http://www.asyura2.com/09/hihyo10/msg/701.html
Tweet |
現代ビジネス
永田町ディープスロート
2010年06月22日(火)
「小沢か、反小沢か」にしか興味がない新聞ジャーナリズムの限界
佐々木俊尚(ITジャーナリスト)×長谷川幸洋 (東京新聞論説委員)vol.2
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/740
佐々木:菅直人政権が誕生したとき、新聞は各紙一面に政治部長のコラムが載っていたじゃないですか。軒並み、「菅政権は反小沢か、親小沢か」などといった話ばかり書いている。
そんな記事を読んでいると、財政破綻一歩手前で、また格差社会もここに極まれりみたいな社会状況になっている中で、そんなことが政治の一番の中心軸になっているので本当にいいのかっていう思いがしていました。
私だけではなく読んでいる側は、そんなことが関心事ではないですよ。
たとえば、僕が取材しているIT業界では、これまで議論されてきた「光の道」とか電子教科書、電子カルテなどといったIT政策が、菅首相に代わったことでどう変わるのかに興味があるわけですよ。
世の中全体としても、菅さんがどういう格差社会対策、景気浮揚対策をやってくれるのかというところに、みんな関心を持っています。実は「小沢か、反小沢か」というのは、あまり多くの人の興味対象ではないと思うんです。
長谷川:まったくそのとおりですね。国民の多くがそうだろうし、僕自身もそうなんだけど、菅政権はいったい何をしてくれるんだろうかが最大の関心事です。
もっと具体的に言うとマニフェストで積み残した分はどうされるんだろうか、これが大きな軸だと僕は思っているわけです。
予算の制約があるのでマニフェストをやろうとすると10兆円以上足りないと言われてます。とても予算的には難しい。難しい中で、菅さんは国債発行額を44兆円以下に抑えると仰っています。そうするといったい何をするんだろうか。おそらくマニフェストの残り分はもうできないかも知れない。
そうすると「あれだけマニフェスト選挙を言ってきて、マニフェストが達成できない民主党っていったい何?」ということになる。民主党のアイデンティティそのものが失われてゆくんじゃないかと思っているんです。
佐々木:ええ。
コンテンツの中身に踏み込んだ報道を
長谷川:それでは枝野幸男幹事長は就任後の記者会見で、それについて何と言ったか。党運営を透明にする、ただそれだけしか言っていない。政策の中身、コンテンツはいっさいふれていない。
長妻昭厚生労働大臣は、こども手当の満額実施はちょっと無理かもと仰った。そこでちょっとだけコンテンツが出ました。それから玄葉さんが、消費税のことを書いたほうがいいんじゃないかと。そこでコンテンツがちらっと出た。
でも僕がザッと見てる限りではそれだけです。
「透明化」だけで見出しをつくっているのではなく、こうしたコンテンツの中身にこそ、政治ジャーナリズムがもっとも報じるべきことだと思うのです。
佐々木:清潔な政治とか透明性のある政治って、しょせんアンチテーゼでしかないわけです。建設的な議論とは違うわけです。
例えば原口総務大臣が就任したときに、どれだけの公約があったかというと、実はIT政策に関してはほとんど真っ白だった。真っ白な状況の中で有識者をよんでタスクフォースを立ち上げた。
今までは霞が関が作った政策について、ゴーサインを出していいかどうかを小さく議論するのが有識者会議でした。今度のタスクフォースは真っ白な中から新しい政策を有識者に考えてくださいというんです。今回のタスクフォースの定義はそうだった。
結果的に見ると、例えばソフトバンクの孫正義さんと原口さんは仲がいいので、そこで裏側でいろんな政策について意見交換が行われ、そこから原口さんの気持ちが固まって、じゃ、こういう方針にしますよ、ということが知らないうちに決まってしまったりとか、ある意味、ブラックボックス化している部分があるのはありました。
一方で、原口さんはどういうふうに政策を決め、それに対してどういう議論が行われているのか、そういうところがある程度可視化された。政策決定プロセスの一部が若干外部化されて見えるようになってきている。そういうメリットはありました。
こうして透明化していくというのは非常に重要なことだとは思います。
しかし、さらにいえば透明化していく中で、どこに軸を置くのかということをもう少し提示しないといけないですね。
「誰もネットなんて読んでない」とうそぶく記者
長谷川:政治家の側も提示しないといけないし、実はジャーナリストの側も提示しないといけません。
先ほどの例を持ち出したのは、政治家側が「透明にします」と言ったときに、ジャーナリストの側が「あなたたちの政権はいったい何をしたい政権なんですか」と問うていかないといけないんですよ。
枝野さんが「私たちは透明化します」と言って「透明化を枝野幹事長が強調」みたいなことをを書いているだけではダメなんです。そうじゃなくて、私が言う座標軸というのは、私たちは政治を観察するときに、この政治家に何をしてもらえるのかなということがひとつの軸かなと僕は思っている。
その軸から考えると「民主党が鳩山さんから菅さんに代わりました。鳩山さんが積み残している分があります。菅さん、この積み残した分はどうするんですか」と、ジャーナリストの側が問うていく。そのことがジャーナリズムの自立にも繋がるのです。
佐々木:そう。本来は菅さんが言っていることを、より論理的に分析して論考することをジャーナリズムはしなくてはいけない。しかし実は新聞紙面でほとんど行われていない。これは不思議ですよ。
逆にインターネットのブログなどでは、みんなあれこれ分析を書いています。
この逆転現象をメディアの側はいったいどう思っているんだろうと前から疑問に思っていました。ところが記者のひとに聞いてみると、誰もネットなんて読んじゃいないって言うんですよ。読まれていないのは新聞のほうなのに(笑)。
長谷川:いま議論している話は、多くの国民は直感的に分かっていると思うんです。
この前、TBSラジオでコメントしたんですけど、その中で僕が言おうと思っていたことを、女性パーソナリティのアナウンサーの方がズバリ言った、本当にもう核心を突いたんですね。何を言ったか、「マニフェストの残り分をやらないとしたら、民主党政権っていったい何なんでしょうね」と。そういうコメントしたんです。
佐々木:なるほど。
長谷川:これは本当に核心を突いているんです。振り返ってみれば、民主党政権ってあのマニフェストをやる政権なんだと、これまで売ってきたわけです。僕らは、そう理解している。
しかし鳩山政権ではそれが中途半端に終わっちゃった。じゃ、あのマニフェストをどうするのかがすごく大事です。僕はおそらくできないと思う。もし民主党がやらないのなら、彼女が言ったように「じゃ、民主党って何やるの?」という話になるのは、これは当然なんです。
佐々木:そうですね。そこで何をやるのか、なぜマニフェストを変えなきゃいけないのかきちんと問うべきです。その是非についてジャーナリズムの側も答えるべきですね、本当は。
なぜ新聞はTwitterのなりすましを大きく報じるのか
長谷川:いまは幸いにも言論の道具、つまりIT技術がすごく進んだ。ツイッターもあればユーストリームもあるしブログもあるということで、言論空間がすごく拡がっていますね。
佐々木:新聞のツイッター嫌いということを、この前、田原総一朗さんもいってたんです。要するに、政治家と有権者がダイレクトにツイッターで繋がってしまうと、自分たちの存在理由が減る感じがするので、新聞社としてはどうも好きになれない。
だから読売新聞は、ツイッターの成りすまし、けしからんと一面で書いたり、そういうことをしてるわけですね。
実際に今、政治家たちにものすごい勢いでツイッターが広がっている。それに有権者がダイレクトに反応し、そこである種の意見交換がしっかりとした形で行われている状況が、あっちこっちでポツンポツンと出てきている。
少なくともそれは点ではなくて、線か面くらいには徐々になってきている。
ツイッターのユーザーは現時点でおそらく1000万人くらいしかいない。日本人口の十分の一、しかも都市部、なおかつ年齢層も割に低めに偏っているので、実際に選挙に投票に行く六十代、七十代とほとんど重なっていないといった問題がある。
そうするとツイッターとかブログとか、あるいは「2ちゃんねる」も含めていいかもしれないけど、そういったところでの世論形成とか、あるいは支持政党などと、リアルの世論とは微妙にずれている。さらに言うと、マスメディアが演出している世論とは180度くらいずれちゃってるわけですね。
今回、反小沢問題が噴出し、その後の普天間の問題もあって鳩山政権がどんどん追い込まれていく中で、ネットの世界だけを見ると割に客観的で、そうは言っても、事業仕分けなども含め民主党がやろうとしているマニフェストに対しては肯定的に捉えている人も結構多かった。
普天間の問題、それから小沢一郎の問題も含めても、責任を取るのであれば取り敢えず今までの政策を遂行してから辞めてほしいとおっしゃってる方がたくさんいた。このまま放置して逃げるのはけしからんと言っている人もたくさんいる。
でも一方でマスメディアの側は、早く辞めろと大合唱になっている状況があった。で、小沢一郎さんの側は「あんたらがさんざんネガティブ報道をした後に世論調査をやったらそうなるに決まっているじゃないか。だったら小沢一郎はちゃんとしていると報道した後で世論調査をやってみろ」と言った。
マスメディアの側は、新聞報道、それに対応する世論調査、世論調査に関する再度の報道、という強固なある種の世論形成プロセスを握っているので、これが世論だと大声で言ってしまうと。それに対抗する、そうじゃないもっとオルタナティブな世論があるんだということを提示できるまでには、まだ至っていないんですよ。
長谷川:なるほど。
佐々木:多分、民主党内部の枝野さんとか藤末さんとか原口さんとか、ツイッターをやってる議員は、ツイッター上では反応が違うぞと思っているでしょう。でもそれは違んだと言えるほどの勢力にもなっていない。
しかもツイッターとかブログでいろいろ書かれていることを、世論として集約するシステムもないんですね。だから、世論調査をしてこの結果が出ました、一面トップでガーンと報じました、というインパクトには到底及ばない。
ネット上で明らかにオルタナティブな世論が出てきているし、それが暴走しがちなマスメディア世論を補完する圏域として重要じゃないかとなってきている。
しかし、そこを補完するまでの勢力に至らないということです。そういう勢力があることをもう少し集約して見せるような形に持っていかない限り、この状況は変わらないかなという感じがしているんです。
「大事なことは絶対に質問してはいけない」という記者クラブ
長谷川:菅総理の就任会見でフリーランスの方が立ち、何人か質問をされましたよね。
佐々木:ええ。
長谷川:確かニコニコ動画の方も発言されてました。ああいうのを見ると、そうは言っても、論評していく伝えていく空間が明らかに拡がっている。今日、ここでやっている議論もそうですが、割とホンネで話し合える場、空間というのが出来てきている。それはとてもいいことだなと思うんです。
佐々木:そうですね。
長谷川:かつては総合雑誌がそういうことをやっていたのかも知れないんだけど、残念ながら今は活字離れで、みんな青息吐息になってしまいましたね。
佐々木:「月刊現代」もなくなっちゃいましたし。
長谷川:ツイッターのあの短い字数で、どこまでまとまった議論が出来るのかという問題があるにせよ、マスメディアが報じている論壇空間だけが議論の幅なんだというのは、確実に壊れつつあるんじゃないかと。
佐々木:そうですよね。記者クラブ主催の記者会見って本当に不思議な世界だなと昔から思っていて、質問する側とされる側でひとつの演劇をやっているような不思議な感じってあるじゃないですか。
長谷川:そうそう、ありますね(笑)。
佐々木:本質的な質問は絶対に誰もしない。当たり障りのない質問をして当たり障りのない答えをして何となくそこで空気をお互いに感じている・・・。で、本当に重要な質問は夜回りのときしか聞かないっていう文化ですね。
長谷川:そうそう。
佐々木:僕は警視庁の記者クラブをやっていて、たまにテレビ局の新人記者が来て、捜査一課長とかに、ものすごくその場でしてはいけないような質問をバーッとしたりするんです。そうするとみんなシーンとなったりするんです(笑)。
なんで、おまえこんな質問するんだよって。後から、テレビ局のベテラン記者が「おまえ、ちょっと」って引っ張って、こそこそと「こういうことは言っちゃいけないんだ」って諭す。
でも、今考えてみるとそんな質問をしてもまったくいいはずなのに、そこになぜか空気の圧力みたいなのが存在していて劇場化しちゃうというね。
長谷川:うん。
佐々木:記者クラブが今回どんどん解放に向かっていてフリーランスの人が入って、それが芝居の舞台ではなくて本当に議論をする場所になってきているのは非常にいいことなんじゃないかなと。
長谷川:そうですね。
佐々木:議会と同じですね。市議会とかでも本会議ではいっさい重要な話はしなくて、全員協議会のような議員の非公式ミーティングですべて根回しを終えておいて、本議会は粛々とやるだけ。今でも地方議会ではたくさんあると思うんですけど、だんだんそれがなくなってきて、どこでもガチンコの議論しましょうとなってきてるんじゃないかと思うんです。
記者の専門知識が不足している
長谷川:議会のことを言いますと、新聞は国会の議論ももちろん報じているわけですが、新聞で報じられている国会の議論なんておそらく百分の一くらい、ほんのちょっとでしかないんです。ときどき国会の会議録を読んだりするんですが、実は、これは世の中の人が思っているより遙かにレベルが高く、実のある議論があったりするんです。
本会議場の議論はあまりたいしたことないんだけど、委員会レベルでは、結構、問題の本質に迫っている論点がある。手の内をバラしちゃうようだけど議事録はネタの宝庫みたいなところがあるんです。
佐々木:なるほど。
長谷川:そういうのも新聞・テレビというメディアでは報じきれないけど、ツイッターとか動画では報じられる可能性もあるじゃないですか。それが表に出ることによって、またひとつ物事が動いていく、そういうプロセスも結構あるかも知れないなと。
例えばこれは国会とは違うけれど、民主党の議員連盟の勉強会で、デフレを克服しなきゃいけないよねという話をしているときに、連合の方が、日銀は雇用確保も目標に掲げたらいいんじゃないのと発言をした。民主党の最大の支持団体である連合が、日銀に注文をつけたわけです。
それでもかつてだったら新聞・テレビはとてもじゃないけど、そんな細かい話まで報じなかったと思うんです。しかし、今やツイッターとかいろんなメディアがあって、その話が表に出ちゃうんですよ。
そうするとその後、日銀の総裁記者会見でそのことが質問に出て、だんだん話が大きくなっていくんです。
逆にいえば、ナマで行われている政治、政策論議にはまだすごく豊かなものがあるなと思っているんだけど、それをメディアが切り取れていないわけです。
佐々木:専門性が不足しているのが大きいんじゃないでしょうか。
長谷川:それは大きいですね。
佐々木:経済部でもそうですけど、どんどん配置換えしていくじゃないですか。ヘタをすると何ヵ月とか、そういうオーダーで。そうすると、ひとつの分野で詳しくなろうと思っても勉強しているうちに終わってしまう。
気がついたら、いろんな部署を回ってジェネラリストにはなっているけれども、スペシャルな業界知識は何もないという記者が増産されちゃっているのが現状だと思うんですね。
だから、それこそ議事録を読んでも、あるいは専門家に話を聞いても、それがどのくらい重要性があるかどうかという、そもそも判断する基準さえ持っていない。
前に某通信業界大手の広報室長と酒を飲んでいて、そうだよなって思ったんだけど、とにかく日経なんかでも通信担当がどんどん異動して代わっていく。ヘタすると6ヵ月くらいで代わる。そうすると、それまで流通やってましたとか、鉄鋼やってましたといって、全然知識がない。
しようがないから3ヵ月くらいかけていろいろ勉強してもらって教えたりもする。だけれど、ようやく勉強が終わってだいたい業界知識が出来たころになると、また異動していなくなっちゃう。その繰り返しだって言いますね。
以降 vol.3 へ。(近日公開予定)
(この対談は6月9日に行いました)
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
▲このページのTOPへ ★阿修羅♪ > マスコミ・電通批評10掲示板
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。