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MRICメルマガから転載
http://medg.jp/mt/
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▽ 現場からの医療改革推進協議会シンポジウムを終えて ▽
患者と医療関係者の協同作業を目指して
東京大学医科学研究所
先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門
上昌広
※今回の記事は村上龍氏が主宰する Japan Mail MediaJMMで配信した文面を加筆
修正しました。
2009年11月29日 MRIC by 医療ガバナンス学会 http://medg.jp
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11月7、8日の2日間にわたって、東京大学医科学研究所で現場からの医療改革推進協議会第4回シンポジウムが開催されました(http://expres.umin.jp/genba/index.html#p8)。
この会は、2006年の福島県立大野病院事件をきっかけに、医療崩壊に問題意識をもった有志が始めたものです。発起人には、医師・看護師・患者家族・メディア関係者・政治家が名を連ねています。
舛添要一氏(前厚労大臣)、足立信也氏(厚労大臣政務官)、仙谷由人氏(行政刷新担当大臣)、鈴木寛氏(文科副大臣)なども参加しており、2007年以降の活躍はご存じの通りです。ちなみに、私は、この会の事務局長を務めています。
【医療をよくしたいという有志のシンク・ネット】
この会は、医療をよくしたいという有志のシンク・ネットを目指しています。シンク・ネットとは、鈴木寛氏が提言した概念で、志のある人物が自律・分散・協調的に連携する仕組みです。インターネットや携帯電話の発達で通信コストが低下した現在、大げさな組織を立ち上げなくても、関係者が、じっくりと対話を繰り返すことが可能になりました。やる気がある人が熟議を繰り返すことで、信頼感が醸成され、新しい価値観が出来上がります。
鈴木寛氏は元通産官僚。彼は、官僚時代から霞ヶ関の弱点を、シンクタンクであることと感じていたようです。既存の組織があるため、組織内の人事・規則・慣習に、どうしても拘泥されます。内部のリソースを使うことが優先されるため、世間に存在する有為な人材による「ベスト&ブライテスト」のチームを組むことが出来ません。これは、創造的な仕事を行う場合、致命的なハンディになり得ます。
例えば、異動を繰り返す役人が仕切り、御用化した有識者が予定調和を演技する審議会など、その典型です。彼らは、問題のディーテールを知らないから、議論は上滑りにならざるを得ません。一方、ディーテールにこそ、本質が隠れています。
【抗がん剤適応外問題に取り組む卵巣がん患者 片木美穂さんの主張】
今年のシンポジウムの特徴は、多くの患者が参加し、自らが抱える問題を語り、専門家と解決策を議論したことです。
例えば、卵巣がん体験者の会スマイリー代表の片木美穂さんは、ゲムシタビンという抗がん剤が卵巣がんに使用できない適応外使用問題を訴えました。片木さんは卵巣がん患者です。その医学知識は専門家顔負け。これまでも、様々な場で、この問題を訴えてきました。
彼女の主張は、徹底的に患者視点であり、一部の業界関係者にとっては煙たい存在のようです。例えば、日本製薬工業協会(製薬協)のセミナーに講師として参加した際には、「製薬協の集まりに患者会を代表してしゃべってくれというので行ってきたが、前日に国が予算をカットしたとか会場の話題はお金の話ばかりで、患者のためという言葉が一言もなく悲しかった」と発言しました。多くの人が感じていることですが、この問題を公で発言する勇気ある人はいません。後日、製薬協関係者から片木さんに、「ご説明」のための面会申し込みがあったと言います。片木さんは、断ったそうです。製薬協も陰でこそこそせず、オープンに議論すれば良いでしょう。実名を出して問題を訴えるがん患者と、製薬会社のあり方は対照的です。
余談ですが、片木さんは、当日の様子を自らのブログで紹介しています ( http://smiley.e-ryouiku.net/?month=200911 )。「このシンポジウムには、バイアスはありません。登壇者は、当日直前までスライドを提出しなくていい。質問を事前に集めない(意識ある人がその場で鋭い質問をしてくる)。聴衆も気を抜けない(上先生が名指しで突然意見を求めてくる)」。現場からの医療改革推進協議会シンポジウムを気に入っていただけたようで有り難いのですが、片木さんが、既存のシンポジウムを、どのように感じているか分かって興味深いです。
【片木さんへの助言】
現場からの医療改革推進協議会シンポでは、片木さんの講演に対し、多くの意見がでました。いずれも、「現場」の人です。
例えば、帝京大学腫瘍内科講師の堀明子医師。医薬品医療機器総合機構(PMDA)に勤務した抗がん剤審査のプロです。彼女は、抗がん剤の適応外使用は、畢竟、医療保険の支払いの問題に行き着くと主張しました。これは、「適応拡大のために、全ての薬剤に治験を求めることはナンセンスだ。企業主導であれ、医師主導であれ、治験は時間がかかり、「すぐに薬が欲しい」という患者のニーズに対応できない。医療保険の支払いを、患者の実情にあわせ柔軟に運用すべきだ」ということです。筆者も全く同感で、多くの先進国では、かなり柔軟に運用されています。
では、どうして日本では、適応外問題が上手く解決できないのでしょうか。この点については、東京大学薬学部の小野俊介准教授(薬剤師)が発言しました。PMDAに出向した経験もある、元厚労省薬系技官。彼は、「厚労省の医薬品審査は「神主による神事」のようなものだ。科学とは程遠い」といって、厚労省と製薬企業の関係を揶揄しました。また、「医療保険を担当する医系技官が、医薬品審査を担当する薬系技官よりも、厚労省内で力があるため、適応外処方問題は薬系技官に押しつけられ、「薬事法」の対象になっている」とも解説しました。要は、厚労省内部での「問題のたらい回し」です。
このような関係は、外からではわかりません。役人には常識でも、片木さんには新鮮だったようです。審査の「現場」のスタッフが本音をしゃべることで、問題の本質が見えてきます。そして、難問に向かい合っている片木さんにとって、大きな力になります。
【難病の特効薬の個人輸入に悩む中島幸恵さん】
ついで、クリオピリン関連周期性発熱症候群という小児難病に取り組む、CAPS患者・家族の会の方々は、アナキンラという新薬が使えない未承認薬問題を訴えました。
この薬は背景が複雑です。アナキンラは、2001年に米国で認可された関節リウマチの治療薬。発売当初は大きな期待が寄せられましたが、やがて関節リウマチの治療薬としての評価は下がり、米国では、あまり用いられなくなりました。今では、一部の難病に細々と使われるだけです。アナキンラを販売するアムジェンは、利益が期待できない以上、我が国へ導入する予定はありません。
CAPS患者・家族の会は、小児科学会と協力して、医師主導治験による承認を陳情しましたが、上手く行きませんでした。新聞報道によれば、アナキンラの医師主導治験を申請した研究者の評価点が低かったため、厚労官僚は、点数を水増しするように審査員に電子メールで依頼したといいます。不適切な関係が毎日新聞にスクープされ、厚労省は一旦採択した研究課題を不採択としました。患者を助けたいという厚労官僚の熱意には敬意を払いますが、このやり方はアンフェアです。もし、この課題が採択されれば、他の患者が割を食います。
厚労官僚は研究費の水増しを、証拠が残る電子メールで依頼し、問題が発覚したら、すぐに認めているのですから、罪の意識はないのでしょう。遵法意識という点で、一般国民とは大きな乖離を感じます。余談ですが、週刊誌によれば、厚労省による恣意的な研究費分配を問題視した検察は、職権濫用として立件に動いたそうです。
【薬事法に固執する限り、問題は解決しない】
この問題についても、小野氏の発言は圧巻でした。「当面、ドラッグ・ラグはなくならない。現行の薬事法に固執する限り、未承認薬問題は解決しない。この問題の本質は、いかに安全に個人輸入薬を使うかだ」と言ったのです。これは、中島さんをはじめ、参加者には衝撃でした。
これまで、私たちは「ドラッグ・ラグは悪で、未承認薬は無くさなければならない」という前提で議論してきました。しかしながら、我が国は新薬の薬価が安いため、外資系製薬企業は日本で新薬を開発しようとはしません。民主党の議論を見ていても、我が国の製薬業界冬の時代は続きそうです。厚労省が、外資系製薬企業に「日本で治験をしてください」と頼んでも、経済的インセンティブがない限り、当面は今の状態が続くでしょう。
苦肉の策の医師主導治験も、絵に描いた餅です。あまりにも多くの問題が指摘されています。例えば、アナキンラの場合、たとえ研究費がついたとしても、多くの国民がその恩恵に預かることはできませんでした。アナキンラは定期的に点滴しなければなりません。一方、治験を行うのは、もっぱら大病院で、都会に住む患者しか参加できません。全ての患者に平等に治療機会を提供できません。
私たちは、ドラッグ・ラグとの付きあい方を見直す時期にきているようです。そろそろ、現状を直視して、「ドラッグ・ラグはなくならないから、上手く付き合おう」と発想転換することが必要そうです。そうなれば、如何に安全に未承認薬の個人輸入体制を構築するかが、争点となります。所謂、「コンパッショネート・ユース制度」の確立が必要になります。
そうすれば、未承認薬の情報を、医療関係者や国民に十分に公開し、全国の医療機関で投与可能にすると同時に、副作用情報の収集に尽力することが必要になります。医療界とメディア、さらに行政の協同作業です。
さらに、医師主導治験の研究費は全面的に見直すべきです。むしろ、未承認薬の個人輸入費用に振り替え、患者負担の軽減をはかるべきでしょう。厚労省の研究は、所謂、補助金。役所と御用学者の利権と化しています。
しかしながら、このような改革は、現行の薬事法では対応困難。議会での法改正が必要です。小野氏は、「薬事法は法律に過ぎない。時代に合わなければ変えればいい」と主張しました。至極妥当な考え方です。今回のシンポを傍聴した議員、そしてメディアにはどう映ったのでしょうか?
【全国の学生が手伝ったシンポジウム運営】
余談ですが、この会の運営には、大勢の大学生が関与しています。前夜には、北海道から九州から医科研に集合しました。専攻は、医学部からメディア専攻まで多岐にわたります。学生の関心をみるに、医療は既に医学部が独占する分野ではなくなっているようです。
さらに、北大6年の津田健司君は医学教育のセッションで、シンポジストも務めました。同じセッションに参加したのは、中医協で話題の嘉山孝正氏、土屋了介氏らです。津田君にとって、相当な刺激になったでしょう。
自分たちで会を運営し、真摯な議論に参加することで、学生たちは急速に成長します。現場からの医療改革推進協議会シンポは、このような若者の貴重な真剣勝負の場であって欲しいと思っています。
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これからは政治主導
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MRIC by 医療ガバナンス学会
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