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選択 2010年9月号
「CT被爆」大国ニッポン
発がんリスクも最悪に
日本は世界でも突出した「CT(コンピピュータ断層撮影)大国」だ。医療分野におけるCTの保有台数はここ数年、一万数千台を維持し、経済協力開発機構(OECD)の二〇〇九年調査によれば、人口百万人当たりの台数は九二・六合で、二位のオーストラリア五六・〇台、三位米国の三四・三台を凌駕する。広大な国土を持つ後者二カ国を考えれば、一層その異常さが際立つ。
そして、国民一人当たりの検査件数も世界一だ。これは、CTによる「放射線被曝大国」でもあることを意味している。CTの乱用・乱診により無用な医療費の増大を招くばかりか、健康への悪影響も危惧される「本末転倒」な事態が放置されている。
横行する安易な使用
CTによる被曝が些細なものと考えるのは早計だ。昨年九月、米国で五十九歳の女性が、CT検査を受けて間もなく重い急性放射線障害を発症した。これをきっかけに全米で他にも三百七十八件ものCT過剰被曝事故が露呈した。この女性は、最初のCTで六グレイ(Gy)という、通常の頭部CTの百倍相当、脳腫瘍に対する放射線治療の一日(一回)分の照射線量を浴びていた。検査は、何回から何十回も同じ部位をスキヤン(撮影)し続ける「灌流CT」と呼ばれるもので、日本でも使われている。
旧聞に属するが、○四年、英国の医学誌「ランセット」に、診断用のエックス線被曝による日本人の発がんリスクが将来、世界で群を抜いて高くなると推定した論文が掲載され、国内の放射線関係者の間で論議を呼んだ。英オックスフォード大学の研究者によるこの論文は、その被曝源がCTであり、保有台数、検査回数ともに圧倒的に多い日本では、これを原因とするがん患者は、全がん患者の三・二%になり、一%台以下の各国をはるかに上回ると指摘した。
一九九〇年代後半から普及したCTは、高画質が得られる代償として、単純エックス線撮影の百〜五百倍もの放射線被曝を余儀なくされる。しかし、がん放射線治療に比べ格段に低い線量だとして、軽視する医療関係者が多い。前述のランセット論文はそんな風潮に警鐘を鳴らしたといえる。しかし、CTを多用してやまない医療機関、医師たちは依然として多い。
東京都内の基幹的な民間病院の放射線科部長は、日常的に繰り広げられるCT乱用の典型として、ある病院での二つの事例を挙げる。
二十代男性は右下腹部痛で深夜に受診。CTで腹部全体を二通りの方法でスキャンしたが、痛みが続くため翌日再びスキヤンした。最終的に虫垂炎の診断が下されたが、患者は計四回の腹部CTで三十七ミリグレイ(mGy)の被曝をしたことになる。この部長によれば、男性生殖器に対する一時不妊の確定的線量が百五十mGyなので、精子の量が一時的に低下した可能性が高いという。腹部超音波検査を行い、診断が確定しない場合にのみCT検査を一回行えば十分だったと指摘する。
七十代女性が転倒して頭部を打ち、深夜に運ばれてCT撮影の結果、外傷性クモ膜下出血と診断された。しかし、その後も血腫増大の有無確認のため再度CT、翌日、翌々日も「念のため」CT、退院前にも「ダメ押し」CT。合計五回の被曝線量は五百五十七mGyたった。眼球の水晶体が混濁する線量は五百〜二千mGyとされ、女性は水晶体混濁の危険水域に達していた。二回目以降は、被曝の心配がないMRI(磁気共鳴画像装置)検査でよかったという。
単純エックス線による被曝線量は、胸部撮影で○・○五〜〇・一mGyだ。一方、胸部CTは十mGyと一気に百倍以上に増える。腹部CTで約二百倍、頭部CTになると、八百〜一千五百倍にもなる。被曝線量が二百mGyを超えると、将来的にがんや遺伝子に影響を及ぼすリスクが生じるとされている。
厚労省と日医の罪
頭を打ったり、頭痛がして受診すると、CT検査に回されがちだが、前述のように頭部CTの被曝線量は高い。注目したいのは、十四歳以下の小児に対するCT検査の八割が頭部CTとされている点だ。幼い子供は、大人より放射線感受性が高く、臓器が小さいため吸収線量も大きく、発がん確率は数倍といわれている。しかも、CTは大人の体格に合わせて設計されており、子供が大人と同じ線量を受けることになり、危険な行為なのだ。超音波やMRIなど代替画像検査をするか、CTが必要な場合には最小限の線量被曝を考慮した撮影が必要だ。海外では八年前から、放射線を出す管への電流を体格に応じて自動的に制御する装置(AEC)を搭載したCT機種が普及している。しかし、日本では小児専門医療機関など一部の病院に限られているのが実情だ。
世界的に放射線被曝は、職業、公衆、医療の三つに分けられ、医療被曝にだけ線量制限がない。放射線医療で受けるメリット(便益)が、被曝によるデメリット(悪影響)を上回る「正当化の原則」という国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告が基本にある。
最小限の線量照射という「最適化の原則」も打ち立てられてはいる。ところが、線量制限がないのをよいことに、不適切なCT検査が横行してはいまいか。多くの医師は安易にCT検査をオーダーし、不必要な部位にも網を掛けたがる。良心的な放射線科医は、照射範囲を狭め、被曝を減らそうと努力している。
オランダの調査(母数一千二十一例)では、急性腹痛(腹症)の診断で、超音波検査を最初に実施すれば、CT検査が不要だった患者が四九%に上った。ある放射線科医は、「日本の内科医にこういう事実を知ってほしい」と語る。
検査件数の増大が疾患や異常の発見につながっていれば、被曝の代償を払った意味もあろうが、がんや脳血管障害など主要疾患の国別死亡率を見ると、米・英・仏・
独など欧米各国とほぼ変わらない。世界一の被曝量が死亡率の減少に貢献していないことはあきらかだ。
こうしたCT検査の実態を野放しにしてきた厚生労働省、既得権益に手を突っ込まれるのを嫌う日本医師会に原因と責任があることは疑いの余地がない。厚労省は、高性能CTの普及を図るために、保険点数の増加という施策をとった。CTメーカーに天下りしている実態はないようなので、利益誘導ではないが、あまりに安易だ。前述した米国の被曝事故の際、米国食品医薬品局(FDA)は調査に乗り出したが、厚労省が、状況把握に動いた形跡はない。だとすれば、恐るべき怠慢である。
病院側は厚労省に後押し(誘導)されて、数億円もする高額機器を競うように導入。大病院、専門病院はともかく、町の開業医までがCTを備えるという世界的に見ても稀有な光景が広がっている。
かくして、CTの乱用・乱診は医療費押し上げの一因となるばかりか、放射線被曝による健康リスクも世界最悪という歪んだ状況を生みだした。
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