01. 2013年3月25日 07:56:40
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寝不足の子どもは多動や学習障害状態になる国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 睡眠学(8) 2013年3月25日(月) 川端 裕人 日本の子どもたちの睡眠時間が減っているのは、大人と同様。前回は未就学児や小学生の話だったが、三島さんによると、問題はそれに留まらないという。 「睡眠不足による精神症状の出方は、年代ごとにちょっと違うだけでずっと大人まで続くんです」と。 例えば── 「小学生は、自分の眠気をうまく表現できないんで、むしろ情緒的な反応を示す、もしくは行動面で示す。落ちつきがなくなったり、多動状態になってくる。中高生になると、今度は、キレやすいといった問題ですね。実は精神科医なら経験的に知っていることなんです。例えば統合失調症とか、躁うつ病の躁状態の方で、穏やかではない精神状態の人がいるわけです。その要因に、不眠で眠気が強いことがありえる。いったん寝られると、興奮がおさまることがよくあるんですね」
「これは、実は誰でもそうなんだと思います。自分自身について言っても、寝不足のときは、ちょっと不愉快なことがあると、強く反応して声を荒らげてしまったり。普段は、感情面で爆発しないで済ませられていても、子どものようなプリミティブな反応を示す大人もいます。でも、相対的に言えば、子どもは感情爆発、専門的には情動失禁といいますが、喜怒哀楽のコントロールがうまくいかないのと、学習面での問題。大人になってくると、感情面のほうが抑制がきいて、パフォーマンスの低下が問題になってきます」 ※睡眠不足と精神症状に関する三島先生の最新の研究結果はプレスリリース「睡眠不足で不安・抑うつが強まる神経基盤を解明」(国立精神・神経医療研究センターのサイト)をご覧ください。 子どもの睡眠不足の問題から、実に大きな問題へとつながってしまった。 とりあえず、子どもに議論を限定しても、注意欠陥・多動性障害や学習障害のような状態になるというのは驚きであると同時に重たい。最近の子どもはキレやすくなった、などという人たちがいるが、かりにそれが本当だとしても、「ゲームのやりすぎ」「ネットの影響」などと単一のスケープゴートを探すより、睡眠不足も含めて様々な要因が絡みあっていることを想定すべきだろう。世の中にあらわれる「現象」で、単一原因のものなどほとんどあり得ないのだから。そして、結局は何がどれだけ効いているか、そして、制御可能な要因はどれか、という問題に帰着するわけだから。 ふたたび、「夜10時以降の就寝問題」に戻る。 「例えば、どんなに夜型の生活になって昼夜逆転しても、それはそれで体は対応できるんですね。でも、ほとんどの人は、朝、起きる時間に縛られてるから、結局、夜型になればなるほど寝不足になるわけです。今は子どももそれに巻き込まれてしまってるんですね。とりわけ就学前児童だと9時間以上、睡眠をとらなければならない。お母さんが朝早く出勤しなければならなくて、例えば7時に子どもに食事をさせるなら、夜の10時頃には就寝してなければ、基本的には寝不足になりますよね」 つまり、調査にあった「午後10時に起きている子ども」というのは、ある意味でぎりぎりのライン上にいるわけだ。 そう言えば、ぼくの保育園仲間の母親に、実母(子どもから見た祖母)から「子どもが寝る時間が遅い」と言われ、「そんなこと言っても、こっちはめいっぱい」と悲鳴をあげている人がいた。ぼくも、息子の就寝時間がだんだん遅くなり、横になっても目が冴えたままで11時くらいになっても入眠しないものだから、もういっそベビーカーで散歩すればそのうちに眠くなるのではないかと、マンションの前の道を行ったり来たりしたことを思い出す。酔っ払いのおっさんに「こんな時間まで寝かさないなんて、どうかしている」と言われて「大きなお世話!」と返しそうになったっけ。 酔っ払いのおっさんはともかく、孫の入眠時刻を気にする実母は、そこまで言うなら、助けてくれー! と言いたくなるが、それはそれで、家にやってくると「冷蔵庫の中が整理できない」「そもそも買い置きが少ない」とか、世代的な価値観のずれからかえってストレスが溜まるので、実母に頼りたくない! という話も聞いた。 では、今の社会で、この問題にはどんな解決がありえるのか。 「うーん、未就学児の睡眠に限って言えば、それこそ24時間保育──」と言いかけて、三島さんは口をいったん閉ざした。 「まあ、現実的でない話をしてもしようがないですね。お母さんたちのライフスタイル、ワークスタイルは決まってるでしょうから、それに合わせつつ、夜10時に眠らなければならない子には、照明のテクニックなども使って体内時計を修正してあげるような心構えも必要でしょう。もっとも、お母さんが非常にロングワーカーで、帰宅時間も遅い、家を出る時間も早いなんてことになったら、物理的にお子さんの睡眠は圧縮されるわけです。そのようなときには、レスキューのしようがない。アメリカなんかですと、ベビーシッターを使って自分の帰宅前にご飯でも、就寝の準備でもさせて、寝かしつけるアルバイトとかが山ほどあるわけで、もうちょっと家の中にまで入り込むような育児のサポートがないと、子どもの睡眠習慣は保てないですよね……」 女性と子どもの睡眠の問題は、社会の問題。そして、それは非常に根が深く、働く女性自身の生きづらさ、子育てのやりづらさ(それは、直接的に少子化にもつながりかねない)から、子どもの情動や学習面での問題にもつながっていくものであり、とても大きな問題でもある。そのように捉えるのが妥当だ。 女性と子どもの睡眠はとても大きな問題だ。 つづく
(このコラムは、ナショナル ジオグラフィック日本版公式サイトに掲載した記事を再掲載したものです) 三島和夫(みしま かずお) 1963年、秋田県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部部長。脳病態統合イメージングセンター部長。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。秋田大学医学部精神科学講座助手、同講師、同助教授を経て、2002年米国バージニア大学時間生物学研究センター、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員助教授。2006年6月より現職。2010年4月より日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事、日本生物学的精神医学会評議員を務める。 川端 裕人(かわばた・ひろと) 1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。ノンフィクションに、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。サッカー小説『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)は、4月よりNHK総合でアニメ「銀河へキックオフ」として放送中。近著は、独特の生態系をもつニュージーランドを舞台に写真家のパパを追う旅に出る兄妹の冒険物語『12月の夏休み』(偕成社)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社)(『雲の王』特設サイトはこちら)。 ブログ「リヴァイアさん、日々のわざ」。 |