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【神州の泉―高橋博彦】
2009年10月18日 (日)
スズメバチの大家さんになってみて・・
9月初旬ごろだったと思う。自宅玄関近くの軒下付近にハチが飛んでいたことに気づいたが、巣のようなものは見当たらなかったので、そのまま忘れていた。ハチの種類もアシナガバチかなくらいにしか思っていなかった。この辺は田舎なので、様々な昆虫もいるし、ハチもよく飛んでくるし珍しいものではない。昨年の秋はオオスズメバチが部屋の中に入ってきてびっくりしたことがある。
この巨大なハチは田舎暮らしが長い私も至近距離で見ると、その迫力に圧倒される。部屋の中をブーンと低周波の羽音を響かせてホバーリングしていたそいつは、明るい窓の方へ飛んで止まった。窓を開けて逃がしてやる度胸はなかったから、かわいそうだったが殺虫スプレーをかけた。昇天したハチを見て、こんな奴に刺されたら本当にたまらないと思った。今年はオオスズメバチはまだ見ていないが、9月初旬に気が付いたハチが一匹、二匹と部屋の中に入ってきて、はじめてそれがキイロスズメバチだということがわかった。
数匹のハチが直線的に玄関の上を行ったり来たりしていたうちは、気にも留めなかったが、部屋に入ってくると、さすがに近くに巣があると考えざるを得なかった。10月になってから、そのハチの数が格段に増え、屋根と軒下の中間部に出たり入ったりしているのを確認した時、はじめて家に、それも屋根裏に巣があることがわかった。出入り口の場所は玄関庇(ひさし)で隠れた場所になっているので肉眼では確かめようがない。
脚立(きゃたつ)に昇れば位置や出入り口の形状がわかるだろうが、ハチの離発着の起点であり、そんな危ないことはできない。問題は人が出入りしている玄関から3mくらいしか離れていない場所に、「彼ら専用の玄関」があることである。この頃になると玄関を出入りする度に、ハチが上空を旋回して下の人間を警戒している様子がわかった。出かける度に、あるいは帰宅する度にハチを刺激しないように、恐る恐る動いていたが事故が起きてからでは遅いので、駆除業者さんに見に来てもらった。
スズメバチの駆除を長年やってきた業者さんは、一目見るなり、このまま放置するのがベストですよと言った。彼が言うには、屋根裏の巣を駆除することはできるが、かなりの大作業になり、全部の駆除は困難だと言った。今まで事故が起きていないようですから、こちらから刺激しなければ、滅多に刺されることはありません。寒くなれば自然に消滅しますと言った。駆除作業を期待していたのに、現状のまま放置とは何という業者だろうと、その時は思った。何しろ危険生物の筆頭に上げられるスズメバチである。気が気ではない。大丈夫なのか、この業者さんはと思うのも無理はなかった。
ただ、考えてみると、少なくとも気づいてから一ヶ月以上は、ハチのすぐそばを行き来していて無事だったわけである。彼らが巣造りを始めてから数ヶ月は、彼らのすぐそばにいながら、攻撃されていなかったことも事実である。巣が巨大化すると攻撃性も強くなるとネットに書いていたが、思い起こしてみれば、確かに10月初旬の頃は警戒行動も頻繁にあったような気がする。ところが、気温が寒くなるに連れて彼らの飛翔行動はあまり目立たなくなっていた。
今日現在もハチは飛んでいるが、上空を飛翔する数は目だって減っている。私が心配していたのは、外部から訪問してくる近所の人たち、郵便配達さん、宅配便の人たちだった。彼らが不用意に近づけば攻撃しないかと、それを心配していた。だから、彼らのために、スズメバチが営巣しているので、注意してくださいと書いた看板を門柱の近くに立てておいた。
スズメバチの攻撃性を調べてみると、巣に対する防衛本能で攻撃する場合がほとんどのようだ。それ以外では、たとえば彼らの採餌(さいじ)行動中に出くわしても、こちらが攻撃的なことをしなければ滅多に攻撃はしないそうである。一番危ないのは営巣場所の近くに不用意に立ち入ってしまうことである。しかし、私は不思議な思いがしている。なぜなら、私や家族は彼らの営巣地のど真ん中にいるからである。
だとすれば、我々高橋家の人間はとっくに誰かが襲われていなければおかしい。しかし、まだ誰も被害を受けていない。巣がどこにあるかわからないが、家の屋根裏にあることは間違いない。彼らの出入り口から玄関まで3メートル以内である。スズメバチの生態を説明するサイトを読むと、人などが巣から5〜10mほどの距離に近づいてくると、動きや振動などをキャッチし、2、3匹が近づいてきて、アゴをカチカチといわせながらまとわりつくように飛び始めると書いてある。警戒行動である。
この時、下手に刺激すれば、彼らはいきなり攻撃モードに切り替えて刺し、毒液を放出するみたいだ。この毒液の中に、毒の成分とともに、「警報フェロモン」が発散され、それが揮発して空中をただよい巣に届く、すると、大量の働き蜂が、巣からスクランブル発進をかけて、襲ってくるそうだ。我が家の場合は一触即発状態でずっと過ごしていたことになり、それは今も続いている。
だから、けっして安全ではないのだが、3日前に不思議なことが起こった。宅配便の人から電話があって、お宅の玄関先まで荷物を届けに行ったんですが、多くのハチが飛んできて、恐ろしくて配達できませんでした、ですから荷物を取りに来てくださいということだった。そうだったのかと、気の毒に思い、今から取りに行きます、どちらの配送センターですかと尋ねたら、今お宅さんの外の道路にいますと言った。なんと宅配屋さんは家のすぐ近くにいた。
そこで出て行って、宅配屋さんに会い、荷物を受け取って自分で持ってきたが、その時、ハチは一匹も飛んでいなかった。そこで、はたと気付いたことがある。我が家に営巣したスズメバチは、我が家の住人と外の人間を確実に識別しているということだ。理由はわからないが、彼らは明らかに家の人間を攻撃対象とは考えていない。なぜなら、最近は私や家族に対し、警戒行動さえもほとんどしないからである。
彼等が活発なのは、温かい日中であるが、誰かが玄関を開けて外に出ると、その時は一匹、二匹が警戒行動に出てくるが、こちらが家に入り、またすぐに玄関を開けて外に出ると、もう一匹も出てこないのである。私はスズメバチをむやみに刺激しなければ安全だと言っているのではない。もしかしたら、我が家のケースはきわめて微妙なバランスにあって、地雷原を歩いているような危険のギリギリにあるのかもしれない。
だから、今の状態が普遍的なことだとは言わないが、テレビなどが、スズメバチの猛悪な一面を強調しすぎていることには大きな疑念がある。ハチには知性があるように思う。その知性の様態は人間や他の四足動物とは異なるが、巣を攻撃するものとしないものの区別はかなり敏感に把握しているように思う。もし、中途半端に巣の駆除をやった場合、彼らは家族全員を敵としてインプットし、熾烈な攻撃をしてくるような気がする。
しかし、こちらが害意を持たなければ、彼らはそれをきちんと認識していて、それなりの礼儀を示しているように思う。それはこの間の宅配屋さんの件で強く感じた。ふと思い出したことがある。昔のヤクザ(渡世人)は、一宿一飯(いっしゅくいっぱん)の恩義があって、世話になった一家に恩義を尽くす風習があったようだ。ある友人は、今の状況をこう譬(たと)えていた。
「軒下お借りしてますんで、外敵に対しては、身内のもんを守らせていただきますぜ!居候、客分、食客ってことで、怪しい奴には、ブンブン行かせていただきます。。。軒先借り賃でございます!・・・」
思わず笑ってしまうが、宅急便屋さんのことを思うと、そういう感じがしないでもない。番兵ならぬ番ハチである。彼らは、軒下に住まわせてもらっているという自覚があるのではないだろうか。つまり、間借り感覚である。部屋代を用心棒行動で代替しているとは思わないが、外から来る人間と、家の人間を確実に区別していることは感じる。今まで多くの家の軒下にスズメバチの営巣を見たが、彼らはその家の人間を識別し、それなりに気を遣っていたのではないだろうか。人間だけが、むやみやたらに彼らの猛悪性を共同幻想として作り上げているような気がしてならない。
スズメバチ被害の根底には、熊、猪、鹿、猿などの被害と同質のものがあると思う。つまり、開発が進み自然が減って餌が少なくなって人里へ降りて来ざるを得ない深刻な自然環境の変化がある。天然林を破壊して人工林に変えたこと、里山を破壊してゴルフ場や郊外施設、住宅地などに変えてしまったことにより、野山に住んでいた動物や昆虫のエコシステムが崩壊し、棲息場所や採餌場所がなくなったことなどが上げられるだろう。
キイロスズメバチが人里に出てきたことは、彼らの最大の天敵、オオスズメバチがいないこともあるが、本来の生息環境が破壊されたせいである。他の動物と同様に人里に来なければ子孫存続が危うい状態になっているのではないだろうか。本来、里山は山の動物と人間の中間地帯、緩衝地帯であったが、それが破壊されてしまった現在、山の動物と人間は直接接触するようになったのである。戦後の間違った農林行政や国土開発は、天然林を片っ端から潰し、多くの多様な植生や生物種によって、微妙なバランスを保っていたエコシステムそのものを破壊した。
スズメバチの人間環境侵入も、自然環境破壊の典型的な現象である。スズメバチもオオスズメバチも決して害虫ではない。彼らも生物の適宜な棲み分けバランスに重大な役目を持っている。自分たちの都合でエコシステムを破壊する人間が性悪なのだ。これからの日本は環境立国へ行くべきだという言い方はよく聞くが、今まで、国土開発の名の下で、さんざん自然環境を破壊してきたことを考慮せずに、環境立国の思想が生まれる理由はまったくない。
スズメバチは確かに恐いが、日本が天然林や里山のエコ的重要さに気づけば、山の生物と人間は昔のように共生が可能であり、それが本来の健全な国土のあり方である。現在我が家に住み着いているスズメバチと、このまま平和共存を保てるかどうかわからないが、少なくとも彼らは、自然の知性の一端を垣間見せてくれた。本ブログでは、小泉・竹中構造改革の根幹思想である新自由主義が、環境破壊をもたらす有害な経済思想であることも、折に触れて考察していく予定である。
http://shimotazawa.cocolog-wbs.com/akebi/2009/10/post-cfec.html