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エビデンスの作り方〜tPAの場合(1) (2) 転載
http://www.asyura2.com/09/health15/msg/292.html
投稿者 寅蔵 日時 2010 年 9 月 28 日 22:34:21: 8X/teMCB5Xc.E
 

(回答先: エビデンス(根拠)の作り方の不確実性  転載 投稿者 寅蔵 日時 2010 年 9 月 28 日 08:13:13)

URL:http://ank-therapy.net/?p=162
より転載

ーーーーーーーーーー以下転載引用ーーーーーーー
エビデンスの作り方〜tPAの場合(1)

2009.2.10.


医薬品開発において、
エビデンスは、作るものです。

臨床試験をやってみて、
公正で客観的なデータ分析を行い、
治療効果を判定する、、、

そういうやり方では、製造承認を
取得するのは無理です。
仮に取得できても、
そういう薬は、長く市場に
とどまることは難しいです。


どんな数字が、どれ位、動けば
「効いた」と看做すのか、最初に
設計するのです。

「効く」、「効かない」の価値判断の基準が
定着すれば、その基準の上にエビデンスを
築いた薬は、何十年経っても、市場で繁栄します。


効いたかどうかを客観的に分析し、
判定するのが治験の
本質ではありません。

何をもって、効いたと看做すか、
判断基準の設計が、治験の要です。

設計を間違わなければ、
想定通りの結果が出ます。 
ただし、予期せぬ副作用が
出ることはあります。

副作用が出たら、今度は、
副作用を薬効と看做して、
判断基準を再設計し、
同じ物質を、別の薬効で
承認を取ることを考えます。


そして、どこまで試験期間を引っ張るか、
これ次第で、結果が、黒にも白にもなりますので、
どの時点の数字を、データとするかの
見極めが大事です



心筋梗塞の場合。

冠状動脈に血栓ができて、
心臓の筋肉に血液が行き渡らなくなると、
心筋梗塞にいたることがあります。

血栓溶解酵素で、冠状動脈の血栓を溶かす、
そんな治療が、バイオ医薬品の先頭バッターとして
脚光を浴びた時がありました。

宇宙ステーション、スペースラブの船内。

無重力に近い空間で、血栓溶解酵素、
ウロキナーゼ(UK)を大量に産生する細胞を
より分け、地上に持ち帰ってから、米国大手
医薬品メーカー、アボット社が、組織培養によって
UKの大量生産を始めました。 
組織培養を意味するTCをつけ、
TCUKと名づけられました。

三菱商事が総代理店として、日本の医薬品メーカーに
アボット社のTCUKをライセンスします。

日本のバイオ医薬品第一号です。

私が就職した時には、もう上市後だったのですが、
この仕事を決めた先輩に、 

「この薬、何の意味があるのですか?」

と、ぶしつけに質問しました。

「なんでって、日本のバイオ医薬品第一号だぞ、
 宇宙で開発された薬の第一号でもあるんだぞ、、、」

「いや、こんなの、オシッコから取れるUKと、どう違うんですか?
わざわざ、宇宙ステーションなんか使わなくても、そこら辺の
公衆トイレで尿を集めたらしまいじゃないですか。
どんな技術を使ったかなんて、患者さんにはどうでもいいことです。
薬なんだから、効けばいいんでしょ。」

TCUKは、薬価が高かったのです。
バイオ医薬第一号、宇宙医薬第一号、
物は、オシッコ品と大差ないのですが、
薬価が高いため、関係各社は、
儲かるのです。 
患者さんにとっては、、、、
他人のオシッコは嫌だ、
と言う人には福音かもしれませんが、
これ、心筋梗塞の薬ですからね、
どうのこうの言ってるより、
効くか効かないか、
それだけだと思いますけど。

UKは古い薬です。
戦後いつ頃からでしょうか、
ミドリ十字が、人尿を集めて
精製していました。
20歳位の男性の尿が
一番いい、ということで、
国内よりもっとコストが安く
大量に入手できるソースが選ばれました。
中国人民解放軍、軍といっても、
師団単位で会社のように
ビジネスをやるので、各部隊へ防腐剤入りの
容器を送って、それに入れてもらった
若い兵士の尿を買うのです。
香港の商社経由、台湾へ持ち込み、
パッと見、シルバーの灰のようなものまで
精製して日本へ持ち込みます。

こういうタイプの仕事は、知的所有権のライセンスではなく、
「物」の製造供給の流れをつくる、ということになります。
サンプルと分析表を見れば、ある程度の技術力のレベルは
分かりますので、そこそこ以上の相手と判断すると、
現場をみにいきます。 供給能力と品質管理は、
現場へいって、人と会わないと分かりません。
これは、と思えば、技術を教え、また、ウリナスタチンのような
他の医薬品の抽出方法も教え、有力メーカーとして
育てていきます。

UKの派生型で、proUKというのもありましたが、ま、省略しましょう。

SKというのもあります。
溶血性連鎖球菌、よく出てきますね、免疫療法の走りとなった菌です。
この菌がつくる物質で、連鎖をあらわすストレプト、溶解酵素をあらわす
カイネースをくっつけて、ストレプトカイネース(SK)と称します。
実際には、人間の自前の血栓溶解酵素の前駆体であるプラスミノーゲンに
結合することで、血栓溶解機能を誘導するものですから、カイネースでは
ないのですが、見つかった時に考えられた機能で、名前がついてしまいます。
この菌、培地に血液を加えると、SKを沢山つくります。
溶血性ですからね、人の血液を好み、血液の塊を溶かす機能があるのです。
人間の体内で、血液の塊で雪隠詰めにされるのを回避するために、
人間の血栓溶解酵素を活性化する、という、生きる智恵ですが、
それを人間様の病気の治療に使おうという策です。

そして、バイオベンチャーの老舗、ジェネンテック社の最初のブロックバスター級
バイオ医薬品、tPA  組織培養を表すt に、先述プラスミノーゲン、
それを活性化する Activator で、tPA です。


SKのお値段は、200ドル位、注射したらそれでOK
UKは、概ね、コストは、2000ドル位だったでしょうか。
t-PAは、2万ドル位する上に、手術しながら投与するので、
総合費用は、20万ドルに達しました。

1対10対1000 のコスト比となる三つの医薬品

これらを総合比較するバトルロイヤル治験が実施されました。


続きは明日以降、、、


URL:http://ank-therapy.net/?p=162


      ---------------

エビデンスの作り方〜tPAの場合(2)

2009.2.11.


心筋梗塞は、心臓自身に血液を送る
冠状動脈に血栓ができることが原因なんだから、
血栓を溶かせばいいではないか、と
考えられました。

一見、正しいように思ってしまいますね。

何故、血栓ができたのか、見えない部分は
考えないのです。 何故、がんが増殖したかは
考えずに、がんが問題なんだから、がんを叩けばいい、
これと同じ「問題解決型」の発想です。 がんの場合は、
がんの増殖を抑えるべき免疫力を、がんよりも先に
叩いてしまう治療法が標準となってしまいました。
問題を解決しようとして、問題を直接いじると、
問題は往々にして、かえって成長してしまいます。
問題を発生させた背景を無視しているからです。 
免疫系を破壊された患者さんの体内で、
やがて、がんは、猛烈な増殖を始めます。

さて、血栓を溶かせばいいんだ、と、単純に考えられてしまいました。
SK(ストレプトカイネース)、UK(ウロキナーゼ)、tPA(ティッシュ・
プラスミノーゲン・アクティベーター)、三つの医薬品の比較試験の
設計に際し、メルクマール(判断基準)として、

Recannalization Ratio 

これが使われます。

Re−は、再度、cannal はトンネルとか、海峡という意味ですね。
再貫通率、つまり、詰まった冠状動脈が、再び、開通する確率をもって、
医薬品の効果判定基準としたのです。


結果、 SK : UK : tPA  =  60% : 70% : 80%

というスコアとなりました。

コストは、昨日の通り、200米ドル : 2,000米ドル : 200,000米ドル です。
tPAの場合は、6人がかりで手術しながら投与するので、薬剤代20,000ドル
以外に、手術料が含まれています。 SKは注射するだけですから、大違いのコストです。
tPAの場合、アンジオグラフというものを使って、心臓血管をリアルタイムでX線撮影し、
画像をみながら、カテーテルを操作して、直接、患部へ薬剤を投与します。
なんせ、菌を醗酵させてつくるSK、人民解放軍のオシッコを集めるUKに比べ、
組織培養で大量の高価な培地を使い、時間をかけてつくるtPAは、
異常にコストが高く、投与量も、ごくごく微量に抑えたのです。


この奏功率とコストの差をどう考えるか。


米国では、医療コストと、奏功率、更に、治療結果によって、社会復帰した患者が
もたらす経済価値、、、 トータルな経済効果計算を医薬品審査の参考値として
使ってきました。 医療を、お金という視点から見る厳しさは、日本以上です。
自由診療の国なのですから、医療コストが高いか低いかは、患者個人の支払い能力との
兼ね合いだけで決まる問題なのか、というと、そう単純ではないのです。
実は、米国では、保険会社が、国民皆保険の国、日本の厚生労働省よりも、
医療コストの問題にうるさいのです。
LAK療法が米国で普及しなかった大きな障壁は、この民間医療保険の仕組み
という面もあるのです。 自由診療だから、何をどうしようと自由かというと、
米国の医療費の高さは、日本の比ではありませんから、大半の人は、医療保険を
使うことになります。 ところが、どういう疾病に、どういう治療を用いるか、それを
誰が判断するか、、、、 詳細に亙る約款を交わしています。
また、治療を受ける医師より先に、患者個々人の約款に沿って、
医療保険が使える範囲で治療を設計できるプライマリードクターと
面談するので、保険契約した時のリストに載っている治療法しか
使えません。 もちろん、保険料率によって、使える治療法の範囲が
変化します。結局、日本よりも、「自由のない」自由診療なのです。 


tPAは、十分、高いコストに見合う薬、という評価を得て、鳴り物入りで、
市場に登場します。 バイオ医薬品の黄金期が始まった、と、期待を
集めました。


さて、当時の試験結果では、患者全体の50%は、特に、薬を投与しなくても、
自然に冠状動脈が再貫通し(自然のバイパスも含めます)、20%は、何をどうやっても、
どうにもならず、残り30%のゾーンの中で、各々の薬の効果の差が出ている、
というものでした。 そういう意味では、自然治癒率50%に対して、
SK:UK:tPA = +10% : +20% : +30% の薬効を示した、
ということになります。 薬の効果によって生死が分かれる全体の30%の患者の中で、
SKは3分の1しか、患者を救えないのに、tPAは、そのゾーンに入る人、全員を
助けることができる、と、60:70:80の比率以上に、tPAが高く評価されました。


決定的なエビデンス!!!


そう思ってしまいましたか ?


問題の本質は、血栓に孔があくかどうか、ではありません。
患者さんが、助かるかどうか、です。


がん治療のエビデンスとして、真に意味があるのは、
がんが小さくなったかどうか、ではなく、がんがあってもなくても、
患者さんが、元気に生き続けることができるかどうか、です。


治験は、エンドポイント、どの時点で、データを締めるか、
これが決定的に重要な意味をもつことが多いのです。

がんの標準治療を、10年生存率で捉えれば、初期がんであっても、
5年生存率とは、相当、異なる様相を示します。 
最近は、発表しなくなりましたね。


心筋梗塞の場合、半年以上、予後をトレースすると、
結局、発作時点における再貫通率がいくらであろうが、
患者さんが、無事、生き延びる確率には影響しない、
ことが明らかになっていったのです。

血栓ができる原因があるんですから、原因を無視して、
孔だけあけても、また、塞がるのです。
半年経ったら、結果は同じ、それでは、安い薬の方がいい、
ということではなく、血栓溶解酵素なんて要らないではないか、
という議論にまで発展します。 


かくして、鳴り物入りで登場したtPAは、
既存の薬まで道連れにしてしまいました。
バルーン形成術というカテーテルで血管内に
挿入された風船を膨らませて物理的に、
冠状動脈を再貫通させる治療法
 + 一度、詰まった血管はあてにできないから、と、
人工的にバイパスを形成する治療に
取ってかわられることになります。


複雑な生命反応を、非常に単純な、
ある視点からだけみた
現象を判断基準としてしまう。 
そして、数字化し、データを統計処理すると、
エビデンスあり!
エビデンスあり!
エビデンスあり!
と、中身を考えずに、
正しいと押し切ってしまう。

少し視点を変えれば、
すぐに化けの皮が剥がれるのですが。

URL:http://ank-therapy.net/?p=161
ーーーーーーーーーーーー引用終わりーーーーーーーーーー


 

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コメント
 
01. 2010年10月10日 10:38:39: lqOPOFnyLE
がん患者術後10年生存率の最近のものを探したいのですが(以前は近藤氏の著作で言及されていた)、全くとられていないのでしょうか。なにか関連するものがあったら教えてください。

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