしてうつかもしれないな」と病気に気付くのは悪いことではないですよね。両刃の剣なのかな。
以下、25日公開予定の後編に続く。後編ではうつの診断基準が曖昧さについて、うつの休職者が仕事に復帰する場合の注意点、環境を変えるべきなのかそうではないのか、本当に治るためにはどんな点に注意していけばいいのかなどについて詳しくお伺いしていきます。
■変更履歴
3ページ図のキャプションで「増えた増えたと言われている自殺率だけど、人口構造を同じにして比較すると、高度成長期と変わっていない。(資料提供:冨高氏)」としていましたが、「上記は人口構造を標準化していないグラフであるが、現在の自殺率はなべ底不況と同じぐらいであり近似直線の傾きはX軸と平行である。標準化したグラフでは、現在の自殺率は大幅に低下し、1975年と同じレベルになる。近似直線は右肩下がりとなる」(冨高氏)と変更しました。 [2012/06/20 12:40]
(構成・文/加藤レイズナ 企画/アライユキコ)
加藤レイズナ(かとう・れいずな)
1987年生、フリーライター。「エキサイトレビュー」レギュラーライター。webマガジン幻冬舎「お前の目玉は節穴かseason2」連載中。日経ビズカレでは「ゆとり世代、業界の大先輩に教えを請う」(全25回)の好評をうけて二度目の連載となる。他媒体でも、プロフェッショナルに聞くインタビュー新連載をこの夏開始の予定。著書に『プリキュア シンドローム!』(幻冬舎)がある。(著者撮影:市村岬)

ブログ レイズナブログ
twitter http://twitter.com/kato_reizuna
 

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コメント
 
01. 2012年7月05日 09:58:08 : Ga153Iasrg
「プロに聞く」シリーズは、とても魅力的ですな。
経験豊富な、その道の年配者に、又は他部門の経験者に、普通の目線で、
インタビューする。日本では年配者の割合が急増しているのだから、その経験を、
若年者向けに良質な解説シリーズを、WEBでも本にでも、どんどん発表して
いただきたい。
 勝とかいう定年延長者の病理についても、精神医学の専門家の見立てが欲しいなあ。あ、マスゴミ連中の病理も入れてね。

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