01. 2013年3月10日 08:06:26
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イオンの効果に生じた疑問、技術者を直撃 特集担当者から 2013/03/08 18:10 近岡 裕=日経ものづくり 2012年末、イオン系放射物の効果を疑問視する声がにわかに大きくなりました。空気清浄機など白物家電に搭載され、「ウイルスや細菌をやっつける」とメーカーが説明する、あの技術です。「プラズマクラスター」や「ナノイー」と表現した方が早いかもしれません。 きっかけは同年11月の消費者庁の発表です(ニュースリリース)。プラズマクラスターを搭載した電気掃除機に対し、景品表示法違反があったとして、同庁がシャープに措置命令を出しました。「掃除機の中も、お部屋の中も、清潔・快適」といったパンフレット上の言葉が、掃除機の使用時間が空気清浄機と比べて短いのに「部屋中の空気をきれいにするという誤解を招く恐れがあった」というものです。これに対し、同社は直ちに社内で再発防止策などを講じました。ただし、同社は「プラズマクラスター自体の性能は否定されていないし、そのことは消費者庁にも確認した」と強調します。 しかし、私がこの発表から受けた印象は「プラズマクラスターの性能に疑問符がついたのでは?」というものでした。不謹慎と言われるかもしれませんが、景品表示法違反として指摘された点は「宣伝文句にちょっといきすぎがあっただけ」と、とらえることもできなくはありません。とかく宣伝文句は尾ひれが付きがちです。しかし、同庁の発表資料にあった「性能を有さない」という文言を、本誌の記者としては見過ごすわけにはいきませんでした。 ちょうどその頃、医学界からプラズマクラスターやナノイーなどの効果を「否定」する論文が発表されました。著者は、国立病院機構仙台医療センターの医師の方です。プラズマクラスターやナノイー自体には「ほとんど殺菌効果が無い」とするこの論文は、Tech-On!のニュースなどにも取り上げられて読者の関心を引きました(Tech-On!の関連記事)。これら2つの出来事により、イオン系放射物の効果の真偽に世間の耳目が集まったというわけです。 実は、私はそれ以前にイオン系放射物の効果に関する企画を編集部に挙げていました。別件の取材で、ある海外の空気清浄機メーカーが「イオンに効果無し、と断言している」と聞いたからです。これを基に調べ始め、イオン系放射物を「否定」する論文もいくつか発表されていることを遅ればせながら知りました。その最中に、先の2つの出来事が発生したのです。 マズイ、これは他のメディアに先を越されると思い、私は慌てて否定派、試験機関、メーカーに取材に赴き、それぞれの立場の主張を聞いてきました。その結果をまとめたのが、本誌3月号に掲載した特集2「イオンは殺菌に効くか? メーカーに疑問をぶつけた」です(3月号関連URL)。 この取材で印象に残ったことが2つあります。1つは、否定派の方から、「他のメディアの記者にも話しているんだけど、結局、『上の判断で記事化を止められた』って言われるんだよね。おたくは大丈夫?」と聞かれたことです。もちろん、「大丈夫だと思います」と答えました。 もう1つは、技術者の方の真摯な姿勢です。今回、シャープとパナソニックの技術者の方に会うことができたのですが、私が事前に用意した疑問の全てに、丁寧に回答してくれました。質問の中には、「仮に、米国で集団訴訟を起こされたらどうするか」というものまで用意していたのですが、「十分に闘えるだけの技術的裏付けはある。それが無ければ商品化しない」という力強い言葉が返ってきました。 他のメディアでは読めない記事です。ぜひ、ご一読を。 プラズマクラスターやナノイー自体にはほとんど殺菌効果がないことが明らかに 2012/12/18 13:24 大森 敏行=日経エレクトロニクス
日本のエレクトロニクス関連メーカーが販売している空気清浄機には、殺菌や脱臭といった効果をうたう粒子を放出するものが多い。メーカー各社が名付けた粒子の例としては、シャープの「プラズマクラスターイオン」やパナソニックの「ナノイー」がある。ところが、そうした粒子自体には殺菌効果がほとんどなく、実際の殺菌は、同時に発生するオゾンが担っているとする論文が公開されている。2012年4月に開催された第86回日本感染症学会総会で発表され、同年11月20日に発行された「感染症学雑誌 Vol.86 No.6」に座長推薦論文として掲載された「殺菌性能を有する空中浮遊物質の放出を謳う各種電気製品の、寒天平板培地上の細菌に対する殺菌能の本体についての解析」(リンク)である。 発表したのは、国立病院機構 仙台医療センター 臨床研究部 ウイルスセンターの西村秀一氏。論文では、シャープの「プラズマクラスターイオン発生機」、パナソニックの「ナノイー発生機」、キングジムのイオン発生式空気清浄機「ビオン」の三つの機器について殺菌能力を調べた。その結果、極めて狭い空間では、製品に一定の殺菌効果があることを確認できた。 ただし、メーカーがプラズマクラスターイオンやナノイーと呼んでいる粒子を除去しても殺菌効果は変わらなかった。一方、各粒子と同時に発生するオゾンを除去すると殺菌効果が激減したという。このことは殺菌作用の本体がオゾンであることを強く示唆すると結論付けている。 イオンは殺菌に効くか? メーカーに疑問をぶつけた 2013/02/21 18:53
シャープの「プラズマクラスター」、パナソニックの「ナノイー」…。 イオン系放射物の発生機を搭載した家電製品が空気清浄機を中心に売れている。イオン系放射物がもたらすというウイルスの不活化や殺菌の効果が消費者の心を捉えているのだ。 だが、そうした人気の一方で今、学会や試験機関、競合メーカーなどから、イオン系放射物を搭載した家電製品の効果を疑問視する声が上がっている。本誌は、複数の否定派の意見を集約し、イオンの殺菌効果に対する疑問点をシャープ、パナソニック両メーカーに直接ぶつけてみた。 両メーカーの反論は…。
疑問 「当然の結果だろう」。空気清浄機や室内空気に関する正しい情報発信を目的とした有識者団体「室内空気向上委員会」のメンバーである日本大学理工学部建築学科教授の池田耕一氏は、消費者庁がシャープに対して行った措置命令をこう見る。 2012年11月28日、同庁はイオン系放射物である「プラズマクラスター」発生装置が付いた掃除機に関して景品表示法に違反する行為があったとして、その違反を消費者に周知徹底し、再発防止策を講じることなどを同社に求めた(図1)*1。違反と見なされたのは、カタログやWebサイトに表示した「掃除機の中も,お部屋の中も、清潔・快適」「ダニのふん・死がいの浮遊アレル物質のタンパク質を分解・除去 約15分で91%作用を低減します」などといった文言である。 プラズマクラスターは、プラズマ放電で空気中の酸素分子と水分子を電離させて生じる陽イオン(H+)と陰イオン(O2−)のそれぞれの周囲に水分子が付着したもの(図2)。これがウイルスや細菌の表面に付くと、化学反応により酸化力の強い、活性酸素の一種であるヒドロキシル・ラジカル(以下、OHラジカル)に変化。ウイルスや細菌の表面のタンパク質から水素を抜き取って分解(酸化分解)する、というのがシャープの説明だ。空気清浄機の付加機能として高い人気を誇るだけでなく、2000年の発売以来、プラズマクラスター搭載製品の累計販売台数は優に4000万台を超えている(図3)。 だが、プラズマクラスターを含むイオン系放射物による空気清浄効果に否定的な見解を持つ池田氏にとって、消費者庁の判断は納得がいくものだったようだ。 シャープは、「空気清浄機と比べて掃除機の使用時間はそれほど長くないのに、部屋中の空気をきれいにするという誤解を与えてしまった」と反省する一方で、「プラズマクラスターの性能を否定するものではない」と強調する。だが、措置命令の文書には「室内の空気中に浮遊するダニ由来のアレルギー原因となる物質を、アレルギーの原因とならない物質に分解又は除去する性能を有するものではなかった」とある。消費者庁は「手の内は明かせない」として評価の詳細は明らかにしないものの、「科学的な見地から性能を有さないと判断した」と説明する。 シャープに従えば、ウイルスや細菌の表面のタンパク質を分解する性能を司るのはプラズマクラスターである。掃除機に搭載されたものに限定されているとはいえ、国の機関から「性能を有さない」と指摘されたことは、イオン系放射物の効果に対する否定派の目には、プラズマクラスターの効果自体に疑問が呈されたと映るようだ。 〔以下、日経ものづくり2013年3月号に掲載〕 図1●景品表示法違反を指摘されたシャープの掃除機 付加価値として搭載したプラズマクラスターの性能に対し、カタログやWebサイトの表現(赤枠で囲んだ文言)にいきすぎがあったと消費者庁から指摘された。同庁の資料から。 [画像のクリックで拡大表示] 図2●プラズマクラスターの酸化分解のメカニズム それぞれ水分子で囲まれた陽イオン(H+)と陰イオン(O2−)がウイルスや細菌の表面に付着すると、酸化力の高いOHラジカルに変化する。これが表面のタンパク質から水素を引き抜くことで、不活化および殺菌効果を持つ。 [画像のクリックで拡大表示] 図3●プラズマクラスターを搭載した空気清浄機 *1 対象の表示期間は2010年10月頃〜2012年4月頃まで。
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