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おいしい減塩食は「だし」の使い方が決め手
大阪府の国立循環器病研究センター病院・その2
2012年11月22日(木) 内藤 耕
まずくて当たり前だった病院食をおいしくしようと改革に取り組んできた大阪府吹田市の国立循環器病研究センター病院(国循)。前回はおいしい病院食作りに取り組むことになったきっかけなどについて書いた。今回はより具体的に、どのようにおいしい病院食を実現しているのかについて見ていきたい。
前回も書いたように、病院食を作るには大変な手間がかかる。国循の場合、1食分で430〜450食を作る。1日では約1300食分に及ぶ。しかも、患者ごとに細かく内容や量を変えなければならない。ご飯の量や料理のカロリーも患者によって異なる。塩分量は0グラムから5段階に分かれている。糖尿病用の料理もある。油の種類や野菜の量、コレステロール量、繊維量なども重要だ。
栄養面のバランスだけでなく、味やメニューのバランスにも気を配らなくてはならない。1食の中で味に変化をつけ、患者が飽きずに食べ続けられるよう工夫する。月に数回は行事食も出す。また、週に3回は選択食を行い、患者が麺やどんぶりなどの料理を選べるようにしている。
このように国循の病院食を作っている栄養管理室は、多様なことを考慮しなけらばならい。そのため毎日約60種類の料理を作る。少量多品種を効率良く作らなければならないのだ。
1回450食でも手作業中心の理由
現在の国循の栄養管理室には非常勤職員4人を含めて8人の管理栄養士がいる。調理師は13人。朝食3人、昼食4人、夕食3人の合計10人を基本とし、ローテーションで日々の食事を作る。食材の下処理、盛り付け、食器洗浄、食数確認といった調理以外の作業は外部業者に委託している。
国循の食事では、基本的に副食が4品出てくる。うちメインの料理は2品。和洋中の料理をまぜ、肉と魚の料理も出す。これは好き嫌いがあってもいずれかは食べられるようにという配慮からだ。
小鉢も1つの料理をたくさん提供するのではなく、小分けして品数を多く出す。その分、手間はかかるが、国循では調理師の人数や食材原価を増やすことなく、様々な工夫でそれを実現している。
その1つが人手による作業だ。「少量多品種生産」となる国循では、一度に大量の料理を作ることはできない。そのため、一見、効率的な機械調理はあまりしない。そもそも機械で作った料理は見栄えも悪く、点検や洗浄などに多くの時間を要してしまう。結局、手作業でも調理時間はほとんど変わらなかっただけでなく、手作業の方が従業員の熟練度次第で調理時間が短くなることも分かった。
機械調理より手作業が多い国立循環器病研究センター病院の厨房
例えば、デザートのキウイフルーツは手でむく。機械ではうまくむけないし、皮がむかれたものを購入すれば原価が上がる。一手間をかけることで食品原価が下がると同時に手作り感も出て、一石二鳥というわけだ。
また、野菜を機械でカットするとどうしても端切れが出る。こうした野菜の端切れがあると調理した際にだしのしみ込み具合に差が出て、おいしさを損ねる原因になる。また、端切れの存在によって塩分量も微妙に変化してしまう。細かい細工をすることも難しい。
手作業の現在でも端切れは出るが、それらは分けておいて、別途ミキサーにかけペーストにして使う。こうした方法により、料理をおいしくするだけでなく、食材を無駄なく完全に使い切り、コストパフォーマンスを上げるようにしている。
こうしたコスト削減にもつながる工夫を重ねる一方で、食材については無理なコスト削減はしない。食材原価は1食当たり200円台後半に抑える必要があるが、一般的な給食業者が使う「お値打ち品」の食材は使わない。
だしの使い方がおいしい減塩食の決め手
循環器病を中心に診療する病院にとっては不可欠と言える減塩食でも、おいしくするための工夫を凝らしている。その1つがだしの使い方だ。国循では京料理の技術を使い、だしの効果を最大限に利用する。
例えば、すき焼きの場合、きちんと計量した砂糖や薄口しょうゆを加えたカツオだしに生の牛肉をしゃぶしゃぶのように入れ、患者に提供する時にすき焼きとして盛り付けて提供する。焼き魚の場合でも、規定濃度のだしにつけてから焼くことで、臭みが消えるだけでなく、中までしっかり旨味があるものに仕上がる。
野菜の煮物はまずお湯で串が通るところまで下茹でする。そこからだしでひと煮立ちさせ、その後は火を落として味を食材全体にむらなく馴染ませるだけである。最初からだしで煮てしまうと料理に含まれる塩分濃度が高くなってしまうためだ。だしで煮含める際も沸騰させないよう気を配る。煮詰まるとだしの量が同じであっても塩分濃度は高くなる。
冷凍の魚を煮魚にする場合は、一度、水洗いして臭みを取り、しょうがの入っただしに漬け込むことで旨味を出す。そして、そこからスチームオーブンで蒸し煮することで塩分量を抑えながらもしっかりした味の煮魚になる。ブリの照り焼きであれば、味が濃くならないよう薄めた出汁に約1時間半つけ込んでから焼く。
麺類の場合はスープの量次第で摂取塩分量が変わる。そのため、スープの量を工夫するだけでなく、麺をスープに入れるタイミングにも気を使う。そのほか塩の替わりに、とうがらしや酢などのも工夫して使う。
これらの細かな工夫により、塩や醤油といった調味料がなくてもおいしく食べられる減塩食ができる。仕事のやり方を変え、一手間をかけることで、原価を上げることなく、おいしい減塩食を実現しているのだ。
国循で提供される料理の一例(試食用に盛り付けたもの)
そのほか、食器はメラミン製のものを使っているが、盛り付けにも気を使い、見た目も大事にする。そして、少なくとも1品は見栄えがいい料理を出す。
高齢者の患者が多いため、煮物は毎日出す。その煮物は料理の色が鮮やかになるよう、みりんではなく砂糖を意識的に使う。また、煮物の野菜は細かく切り、細工もする。こうすることでだし汁が野菜にからみやすくなり、少ない調味料でもおいしく感じられるという。
減塩食のレシピを積極的に公開
国循ではこれまで見てきたような努力を積み重ねたことで、おいしい減塩食を提供できるようになった。だが、患者はいずれ退院する。国循の医師たちは退院後に患者の様々な検査数値が悪くなることに気づいた。それは、退院すると病院で食べていたような食事を取ることが難しくなってしまうからだ。退院するとどうしても外食が増え、野菜の摂取量も減ってしまう患者が多い。栄養指導はするものの、それだけでは不十分だった。
こうした課題を解消するため、国循は栄養管理室が蓄積してきた、おいしくて栄養バランスが取れた減塩食のレシピを普及させることに力を入れ始めている。
2010年に独立行政法人となった国循には、これまで蓄積した多くの成果を産学官の連携を通じて活用・推進する組織として知的資産部がある。この知的資産部と臨床栄養部が企業などと組み、減塩食のノウハウを事業化し、普及を進めしている。
既にそのノウハウを使い、病院内の食堂で減塩弁当を販売している。また、コンピュータープログラムにノウハウを組み込み、「G-クッキングシステム」として販売。大企業の社員食堂や官公庁で減塩食を出すところも出てきている。
そのほか、デジタルレシピとして一般の消費者に配信を開始。減塩食を教える料理教室も開いている。今後はレシピ本も出版する計画もある。国循が切り開いたおいしい減塩食の世界は、病院だけでなく一般の食卓をも変えようとしている。
内藤 耕(ないとう・こう)
工学博士、独立行政法人産業技術総合研究所サービス工学研究センター。主な著書に、『サービス工学入門』(編著、東京大学出版会)、『サービス産業生産性向上入門−実例でよくわかる!』(日刊工業新聞社)、『「最強のサービス」の教科書』(講談社)、『お客様を呼び戻せ!東日本大震災 サービス復興の証言』(日経BP社)、『「売れない時代」の新・集客戦略―コスト削減に向けた顧客モチベーション・マーケティング』(東洋経済新報社)など。
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http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20121120/239614/?ST=print
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