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http://www.ctrp.mext.go.jp/assign/arp3.html
以下の内容は2009年に発表されたものです。(ダイナモ)
文部科学省 革新的ながん治療法等の開発に向けた研究の推進 採択11研究課題
研究者プロフィール
藤堂 具紀 ( とうどう ともき )
1985年 東京大学医学部医学科卒業
医学博士
日本脳神経外科学会専門医
1990年、ドイツ国エアランゲン・ニュールンベルグ大学脳神経外科。1992年、国立国際医療センター脳神経外科復職。1995 年より米国ジョージタウン大学脳神経外科(Robert Martuza教授)にて遺伝子組換え単純ヘルペスウイルスを用いた癌のウイルス療法と免疫遺伝子治療の研究を始め、第二世代HSV-1 (G207)の臨床試験実施にも関与した。1998年、同助教授。2000年に米国ハーバード大学マサチューセッツ総合病院脳神経外科助教授。2003年 より東京大学医学部脳神経外科講師。同年12月よりCOE脳腫瘍分子治療研究ユニット長併任。
遺伝子工学的に単純ヘルペスウイルス(HSV)のゲノムを改変することにより、癌細胞でのみ増殖し正常組織を傷害しない遺伝子組換えHSVを作製し、ウイルスで直接癌細胞を破壊するウイルス療法の開発研究を行っている。安全で抗腫瘍効果の高い第三世代HSVを開発し、更に最近は種々の治療遺伝子を発現する 「武装」遺伝子組換えHSVを作製して、癌の新治療法としてウイルス療法の確立を目指す。
研究目的
1. 悪性脳腫瘍および癌に対する新しい治療法(ウイルス療法)を確立する。
2. 癌治療用の次世代遺伝子組換えHSV-1を開発する。
3. ウイルス療法の実用性の向上と普及を目指す。
研究概要
癌は我が国の死因の第一位を占め、医療技術の進歩に抗して患者数が増加し続けている。特に悪性神経膠腫(脳腫瘍)の治療成績はこの40年来ほとんど向上が見られず、新しい治療法の出現が待望される。そのような中、遺伝子組換えウイルスを癌治療に応用する「ウイルス療法」の開発研究が注目されている。単純ヘルペスウイルスI型(HSV-1)は癌治療に適した特徴を有し、研究代表者らはその開発研究で世界の先端を担ってきた。
ウイルス療法の確立を目指して
「ウイルス療法」とは、増殖型ウイルスを癌(腫瘍)細胞に感染させ、ウイルス複製に伴うウイルスそのものの直接的な殺細胞効果により癌の治癒を図る方法である。遺伝子組換えにより癌細胞でのみ選択的に複製するように工夫された増殖型の遺伝子組換えHSV-1は、癌細胞に感染すると複製し、その過程で宿主の癌細胞を死滅させる。複製したウイルスは周囲に散らばって再び癌細胞に感染し、その後、複製→細胞死→感染 を繰り返して抗腫瘍効果を現す。一方、正常細胞に感染した癌治療用ウイルスは複製しないため、正常組織には害が生じない。また腫瘍内でのウイルス増殖は、特異的抗腫瘍免疫を誘導する。従って、ウイルス複製による直接的殺細胞効果と、特異的抗腫瘍免疫の惹起により、特定の治療遺伝子の発現なしに癌を治癒させることが可能で、新しい癌治療法として高い効果が期待できる。
ウイルス製剤の安全性および高い治療効果を追及した臨床研究
正常細胞に対する病原性を低く抑えて安全性を確保することが、ウイルス療法の確立に必須である。しかしウイルスの弱毒化が必ずしも癌治療のために安全なウイルスになるとは限らない。HSV-1はゲノムに変異が生じると必ず弱毒化する。癌細胞は元来ウイルス感染に対する防御機構が障害されているため、いかなる弱毒化ウイルスでも正常細胞に比べると癌細胞では多少とも高いウイルス複製が得られる。癌治療用ウイルス開発において重要なことは、正常細胞に対する病原性を最小限に抑えながら、癌細胞におけるウイルス複製能を最大限に保ち、治療域を意図的に広くすることである。そのためには腫瘍生物学とウイルス学の知識に基づき、癌特異的なウイルス複製が獲得できるよう安定な改変ウイルスゲノムを設計し、遺伝子工学的にウイルスを作製することが必要である。
現在までに世界で臨床試験に使用されている遺伝子組換えHSV-1は、非必須遺伝子を一つだけ操作した第一世代の増殖型遺伝子組換えHSV-1、または第一世代HSV-1に比べ安全性の高い二重変異を有する第二世代HSV-1である。本研究では、安全性と抗腫瘍効果の両面がさらに改善された第三世代遺伝子組換えHSV-1を用いて臨床研究を行う。信頼性の高い非臨床試験と安全性評価、国際基準に合致した高精度の臨床用ウイルス製剤、そして経験と科学的根拠に基づいた臨床プロトコールの作成と実施を通じ、我が国におけるウイルス療法の確立を目指す。
G207
代表的な第二世代の腫瘍治療用HSV-1。臨床応用に研究代表者らが関与した。第一世代遺伝子組換えHSV-1よりも安全性を高めるために、 γ34.5 遺伝子の欠失とlacZ 遺伝子挿入によるICP6 遺伝子の不活化の二重変異を設け、ヒトの脳内にも安全に投与できるように開発された。米国で再発悪性神経膠腫患者を対象に第I相臨床試験が終了し、脳腫瘍内投与の安全性が確認された。
G47Δ
G207のα47 遺伝子を除去した三重変異を有する第三世代HSV-1。研究代表者らが開発した。安全性を維持しながら、抗腫瘍効果が格段に改善された。この癌治療用ウイルスは、感染腫瘍細胞のMHC class Ι発現が維持されるため抗腫瘍免疫刺激が増強し、一方α47 遺伝子欠失と同時に US11 遺伝子の発現時期が早まる結果、腫瘍細胞特異的なウイルス複製能が改善する。現在、我が国における臨床開発を進めている。
「武装」遺伝子組換えHSV-1の基礎開発
他方、我々研究チームは、次世代の「武装」遺伝子組換えHSV-1の開発研究を進めている。第三世代HSV-1を基本骨格とした治療遺伝子発現型の遺伝子組換えHSV-1を作製するため、bacterial artificial chromosome (BAC)を利用した遺伝子組換えHSV-1作製システムを開発した。従来の相同組換え法では、一つの遺伝子組換えHSV-1を作製するのに年単位を要したが、この新技術の導入により、複数の遺伝子組換えHSV-1を2〜3ヶ月という短期間で作製することができ、治療効果のより優れた癌治療用ウイルスの選定が可能となる。
将来に向けて
遺伝子組換えHSV-1を用いたウイルス療法は、生物抗癌製剤としてのウイルスが癌細胞を死滅させながら癌組織内で増幅していくという新しい発想に基づいている。手術・放射線療法・化学療法といった従来の治療法との併用が可能で、免疫療法との組み合わせにより相乗効果も期待できるほか、脳腫瘍に限らずあらゆる固形癌に適用できること、骨髄に影響せず蓄積する副作用がないため反復投与が可能であること、サイトカインなどの治療遺伝子をウイルスゲノムに直接組み込んで抗腫瘍効果を増強できることなど、その応用範囲が広く、実用面で優れている。ウイルス療法は、近い将来癌治療に大きく貢献できるものと期待され、本トランスレーショナルリサーチを通じて、その実用化と普及を目指す。
研究実施体制
代表研究者:東京大学大学院医学系研究科/医学部 脳神経外科 藤堂具紀
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