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http://www.magazine9.jp/shibata/091223/
2009年も残りわずか、あわただしい年の暮れのなかで、各メディアはそれぞれのやり方で「今年の回顧」をおこなっている。 「今年はどんなニュースがあったのか」を振り返り、同時に、そのニュース価値をあらためて再評価するという形で、「今年の10大ニュース」を選ぶという試みが各メディアでしばしば行われている。 なかでも長年にわたり、最も力を入れているのは読売新聞だ。読者の投票で選ぶという独特の方式を続けており、今年もその結果を12月19日の紙面で「日本10大ニュース」、20日の紙面で「海外10大ニュース」を発表した。 それによると、国内ニュースでは@衆院選で民主308議席の圧勝、歴史的政権交代で鳩山内閣発足A日本でも新型インフルエンザ流行B「裁判員制度」スタートが上位3位、海外ニュースでは@新型インフルエンザ大流行、世界で死者相次ぐAオバマ米大統領が就任Bマイケル・ジャクソンさん急死、の順に並んでいる。 今年は経済状況の悪化が一段と進むなか、全体的には暗い年だったという印象が強いが、その反動として「明るいニュースがほしい」という読者の期待の現れか、国内10大ニュースの中に「WBC連覇」「イチロー選手の9年連続200本安打」「巨人の日本一」とスポーツニュースが3つも入るという、いささか首をかしげるような結果もあった。だが、これも暗い世相を映す一面だといえないこともない。 このほか、各メディアがさまざまな工夫を凝らして10大ニュースを選んでいるだけでなく、「わが家の10大ニュース」といった形でそれぞれの家庭でも回顧がなされているが、以下、私なりの「今年のニュース回顧」を記してみたい。 まず、トップは文句なしに「歴史的な政権交代」だろう。例年だと各メディアで選ばれる10大ニュースは、トップからしてバラバラに分かれることも珍しくないが、今年は、トップだけはどこでも「満場一致」だったのではあるまいか。 極端な言い方をすれば、今年の10大ニュースは「1位だけでいい」といっても過言ではないのかもしれない。読売で2位の新型インフルエンザなどは、騒ぎだけは大きかったかもしれないが、世界中で何百万人もの死者が出た1918年の「スペイン風邪」とは比較するまでもなく、国内についてはそれほどのニュースではなかったといえよう。 それより、政権交代にかかわりのあるニュース、「八ッ場ダムなどの中止」「郵政民営化の見直し」「予算編成での事業仕分け作業の導入」「普天間基地問題」「子ども手当て」「暫定税率」などと数え上げていけば、それらのほうが大きいニュースだったかもしれない。「1位の政権交代だけでいい」という冗談も、まんざら誇張とも言えないわけである。 総選挙で民主党が圧勝し、衆院での議席数が大逆転した今回の政権交代は、それほどの大ニュースだったのだ。なにしろ戦後60余年間、ほとんど自民党の「一党独裁」が続いてきたといってもいい状況だったのだから、文字通り「歴史的な大転換」だった。 このニュースは、自民党・公明党支持者たちからみれば、暗いニュースの一つだったのかも知れぬが、日本の民主主義にとっては間違いなく「明るいニュース」だといえよう。日本も「政権交代のできる国」であることを世界に示したからだ。 その意味では間違いなく「明るいニュース」である政権交代も、それによって、日本が本当によくなるかどうかは、また、別の問題である。 鳩山政権の発足から約100日がたったが、最初の滑り出しの好調さから比べると、やや陰りがみえてきた。12月21日付で報じられた朝日新聞の世論調査によると、鳩山内閣の支持率は49%、前回の11月調査の62%から急落した。不支持率も34%(前回は21%)になった。 その理由として、鳩山首相がリーダーシップを発揮しているとは「思わない」人が74%に達し、内閣不支持の人の半数が理由として「実行力の面」を挙げたという。 どんな内閣でも発足から100日もたつと支持率が落ちてくることは通常のことであり、49%の支持率は、近年の自民党内閣に比べれば、低いとはいえない。発足直後の華々しい滑り出しと新鮮な印象から、異常なほどの高い支持率があったということなのだろう。 もっとも、鳩山首相のリーダーシップの不足については、そう思われても仕方のない部分がいくつかあった。たとえば、高級官僚の天下りは認めないといっていた矢先に、日本郵政会社の社長に元大蔵次官を据えたり、透明性を高めるといっていた官房機密費は改めなかったり、といろいろある。 しかし、日本のメディアが筆をそろえて「鳩山首相は決断力がない」と批判した普天間基地問題については、日本のメディアのほうが間違っていると私は思う。なにしろ、自民党政権でさえ普天間基地の移転が決まってから13年間も動かなかったテーマである。それが、発足からわずか3ヶ月の鳩山政権に「年内に決断すべきだ」「決めないのはリーダーシップがないからだ」とメディアが大合唱しているのはどうしたことか。 しかも、その大合唱の理由が「米国政府が早く決めてくれと言っているから」というのだから驚く。いったい、どこの国のメディアなのか。メディアが「愛国的になりすぎる」のは困ったことで、この問題では愛国的でないところは結構なことなのだが、それにしても日本のメディアはいつからこんなにも米国政府に忠誠心を抱くようになったのか。 沖縄の米軍基地の状況は、占領時代の延長そのままである。沖縄返還から40年近くたつというのに、わずかな縮小もできないとはどういうことか。もともと外国の軍隊にこれほど広大な基地を提供している独立国は、世界にもそうはないのである。政権交代を機に、その原点に立ってもう一度、一から交渉しようという時間を与えようとさえしないメディアの「せっかちさ」とはなんなのだろう。 それも、普段から親米的な産経新聞や読売新聞の論調だというのなら分かるが、朝日新聞や毎日新聞の論調までそうなのだから、ただただ驚くばかりである。 ところで、話は変わるが、読売新聞の国内ニュースの第3位は、「裁判員制度のスタート」 だった。これが、日本の司法の改革に役立つのなら、いくら評価しても異論はないが、その点はまだなんともいえない。 それより、司法関連のニュースとしては、第10位の「『足利事件』の菅家さん釈放、DNA鑑定に誤り」のほうを私は重視したい。無実の人を死刑や無期懲役にする「冤罪事件」ほどひどい人権侵害はない。今年はまた、足利事件に続いて1967年の「布川事件」の桜井さんと杉山さんにも最高裁が「再審の開始」を決定した。 布川事件のほうはまだ無罪判決が出たわけではないが、まず間違いなく出るだろう。菅家さんは17年間、桜井さんと杉山さんは29年間、それぞれ刑務所に入れられていたのである。 足利事件では、警察と検察は、菅家さんに謝ったが、裁判所は一切、謝っていない。裁判官は無実の人に有罪判決を下したことに、良心の痛みは感じないのだろうか。 日本の刑事裁判は、起訴された事件の99・9%が有罪判決を受けるといわれる。99・9%という数字は、かつては日本の警察・検察の優秀さを表すものだといわれたが、いまでは、日本の裁判所の判断力になさ、「警察・検察の言いなり」度を示す指標だとさえ言われている。 いずれにせよ、相次ぐ冤罪事件は、日本の司法の劣化を象徴するものであり、今年はそれが目立った年だったといえよう。 司法の劣化といえば、もう一つ、まったく異質の事件だが、集合住宅の郵便受けに共産党のビラを配布した僧侶に「住民の平穏な生活を乱した」として最高裁が住居侵入罪で有罪判決を出したのも、今年のニュースであり、司法の劣化を示すものだ。 以前、自衛隊の官舎に「自衛隊のイラク派遣反対」のビラを入れた市民が逮捕され、やはり有罪判決を受けたのと同じケースである。 これが、なぜ問題かといえば、蕎麦屋や寿司屋のビラなら逮捕されないのに、政党のビラやイラク派遣反対のビラなら逮捕されるということは、いわば「思想犯の取締り」であり、戦前の社会に逆戻りしたことになるからである。 僧侶の罪は「罰金5万円」で、「部外者立ち入り禁止」の立て札もあったそうだから、そのくらいならやむを得まいという人がいるかもしれないが、僧侶は警察署に23日間、イラク派遣反対の市民は57日間も留置されたのである。この警察の暴走をチェックしない裁判所も裁判所なら、メディアもメディアである。こんなときこそ、大合唱をしてほしいものである。 今年のニュースは、他にもまだまだあるが、ひとまずペンを置く。皆さん、よいお年を! |