09. 2011年10月12日 04:08:58: R5FaybyBo2
「精神医療の真実 聞かせてください、あなたの体験」より転載 http://ameblo.jp/momo-kako/長崎「心の病気ハンドブック」に物申す 長崎県ではこんな「ハンドブック」が出回っているらしい。
「思春期の生徒をもつ『先生』のための 心の病気ハンドブック」
出どころは、「思春期精神病理の疫学と精神疾患の早期介入方策に関する研究」班――つまり、都立松沢病院の岡崎氏が主任研究員を務める、いわゆる「岡崎班」である。
12ページの薄い冊子である。ネットに公開されているので、読んで頂ければわかるが、一読してびっくり。改めてふつふつと怒りの湧いてくる代物だ。
http://www.camellia.or.jp/activities/img/002.pdf 実に単刀直入に書いてある。
「代表的な心の病気のサインとは?」
ということで、以下のごとく。
病気のサイン@
「太るのが怖くて、ダイエットが止められない」
→それは、「摂食障害(拒食症、過食症)」という病気のサインかもしれません。
簡単な病気の説明。そして、注意書きとして・・ダイエットを軽く見ないでください。
病気のサインA
「人が怖い」
→それは、単なる「恥ずかしがり屋」や「あがり症」ではなく、「恐怖症性障害」という病気のサインかもしれません。
簡単な病気の説明。そして対処法・・・薬による治療と、慣れるための訓練法(認知行動療法)が有効です。
病気のサインB
「ひとつのことが気になって、頭から離れない」
→それは、単なる「几帳面」や「完璧主義」ではなく、「強迫性障害」という病気のサインかもしれません。
簡単な病気の説明。そして対処法・・・薬による治療と、気にしにくくするための訓練法(認知行動療法)が有効です。
病気のサインC
「気分が沈んで、元気が出ない」
→それは、単なる「サボリ」ではなく、「うつ病」という病気のサインかもしれません。
簡単な病気の説明。そして対処法・・・薬による治療と、十分な休養が有効です。
病気のサインD
「空耳が聞こえる」
→それは、「統合失調症」という病気のサインかもしれません。
簡単な病気の説明。そして対処法・・・薬による治療と、十分な休養が有効です。
なんという短絡的な図式だろう。
ちょっと人と違った状態を呈しただけで、即、それは……という病気かもしれません、と決めつけられる。これは実に恐るべき事態としか言いようがない。
これを読むのは「先生」である。精神疾患については素人で、知識も少ない先生たちを対象に、このような書き方で「啓蒙」するのは、非常に危険である。単純ゆえ、メッセージは明快。鵜呑みにした先生は、どれほどの生徒を「ピックアップ」することになるのだろう、想像しただけで暗い気持ちになる。
このハンドブック、12ページという中で、内容を簡略化した分、この研究の本音ともいえる部分が、くっきりと浮かびあがった感がある。
さらにハンドブックは続ける。先生へのメッセージとして、つまり、このような生徒がいたら、「こじれる前に、専門家に相談させましょう」と。
そして、ご丁寧にも、保護者へはどのようにして、「お宅のお子さんは心の病気かもしれない」ということを伝えればいいか、その方法まで伝授しているのである。
発症予想の精度は低い
ハンドブックでは、早期発見、早期介入の妥当性については、統合失調症について、ニュージーランドの研究結果(1000人を対象に、0歳から26歳まで、追跡調査したもの)をあげているが、それまた何とも単純明快な数字の羅列だ。、
@ 11歳時点で、「精神病症状体験」(たとえば空耳が聞こえたとか)を一度でも体験した子供は14.1%いた。
A 「強い精神病症状体験」をもつ1.6%の4人に1人は、26歳時点で統合失調症を発病。
B 「弱い精神病症状体験」をもつ12.5%の子供の発症率は、他の子供の約5倍。
C 26歳時点で統合失調症を発病した者のうちで、46%が11歳時点で精神病症状をすでに体験。
数字だけを強調し(実際は、もっと大きな文字)、あたかもその数字に何か大きな意味があるかのような錯覚を与えるやり方である。
しかし、危機感をあおるような数字のマジックに騙されてはいけない。
たとえば、Aの4人に1人、という数字。「強い精神病症状体験」をもつ子供の4人に1人(つまり25%)が15年後統合失調症を発症したという数字だが、ということは、残り75%は「強い精神病症状体験」をもっていても発症しなかったということだ。
また、Cの、26歳で統合失調症を発症した(診断された?)人のうち、46%が11歳時点で何らかの「精神病症状」を体験しているというが、裏を返せば54%は、11歳時点で、何の兆候も示すことなく、15年後統合失調症を発症しているということになる。
つまり、こうした数字を掲げることに、いったいどんな意味があるのかということだ。これをもって、早期介入に意味があるという論理だとしたら(そういう論理なのだろうが)、牽強付会、こじつけもいいところだろう。
なぜなら、この数字からもわかるとおり、予測精度はかなり低いのである。
明確に予想できないことをあえて予想して、それに対して何らかのアプローチ(ハンドブックが言うには、薬による治療、あるいは認知行動療法)を行おうとしているわけだ。
このハンドブックが主張していることをさらに噛み砕いて表現すれば、予測不能、にもかかわらず、11歳時点で1000人中、精神病症状体験者である14.1%の子供に薬物治療を行うということなのだ。(別の言い方をすれば、15年後に発症しなかった75%の子供にも抗精神病薬が投与されるということだ)。
早期介入とは、つまりそういうことなのである。
偽陽性の問題は無視
早期介入とは常に「偽陽性」(ある時点で症状を呈しても自然経過で症状が消失、病気を発症しないこと)の問題をはらんでいる。しかも、偽陽性と真陽性の鑑別診断は原理上不可能である。
にもかかわらず、この研究を推し進める人々は、こうした危険性や倫理的問題を決して口にすることなく、あたかもこの「早期介入」は素晴らしい未来を構築する一つの手段ででもあるかのように吹聴する。そのこと自体に対しても、何か胡散臭いものを感じざるを得ないのだ。
【ちなみに、今年の8月、東京世田谷区で行われた西田淳志氏(東京都精神医学総合研究所・岡崎班の一員)の講演会、「「子どものこころの理解と支援」実践編」に参加してみたが、その席上、氏は、「即、医療につなげるということはない」と何度も強調していた。しかし、本当ですか? と言わざるを得ない。なぜなら、このハンドブックには、「心の病気の回復には、保護者、学校、病院、そして本人の4者が連携する必要があると、図まで使って明記されているのだ。つまり、あれは表向きの言い分だったということか、口封じのため?】
このハンドブックは教師をつかっての児童、生徒のあぶりだし方法を説いたものと言ってもいい。
それだけでなく、さらに問題なのは、この研究においては、生徒たちに対する精神疾患教育もうたわれていて、こういう症状を持つお友達がいたら、お友達を救うためにも、先生や親に相談しましょう、と子供まで誘導している点である。
生徒たちは教師によってスクリーニングされ、友達同士でさえスクリーニングしあい、告げられ、チクられ、まるで思想統制下の「密告」のような状況を招きかねない。まさに魔女狩り、ナチズム、そんな不穏な言葉さえ連想させる状況を作り出そうとしているのだ。
現在はモデル事業の段階だが、早晩、こうした動きは全国的なものになっていくだろう(厚労省がそういう姿勢であるのだから)。
かつてのうつ病キャンペーンによって、現在うつ病の人が急激に増えているように、早期介入によって統合失調症、いやそれだけでなくさまざまな精神疾患を抱える(とされる)子供の数が激増することになるのだろうか。
このようなハンドブックが出回り、事態がここまで進んでいるとしたら、もはや現場で対応する先生、あるいはスクールカウンセラー、あるいは保護者、そういう人たちに向けて、別の「啓蒙」を行っていくしかないのかもしれない。
両の目をしっかり開けて現実をみてほしい。多勢と比べてのちょっとした差異をもってして、〜という病気かもしれないとレッテルをはり、医原病、薬原病がこれほど蔓延している精神科に、簡単につなげてしまう危険性、恐ろしさを。
こんなザルのような屁理屈であぶりだされ、病気を予想され、発病するかもしれないという危うい確率論だけで治療を施され、結果子供たちの未来がつぶされてしてしまうようなことは、何があっても阻止しなければならない。それが私たち大人としての責務でもあると思う。
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