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http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/34883
4月1日より、2年に1度の診療報酬改定が施行されました。今回の改定の中で私が一番驚いたのは、利用率の低迷から効果がほとんど上がっていない「地域医療貢献加算」が「時間外対応加算」と名前を変えて残ったことです。
「時間外対応加算」とは、診療所が常時24時間365日、患者からの電話による問い合わせに対応する体制を取ると「1人当たり5点(50円)」の加算が算定できるという制度です。
財源がないのは十分に分かりますが、たったの「50円」で、24時間365日の電話対応だけでなく、緊急時に原則として自ら対応することまでを求めるのはあまりにもコストを度外視しているのではないでしょうか?
良心的な医療従事者をボランティア労働で疲弊(そして「逃散」)させるだけで、医療崩壊を加速させるだけの制度になってしまう可能性もあるのです。
ほとんど効果がなかった地域医療貢献加算
2年前の診療報酬改定で、「地域医療貢献加算」として30円が設定されました。この加算を届け出た診療所は、過去に受診した人も含めた全ての患者に24時間365日体制で対応することが求められていました。
具体的には、医師が自分の緊急時の連絡先を院内に掲示するなど、患者に連絡先を周知します。その上で、「緊急の対応が必要と判断された場合には、医学的に必要と思われる対応を行う」ということです。
医療を受ける立場から見ると、30円(3割負担として10円)支払えば、かかりつけの診療所に24時間365日電話で対応してもらえ、さらには緊急時の対応までしてくれる主治医を手に入れられるという、素晴らしい制度でした。
しかしながら、診療所にとって1人当たり30円の収入では、1カ月当たり1万8000円(平均的な診療人数である月600人×30円)にしかなりません。これは、診療所の医師がほぼボランティアで電話対応をすることを前提とした制度だったのです。
医師は可能な限り時間外にも対応するにせよ、すぐには携帯に出ることができない場面も多々想定されます。そのため実際の利用率は低迷し、届け出をした診療所が約30%、実際に算定していた診療所は10%台であったと推定されます。
当初は、休日夜間に病院を受診する軽症患者を減少させることが目標でしたが、8割を超える病院でそれは認められませんでした。ビジネスの企画としては「完全に失敗だった」と言い切ってもよいでしょう。
30円から50円へとアップしても24時間365日対応は持続不可能
この「地域医療貢献加算」は分かりにくい名称でした。そのため、実際に診療報酬明細で算定されていても、それが「24時間365日主治医として対応してもらえる」ことの対価であったと理解していた人はほとんどいなかったと思われます。
今回は名称が「時間外対応加算」に変わり、以下の3パターンの設定となりました。
【時間外対応加算1】=50円・・・常時(24時間365日)、患者からの電話等による問い合わせに応じる。原則として自院で対応する。
【時間外対応加算2】=30円・・・準夜帯(一般的には16時から24時の時間帯)において、患者からの電話等による問い合わせに応じる。原則として自院で対応する。
【時間外対応加算3】=10円・・・地域の医療機関と輪番による連携を行い、当番日の準夜帯において、患者からの電話等による問い合わせに応じる。当番日は原則として自院で対応する。
24時間365日対応の対価は、30円から50円へと大幅にアップした形になります。でも、医療従事者側からすると、1カ月当たり3万円程度(おおむね50円×600人)の売り上げにしかなりません。夜間休日の電話番の事務員を雇うことすらできない金額であることに変わりありません。
基本的に、ほぼ無償の労働により維持されることを前提とした制度であることは変わらないでしょう。この制度単独での持続可能性はほぼゼロに近いということがお分かりいただけると思います。
理念をつぶさない範囲で柔軟に通達を変更すべき
「できる限りの対応をする」という意味で、時間外対応加算の理念そのものは決して間違っているわけではありません。しかしながら現実問題として、個人のボランティアを前提とした持続不可能な「365日すべて自院で対応せよ」という制度は、過去2年間にはほとんど普及しませんでした。
地域医療貢献加算の惨憺たる失敗から学ぶべき教訓は、持続可能な体制で、「地域で連携して24時間365日対応する」方針に変換すべきである、ということではないでしょうか。
今回の改正で、輪番制での対応にも10円という値段がついたのは前進ですが、これには「連携する医療機関は3件以下とする」条項がついています。
3件(3人)で当番を回すとするならば、3日に1回、夜中までの対応をしなければならないことになり、現実的には継続不可能な勤務体系です。
17時から24時までの患者さんを加療する体制を本当に地域に求めているのであれば、もっと多くの診療所が連携しても何の問題もないはずです。また、病院当直を診療所医師が手伝うという連携でも目標は達せられます。
点数と制度は決まればおしまいではありません。制度を生きたものにするために、「『連携する医療機関は3以下』の条項は外す」「病院との連携も評価する」など、付随の通達内容を柔軟に変更し、真の夜間休日の地域医療を維持する医療連携体制づくりに近づけていくべきだと思います。
2012.04.02(月)
多田 智裕:プロフィール
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