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http://www.the-journal.jp/contents/aikawa/2009/11/2.html
【Commons】
数年前、ある県の幹部に面と向かってこんなことを言われたことがある。
「あんたがあんな記事を書いたから大変なことになってしまった。これまで丸く収まっていたのに、いったい、何であんな記事を書いたんだ!」
県幹部は怒りで体を震わせ、当方を睨みつけた。厳しい表情をした彼の部下たちが当方を取り囲み、犯罪者を見るような視線をぶつけてきた。その余りの対応に当方、愕然とした。そして、なぜか無性に悲しくなってしまった。日本は一応、法治国家のはず。ヤクザの面々が言うのならともかく、お役人がそんなことを口にしてはいけない。それをいっちゃおしまいでしょう。こんなことを思いながら、当方、県の幹部たちに質問を重ねた。
県幹部らを激怒させた記事というのは、県内のある土地改良区で長年、続けられていた農業用水の不法転用の実態を明らかにしたものだ。週刊ダイヤモンドに短期間に集中連載した。地域でたった一人で盗水問題を告発していた人物と知り合ったのが、きっかけだった。県幹部は「その告発者が悪い」とまで言い放った。事実関係はこうだ。
その県のある地域で国営灌漑事業が実施され、農業用水が供給されるようになった。そのおかげで地域農業は発展し、有数の畑作地帯となった。と同時に、交通の便の良さなどの「地の利」が着目され、地域内への企業進出も進んでいった。地域の自治体にとって願ってもないことだった。しかし、一点だけ難があった。農業用水は潤沢ながらも、工業用水の手当がつなかいことだった。そこで考え出された策が、農業用水の不法転用。農業用の水路から水をこっそり工場内にまで引き込み、利用するという違法行為である。主導したのは、施設を管理する地域の水利組合(土地改良区など)。と言っても、そのトップは首長など地域の権力者である。
農業用水を企業に回しても地域農業への支障が生じないこともあり、半ば公然と、水のヤミ転用が広がっていった。一方、農業用水を利用する企業側は事情がわからぬまま、使用料を水利組合(土地改良区)に支払っていた。こうして表に出せない不透明なカネがみるみる膨らんでいった。
こうした違法行為の横行に告発者が異を唱え、行政や地元メディアなどに訴えたのだが、全く相手にされなかった。地域のタブーに触れる行為であったからだ。彼は逆に、変人扱いされてしまったのである。
告発者の話を聞き、取材を始めた当方は首長や土地改良区、農家、農業用水を利用する企業などを訪ね回った。もちろん、農水省や国土交通省の出先機関にも足を運んだ。そのうえで、農業用水の不法転用の実態を明らかにする記事を連載した。
だが、告発者と同様に当方も、企業に農業用水の利用をやめさせることが真の解決策とは考えていなかった。もともと水はみんなのもの。また、灌漑施設も税金で造ったものである。しかも、企業が利用することで地域農業への影響はない。つまり、農業用水の水利権量そのものが過大なのだ。こっそり、ヤミ転用するのではなく、きちんとルール化して融通し合うべきだと考えた。なぜなら、一応、日本は法治国家であるからだ。また、新たに工業用水用の水路をわざわざ作ることなどはせず、現状のままで(農業用水路を活用して)企業が水を使えるようにすべきだと考えた。税金のムダ使いを防ぐためだ。そして、法律や制度にそうしたことを阻む部分があるならば、改正すべきではないかと考えた。
こうした趣旨の記事を書き続けたが、行政側の反応は冒頭で紹介した通りだった。農水省や国土交通省の現地調査が入るなどしたため、余計な仕事が増えてしまったと思ったのかもしれない。(この問題はその後、水利用における構造改革特区となり、企業への転用が認められた)。
それにしても、「いままで丸く収まっていたのに」と怒りをぶつけた御仁は行政の使命をどうように考えているのだろうか。そして、実態とのズレが拡大する一方の法律をそのままにしておく国会議員たちは、議員の使命をどのように考えているのだろうか?まさか、国会議員の使命は立法を担うことではなく、「次の選挙に勝つことだ」と思ってやいないだろうか。