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(回答先: 甲状腺ホルモン剤、製造停止=98%供給の工場が被害−福島・いわき市(時事ドットコム) 投稿者 赤かぶ 日時 2011 年 3 月 17 日 18:21:46)
日本核医学会は専門のお医者さんの学会です。
被災者の皆様、とくにお子さんをお持ちの被災者の皆様へ
http://www.jsnm.org/japanese/11-03-18
現状(2011/3/17現在)では3/16以前に避難区域(原発半径20km)以遠に避難をされておられる方々やそれ以遠に在住されておられる方々の安定ヨウ素剤による甲状腺の保護処置は不要です。
東北地方太平洋沖地震で被災された皆様に心よりお見舞いを申し上げます。お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りするとともに、ご遺族の方々に心からお悔やみ申し上げます。また、被災地域の一日も早い復興をお祈りいたします。
被ばくが懸念される地域にお住まいの皆様には、東北地方太平洋沖地震に伴う福島原子力発電所事故による放射性物質に由来する健康への影響をご心配のことと存じます。特にお子様をお持ちの親御さんは、子供達の被ばくを心配され、安定ヨウ素剤による甲状腺の保護処置が必要ではなかろうかとご不安に駆られることと思います。
経済産業省のプレスリリースには、16日、原子力災害対策現地本部から、「避難区域(半径20km)からの避難時における安定ヨウ素剤投与の指示」を県知事及び市町村(富岡町、双葉町、大熊町、浪江町、川内村、楢葉町、南相馬市、田村市、葛尾村、広野町、いわき市、飯館村)宛に発出したとあります。
しかし、これは、16日以前にすでに当該地域から避難されておられる方々や、当該地域圏外に在住されておられた方々を対象としているものではありません。これらの方々におかれましては、今の段階では安定ヨウ素剤による甲状腺保護処置は不要です。むしろ危険なことがありますので、避けてください。
ただし、今後の状況変化によってはこれらの方々にも必要となることもありますので、政府発表・関連自治体発表・東京電力発表・報道情報などを十分に注視され、政府や自治体の指示にしたがっていただけますようお願い申し上げます。
甲状腺はヨウ素を取り込んで甲状腺ホルモンを作る組織で、人間は食物からヨウ素を消化、吸収し、甲状腺はこれを取り込んで働いています。食物中に十分なヨウ素があれば、甲状腺はある程度ヨウ素で満たされた状態にあります。逆に食事中にあまりヨウ素がない生活をしていると、甲状腺はヨウ素欠乏状態になり、ヨウ素の吸収が上がります。通常のヨウ素は放射能を持っていませんが、なかには放射能を含むもの(放射性ヨウ素I-131)があり、これが食物を通じて大量に取り込まれると甲状腺に悪影響を与えることがあります。このため、多くの皆さんはご心配になっておられることと思います。
チェルノブイリでの事故後に東欧諸国で小児を中心とした甲状腺癌の増加が見られましたが、その主な原因はミルク等に含まれていた放射性ヨウ素による体内からの被ばく(内部被ばく)であったことが分かっています。たしかにチェルノブイリ事故では、大規模な被ばく発生後4日目に、ポーランドが国を挙げて安定ヨウ素剤を全ポーランドの小児の90%に一回だけ配布いたしました。そうしなかった隣国のウクライナやベラルーシでは小児の甲状腺癌が増加したのに対して、結果的にポーランドでは甲状腺癌増加は認められませんでした。しかし、1)内陸国のウクライナやベラルーシは食物や土壌中のヨードが少なく、もともと国民的にヨード欠乏状態であったのに対し、ポーランドは海沿いの国でさほどヨード欠乏状態ではなく、2)ポーランドは国内での牛乳を禁止して、すべて輸入粉ミルクに変えたという処置も行っています。これらの多くの処置がかみ合い、結果としてポーランドでは甲状腺癌の増加がなかったのです。
食物中、土壌中のヨウ素量の多い日本では、通常の食生活を行うことで十分にヨウ素を摂取できており、自然と甲状腺は安定ヨウ素で満たされています。ごく少量の放射性ヨウ素が簡単に健康に影響するほど吸収されることはありません。むやみに安定ヨウ素剤を服用する必要はありません。また、ヨウ素の入ったうがい剤や消毒剤を飲むことは危険です。乳児の場合には成長障害を引き起こす危険もあります。
牛乳やその他の食物に含まれる放射性ヨウ素の濃度が上がるには、多量の放射性ヨウ素が土壌に広まり、これを吸収した植物やそれを食べた牛などが身体の中で濃縮していき、これを人間が食べることで甲状腺への被ばくが起こりますので、現在の状況ではすぐに危険性があるものではありません。
安定ヨウ素剤の投与は、一度に多量の放射性ヨウ素の被ばくを受けた40才未満の方に対して、一度だけ安定ヨウ素剤を飲んで貰って、その後被ばく地から待避していただくことが前提です。現状で一度だけ安定ヨウ素剤を飲んでいただいても、むしろ甲状腺機能が不安定になり、リバウンドで一定期間後に放射性ヨウ素の吸収を高めてしまうことさえ起こりかねません。
国際放射線防護委員会ICRPから勧告されている安全な甲状腺への放射能の基準は甲状腺線量0.020Gy以下とされており、この線量以下では小児に甲状腺癌が増加することはないとされています(ICRP Pub94)(なお、チェルノブイリ事故後に測定されたウクライナ、ベラルーシでの甲状腺線量は桁違いに高く、平均0.15-3.10Gy程度と報告されています)。この安全な線量0.020Gyは、計算すると、体内に約3 μCi程度の放射性ヨウ素が入ることに相当します。これは通常使われる放射能を検出するサーベイメーターで甲状腺に約700万cpm(一分間に700万回のカウントを計測)となり、非常に高い数字です。
スクリーニング検査を受けられた方でいくらかの放射能汚染が生じていることが政府発表で報告されていますが、そのような方々にはその際に除染の上、適切な指示が与えられています。また、上記圏外に出ておられる地域住民の方々の放射能汚染のスクリーニングの結果は、多くの方が汚染なしの結果と報道されていますので、圏外の方々では甲状腺に悪影響を与えるほどの体内汚染が起こっているとは考えられません。万一スクリーニングに際し汚染が生じていることが判明すれば、適切な対応が取られています。
3/17日に福島市内の上水道中の放射性ヨウ素などの濃度が若干増加したと報道されていましたが、その後は通常の飲用に問題がないとされる規制よりも下の値です。
なお、放射性ヨウ素による甲状腺癌発がんの危険性は40才未満、とくに放射線に敏感な小児に高く、それ以上の方では危険性はほとんどありません。
大変な状況が続きますが、ともかく落ち着いて、政府発表・関連自治体発表などに従ってください。よろしくお願いします。
日本核医学会
放射線医学総合研究所
(2011/3/17)
(2011/3/18 改訂)
(2011/3/18 改訂第2稿)
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