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勤務中のヘッドフォンは本当に仕事の効率を上げるか?
2012年 5月 30日 18:04 JST
マリッサ・ユーさんは、ほとんど仕切りのないスペースに120人の同僚がいる忙しいオフィスで働いている。それなのに、ユーさんが質問をしたかったり、アップデートが必要だったり、誰かに話しかけたいときなど、まるで壁に話しかけているような気分になる。
「名前を1回、2回、3回、4回呼んでも返事がない」と、ヒューストンにある建築・エンジニア会社、ページサウザーランドページでインテリア部門の責任者を務めているユーさんは話す。「内線に電話しても出ない。そうなると、すぐに輪ゴムを飛ばすことになるわ」。
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Michael Stravato for Wall Street Journal
ページサウザーランドページの4分の3の従業員はイヤホンやヘッドフォンをつけている
犯人は、音楽を聴くイヤホンや、騒音を遮断するヘッドフォンだ。ユーさんの同僚の約4分の3がこういったイヤホンをつけている。また米国ではますますオフィスでのイヤホンが慣習になりつつある。多くの人がヘッドフォンは邪魔を排除するのに役立つと言う。イヤホンなどの使用を禁止する雇用主も少ない。仕切りのないオープンスペースのオフィス内で、従業員がいくらかプライバシーを保つための手段として容認しているのだ。
ただ、マサチューセッツ工科大学(MIT)のマクガバン脳研究所の責任者、ロバート・デシモン氏によると、音楽を聴くことで集中力が高まるという考えの根拠となる研究はほとんどないという。台湾で実施された規模の小さいいくつかの研究の1つによると、歌詞のある音楽を聴くことと、集中力テストの低い点数の間に関連性があるという。この研究は102人の大学生を対象に行われ、雑誌「Work」に今年初めに掲載された。また別の研究では、ヒップホップを聴きながら読解力テストを行うと、点数が著しく悪くなることがわかった。この研究は133人の成人を対象に行われ、雑誌「Journal of the Scholarship of Teaching and Learning」に2010年に掲載された。
3番目の研究は、台湾の輔仁カトリック大学の研究者らが19〜28歳の学生89人を対象に実施したもので、これによると、音楽が好きかもしくは嫌いかの強い感情を持っている人が、音楽が流れる場所で集中力テストを行うと最も点数が低かったことがわかった。音楽に対して良くも悪くも強い感情を持っていない人や、まったく音楽が流れない場所でテストを受けた人とは好対照となった。研究によると、音楽に対して強く好き嫌いの感情を抱いている人は自然と音楽に注意が向き、集中力が落ちるという。
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Michael Stravato for Wall Street Journal (4)
神経科学者によると、会社で書類の読み書きをする場合に歌詞付きの曲を聴くのは効率的ではない
オフィスでは、読んだり書いたりする際に歌詞付きの曲を聴いていると、脳の言語をつかさどる領域に過度に負荷をかけてしまい注意力散漫になり得ると、神経科学者らは指摘する。
脳の司令センターである前頭前野は、仕事に集中するため、耳につく歌詞といった強い刺激の言語情報を処理しないよう自らを強いなければならないと、デシモン氏は指摘する。不要な情報を遮断するための認識力が必要になればなるほど、目の前の仕事をこなすために必要な認識力が残り少なくなるのだ。また邪魔者と戦いながら集中を試みる時間が長くなればなるほど、仕事量が落ちていく可能性があるという。「注意を向けるには精神力が必要で、(集中すると)精神的に疲れることがある」と同氏は言う。
ただ科学者らは、音楽に対する反応には個人差があると言う。一部の人にとっては、歌詞のない慣れ親しんだ曲は、同僚らの大声を遮断する雑音ブロッカーとして有効な場合もあるという。
騒音を遮断するヘッドフォンは集中力を高めるための、より強い味方になるかもしれない。ミネソタ州ミネアポリスにある建築デザイン、研究および検査などを手掛けるオーフィールド研究所の所長、スティーブン・オーフィールド氏によると、ヘッドフォンはオフィスの雑音を最大4分の3まで遮断することが可能だという。しかし、ヘッドフォンを外すと耳が慣れるまで、「数分間はすべての音がかなり大きく聞こえる」と同氏は言う。だから「他の人には大声で話しかけるかもしれない」。
騒音を遮断するヘッドフォンは20年以上前にパイロット用として音響機器メーカーのボーズが開発したものだが、しばしば航空機の旅客向けに販売される。このヘッドフォンはジェットエンジンの低周波音を遮断することに優れているからだ。ミシシッピ州ジャクソンで設備管理のコンサルタント業務を行っているデービッド・レイノルズ氏は、このヘッドフォンはオフィス内では高周波の人の声や他の雑音を遮断する一助となり、「(ヘッドフォンの)ユーザーは制御可能で快適なレベルの音の大きさを楽しめる」と言う。このため、疲労が軽減される人もいると同氏は指摘する。
しかしヘッドフォンやイヤホンは同僚の怒りを買う場合もある。米人材紹介会社のロバート・ハーフ・テクノロジーが2010年に1400人の最高情報責任者(CIO)を対象に実施した調査によると、ヘッドフォンなどの使用はオフィスでのエチケットに関わる重要な問題だと認識されていた。
仕切りが低いか、もしくはまったくなく、壁にはガラスが使われているようなオープンスペースは、注意力散漫になる要素を増やす可能性があり、ヘッドフォンの人気を高めている。米消費者電子協会(CEA)によると、2012年のヘッドフォンやイヤホンの予測販売高は08年の水準の41%増になると見込まれている。販売増の大部分はオフィスでの使用によるものだという。
人通りの激しいオフィスのドア近くに座っているため、仕事時間の70%をヘッドフォンをして過ごすアラン・ヘンリーさんは独自のサインを持っている。同僚が近づいたときにヘンリーさんが片方のヘッドフォンを外せば、忙しくて話す時間がないという合図。一方、ヘッドフォンを丸ごと頭から外せば、話す時間があるという合図だという。
記者: Sue Shellenbarger
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