http://www.asyura2.com/09/iryo03/msg/538.html
Tweet |
ワクチン新時代[日経新聞]
(上)予防医療が追い風 有望日本に外資攻勢
日本のワクチン市場が転機を迎えている。国の医療費を抑える「予防医療」の観点で再評価が進み、子宮頸(けい)がん予防など新規分野への接種が公費負担の後押しで市場をけん引し始めた。副作用への懸念で欧米に比べワクチン普及が遅れていた日本市場の開拓に向け、外資や大手製薬会社が動き始めた。
米、霞が関詣で
ファイザーなど米製薬会社でつくる業界団体が最近、永田町や霞が関に足しげく通っている。「日本の小児向け予防接種の現状はインドネシアなど新興国と変わらない」「おたふくかぜは欧米で根絶したが、日本は今でも患者がいる」。こうしたロビー活動が実を結びつつある。
5月23日。厚生労働省の会議室で100人近い傍聴者を集めた審議会で、定期接種するワクチンの品目拡大が議論された。委員から「子供を守るのは国の責務だ」と意見が続出。子宮頸がんと小児髄膜炎、小児肺炎球菌感染症を予防するワクチン3種類を、多くの自治体が公費負担する定期接種の対象に加える方針が決まった。
1940年代に始まった日本のワクチン定期接種は、90年代にインフルエンザワクチンの副作用が社会問題となったことで曲がり角を迎えた。
武田薬品工業は94年にインフルワクチンの自社生産を終了。2002年には三共(現第一三共)がワクチン事業から一時撤退した。日本でワクチンを生産するのはほぼ小規模財団法人のみで、病院向け医薬品市場に占めるワクチンの規模は2%程度。この伸びしろに外資が注目した。
営業担当を倍増
子宮頸がんウイルス(HPV)による発症を予防するワクチンを手掛ける英グラクソスミスクライン(GSK)は第一三共と合弁会社「ジャパンワクチン」を設立。7月から本格的に事業を始める。「HPVからインフルエンザまで必要なワクチンをすべて供給できる」(ジャパンワクチン会長になるGSK日本法人の石切山俊博常務)。
第一三共とGSK日本法人のワクチンの医薬情報担当者(MR)は50人弱。7月の営業開始時には約120人と、2倍強まで増やす。帯状疱疹(ほうしん)など日本にないワクチンの開発も積極的に進める。
仏大手サノフィ日本法人は「16年までに不活化ポリオや腸チフスなど4種類のワクチンを発売する」(ジェズ・モールディング社長)計画で、ワクチンの売上高を毎年10%ずつ拡大させる。スイス系のノバルティスファーマは髄膜炎などを予防するワクチンを日本に導入する検討に入った。
アステラス製薬のまとめでは、10年度にHPVと小児髄膜炎、小児肺炎球菌というワクチンの「新規3品目」の売上高が、インフルエンザを初めて上回った。今後はこれら新規分野のワクチンに強い外資が存在感を増してくる。
国の財政難がその背中を押す。病気を発症する前にワクチンで予防した方が医療費抑制につながるため、慎重だった国や医療機関が方針を転換。受診者の予防医療へのニーズも高まっている。国内外製薬会社による競争がさらに過熱しそうだ。
[日経新聞6月1日朝刊P.13]
(下)安定供給に期待 日本勢、独自技術で反攻
武田薬品工業の主力生産拠点である光工場(山口県光市)では現在、銀色に光る6千リットルタンクの稼働準備が進む。近い将来の流行が懸念される新型インフルエンザを予防するワクチンの培養タンクだ。6月中に1台目が完了し、来年10月には計5台の稼働体制が整う。
細胞培養で生産
従来、財団法人などが国内に持つインフルエンザワクチン工場では、ふ化しつつある鶏卵の中でウイルスを繁殖させ、ワクチンを生産する。条件を満たす鶏卵の確保は容易ではなく、短期間で大量のワクチンを作ることは難しかった。
光工場の培養タンクは動物細胞を人工培養する技術を取り入れており、安定的な大量生産が可能。2013年度に新型インフルワクチンを供給する体制を目指す。細胞培養による生産技術は、日本企業が国内ワクチン市場で反転攻勢をかけるための切り札だ。
「既存のワクチンよりも、未知の感染症などのリスクを抑えられます」。アステラス製薬の医薬情報担当者(MR)は日本脳炎ワクチンを医師などに勧める際、こう説明することが多い。
このワクチンは化学及血清療法研究所(化血研、熊本市)が細胞培養で生産し、提携関係にあるアステラスが昨年から売り始めた。既存の日本脳炎ワクチンはマウスの脳内でウイルスを増やして作っていた。安全性は確認済みだが、人工培養する細胞の方が品質を安定しやすい。感染症リスクも低くできるという。
医療現場でワクチンを求める声も強まってきた。全国の小児科医や産科医など約700人は4月、特定非営利活動法人(NPO法人)「VPDを知って、子どもを守ろうの会」を設立した。
VPDは「ワクチンで防げる病気」の英語の頭文字。国に定期接種ワクチンを増やすように働きかけ「日本の誰でもワクチンを十分に打てる状況を目指す」(事務局)。副作用への懸念でワクチンが敬遠された1990年代とは正反対だ。
研究開発でも日本勢が存在感を示しつつある。大塚製薬などはベンチャー企業と協力し、免疫機能を生かしてがんを治療するワクチンの臨床試験(治験)を進めている。研究機関ではワクチンで認知症や花粉症を予防する研究も進む。これらを実用化できれば、日本でのワクチン普及は新たな段階に入る。
新興国に照準
海外展開も視野に入ってきた。武田は4月、スイス製薬大手ノバルティスでグローバルワクチン開発を指揮していたラルフ・クレメンス氏をスカウトした。複数の製薬大手で20種類以上の製品の発売に関与した人物で、米国のシカゴから日本に世界展開の指示を出す。
長谷川閑史社長は「アジアをはじめとする新興国にワクチンを投入し、感染症などの予防に貢献する」との戦略を描いている。
アステラスによれば世界のワクチン市場(10年)は280億ドル。医療用医薬品(6930億ドル)と比べれば非常に小さいが、15年までの年間平均成長率は10.9%。医療費抑制に努める各国が予防医療の観点で積極的に資金を投じている。
多くの日本の製薬会社はグローバル成長を経営戦略に掲げている。その実現に欠かせない有力な柱として、今後のワクチンへの取り組みが重要になってくる。
村松進、井上孝之が担当しました。
[日経新聞6月2日朝刊P.11]
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。