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現代ビジネス
賢者の知恵
2010年06月29日(火)
佐々木俊尚×長谷川幸洋vol.3
「政策論議なき政治ジャーズム」をネットが変える
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/769
長谷川:新聞の政治部は派閥をひとつ割り振られたらずっとその派閥の番記者みたいな関係があります。昨日もある人に「あなた、何派(の担当)だったんですか」と聞かれました。
「政治部記者じゃないんで、そういう世界はいっさい知りません」と言ったら驚いてましたけど(笑)。
政治部の最大の問題は政局ばかりで、政策についてはあまり触らないことですね。
佐々木:なぜそうなったんですか?
長谷川:私は政治部にいたことがないから分からないんですけど、よく言われるのは政治部の仕事は政局取材で、権力を誰が握るか、あるいは政治家の滑った転んだ、といったことが政治部の仕事で、政策をカバーするのは本流じゃないという雰囲気がある。
佐々木:僕の推測で言うと、多分、昭和30年代、40年代、今の日本の新聞の骨格ができあがった時代は高度成長時代だった。まあ、政治家が何もしなくてもうまくいっていた時代っていうことですね。
長谷川:そういうことです。
佐々木:そこにおいては政策論議をしても別に世の中が変わるわけでもなく、一方で、権力者がどう移り変わるかという生々しい話のほうが読者の好みにも適合していた部分があった。
政策論争についてこれない新聞記者
長谷川:非常に戯画化していってしまえば、政治の目標を定めそれを実現するまでの工程管理も、実は政治家ではなく霞が関の官僚がやってたんですよ。
政治家は、いわば官僚の掌に載って動く、歌舞伎を演じる役者みたいな立場だったんですね。それはダメだよねって、みんな思って「脱官僚」を民主党をはじめ言い始めたけど、それがうまく行っていない。
佐々木:官僚の舵取りがうまく行っていた時期があったんだけど、それこそ「官僚たちの夏」の時代ですよ。それ以降舵取り自体がうまく行かなくなった。これは日本が国際競争力を失っていく状況とほぼ合致してると思うんです。
霞が関が悪かったわけでも何でもなく、誰がやってもうまく行かないから、そこでは何らかのパラダイムシフトがおそらく必要だったと思うんですよ。舵取りそのものを考えなきゃいけない時期に来て早20年くらい経つ。
それにも関わらず、未だに舵取りをどうするかという議論をやる部署が新聞社にないということだと思うんです。
長谷川:まったくそのとおりです。まさにその議論で、私の永田町取材の感じでは、小泉政権の辺りから、政策が政局を決めていくようになりつつあるんですよ。
財政再建ひとつとっても、与謝野馨さんと中川秀直さんや小泉さんたちのバトルもあった。財政再建をどうやっていくのか、増税なのか歳出削減なのか、つまり政策路線の違いが権力闘争を招いてきたのがこの10年くらいの流れなんです。
だから政策の根っこの部分が理解できないと、実は政局の流れも理解できないし、ましてや見通しを立てることは出来ないんですね。
ところが多くの政治記者さんたちは政策にあまり関心が向かないから、いまだ権力の滑った転んだばっかりに行ってしまう。結局、何でこういうことになるのかもよく分からなくなってしまっている、ということなんじゃないかな。
佐々木:そうですね。小泉政権の評価もすぐあさってのほうに行く。
市場原理主義を否定するのは、すごく情緒的で聞こえはいいんだけど、そんなことをしている国はどこにもないわけですね。何でそれが日本の新聞の大勢になってしまっているのか、これがすごく不思議で不思議でしようがないんです。
市場原理主義なんて英語はない
長谷川:それはもう一言で言えば、新聞記者があまりに勉強不足だということだと思いますよ。
だって市場機能をどう活かすかこそが大テーマで、ずっと70年代80年代から議論があってその流れでやってきたわけでしょ。
それを市場原理主義という6文字でレッテルを貼ってやっている国なんてはっきり言って日本だけです。そもそも市場原理主義なんて英語はありませんからね。僕なんてそういう話を聞くと聞いた瞬間に、ほんとあさっての話かみたいな(笑)・・・。
佐々木:あと、北朝鮮くらいですよね(笑)。
長谷川:このあいだ亀井静香さんに会ったときにその話もしたんですよ。
亀井さんが僕を指さして「あんた、話聞いてると市場原理主義の記者だなあ」って言うから、「大臣、そんなことやめたほうがいいですよ。大臣もそうだけど、それはマルクス主義の影響だ」と。
佐々木:そうですね(笑)。
長谷川:「(警察出身の)あなたは警察で、さんざん取り締まったから、マルクス主義はけしからん、赤はけしからんとやってたからそう思うんです。今はそれと同じで市場原理主義というレッテルを貼って、けしからんという議論だけど、そんな議論はやめたほうがいい」と言ったら、そしたら「何を言ってるんだ。俺は抵抗勢力とレッテル貼られてひどい目にあったんだ」と。つべこべ言うなみたいに言われちゃったんですけど(笑)。
佐々木:大竹文雄さんの本に、日本は市場原理も嫌いだし、かといって国が格差社会に対応して公的扶助をするのも嫌いだ、とある。
今まではムラ社会的に企業とか農村みたいなものが相互扶助で救うことで何とか成り立っていたから、どっちも嫌だというね。そういう情緒だけで未だに話が進んじゃってるところがすごいなと思うんです。
では日本が今後アルゼンチンみたいにならずにこの国を維持していくか、本来ロジカルに議論する場所が必要だとずっと言われてきた。かといって70年代くらいまであったような論壇誌を中心とした有識者による論壇も崩壊して長く、専門家の集団である大学の先生も自分の専門分野に引きこもってしまって政策論議を行うような状況は出来てきていない。
一方、審議会などが有効に作用しているかというと、結局、芝居の舞台みたいな感じになってしまって、粛々と何となく官僚のシナリオに従って議論して終わりにしちゃう。
今この国で、マスメディアも含め霞が関も含めてまともな政策論議をする場所ってどこにもないんじゃないか、という感じもしてきているんですよ。
総務省タスクフォースでの「沈黙」
長谷川:だから今日のような場もすごく大事だと思うんです。
学者先生たちの中にも、日本の在り方を真剣に考えて発言されている立派な先生もたくさんおられるので一絡げには言いたくないんですけどで、中には、教授になりました、これ以上に波風立てる必要はありません、という人もいる。
例えば、東京大学や一橋大学の教授になりました、これだったら財務省と敵対したって研究費を削られるだけでいいことなどひとつもない。
佐々木:ヘタをすると犯罪者になったりとか(笑)。
長谷川:そういう方たちから見たら、この際余計なことは言わず、ぎりぎり安全なところだけ走っていこうと思っている先生も、正直言っている。そういう意味では、言論力は強まってるとは言えない。だから、せめて器の世界だけでも広くして、言いたい放題やるのが僕はいいと思う。
佐々木:総務省のタスクフォースで、日本のIT政策をどうするか議論をゼロからやりましょうと言っている割に、原口さんは突然「光の道」という、ブロードバンドを100%にするという政策を言い出した。
日本はもう90%ブロードバンドが引かれているわけだし、残り10%は山の中とか離島とかそういうところしかないんですよ。そんなことより抵抗勢力の強さによって電子カルテが普及しなかったり、いわゆる制度的な問題のほうがすごく大きいので、そこを改造しない限りダメだという話をタスクフォースで言ってたんです。
しかし「光の道」をどう実現するのかという議論にタスクフォースは行っちゃって、それが前提になっちゃってる。その前提そのものがおかしいんじゃないですかと、ブロードバンドを今さら残り10%に引こうなんて無理ですよという話をすると・・・。
長谷川:それはインフラ整備で儲かる人がいるからでしょ。
佐々木:そうなんですよ。でも、なぜそれに原口さんが乗っかる必要があるのか。それを言うと、そこにザーッと並んでいる日本を代表するIT業界の先生とかいろんな人たちは、みんなシーンと黙ってしまって「いや、その話を今言われても」みたいなことを言われちゃうんですよ。
インターネットは誹謗中傷が多いからIT普及に反対!?
長谷川:電子カルテのことを仰ったけど、僕がいちばん基本だと思っているのは納税者番号なんですよ。税務情報と社会保障番号、これを一緒にして納税者番号を入れれば、おそらく増税なんかしなくたって税収はすごく上がるはずなんです。
佐々木:それもまったく仰るとおりです。先進国、OECDで、国民にナンバーを振ってないのは日本だけですね。
長谷川:そうです。
佐々木:80年代それこそグリーンカードのころから、やろうとする度に新聞社が「そんなものは監視社会だ」と言って批判して、それで潰れてきた。
今回ようやく、自民党のときから少し言い始めて民主党政権に移ってからも継続して進んでいるんです。
これは多分、社会保険庁の年金問題であまりにもひどい状況が明らかになってので、さすがに批判しきれなくなってきたということだと思うんですね。
そういう情緒的な批判がすべてのまともな政策を、情緒的なよく分からない議論に貶めてしまって、社会の進化を止めちゃってる部分が、実にすごくある。
ITの話もそうで、ITを普及しなきゃと言うと「ついて行けない人はどうするんですか」、あと「インターネットは誹謗中傷が多くてこれはどうするんですか」、必ず返ってくるのがこのふたつですもの。
長谷川:なるほど。私の経験だと、その手の反論はだいたい役人が出所になっている場合が多いですね。
佐々木:そうなんですか(笑)。
長谷川:役人にとって、今ある現状の仕組み、これを壊すのは基本的によくないんですよ。現状を変えては何故ダメか、何故それはやってはいけないのかという理屈を、どのくらいたくさん、もっともらしく考え付くかということが実は役人の能力なんですよ。
佐々木:なるほどねえ。それが優秀かどうかの物差しなんだ。
長谷川:そうそう。「これはやっては何故ダメかの理由を、明日の朝までに百通り、君、考えてきてくれたまえ」って言って、「ハイ、分かりました」って二百通りくらい書けるくらいじゃないとダメなんですよ。
佐々木:それが優秀な官僚なんですね。
長谷川:そう、それで「君は優秀だねえ」(笑)。
つまり屁理屈を思い付く天才集団が役人なんです(笑)。現状のシステムにはすべて既得権益があらゆるところにへばり付いているわけです。だからそれを変えると、既得権益を失って天下りポストが減る人が必ず出る。
佐々木:だからこそ政治主導って重要だと思うんですけど、政治主導で変えていこうという話になったときに、何故、新聞はそっちに乗らないで官僚に乗っちゃうのか。それはさっき(vol.1)で仰ったように特ダネ優先主義が、ということになるんですか。
長谷川:僕は多分、現場の理由はそれがいちばん大きいんじゃないかと。現場の記者は別に世の中を現状維持したいという政治的目標を掲げて取材活動しているわけじゃないでしょう。
必ず本論があるのがネットの良さだ
佐々木:新聞社って、必ずしも現場の記者だけで成り立っているわけではなくて、現場の記者が書いてきた記事に対してデスクが目を通し部長が目を通し、さらには局長、局次長とかあるいは論説委員とかが踏まえていろんな議論をする。そこで今日の紙面はこれで本当にいいのかどうかと、ある程度多重構造的にチェックされているわけですね。
それが何故すべてスルーされて、霞が関の思惑に乗っちゃった記事ばかりに埋め尽くされる結果になってしまうんでしょうか。
長谷川:一般的に言ったら、現状を変えることは必ずどこかで緊張関係を招くからですね。現場のレベルで言ったら、役所の課長さんを敵に回すかも知れないという緊張関係がある。
今の財政問題がいちばん典型的だと思うんだけど、財政再建が大事ですよねということさえ書いておれば新聞は取り敢えず安全なんですよ。
佐々木:なるほど。誰も反論しないですものね。
長谷川:ところが私が思うのは、財政再建の大前提は行政改革でしょと。独立行政法人、公益法人、天下りの問題を放置したまま、しかも総人件費2割削減といいながら、実は今2割増加しちゃいそうなんですよ。
公務員の人件費を2割増加させておきながら増税なんて話は、これは無理なんですよ。やるべきじゃない。
公務員制度改革、政治行政改革をやらずに増税を言うのは判断が間違っているんです。もっと言えば未熟なんです。本当は先に行政改革やり切って人件費も2割削減しきれば、多分その政権の支持率は上がりますから、そうしたら増税できるんですよ。
僕は社説で書いていますけど、この話は霞が関が血を流す部分が結構あるから、新聞社っていうか一般的な世論の空気の中ではなかなか通りにくいですね。
佐々木:結局、新聞社の中もよく分からない空気の圧力みたいな、独特の反論できないものがありますね(笑)。
長谷川:そのとおりです(笑)。
佐々木:空気って恐ろしくて、指揮系統とは何の関係もなく、だから局長や局次長が「止めよう」といっても言えないという。
長谷川:暗黙の共有相場観っていうかな。
佐藤優さんも、個々の官僚をとったらみんながみんな、あくどいことを考えているわけではない、でも官僚全体の暗黙の共有相場観としてダメなんだ、ということを書いてらっしゃるけど、僕もまったくそうだと思いますね。
佐々木:ひとりひとり会うと、みんないい人で優秀な方がたくさんいらっしゃる世界ですね。それが何で集まるとああなるのか、ほんと不思議なところです。僕がインターネットにいちばん期待しているのは、そういう空気がないところなんです。
長谷川:そうですね。
佐々木:何を言ってもすぐ批判される(笑)。
同調する人ももちろんたくさんいます。同調する人もいるんだけど、必ずそうじゃない、それは違うだろうと論理的に反駁してくる人って必ずいらっしゃる。空気ができあがりかけると必ず誰かが壊し、またできあがりかけると誰か壊し、その繰り返しで世論が形成されていく。
ある意味殺伐とした大変なところなんですけど民主主義的には健全なんじゃないかなと。
長谷川:なるほど。それは共通のプラットホームみたいなのがあるんですか。
佐々木:それは僕が書いたブログに対する誰かからのブログによる反論だったり、ツイッターによる反論だったり、あるいは、はてなブックマーク、そういうところでのコメントだったりとかありますね。
今の問題は、そういうネット世論の総体、俯瞰図が相当やり込んでいないと見えないということにあるんです。
全体像が俯瞰して見えるようなニュースサイト、報道機関みたいなものが出来てくると、もっとみんなに可視化されてくると思うんです。今、そこまでに至る「超・夜明け前」段階だと思うんですね。
長谷川:そんなのがもしあったら便利で見たいですね。右から左まで論点の主なポイントが全部一堂に俯瞰できるような、そんなサイトがあったらそれは見たいですね。
ネットの持つ可能性はまだまだある
佐々木:アメリカでは最近ワシントンポストとかポリティコのように、徐々にメディアに対するオルタナティブな報道機関がネット上に出てきて、それがネット上でどんなことが議論されているかということを可視化する仕組みを作り出しつつはあるんです。
おそらく日本でも間もなくだと思うんです。そういうのが出て来たときに初めて、さっき言ったようにネットの集約されない世論が集約されるような仕組みになってくる。
そうなってくると明らかに新聞やテレビに対する対抗勢力、カウンターカルチャーとしてのネットが現実味を持ってくる可能性が十分あるんじゃないかと期待はしているんです。
長谷川:僕が朝一番で開くのはヤフーのニュースのトピックス欄とグーグルニュース欄です。あれに出ているのは大手マスコミですが、そうじゃない空間でああいうふうに一覧できればおもしろいですね。
佐々木:ヤフートピックスはすごく素晴らしいんだけど、今仰ったようにメディアの記事しか載ってないですね。
それぞれの記事に対してブロガーや有名ツイッターがどういうことを指摘しているか言及しているかということまで見えるようにすると素晴らしいと思いますね。そういうところへ現代ビジネスもいってほしいですね。
-了-
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