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どこにも存在しない「世論」を乱発するメディア「世論調査」報道の欺瞞(SAPIO)-「世論調査民主主義」はもう賞味期限切れ http://www.asyura2.com/09/hihyo10/msg/480.html
「どこにも存在しない「世論」を乱発する新聞・テレビ「世論調査」報道の欺瞞 文=松本正生(埼玉大学教授) マスコミは頻繁に世論調査を行ない、その結果をもとに「これが世論だ」と主張する。だが、そのようにしてマスコミがつくる「世論」は本当の世論なのだろうか。埼玉大学教授で、同大学社会調査研究センター長の松本正生氏が論じる。 ・「世論調査」報道の欺瞞 例えば朝日新聞は、内閣発足後初めて不支持率(45%)が支持率(41%)を上回ったことを見出しに打っている。また、読売新聞は「小沢氏は幹事長を辞任すべきだ」と答えた人の割合が74%に達したことを大きく伝えている。数字に多少の違いはあるものの、国民の多数が鳩山内閣にノーをつきつけ、小沢幹事長に強く辞任を迫っているように報道している点は同じだ。 だが、そのような新聞の報道する世論を、ありのままの世論と受け止めていいのだろうか。 こんな例がある。かつての「麻生人気」報道である。麻生太郎氏は2008年9月に自民党総裁、そして首相に就任する前後、新聞、テレビが頻繁に行なった「次の総裁(首相)にふさわしい人」調査で、自民党や民主党の有力者を抑えてトップに立った。漫画好きであることなどから、特に若者や無党派層の間で人気が高いという報道が繰り返し行なわれた。 「世論は麻生を支持している」というこうしたマスコミ報道に引きずられ、麻生氏が小派閥の長にすぎなかったにもかかわらず、「選挙に勝てる総裁」として自民党内に麻生支持が広まり、実際の総裁選では与謝野馨氏ら他の4人の候補を圧倒した。 だが、発足当初50%程度あった内閣支持率はあっという間に低下し、翌年2月には10%台前半という、いわゆる「危険水域」をも下回るほど低水準に落ちた。そして、8月の総選挙では自民党は大惨敗を喫した。 世論調査の結果に基づき、これが世論だとしてマスコミが盛んに報道した「麻生人気」。自民党は結局、世論調査に完敗したのである。 なぜ、このようなことが起きるのか。理由のひとつに世論調査の回数の問題がある。」 国民人気の高い小泉純一郎氏が01年に自民党総裁、首相に就任して以降、自民党に限らず民主党もマスコミの世論調査報道に大きく影響され、総裁や代表を決めるようになっている。 ちょうどその頃から世論調査の回数が増え、政局が動くたびに世論調査が行なわれるようになった。以前は各社とも年に5、6回だったが、05年の小泉郵政解散選挙の際、朝日新聞は1か月足らずの間に実に8回も世論調査を行ない、去年9月の鳩山内閣発足以降でも、読売新聞は今年2月の調査までで8回の世論調査を行なっている。このように頻繁に世論調査が行なわれるので、政治の側が世論調査の結果を重視せざるを得なくなっている。 世論調査が頻繁に行なわれるようになった背景には、調査方法の変化がある。 10年以上前までは主に調査員が調査対象者を戸別訪問して行なう「面接調査」方式が採用されていたが、現在は「RDD(Random Digit Dialing)」方式が主流となっている。これはコンピュータがランダムに数字を組み合わせて作成した番号にオペレーターが電話をかけて回答を得るという方法で、これまでと違い、マンションのオートロックやインターホンの壁を乗り越えて対象者にアプローチできるようになったうえに、調査にかかるコストや時間も大幅に減少した。そのため「今すぐ調査をしたい」という無理な注文に対応することが可能になり、乱発されるようになった。 「麻生人気」が実態以上に喧伝され、自民党がそれに引きずられてしまった理由もそこにある。 私は調査会社が実施している世論調査の現場で、対象者とオペレーターの電話での会話をモニタリングしたことがあるが、とにかく回答が早いことに驚いた。選択肢が4つあったとしても、2つ目を読み上げる頃にはもう回答が返ってくる。対象者には早く終わらせたいという気持ちがあり、オペレーターが長文の質問文を読み上げていたら、途中で電話を切られかねない。いきおい、質問文も選択肢も極めてシンプルになるので、当然のことながら、ざっくりとした調査しかできなくなる。 「サイレント・マジョリティ」である一般の人はふだんから内閣を支持する、支持しないなどと考えているわけではなく、質問されて初めて考える。しかも、早く調査を終えてしまいたいという心理から、熟考することなく反射的に「イエス」「ノー」と答える傾向が強いのだろう。 それを如実に物語るデータがある。」 明らかにイエス、ノーの答えの割合が増加している。これはもちろん、「サイレント・マジョリティ」が、積極的に自分の意見を表明する「ノイジー・マジョリティ」と化したからではない。 「重ね聞き」「言い回し」による回答結果への影響もある。 たとえば内閣支持率調査で「支持しますか、支持しませんか」という質問に「わからない」などと答えた回答者に、再度「あえて言えばどちらですか」と聞くのが「重ね聞き」だ。これを積極的に行なえば、必然的に支持率、不支持率の数字は高くなる。また、質問文の「言い回し」が回答に影響を与えることがある。例えば、内閣改造時の世論調査で、単に「〜内閣」と言って支持、不支持を聞く場合よりも「〜改造%煌t」と言って聞く方が支持率は高く出る。「改造」という言葉のプラスイメージに回答者が影響されるからだ。 この「重ね聞き」や「言い回し」の影響が大きく出たと思われるのが、08年8月にマスコミ各社が行なった福田内閣に対する緊急世論調査だ。「同じ時期」に「同じ調査手法」で実施されたにもかかわらず、新聞大手3紙と日経で、支持率が24%から41%まで大きな開きが出たのである。もっとも低かったのは朝日で、高かったのが読売である。専門家の間では「世論調査の信頼性の危機」と言われたほどだ。 実は、朝日、毎日が「重ね聞き」を行なってこなかったのに対し、読売、日経は行なってきた。また、他の新聞と違い、読売だけは「福田改造%煌t」という言葉を使って支持、不支持を質問していた。 また、RDDは20代の若者、特に男性の意見を掬い上げにくい。若者層は固定電話を持っていない割合が高いためアプローチしにくいからだ。全有権者中20代が占める割合は約14%だが、今の世論調査の回答者に占める20代の割合は5%程度と3分の1ほどに過ぎないことが多い。そもそも若者層は他の世代に比べて「わからない・答えない」の比率が高くなるのが普通だが、その若者の世論が反映されにくいため、余計にイエス、ノー比率が高くなってしまうのである。」 小泉内閣以降はマスコミが報道する世論が政治、政局を動かし、首相をつくるのは世論だとすら言われてきた。選挙に関する世論調査の結果が、実際の投票行動に影響を与えることもある。世論調査の結果をもとに、ある候補、ある政党が有利と報道されると、勝ち馬に乗る投票者が増える「勝ち馬効果」が生まれるのである。 忘れてほしくないのは、民意の動向を探る世論調査はレファレンダム(国民投票)の代用品ではあるが、あくまでもシミュレーションである、ということだ。今の世論調査は、そのときどきの人々の反応を映し出しているだけに過ぎない。私はそれを「お返事世論」と呼んでいるが、「内閣改造がありましたがどうですか?」と呼びかけたら、「いいんじゃない」と軽い返事が返ってくるだけだ。 にもかかわらず、世論調査の結果が政治の行方を左右したり、選挙への流れを決したりしたら、議会や選挙の存在意義が危うくなるといわざるを得ない。シミュレーションが現実を動かす力を持つならば、その力を封じ込める必要があるだろう。 だが、こうした「お返事世論」にも若干の変化が起きている。 例えば、去年5月に民主党代表選が行なわれる前、マスコミは世論調査を行ない、その結果から「岡田克也氏圧倒的優位」と報道した。従来ならば、その世論に影響されて民主党内が岡田氏支持に傾くはずだった。ところが、結果は鳩山氏が勝利した。政治が世論を裏切ったわけである。 では、この裏切りを世論はどう見たかといえば、意外にもそれほど気にかけなかったようだ。 代表選の直前までは岡田氏と鳩山氏のどちらがいいかと聞かれ、岡田氏を挙げる人があれほど多かったにもかかわらず、それからわずか2、3日後の世論調査で「次の首相は麻生氏と鳩山氏のどちらが良いか」と問われると、今度は鳩山氏が圧勝したのである。世論調査を多用するマスコミの側も問題だが、答える世論の側の衒いのなさも想像を超えるようになってきた。 原因は、あまりに頻繁に行なわれる世論調査に国民も食傷気味になってきたからではないだろうか。そう考えると、「世論調査政局」や「世論調査民主主義」もそろそろ賞味期限を迎えたと言えるかもしれない。(談)」
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