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「ニューズウイーク日本版10・10号」
P.42〜43
最先端治療、実は不要かも
検証:最新技術で確実に診断がつき、確実に完治できる
そんな「科学信仰」が不要な検査と治療を蔓延させている
PSA(前立腺特異抗原)検査は「推奨しない」 − 米政府の予防医学作業部会(USPSTF)がまとめた新指針は医療現場に激震を巻き起こした。
前立腺癌の検診では、PSAの血中値を調べる検査が広く行われている。今年5月に正式に発表されたこの指針は2つの大規模な調査に基づいたもの。PSA検査では誤って陽性の判定が出ることが多く、健康な男性がリスクを伴う不要な治療を受けるデメリットを無視できないとしている。
「PSA検査の有効性は極端に過大評価され、過信されてきた」と、アメリカ癌協会のオー
ティス・ブローリーは言う。
「全体として見ればむしろデメリットがメリットを上回る」
しかし新指針は医師や患者の猛反発を招いた。09年に米政府の別の作業部会が40代の女性には定期的なマンモグラフィー(乳房]線撮影)検査を推奨しないと発表し、大騒ぎになったときと同じ構図だ。
こうした勧告が実際にどんな影響を及ぼすかはよく分かっていない。メディケア(高齢者医療保険制度)は今もマンモグラフィーによる乳癌検診を給付対象にしており、PSA検査にも引き続き保険が適用される。09年の勧告の影響でマンモグラフィーを受ける女性が減ったかどうかを調べたデータもない。
明らかなメリットはない
ともあれ2つの新指針が明らかにしたのは、100%確実で100%安全な検査などないということだ。早期発見のメリットと、検査や誤診のリスク。医師も患者もこの2つを天秤に掛けて賢い選択をする必要がある。
マンモグラフィーとPSA検査が広く行われている今の状況を一歩下がって眺めれば、現代医療の抱える大きな問題が見えてくると、医療専門家は言う。調査でほとんど有効性が認められないのにリスクを伴う高額な検査を、善意の医師たちがせっせと行っているのが医療現場の現状だというのだ。
PSA検査の新指針をめぐっては目下激論が戦わされている。批判派は、90年代以降減る傾向にある前立腺癌の死亡者数が再び増加に転じることを危倶している。とりわけ強く反発しているのは泌尿器科医たちで、作業部会が判断の根拠ヒしたデータの信頼性を問題にしている。
泌尿器科医は進行した前立腺癌患者を診ることが多いため、問題の全貌を客観視しにくいのではないかと、ワシントンのシンクタンク、ニューアメリカ財団の医療政策担当シャノン・ブラウンリーは指摘する。「泌尿芽医の気持ちは分かる。患者の苦痛を目の当たりにしているから、早期発見のメリットに目がいくのだろう。でも大きなデメリットがあるのも事実で、両方に目配りする必要がある」
一部の医療関係者の問では、不必要な検査や治療は避けるべきだという認識は何十年も前からあった。にもかかわらず最近までこの間題にまともに向き合う医師は少数派だった。
85年にノーベル平和賞を受賞した「核戦争を防ぐための国際医師の会」の共同創始者バーナード:フウンは30年前にニューヨークで循環器専門医らを相手に講義を行った。そのとき会場の医師たちに、冠動脈バイパス術を行う前に「手術で確実に寿命が延びるわけではない」と患者に説明するかと聞いたところ、誰も手を挙げなかった。
ラウンによれば、不必要なバイパス術が行われるのは第1に「利益」のためだが、医者を育ててきた「文化」も過剰医療を促す要因になっている。
「医学生時代、研修医時代にたたき込まれた思考パターンがある」と、ラウンは言う。「バイパス術やステント治療は決定的な解決策であり、手術が成功すればそれで治療は成功だというものだ。だが実際は違う。手術後も患者はリスク要因を抱えている。発症につながった生活習慣を変えなければ、再発を繰り返すことになりかねない」
一部の医師が何十年も前から憂えていた事実、つまり患者にとって何のメリットもない高額な検査や治療が広く行われているという事実を裏付けるデータがいま次々に発表されている。
冠動脈疾患と診断されて入院した場合、その費用は1万6000j以上。症状が安定している患者に対して、毎年40万件以上の血管形成術が行われている。だが米国医師会の機関誌アーカイブズ・オブ・インターナル・メディスンに最近掲載された記事によれば、安定型冠動脈疾患の患者に血管形成術を行っても、アスピリンやベータ遮断薬、ACE阻害薬やスタチンの投与といったそれまでの治療の効果がさらに上がるわけではない。
薬物療法や生活改善に加えて、体にメスを入れる高額な治療をしても明らかなメリットはないということだ。この調査によれば、安定型患者の最大76%は血管形成術を受ける必要がない。生涯医療費に換算すれば、患者1人当たり1万j近くを節減できることになる。
重くのしかかる医療費
不要な治療がなくならない理由は医療報酬体系にもある。患者と話し合う時間を今より1時間多く取れば、痛気の根本的な原因を的確に突き止められると、ラウンらは力説する。
だがメディケアは「点数制」で、実際の治療行為にしか報酬が支払われない。そのため、不要な治療の最初の防衛線となる地域のかかりつけ医はあまり儲からない。結果的に若い医師たちはかかりつけ医よりも生涯所得が平均350万j多い専門医になりたがると、ハーバード大学医学大学院のアラン・ゴロール教授は事情を話す。
不要な検査や治寮がはびこるもう1つの理由は、マウント・サイナイ医学大学院のデービッド・ニューマン准教授の言う「科学信仰」だ。最先端の治療法や技術があるのなら利用しない手はないという幻想である。
「乳房の内部を撮像したり、前立腺に特異な抗原が血液中に掘れ出ていないか検出したり、狭くなった動脈を広げると聞けば、いかにも先端科学という感じがして、それだけで病気が防げ、病気が治るような気がする」と、ニューマンは言う。「だが、こうした技術のどれ1つとして、期待される効果を挙げていないのが実情だろう」
不要な検査や治療を見直す動きは広がりつつある。米内科専門医認定機構財団は不要な検査と治療をなくすキャンペーンを展開中だ。ラウンの主宰する循環器学研究財団も今年4月にマサチューセッツ州ケンブリッジで不要な検査と治療の回避をテーマに会議を開催した。高額で不要な検査・治療をなくそう、という意識は医療従事者の問に着実に浸透し始めている。
こうした動きを後押しするのがコスト意識だ。「議論はコストの問題に移っている」と、ラウンの財団のビカス・サイニ理事長は言う。「税負担が経済成長の足を引っ張ると言われるが、経済に最も重くのしかかっているのは医療費負担だ。その多くが使わずに済むコストだとすれば、どう見ても大問題だ」
ケーシー・シュウォーツ、クラーク・メレフィールド
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