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電波利権の不合理性と政治家と放送局の功罪【前編】
http://www.cyzo.com/2010/09/post_5526.html
業界の人々が思っているほど、すぐにテレビはダメにならないと思う── 。テレビ局が持つ既得権益とそのカラクリを浮き彫りにした『電波利権』(新潮新書)の著者・池田信夫氏は、2011年のデジタル放送移行後のテレビ業界についてこう語る。だが多メディア化と昨今のメディア不況に直面しているテレビ業界に、明るい未来は描きづらいのも事実であり、また、テレビ局が独占してきた電波は今後、再分配されることが予測される。こうした中、電波という資源はどのように使われることが効果的なのだろうか?
【今月のゲスト】
池田信夫【上武大学教授】
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神保 アナログ放送の停波まで、どうやら残すところ1年。「どうやら」というのは、現段階でまだ全国に7000万台のアナログテレビが残っています。この放送を強制終了させることが本当にできるのか、あるいはそれが正しいのか、という議論があるからです。ところが、放送局は自分たちにとって都合の悪いことは言わないし、日本では新聞が放送事業にまで関与しているから、新聞もこの問題では中立的な報道は望めない。そうした中で、よくわからないうちに日本の放送行政や電波行政がひどい状況になっているということを、今回のゲストである池田信夫さんの著書『電波利権』(新潮新書)を読んで知りました。今回は、デジタル放送問題だけでなく、電波そのもののあり方についても議論を深めたいと思います。
池田 『電波利権』はもう4年前の本ですが、まだ重版を続けています。それだけ、来年にアナログ電波が止まることを不安視している人が多いのでしょう。そのため、6月末に新たな情報を追加した『新・電波利権』(電子書籍のみ/アゴラブックス)を発表しました。技術的な部分についてはほぼすべて書き換えていますが、重要なテーマである官僚制度と利権の問題など、基本的な部分は変わっていません。
神保 さっそくですが、アナログ放送が終了する「7月24日」という日付には、大きな意味があるそうですね。
池田 この日付には、日本の官僚制度が象徴されています。まず、電波法にはアナログ放送終了の日付が書いているわけではなく、「デジタル放送が始まることを公示した日から10年後」と書いてある。つまり、「改正電波法が公示されたのが2001年7月24日だから、アナログ放送の終了はちょうど10年後の2011年の7月24日だ」という話なのです。まだデジタル放送が始まっておらず、普及の予測もまったく立てられない──そんな状況で、強制力のある法律にアナログ放送終了の日付を書き込むなど、常識では考えられません。なぜそんなことになってしまったのか、状況を振り返りましょう。
00年末、翌01年度の予算折衝で、旧郵政省が地上デジタルのための予算を獲得しようとしました。デジタル放送自体は、放送業者の都合で行う仕事なので、自分たちで予算を払うのが当たり前。しかし、放送業者は政治力が強いので、「経営が苦しいから、国で援助をしてほしい」と、郵政省に泣きついてきたのです。経営が苦しくなる理由は、非常に簡単なこと。アナログ放送がデジタル放送になっても広告料は増えず、一方で中継設備を改めるために、1兆円近くかかってしまうからです。つまり、アナログ放送からデジタル放送への移行は、「収入増はゼロ、コストは1兆円」という、資本主義社会では考えられないプロジェクトだと言える。最初から損をすることはわかっているのに、放送局は「よそもやるらしいから」と横並びでデジタル放送の免許を取得してしまったのです。
神保 膨大なコストがかかり、回収できる当てもないと。
池田 そんなことは初めからわかっていたはずなのに、00年の末になって役所に泣きついてきた。例えば、携帯電話の電波がアナログからデジタルに移行したときには、国は費用を出していません。これは当然のことで、利用者にとってもデジタルのほうが使いやすいし、通信事業者にとってもメリットが大きいから、自然に移行することができた。ところがテレビの地上デジタル放送においては、視聴者にとっても、業者にとっても、スポンサーにとってもメリットがない。そんな中で自然に移行しようという流れができるはずもなく、資金繰りに悩んだ郵政省の官僚は、携帯電話の「電波利用料」を流用しようと考えました。利用者はなかなか気づきませんが、携帯電話を使っていると、毎年1台につき500円ほどの電波利用料を取られています。現在、携帯電話は国内で1億台ほど普及しているので、大変な額になるんです。
神保 しかし、そんな話に通信事業者は納得しませんね。
池田 もちろん、通信事業者は抗議の声を上げました。ドコモの立川敬二社長(当時)を中心に、携帯電話4社の社長が揃って記者会見に臨んだんです。すると、郵政省は放送局が700MHz帯で使っている電波を、テレビのデジタル化後に携帯電話を含めた通信事業者に使わせる、という交換条件を持ちかけます。そうして、「電波の有効利用」という大義名分のもとに、携帯電話の利用者が支払った電波利用料の1800億円を、地上波のデジタル化に転用することが決まりました。
そんな中、当時の大蔵省の主計官が、郵政省に「1800億円をつぎ込んで、2010年に電波を止められなかったらどうするのか」と指摘。まっとうな意見ですが、田中角栄以降、すべての地方局のバックには政治家がついており、「どうにかしろ」と迫ってくる。これに対して郵政省は、法律で日付を設定するという、実に役所らしいロジックでアナログ停波を約束させました。放送業者は前払いで1800億円もの資金を受け取ってしまっているから、今さら「できません」とは言えないんです。
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