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DOL特別レポート
DOL特別レポート【第171回】 2011年5月26日
http://diamond.jp/articles/-/12422
あなたと家族を襲う「感染型食中毒」の猛威 生肉パニックを教訓に“自己責任”の衛生管理を――衛生指導の第一人者、中村明子・医学博士に聞く
富山・福井・神奈川県の焼肉チェーン店で発生した集団食中毒は、死者4名を出す惨事となった。関係者による責任のなすり合いが続くなか、「どこに真の問題があったのか」「猛威を振るう食中毒にどうやって対処すべきか」といった、我々が最も知りたい論点がなかなか見えてこない。もしも自分や大切な家族が悲惨な食中毒に襲われたら――。消費者の不安と憤りは、募る一方だ。O157の爆発的な流行以来、一貫して学校給食の衛生指導を続け、生卵の安全表示づくりにも深く関わった医学博士の中村明子氏が、日本における食中毒の現状と対策を詳しく解説する。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也)
流通業者や飲食店の衛生管理は
罰則を設けないと徹底しないのか
――富山・福井・神奈川県の焼肉チェーン店で発生した集団食中毒は、死者4名を出す惨事となりました。店で提供していたユッケ(生肉を使った韓国料理)に腸管出血性大腸菌O111が付着していたのが原因です。衛生管理を怠った焼き肉店や卸売業者の責任は重大ですが、「罰則を設けていない国の対応が不十分だったのではないか」という指摘もあります。原因や対策がはっきり見えないなか、消費者の不安は募る一方です。今回の食中毒事件の責任は、どこにあるのでしょうか。
なかむら・あきこ/1935年生まれ。大分県出身。共立薬科大学卒。医学博士、国立予防衛生研究所(現・国立感染症研究所)室長、東京大学医学部客員研究員、共立薬科大学理事・特任教授、慶應義塾大学客員教授を歴任。現在は東京医科大学兼任教授、特定非営利法人栄養衛生相談室理事長を務める。専門は、腸内細菌の病原性および腸管感染症の疫学の研究。学校給食における食中毒予防のため、最前線で衛生管理の指導を続ける。
腸管出血性大腸菌O111やO157などは、牛などの腸に住み着くことが知られています。菌が肉に付着した場合、火を通さないと死滅しません。そのため厚生労働省は、生肉による食中毒を防ぐため、1998年に「生食用食肉の衛生基準」を全国に通知しています。
これは、生食用の食肉については、糞便系大腸菌群やサルモネラ菌が検出されてはいけないこと、専門の施設・設備で解体すること、消毒を徹底することなどを定めたものです。
この基準に従い、現場での指導は細部に渡ります。たとえば流通業者については、牛を解体するときに糞が肉に付着しないよう注意すること、出荷するときに肉の素性をはっきりさせ、生で食べられるものは「生食用」と明記することなどが指導されています。
次のページ>> 事実上、生で食べられる肉は国内に流通していないと思うべき
飲食店についても、衛生管理の責任者を置き、お客に生肉を提供する場合は、トリミングを行なうよう指導されています。多面体の肉をトリミングする際には、面ごとに包丁もまな板も手袋も、全て新しいものを使わなくてはならないし、それが無理なら、1つの面をトリミングし終わるたびに、調理器具を全て消毒洗浄しないといけません。
生食用の肉に関する基準は、以前からこれほど細かく定められているのです。今回の事件では、こうした基準がちゃんと守られていなかった可能性が高いと考えざるを得ません。卸売店が加熱用の肉を「生食用」と偽装して流通させた疑いがあり、一方の焼肉店もトリミングをしなかったと報じられています。
「罰則を設けていない国にも責任がある」という声が聞こえますが、業者は衛生理念に乗っ取って慎重にやろうと思えば、いくらでも慎重にできたはず。関係者が責任のなすり合いをしているだけではないでしょうか。
今後、行政が規制を厳格化するなら、現実的なのは「生食表示の義務付け」でしょう。生食表示のない食肉が生で提供された場合に、罰則を科すという考え方はあります。業者の抜き打ち検査をできる体制を作ることも、必要かもしれません。
事実上、生で食べられる肉は
国内に流通していないと思うべき
――今回の事件を受けて、厚生労働省は行政指導に留まっていた生食用食肉の衛生基準について、罰則も含む新基準を設ける方向で検討に入りました。そもそも、流通業者や飲食店が生肉を提供しないように規制をすることは、できないでしょうか。
実は、行政はこれまでも、なるべく生肉を食べないように国民を啓蒙してきました。国の衛生基準に照らせば、生で食べてよい肉は馬刺しとレバーの一部しかないのが現状だからです。私は、牛、豚、鶏などを含め、生食の基準を満たせる肉は、今の日本に出回っていないと思います。
2009年、東京都食品安全情報評価委員会は、都内の消費者や事業者の行動実態調査を行ない、食肉の生食に関する実態を調査しました。私はその調査の座長を務めましたが、結果を見て驚きました。リスクが高いにもかかわらず、都民の4割がユッケやレバー、鶏刺しなどの生肉を食べていることがわかったのです。
とりわけ、生肉を食べている割合が多いのは20〜30代の若年世代であり、各世代の半数以上に上っています。彼らの多くは、飲食店で自分の子どもにも生肉を食べさせている。生肉による食中毒を防ぐために、東京都は消費者に対して「生肉を食べないように」、事業者に対しては「生肉を提供しないように」というキャンペーンを行なってきました。
次のページ>> それでも生肉を食べたいなら、「自己責任」において食べるしかない
今回の事件を契機に、「行政が肉の生食を規制すべきだ」という意見もありますが、実際には難しいでしょう。何でも加熱して食べる欧米と違い、日本では魚や卵を生で食べる食文化がありますし、食肉の生食もその延長線上にあり、生肉を食べることに抵抗のない若者が増えているからです。
もちろん、厳しい基準をクリアすれば、生肉を食べても問題はありません。実際に、それほど頻繁に食べる習慣がない馬肉は、消費量が少ないために、食肉加工の過程で丁寧に扱われ、衛生基準をクリアした「生食用」として流通しています。
それに対して、大量に消費される牛肉などは、どうしても管理が杜撰になる可能性が高い。今後も生肉を流通させるなら、たとえば「生肉専用の処理場」を整備するところから始めないといけないでしょうね。
それでも生肉を食べるなら
「自己責任」において食べるしかない
――行政指導を行なっても食中毒がなくならない一方、生食を規制することもできない状況では、結局、我々自身がリスク意識を持つことが重要になりますね。
「生肉はリスクが大きいものだ」ということを、消費者自身がきちんと意識し、自己責任において食べるしかないのが現実です。
BSE(牛海綿状脳症)問題や偽装表示問題により、国民の不満や不信が広がるのを解消するため、国は03年5月に食品安全基本法を成立させ、同年7月に食品衛生法を大幅に改定しました。
これにより、食の安全を守る取り組みは「事後対応」から「予測に基づいた事前対応」へと大きく変わっています。業者や消費者にも、より一層の注意や自己責任が求められるようになったわけです。
――これから夏が訪れ、本格的な食中毒の季節がやってきます。ユッケ事件に留まらず、山形県でもO157が付着した団子が原因で食中毒が発生しました。小さい子どもを持つ親は、気が気ではないでしょう。日常生活で気をつけるべき食中毒には、どんな種類がありますか。
現在、食中毒の原因として最も多いのは、ノロウィルス、カンピロバクター、サルモネラ菌などです。一昔前は、食中毒菌が食べ物に付着し、増殖した結果食中毒が発生するケースが多かったのですが、現在はわずかな細菌が付着しただけの食べ物で食中毒になる「感染型の食中毒」が主流です。細菌が食べ物と共に体に入り、体内で増殖した結果発病するのです。
次のページ>> 学校給食による食中毒を激減させた、O157抑制への取り組み
感染型の代表例が、今問題になっている腸管出血性大腸菌の0111や0157です。主に牛の腸に生息していますが、牛はこれらの菌を持っていても発病しません。しかし、人がこれらの菌に感染すると、激しい症状を示して命を失うこともあります。腸管出血性大腸菌に感染する患者は、毎年3000〜4000人ペースで発生しています。
家畜の消化管などに生息する細菌には、他にカンピロバクターやサルモネラ菌があります。カンピロバクターは主に鶏肉を介して人に感染し、サルモネラ菌は主に鶏卵や食肉を介して感染することが知られています。
また、夏季の食中毒の代表である腸炎ビブリオは、魚介類に付着し、温度管理が悪いと増殖して食中毒になります。腸炎ビブリオは、海水の温度が15℃〜17℃になる夏季に海水中で増殖し、新鮮な魚介類に付着します。この細菌は、海水と同じ濃度の3%の塩化ナトリウム中で増えますが、真水では死滅します。
一方、冬の代表的な食中毒であるノロウィルスは、二枚貝に生息しており、二枚貝の生食で発病します。しかし患者の大半は、ノロウィルス感染者の吐物や便の処理をした人の手を介して汚染された食品によることが、証明されています。
「食中毒は夏の病気」と考えられがちですが、冬に発生する胃腸炎の多くがノロウィルスによることもわかってきました。年間を通して注意しなければなりません。
1990年代半ばに爆発的に広まったO157
その後、学校給食による食中毒は激減
――過去に引き起こされた感染型の食中毒事件には、どんなケースがありますか。また、それに対して行政はどのような対応をしてきましたか。
大規模な食中毒は度々起きてきましたが、過去に食中毒の温床となっていた環境や食品は、減少傾向にあります。
腸管出血性大腸菌O157については、90年に埼玉県の幼稚園において、感染者約270名、死者2名を出す集団感染が発生しました。これは、井戸水が原因だったと言われています。しかし、O157が国民に広く認知されるきっかけとなったのは、96年に日本各地で起きた爆発的な流行でしょう。
このとき、全国で1万人を越す患者と12名の死者が出ました。この中には、牛レバーが原因で死亡した例もありましたが、なかでも深刻だったのは、学校給食による感染者数が7000名を越え、そのうち5名の児童が死亡した事件です。当時厚生省(現・厚労省)にいた私は、この事件をきっかけに、学校給食における食中毒を予防しようと衛生管理の指導に取り組み始めました。
次のページ>> サルモネラ食中毒が多発した鶏卵には、消費期限の表示を義務付け
集団食中毒を出した学校の給食現場を調査したところ、冷蔵庫さえないという杜撰な状況が判明しました。現場で「あなたたちはプロなんだから、ちゃんと衛生管理を勉強しなさい」と言うと、職員たちは「今まで、誰も教えてくれませんでした」と涙を流すばかり。これではいけないと痛感しました。
文部省(現・文科省)はこの事件後、直ちに学校給食の衛生管理に本格的に取り組みました。「学校給食衛生管理の基準」を制定し、この基準に基づいた指導が組織的に始まりました。各都道府県の教育委員会は、学校の調理場に責任者をきちんと置き、毎日チェックリストに基づいた衛生管理を行なわせるよう、徹底させました。現場の職員たちに対しては、衛生管理の研修会を義務付けました。特に学校給食では、加熱調理を原則として中心温度の確認を徹底しました。
学校給食によるO157食中毒は、翌97年以降全く発生していないし、その他の食中毒も激減しました。現在、全国に約3万ヵ所の調理場があり、2000万人の子どもが給食を食べていますが、2010年は1月から12月まで食中毒は1件も発生していません。
死に至る場合もあるサルモネラ中毒
鶏卵には消費期限の表示義務付けが
もう1つ、全国的に大きな問題になっていたのは、鶏卵によるサルモネラ食中毒です。鶏卵には、97年まで賞味期限などの表示がありませんでした。サルモネラ菌に感染した生卵を食べて食中毒になり、命まで落とすケースが後を絶ちませんでした。
そこで厚生省は、食品衛生調査会の中に分科会を設置。食品製造業者や消費者に適切な情報を提供するための仕組みづくりを議論しました。私もそれに参加しましたが、消費者への情報提供である「表示」にこだわりました。
その結果、98年に食品衛生法が改正され、殻付き鶏卵について消費期限、採卵養鶏場の所在地と名前、生で食べる場合の注意事項などが表示されるようになったのです。卵を採集する養鶏場をはじめ、流通業者が衛生管理に積極的に取り組んだため、今では卵による食中毒は激減しています。
これらは、行政の指導を現場が真摯に実行し、成功したケースと言えるでしょう。しかし、今回問題になっている生肉については、いまだ流通業者や飲食店における取り組みが徹底されていないように感じます。今後の大きな課題ですね。
――病原性大腸菌をはじめ、細菌に感染しないために家庭で気をつけるポイントは何ですか。
次のページ>> 衛生管理で食中毒菌を制御すると共に、細菌を排除する体作りも
「食品の購入」「家庭での保存」「下準備」「調理」「食事」「残った食品の扱い」といった6つのポイントについて、衛生管理を徹底することです。
消費期限をよく確認して新鮮なものを買う、買ってきた食品をすぐに冷蔵庫に入れて保存する、生鮮食品を切ったまな板や包丁をその都度洗う、調理の際は十分に加熱する、菌が繁殖しないよう作ったものはなるべく早く食べる、そして残った食品はちょっとでも怪しいと思ったら絶対に食べない、といった心がけが大切になります。
またO157などは、生肉を食べなければ安全というわけではなく、野菜に付着していることもあります。たとえば欧米では、果汁100%のジュースが原因で、集団食中毒が起きたことがありました。
現地調査では、牛糞がまかれた畑で収穫されたリンゴに大腸菌が付着しており、工場で加熱処理が施されないまま生ジュースとして販売されたことが原因ではないかという報告がなされています。
日本でも、96年に食中毒が大流行した際に、カイワレ大根の種からO157の遺伝子が検出されました。汚染されたカイワレ大根の種は、オレゴン州の農場から輸入されたことがわかっています。肉であれ野菜であれ、生鮮食品には注意が必要です。
家庭の衛生管理で細菌の増殖を制御
細菌を排除する「体作り」も重要に
――何か有効な予防策はありますか。
徹底して無菌状態にすればよいというものでもありません。食中毒にかからないためには、菌に対して抵抗力を高めることも重要です。96年にO157による食中毒が発生した際、岐阜県の医師会がO157食中毒を起こした小学校の調査をしています。その結果、興味深い事実がわかりました。
同じ給食を食べても食中毒にならなかった児童は、「納豆を週3回以上食べている」という共通点があったのです。納豆中の生きた納豆菌が腸内に生息し、後から入ってきたO157が腸内で増殖するのを防いだものと思われます。乳酸菌などの発酵食品も同様で、これらの食品は腸の中で乳酸菌のフローラを形成し、食中毒を防ぐのだと思います。
また、学校から帰って1時間以上戸外で遊ぶ習慣がある児童も、食中毒にかかっていなかった。これも、日頃から泥や砂にまみれて遊ぶうちに、体内で菌に対する抵抗力が醸成されていたのだと思われます。
これらについては、因果関係がはっきり立証されているわけではありません。しかし私は、これらのデータを参考に、食中毒の予防には「衛生管理による食中毒菌の制御」と「病原菌を排除できる健康な体作り」が大切だと指導しています。
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