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桂敬一(元東大教授・日本ジャーナリスト会議会員)
「日本では官僚機構が、 おおむね8割方の情報を持っている。 そうした情報なしに、民主党が『沖縄政策を変える』『インド洋から撤退する』などと言ったら、 本当に後悔することになる」、 「現行の沖縄に関する政策の実現を延期、あるいは中止することは、 非常に危険なことだ」。
投票日まであと2日、 8月28日の朝日 ・朝刊、 オピニオン ・ ページに載った 「アメリカから見る 09政権選択」 と題するインタビュー記事の一部だ。 語っているのは、 「知日派」として鳴らすマイケル ・ グリーンCSIS (米戦略国際問題研究所) 日本部長。 これには驚いた。 「後悔することになる」 とは、新政権となる可能性の高い民主党に向かって、 お前は後悔するぞ、 と言っているからだ。 後の 「危険なことだ」 も同じだ。「お前にとって危ないことなのだ」 と、 民主党にのたまうのだ。
このインタビュー特集には、もう一人登場する。 共和党の大物下院議員、 ニート ・ ギングリッチ元下院議長だ。 彼も語る。 「私の考えでは、 国内政策では改革を、外交では継続性を強調した方がいい」、 「この選挙で誰が勝とうが米国の指導層はそれを注視し、 日本と協力するだろう。 ・ ・ ・誰が新政権を担うのであれ、 その人たちと会って話を聞き、 経済や安全保障上の問題で前進するための一致点を見いだしたい」 。
これも露骨だ。 誰が政権に就こうが、 外交政策が変わらなければそれでいい、 という話だ。 要するに、 この二人の話を合わせると、 アメリカは、日本に官僚機構がしっかり残っていて、 経済にせよ安全保障にせよ、 従来どおりの対米政策を変えない限り、今度の選挙で自民党と民主党のどちらが勝とうが、 構わないと言っているのだ。
そしてもう一つ不思議なのが、 この時点で朝日がこのインタビュー記事をなぜ載せたのか、 という点だ。 朝日ほどかねてから2大政党制の実現を待望、その枠組みのなかでの民主党支持をはっきりうち出してきた新聞はない。 今回の総選挙を、 読売、 日経、 産経、 NHKなどは 「政権選択」の選挙と呼び、 自民 ・ 民主をイーブンに扱う姿勢をみせていたのに対して、 これをほぼ 「政権交代」 の選挙と呼びつづけてきたのが、朝日だった。 交代可能な政党は民主党しかない。 その民主党のマニフェストは、 経済 ・軍事両面におけるアメリカ一極支配の終焉という認識に立つ、 対米関係の見直しに触れる政策を含むものだった。
また、 朝日自身としても、 改憲派の読売、 日経、 産経とは対照的に、 日米2国間における集団的自衛権確立には反対で、護憲派としての立場を守る印象を、 これまで読者に与えつづけてきた。 その朝日がなぜグリーンやギングリッチに、身勝手なメッセージを投票間近な日本の有権者に、 送らせることにしたのかが解せない。 それまでの朝日の社説には、二人の話に通じるようなアメリカへの配慮を強調したものはなかったのだ。 そうした対米配慮、 日米同盟の維持、 約束の履行を、 解散 ・総選挙の日程が決まってから繰り返し説き、 民主党に強請してきたのは、 ほかならぬ読売、 日経、 産経の方だった。
8月30日、 開票の早い段階で民主党の圧勝、 自民 ・ 公明の大敗が判明した。
すると、 翌31日、 「維持されるべき日本政治の方向性とは、 日米同盟を基軸とした外交 ・ 安保政策の継続であり、構造改革の推進により経済や社会に活力を取り戻すことにほかならない。 民主党が現実的な判断に立ち、 これらを継承することができないなら、何のための政権交代かということになる」 (産経 ・ 主張 「民主党政権 現実路線で国益を守れ 保守再生が自民生き残り策」)、つづいて9月1日には、 「政権交代によっても、 日本の対外関係の基本に変化がないことを、 各国首脳に伝え、 信頼関係を築くことが大切だ」「鳩山代表は ・ ・ ・ 日米同盟堅持を確認すべきだ」 「 ・ ・ ・ (沖縄) 普天間飛行場の ・ ・ ・ 移設見直しは、日米合意を破棄するに等しく、 同盟関係を損なうのは必至だ」 「鳩山代表は、 非核三原則について 『法制化を検討』 し、 三原則のうち『持ち込ませず』 を明確化する ・ ・ ・ とも語っている。
これでは米軍の核抑止力を否定していると受け止められてしまうのではないか」 (読売 ・ 社説 「政権移行始動 基本政策は継続性が重要だ」)、さらに同月2日には 「鳩山政権に対する最も深刻な不安は、 外交政策とりわけ対米関係をめぐるそれである。 民主党が野党時代の態度を貫けば、不安は現実になるだろう。 鳩山政権にとり『君子豹変』は不可避であり、 私たちはそれを求める」「日米関係に否定的な影響を与える問題が少なくとも4つある。 ・ ・ ・ 第一に、 インド洋での海上自衛隊による給油活動反対である。 第二に、沖縄の普天間基地の県外移設を求めた点である。 第三に 『思いやり予算』 ・ ・ ・ への反対である。 第四に、日米地位協定の改定を求めた点である」 (日経 ・ 社説 「鳩山政権は対米政策で『君子豹変』せよ」) などの声が、 たちどころに相次いで起こった。
朝日が発信の場となったグリーン、 ギングリッチのメッセージを、 日ごろは朝日に対抗する立場を取るこれら3紙が、 このときばかりは迅速に受け止め、 その意に真正面から応える回答を競い合うように返すかっこうとなった光景は、 奇っ怪なものだった。
9月4日、 毎日の社説 「新政権に望む マニフェスト実現が大原則 国民との約束は重い」 は、 このような状況を捉えて、「マニフェスト選挙を強調しておきながら、 308議席の支持を取り付けた政権公約を選挙後1週間もたたないうちに考え直せ、とはいかがなものであろうか。 一部新聞の社説が 『基本政策は継続性が重要だ』 『鳩山政権は “君子豹変” せよ』 と書いている。民主党がマニフェストで示したいくつかの問題について ・ ・ ・ 見直すべきだ、 とする議論である」「継続を打ち破るのもまたマニフェスト選挙の一つの効能である」 とする批判的見解を対置したが、 これこそ、今回総選挙とその結果に付与されるべき意義に触れた見識というものであろう。
また、鳩山民主党代表が、 PHP研究所の月刊誌 『Voice』 9月号に寄稿した論文 「私の政治哲学」 の抜粋英訳が、 ニューヨーク ・タイムズの電子版に掲載されると、 その 「反米的」 な主張がアメリカで批判と反発を呼んでいる、 とする話題が日本に打ち返され、 まず産経(9月1日) が、 ついで読売が大騒ぎしたが、 これにも毎日の上記社説は、 「反米的」 が独り歩きしている― 「反米的」との決めつけは早すぎはしまいか、 と釘を刺した。
鳩山代表は確かにその論文のなかで、イラク戦争にみられた軍事的なアメリカ一極支配の構造は崩壊、 また、 アメリカ発の金融危機が世界不況を招いた例からも明らかなように、アメリカ主導の経済のグローバリズムと市場原理主義も破綻し、 アメリカはあらゆる面で、 多極的な世界運営に協力する方向を目指すようになっている、とする情勢の見方を語り、 日本は今後、 そのようなアメリカとの関係の再構築や、 東アジアにおける近隣外交の強化を図る必要性がある、と説いていた。
しかし、 日米安保体制を日本外交の基軸に置く、 とする前提は変えていない。 ただ、 対米関係の再構築の中身がよく見えないところが、問題といえばいえるのが実情だ。 毎日のこの社説はこの点にも触れ、 今は新政権とオバマ政権とのクールな対話の出発点を確保することが重要だ、と指摘しており、 説得的だ。
鳩山論文に関し、 アメリカの有力紙、 ワシントン ・ ポストが社説で、 彼はアジア中心の外交政策を唱え、 ワシントンとの決裂にまで言及した、と述べたり、 ニューヨーク ・ タイムズも、 アメリカに対する対等な同盟関係という彼の言葉に強い懸念を示したりしたことに対して、「少々過剰な反応ではないか。 ・ ・ ・ 民主党に大勝をもたらしたのは、市場重視の『小泉構造改革』で疲弊した暮らしの再建を求める圧倒的な民意だった。 日本が隣国 ・中国の大国化を踏まえて国家戦略を描いていくのも当然のことだ。 ・ ・ ・ 政権交代を機に旧来の枠にとらわれず発想し、 内政と外交を再構築する。それが (論文の) 眼目だろう」 「日本側の問題提起が対米批判や『米国軽視』に映るとしたら、これまでの自民党政権下で忌憚のない話し合いが十分に行われてこなかった裏返しでもあろう」 と述べたのは、 同じく9月4日の北海道新聞の社説、「政権交代 鳩山論文 率直に語り合う日米に」 である。 毎日を除く在京紙の社説を見るとき、 せめてこれぐらいの見識を持ち、対米関係の再構築を考えてもらいたいものだ、 と思った。
ところが、 9月9日、米国防総省のジェフ ・ モレル報道官が記者会見のなかで日本の新政権に対して、 インド洋での給油活動の継続を促す発言を行うと、 読売(11日朝刊) は早速、 たいへんだ、 「米が本音をぶつけてきた」、 新政権は大丈夫か、 とする大きな記事を載せる始末だ。 一方、 毎日 ・同日夕刊は、 「駐米大使が不快感 米報道官の『給油継続』要請」 とする記事で、 藤崎一郎日本大使が10日の記者会見において、アフガニスタン支援の内容は日本の新政権が決める事案だ、 「日米にはこれまでの信頼関係があり、 報道官を通じてやり取りする関係ではない」 と、発足前の新政権に政策をめぐって口出ししたモレル報道官の言動を批判したことを報じた (読売 ・ 同日夕刊も藤崎大使の批判をベタ13行で報道)。毎日の報道姿勢に、 よほど共感できるものが感じられる。 これより先、 9月6日から読売 (朝刊) は、 海外の識者 ・ 要人の民主政権に対する「注文」 を紹介するシリーズ ・ インタビューを始めたが、 そのトップがマイケル ・ グリーンCSIS日本部長だったのにも、うんざりさせられた。 政権交代を実現した民主党への 「注文」 である。 前記の朝日における談話より、 ずっとストレートな 「注文」が1面を飾った。
9月11日、 テレビの夜のニュースは、 この日、民主党本部にルース駐日米大使が岡田幹事長 (外相就任内定) を訪問したことを報じたが、 その後の記者会見に臨んだ岡田幹事長に、「インド洋の給油や在日米軍基地についての話し合いはあったか」 と記者が質問したのに対して、 岡田幹事長が「むしろ長期的な同盟関係をどのように深めていくか、 とする観点からの話し合いになった。 その際、 質問にあったような事項の話題は、向こうが出さないようにしている感じだったので、 こちらも今の段階で、 あえて言い出すことはないと思い、 話題にならなかった」と回答するのを聞いて、 複雑な思いがした。
取材陣の方が明らかに近視眼的であり、騒ぎのネタ探し程度の関心でしか質問していない。 情けなかった。 おそらく岡田 ・ ルース会談には、 今後の長期的な同盟関係をめぐる、ずっと思慮深い会話があったはずだ。 その一端でも聞き出すような取材をなぜ試みないのか、 とする思いが募った。オバマのアメリカは変わろうとしている。 だが、 よく変わることは容易ではない。 これに対して日本は、 変わらない、あるいは変われないアメリカに、 ただ惰性で馴れ親しんでいればいいのだろうか。 日本自身がよく変わる方向をはっきりさせ、それを受け入れるアメリカも、 そのことによってよく変わっていけるのなら、 そうした道を協力して追求していくべきなのではないか。
以上に見るような日本の対米関係の特徴は、 メディアが大きな自閉の枠組みをつくり、それが対米従属にほかならない関係であることを国民に対して隠蔽、 その枠組みのなかでアメリカの後ろ盾を権力や権益の源泉とする政治家、 大企業、政府に、 当然のように果てしのない対米依存を許す結果を招いてきた、 と押さえることができる。 このような状況のなかでは、従属も従属と意識されず、 無意識のうちに従属が習慣となれば、 人は従属を失うことをこそ、 おそれることにもなる。 今回の選挙は、そうした従属を断ち切る、 またとない機会となるはずだったのに、 これまで考察したように、 メディアが一番、従属からの脱却をおそれているのが実情だ。 日本は結局、 変われないのだろうか。
そう考えたとき、 1986年のフィリピンにおける黄色革命 (エドゥサ革命) のことを思い出す。 フィリピンのマルコス大統領は1965年に就任、以来20年余も独裁政権を維持してきたが、 その背景には、 アメリカによるマルコスに対する、 強力な後押しが存在していた。 しかし、彼が野党の大統領候補、 ベニグノ ・ アキノの暗殺にまで関わっていた事実が発覚すると、 フィリピン国民は反マルコスの運動を急速に広げ、その過程でイメルダ ・ マルコス夫人の贅沢三昧の私生活や政府幹部の汚職などが暴露されるのに連れ、マルコス夫妻は遂にアメリカへの亡命に追い込まれたのだった。
それは、黄色のシャツをきた市民たちの一致結束したたたかいの成果ではあるが、 アメリカがこれ以上の独裁政権支持は無理だと観念、マルコスを見限ったことが決定的な要因になっていた。 その後、 アメリカはフィリピン国民全体に対する友好政策を重視し、 巨大なスービック、クラークの2基地を1992年までには完全に撤去、 用地をフィリピンに返還した。
1976年、ASEAN5か国だけで発足した、 戦争放棄を目指す地域条約 ・ TAC (東南アジア友好協力条約) は2008年、 北朝鮮まで加入、ユーラシア大陸の24ヵ国が加盟国となる大きな体制となったが、 今年7月、 アメリカも調印、 TAC加盟国となったことが注目される。アメリカのこのような変わり方は、 フィリピンにアジア最大の軍事基地を置いたままでは、 到底あり得ないものだった。
さらに付け加えれば、 カリブ海においてはキューバのバチスタ、 ハイチのデュバリエ、 ドミニカのトルヒーヨ、 中米におけるグアテマラのアルマス、エルサルバドルのマルティネス、 ニカラグアのソモサ、 パナマのノリエガなど、 かつての名だたる独裁者とその悪政も、アメリカの後押しあってのものだった。 なかにはアメリカの傀儡政権そのものといってもいい独裁政権もあった。 しかし、独裁者に対する市民の抵抗や蜂起が成功、 彼らは打倒され、 その後成立をみた民主的な政府を、 アメリカも認めていった。
また、 南米のチリにおけるピノチェト政権打倒、 アルゼンチンの悪性インフレ ・ 多重債務克服、 ベネズエラのチャベス政権樹立、ブラジルのルラ政権実現、 ボリビアの先住民大統領 ・ モラレス登場なども、 それぞれの国における 「アメリカ離れ」の動きを意味するものだったが、 これを受け入れざるを得なかったアメリカにとって、 それは損失を意味したかといえば、 むしろ逆であり、このような方向での中南米の安定化は、 南北アメリカの平和と経済協力に大きく役立っており、 アメリカも軍事リスクの回避など、そこから大きな利益を得るようになっているのが、 現実の推移だ。
これらの国々、 市民に比べて、日本という国、 国民は、 なぜ変われないのだろうか、 とする思いが募る。 戦後も64年というのに、 見えないマルコス大統領、たくさんのマルコス、 自分のなかにも巣くっているマルコスを、 どうにもできないせいではないか。 国の芯を自力でしっかり立て、同時に世界に向かい、 自分をのびやかに開いていくという点では、 フィリピンよりはるかに劣っているのがわれわれなのではないか、とも思わせられる。 (終わり) |
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