http://www.asyura2.com/09/iryo03/msg/495.html
Tweet |
*
http://blog.livedoor.jp/nishiokamasanori/archives/5017157.html
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1807638650&owner_id=6445842
(書評)
患者よ、がんと闘うな [単行本]
近藤 誠 (著)
http://www.amazon.co.jp/%E6%82%A3%E8%80%85%E3%82%88%E3%80%81%E3%81%8C%E3%82%93%E3%81%A8%E9%97%98%E3%81%86%E3%81%AA-%E8%BF%91%E8%97%A4-%E8%AA%A0/dp/4163514600/ref=cm_cr-mr-title
5つ星のうち 3.0 或る外科医の反論−−アメリカの外科医のレベルで治療成績を論じて良いのか?, 2011/12/25
By 西岡昌紀 -(2011年12月25日)
この本が出版されて5年くらいが経った頃、或る日本人外科医が、乳癌の治療について、こんな事を言ったのを覚えて居る。
「乳癌の治療成績を外科手術と放射線治療で比較すると言ったって、アメリカの外科医の手術と日本人の外科医の手術では治療成績が全然違ふ。例えば、リンパ節郭清なんて、絶対日本の外科医の方が上手い。それを一緒にして、乳癌の治療に関して、手術と放射線治療のどちらがいいかなんて論じられたって困る。」
その時、私とこの外科医は、近藤氏のこの本の話をして居たのではなかった。だが、この外科医の頭の中に、近藤氏の批判が有ったのは確かだろう。反論する向きも有るだろうが、この外科医に言はせれば、乳癌の手術は、日本人外科医の方が圧倒的に上手い、と言ふ事である。アメリカと聞くと、「世界最高の医療」が行なはれて居る国だと言ったイメージを持って居る人も少なくないと思ふが、この日本人外科医に言はせれば、アメリカの外科医の乳癌手術は日本の外科医のそれに較べて、圧倒的にレベルが低いと言ふのである。
外科医でない私には、この外科医の断言が正しいかどうかは分からない。しかし、他にもこうした意見を述べた医者は居た。そして、こう言ふ事は、自分で多くの手術をやった外科医でなければ分からないし、手術の上手さは数値化が困難な事柄であるから、幾ら沢山論文を読んでも、簡単には分からない事なのだろうと、推察する。この外科医の断言が正しいかどうかは分からないが、少なくとも、こう言ふ本を書くならば、外科医たちのこうした反論を読者に紹介するのは著者がしなければならない事だったのではないだろうか?
近藤誠氏の議論には、当たって居た部分も有ったと思ふ。しかし、近藤氏の議論には、この外科医が述べた様な、論文からは読み取れない現場の現実感が欠落して居る。そして、何より、どうしてこんなに感情的に成るのだろう?と首を傾げる様な箇所が随所に見られる。
又、以前、近藤氏が週刊文春で、ランセットの論文を引き合いにして、日本の病理診断を批判して居るのを読んだ事が有ったが、たまたまランセットのその論文を読んで居た私は、近藤氏がその論文の趣旨を正しく紹介して居ない事に気が付いた。その論文は、日本の病理学者が「胃癌」と判定する基準が、欧米の場合と微妙に違ふ事を指摘して居る論文であった。近藤氏は、その論文を引き合いにして、日本の病理学者がランセットで批判された、と書いたのだが、その論文は、日本の病理学者の組織標本の見方が、欧米のそれと微妙に違ふ事は指摘しながら、批判はして居なかったのである。もちろん故意にではないのだろうが、近藤氏は、論文の趣旨を正しく伝えなかったのである。(私は、文春に電話を掛けてこの事を指摘した。)
その時、感じた事は、近藤氏は、正しい事も言ふのだが、時に事実を誤解しており、そして、感情的に議論を展開して居ると言ふ事である。繰り返して言ふが、近藤氏の批判には傾聴すべき部分も有る。だが、何が理由なのかは分からないが、近藤氏は余りにも感情的に成っており、外科医を批判するのはいいのだが、その外科医たちと対話をして居ないと言ふ印象を、内科医である私は受けずに居られない。だからこそ、外科医たちと対話を重ねて居れば、当然近藤氏も聴く機会が有ったであろう、冒頭の外科医の指摘の様な視点が、近藤氏のこの本には欠落して居るのである。
2011年の現在、この本を読むと、例えば、近藤氏が、内視鏡までをも敵視して居た事には驚かざるを得ない。内視鏡で、早期の胃癌を発見し、内視鏡手術で胃癌を取ってしまえば、開腹手術無しに患者は癌から救はれ、しかも、胃切除の後遺症無しに、普通の生活が出来るのである。そうした内視鏡治療をも批判して居た近藤氏の議論は、余りにもバランスを欠いた物であったと思ふのは、私だけだろうか?
かつて「老衰」と呼ばれて居た病態の中に、胃癌が少なからず含まれて居たのではないか?と言った著者の医学史的考察には、目から鱗が落ちる思ひをさせられたし、この本が書かれた時代の日本の食道癌治療が外科手術偏重であったとする指摘などは有意義な物であったと思ふが、そうした優れた視点や指摘が、余りにもバランスを欠いた、感情的な批判によって相殺されて居る事が、返す返すも残念でならない。
(西岡昌紀・神経内科医)
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。