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NPOなど複数の公益機関の適正なチェックを経たうえで、新薬や漢方薬それに機能性食品に関してもm副作用と効能情報を、医療者と使用者から、どんどんオープンDB上に蓄積していくことが、今後、より広まっていくことが期待される
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「抗メタボ薬」は本当に効くのか?漢方薬に入り始めた「科学のメス」
2012年1月23日 月曜日
佐藤 央明
「メタボ」という言葉が市民権を得てから約5年。メタボリック症候群対策のOTC(一般用医薬品)市場が踊り場を迎えている。
オジサンのたるんだ下腹は“悪”とばかりに、2008年から特定健診・特定保健指導がスタート。健康診断に「腹囲」が加わり、男性は85cm、女性は90cm以上を境に明暗が分かれることとなった。
ここを商機としていち早く動いた製薬メーカーが小林製薬だ。2006年に肥満症改善薬「ナイシトール85」を発売し、世の男性の支持を得て大ヒットとなったのは記憶に新しい。その後、ロート製薬が新ブランド「和漢箋」で追随するなど、特定保健用食品(トクホ)ブームと相まってメタボ対策商品は大いに活況を呈した。
だが、その勢いは失速傾向にある。富士経済によると、2010年のメタボ対策OTC市場は前年比98%の192億円。2011年見込みもほぼ横ばいを予想しており、かつての盛り上がりは影を潜めつつある。
記者は数年前の抗肥満薬ブームには当初から疑問を持っていた。というのもこれらは画期的な新薬でも何でもなかったからだ。
例えば、ナイシトール85の中身は漢方薬「防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)」。防風通聖散とは、18種類の生薬から構成されている漢方薬で、以前から薬局では当たり前のように売られていた。代表例がクラシエ薬品の「新コッコアポA錠」。「便秘と皮下脂肪が気になる方に」というフレーズで、主に女性をターゲットにした大衆薬だ。
メタボリック症候群で健康上問題とされているのは皮下脂肪よりも、男性につきやすいと言われる「内臓脂肪」。しかしながら、ナイシトール85の効能・効果を見ても、皮下脂肪についての記述はあれど、内臓脂肪については一言も触れられていない。ひとえに男性を想起させるパッケージデザインやテレビCMで、戦略勝ちした商品といえるだろう。
「東洋医学の権威」が調査を開始
実は、新たに漢方薬を出す際、製薬会社には「内臓脂肪に効果がある」といった臨床試験結果の提出などは課せられていない。
漢方医学は、少なくとも2000年以上の歴史を持つ医学と言われる。この間に数多くの人々に対して様々な処方が試された集大成が、今の漢方薬ということは紛れもない事実だろう。だが一方で、西洋医学の薬はプラセボ(偽薬)を使った二重盲検試験(本物の薬と偽薬のどちらを飲んでいるのか、被験者も処方する側もわからない状況下で行う試験)で、厳密かつ客観的な効果測定を要求されている。「漢方薬は科学的な根拠が薄い」という印象は否定できない。この状況が漢方を使った肥満症改善薬のような、間隙を突いたヒット商品の登場を許すという結果につながっていると思う。
この漢方薬を科学的に解明しようとする動きが始まっている。その代表例が、北里大学東洋医学総合研究所(東京都港区)が2007年に開設した「EBMセンター」だ。
同研究所自体は1972年に設立され、日本で最も古く、かつ権威のある東洋医学専門の研究所。EBMとはEvidence-Based Medicineの頭文字で、日本語に訳すと「科学的根拠に基づいた医療」になる。
「欧米の医学はEBMが主流。一方で漢方は“名人芸”の世界で、昔は処方内容を門外不出にしていたように、EBMの考え方とは対極に位置している。グローバルスタンダードの中でも、きちんと漢方薬を評価できるような立場の組織が必要だった」。同研究所所長の花輪壽彦氏は設立の趣旨をこう語る。
EBMセンターが行うのは西洋医学と同様、二重盲検による漢方薬の臨床試験だ。医療用の漢方薬を対象にして、現時点ではインフルエンザに対する「麻黄湯(まおうとう)」や過活動膀胱に対する「半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)」などの試験や結果の集計を進めているという。
もう1つ、目下調査中なのが、メタボリック症候群に対する先の防風通聖散の効果だ。すでに87人の臨床試験を終えているが、「合計180例集めてから、1〜2年後には結果を発表したい」と小田口浩副所長は意気込む。ちなみに現時点でも被験者は募集中なので、興味のある方はメール(omrc-ebm@insti.kitasato-u.ac.jp)で問い合わせてみてはいかがだろうか。
「効果が出なくても躊躇なく公表する」
EBMセンターでの臨床結果は逐一公表される予定だ。業界に及ぼす影響は大きいが、もし効果がなかったという結果が出ても、「躊躇なく公表したい」と花輪所長は話す。また漢方には、患者の自他覚症状を漢方的なものさしで整理した「証(しょう)」という独自の考え方があるが、 この根拠や有効性についても併せて調査していく方針だという。
これまでほとんど科学的な解明がなされてこなかった漢方薬の効果の有無が検証される第一歩として、非常に有用な取り組みだと思う。しかしながら、「科学」という面で言えば、漢方薬が越えなければいけないハードルはほかにもある。
1つ目がメカニズム。基本的に1つの有効成分のみで構成されている西洋医学の薬に対して、漢方薬は様々な生薬を配合した複合処方が大半だ。結果として「どの生薬のどの成分が効くのか」というメカニズムがはっきりせず、体内で作用する仕組みも解明されていないケースがほとんどだ。
もう1つが“生薬”であるが故の歩留まりだ。例えば同じ「葛根」という植物でも、「どこで取れたか」「どの年に取れたか」など諸条件によって有効成分の含有量は大きく異なる。実際、京都市立病院糖尿病・代謝内科部長(当時)の吉田俊秀氏が、収穫された季節や土壌が異なる様々な「麻黄」という生薬を集め、含まれるエフェドリンの量を調べたところ、「最大で33倍もの差があった」(吉田氏)という。
一人ひとりに合ったオーダーメードの医療が起源となっている東洋医学の考えは、そもそも西洋医学になじまない、という意見もあるだろう。しかしながら、消費者が薬に対して期待するのはただ1つ。それは「効果」であるはずだ。それが曖昧なままで「2000年の歴史があるものだから」で済まされている現状は、どこか釈然としない。漢方薬に科学のメスを入れ始めた北里大学の試みに期待したいと思う。
このコラムについて
記者の眼
日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。
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著者プロフィール
佐藤 央明(さとう・ひろあき)
日経ビジネス記者。出版社勤務や大学院留学などを経て、2004年日経ホーム出版社(現日経BP社)入社。日経トレンディに約6年勤務。2011年1月より日経ビジネス編集部在籍、流通グループ所属。
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