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2010年01月05日11時06分 / 提供:Business Media 誠
Business Media 誠
朝日新聞の世論調査を批判したら、本社に呼ばれて怒られた(8)
"『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(著・窪田順生氏、講談社プラスアルファ新書)"
内閣支持率○○%――。こういった大手新聞社やテレビ局の世論調査に対し、どのようなイメージを抱いているだろうか。ノンフィクションライターの窪田順生氏は著書『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』の中で、「報道機関はこの『世論調査』において、とても『調査』とはいえないようなイカサマをおこなう」と指摘している。
しかしこの本の内容をめぐって、朝日新聞からお呼びがかかった窪田氏。本社に足を運んだ彼は、朝日新聞の担当者からどのようなことを言われたのだろうか。
●日本の記者クラブを世界遺産に
上杉 記者クラブがあるというのは「非常に珍しいことである」ということを知っている人は少ない。韓国では盧武鉉(ノムヒョン)政権が崩壊し、記者クラブはなくなりました。いま日本以外で記者クラブがあるのは、ジンバブエくらい。
窪田 つまり独裁政権のような国で、記者クラブが残っているんですね(笑)。
上杉 またジンバブエの場合、日本の記者クラブ制度を真似して、作り上げたと聞いています。それほど世界的にも珍しいのです。そこで思い切って、日本は記者クラブを世界遺産に登録申請してみてはどうだろうか?
窪田 “無形文化財”みたいな感じで(笑)。
上杉 “負の世界遺産”でもいいですけどね(笑)。
土肥(編集部) メディアに関することで、気になっていることはありますか?
窪田 世論調査ですね。著書『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社プラスアルファ新書)にも書きましたが、新聞の世論調査というのは質問内容によっていかようにも変えることができます。例えば「Aという問題が大問題になっていますけど、どう思いますか?」と聞かれたら、ほとんどの人は「問題があります」と答えてしまう。世論調査をする新聞やテレビが、スピンを仕掛けて世論を作っている――といったことを知らない人は多いのではないでしょうか。
窪田 実はこの本の冒頭で、かつて朝日新聞が一面を使って掲載した世論調査に「情報操作」があったケースを紹介しています。これは朝日新聞のさる編集委員が『新聞批評』という業界誌に発表した論文を引用させていただいた。自分の新聞に対して非常に厳しい目をむけ、「悪しき誘導」と表現していて素晴らしいことだと思って、こういう話を業界紙ではなく新聞の一面で読者に伝えていないのは残念だと書いたんです。
すると、ご本人から朝日新聞の本社に呼び出され、「私はオピニオン面で評論家の宮崎哲弥氏との対談でこの問題にふれている」とお叱りを受けた。それが朝日新聞の読者800万人に伝わっている事実なのかはさておき、「それは気づきませんでした」と謝りました。それはいいのですが、驚いたのはそこで「朝日新聞の世論調査がインチキだというように読めるじゃないか」と怒られたことです。「私は世論調査を是正するために努力をしたのに、こんな書かれ方をしては台無しだ」と。
上杉 「是正する」ということは、世論調査が正しくないことを認めていることじゃないですか(笑)。
窪田 でも面白いなあと思ったのは記者クラブと同じように、世論調査はメディアにとってアキレス腱のひとつ。自分たちが、世論誘導していることを薄々感じているのです。
上杉 痛いところをつつかれると逆ギレするか、無視するしかない。でも朝日新聞に逆ギレする勇気はないんじゃないでしょうか。
窪田 最近よく「新聞は最も信頼できるメディア」だという世論調査の結果がでていますが、それはこのような質問をしているから。「2ちゃんねるのような巨大掲示板やブログには誹謗中傷がありますが、新聞についてはどのように思いますか?」――。誰だって「信頼できる」と答えるに決まっているじゃないですか(笑)。
上杉 まさに誘導尋問ですね。
窪田 あまりにも各社の世論調査がヒドイので「日本新聞協会などで質問の基準を作ればいいのではないでしょうか」と聞いたんです。でも「う〜ん」といった感じで、お茶を濁していましたね。
上杉 窪田さんが言っていることはまったく正論なんだけど、彼らは絶対に否を認めないですよ。今頃、朝日新聞社内では「窪田が、こんなことを言ってきやがった」などと話しているはず。
窪田 朝日新聞の編集委員の人は報道機関で働いているのだから、文句があるのであれば文字で説明すべき。このように言うと、また「むにゃむにゃむにゃ」といった感じでお茶を濁していましたけど。
上杉 メディアは絶対に争い事や問題を表に出さないですから。裏でなんとか誤魔化そうとします。問題があれば紙面で書けばいいのに、裏で誤魔化そうとするからさらに突っ込まれてしまう。問題があればきちんとそのことについて反論すればいい。それでも相手が何か言ってきたら、さらに反論すればいいだけのこと。そうすることによって、いい意味での緊張関係が生まれるんですよ。
●読売新聞は紙面の中で反論すべき
窪田 最近ではメディアがメディアを訴えるケースがあったりして、これは理解できませんよね。
土肥 押し紙※をめぐって、読売新聞が新潮社を訴えましたよね。
※販売部数を水増ししていると指摘した『週刊新潮』の記事で名誉を傷付けられたとして、読売新聞社は新潮社を相手取り、損害賠償と謝罪広告の掲載を求める訴えを東京地裁に起こした。
窪田 読売新聞には訴える前に「書きなさいよ」といいたいですね。彼らは1000万部の部数を誇っているんだから、書けばいいんですよ。
上杉 メディアとメディアの丁々発止があって、それを読むことによって読者のリテラシーが上がるんですよ。
窪田 押し紙問題について、某大手メーカーが読売新聞を訴えるかもしれない、という情報が流れていた。なのでその大手メーカーをけん制する意味で、読売新聞は新潮社を訴えたのかもしれない。仮にそうだとしても、やはり読売新聞は紙面の中で反論すべきだったと思います。
上杉 メディアは社会の問題に目を向けて報じる義務があるわけだから、自分たちの問題もきちんと報道すべきですよね。自分の身にふりかかる問題に関して、まるでなかったような扱いにしていれば、やがて読者からの信頼も失われていくでしょうね。
海外メディアの場合、自分たちのスキャンダルでも平気で書く。日本人の感覚からすると、それは自爆行為かもしれないが、でもその方がジャーナリズムとして健全な姿勢だと思いますよ。
窪田 日本的な……「まあまあまあ」で解決してしまうんでしょうね。それでも文句を言う奴に対しては「お前は世間のことが、分かってねえなあ」といった感じで、批判されてしまう(笑)。
例えば『噂の眞相』の内容に対して、さまざまな意見がありました。「絶対に認めない」といった声もありましたが、それでも『噂の眞相』のような雑誌があることで、一定の潤滑油になったのではないでしょうか。政治家や企業のエライさんが不倫してどうのこうのとか、どこそこの企業は労働組合と給料のことでもめているとか、メディアのことを批判したりとか。ただそうした記事があることで、メディア自身が我が身を振り返ることができたのではないでしょうか。