01. 2010年5月24日 21:07:59: p4KWvtUpSU "精神医療拡大強化月間" でしょうか? 少し"協力"させてください。ダイナモさんご紹介の「Thomas R. Insel 」さんの発言です。 “It’s now apparent that the drugs we have available currently for depression are – how shall I say – a little more discouraging than we might have expected five years ago,” says NIMH Director Thomas R. Insel, who is a member of the Dana Alliance for Brain Initiatives. “Be it antidepressant medications or any of the psychotherapy approaches that are known to be effective in depression, virtually all of today’s treatments take several weeks to work, and they work only in somewhere between 30 and 70 percent of people, depending on how you define the response. That’s better than placebo, but it still leaves a lot of people who aren’t responding.” 「今やハッキリしていることは、現在うつ病治療にるようできる薬剤は−なんというか−5年前に期待されていたほどの効果はなかった」と、Dana Alliance for Brain Initiatives のメンバーであり、米国立精神衛生研究所の所長を務めるThomas R. Inselは言う。「抗うつ薬であれ、心理療法的アプローチであれ、実際すべての今日うつ病に効果があるとされる治療法が効果を現わすには数週間かかり、効果の定義にもよりますが、効果があるのはそのうち30〜70パーセントです。プラセボよりは効果がありますが、多くの人には効果がありません。」 http://www.dana.org/media/detail.aspx?id=5392 ‐‐‐‐ また、脳画像についてはこういう記事が参考になるかと思います 「確実に脳を破壊−統合失調症の薬剤治療」 脳画像のパイオニアとされる、ナンシー・C・アンドリーセンさんの記事(翻訳)です。 ニューヨークタイムズ紙 (電子版) 2008年9月15日 http://www.nytimes.com/2008/09/16/health/research/16conv.html A Conversation With Nancy C. Andreasen 一問一答、ナンシー・C・アンドリーセンさん Using Imaging to Look at Changes in the Brain 「画像化して見る脳の変化」
アイオワ大学の神経科学者であり精神医学者でもあるナンシー・C・アンドリーセンさんは、M.R.I.を使って、今、大きな問題に取り組んでいる。− 極めてクリエイティブな人間の神経系統は、普通の人間とどのように違うのか。精神に障害のある人は、正常な人の脳の生理とどこがちがうのか− アンドリーセンさんはこうした疑問の答えを求めて脳の長期的変化を過去20年にわたって記録し、研究を重ねてきた人物。今年の夏、彼女のニューヨーク市訪問を機に、本紙はインタビューをこころみた。以下は3時間におよぶ彼女とのやり取りを編集したものである。 質問. 精神科医になられたキッカケは? 答え. 1960年代の初めのころ、私は英文学の教授をしていました。ジョン・ダンに関する著作もあります。1964年に第一子を出産したのですが、分娩後感染で死ぬ思いを経験しました。抗生物質のなかった時代には、この分娩後感染で多くの女性が命を落としています。私は抗生物質のおかげで命を返してもらった。それを思った時、すべてのことを考えなおしました。私は文学の研究をやめ、医者になるために、もう一度学校に行くことを決意したのです。 最初から私は調査と患者のケアにたずさわりたいと思っていました。複雑なことが好きでしたから、神経学よりもさらに複雑な精神医学を選びました。脳を研究するようになったのも、脳が体の中で一番複雑な臓器だから。私は自分の命を救ってくれたペニシリンと同じぐらいの大発見をしたかったのです。 質問. あなたは画像技術を脳生理学の研究に使った先駆者でいらっしゃいます。CATスキャンやM.R.I.を研究手段に使うというアイデアは、どこから生まれたのですか? 答え. 私が最初に受け持ったのは、統合失調症の患者さんでした。しばらくその患者さんを見ているうちに、なぜこのような悲惨な病気が起こるのか、どうすれば起こさないようにできるのか、そしてどうすればもっと良い治療ができるか知りたいと思ったのです。そこで早速私は、脳を調べる新しい検査法を探しました。当時の技術では、脳の違いを調べることは容易なことではありませんでした。患者を解剖する以外にほとんど情報を得る手段が無く、比較の対象となるものがなかったため、その有用性も非常に限られたものだったのです。 そうこうするうち、1970年代の初めにCTスキャンが登場しました。生きた患者の脳内を画像で見ることができるようになったのです。私は即座にその可能性を直感しました。問題は、どうやって同僚の了解を得るかでした。CTスキャンは患者を放射線に曝すことになりますから。そこで私は、医大の人体実験委員会に出向きました。でも「患者を放射線に曝すようなことさせるわけにはいかない。そもそもそんな事をしたって何も得ることはできない」と言われ、納得してもらうのにとても長い時間がかかりました。 質問. 今ではイメージングが神経科学研究の主力となっています。そのように態度が変わったのはいつからでしょう? 答え. 1980年代の初めに磁気共鳴映像法(M.R.I.)ができてからです。M.R.I.によって患者を放射線に曝すこともなく脳の構造を詳細に見ることが可能になりました。そこで私はM.R.I.を長期間にわたる経時的研究に使うことにしました。いま私たちが調べているのは「統合失調症はアルツハイマー病と同じような神経変性病なのか」という疑問です。 1989年から統合失調症とそうでない被験者を集め、彼らの脳の画像を撮り始めました。統合失調症患者の場合は、最初の発症−だいたい24歳前後−から調査を始めています。被験者として538人の統合失調症患者を募り、今でも305人を追跡調査をしています。 質問. それで、どのような発見がありましたか? 答え. まだ公表しておりませんが、公開構演ではすでに話した大発見があります。統合失調症の患者は、同年齢の健康なひとに比べ、脳組織が急速に減少していることがわかったのです。1年に1パーセントの割合で減少している患者も何人かいます。この割合の減少が18年にわたって続いているのですから大変な数値です。では、なぜこのように減少しているのか。私たちのもう一つの発見は、服用している処方薬が多ければ多いほど、脳組織が減少していくということです。 質問. なぜこうしたことが起こるとお考えですか? 答え. そうですね、これらの薬は実際にどういう働きをしているかでしょう。これらの薬は脳幹神経節の活動をブロックしています。そのため、薬剤によって前頭前皮質に必要な情報がインプットされずに中断されてしまうのです。それが精神病の症状を軽減させているわけですが、同時に前頭前皮質の萎縮を徐々に引き起こします。 〔 訳者注:日本では世界でも類を見ないほどの「多剤大量」処方が日常的に行われていることを考えれば、二、三十年の「治療」で50パーセントの脳組織を失うことも考えられる。〕 もし私が新しい薬を開発するなら、ターゲットを変更します。これまでは化学的公式に当てはまるものをターゲットにしてきました。私たちはもっと解剖学的に考え、「統合失調症患者の場合、機能的に異常をきたしているのは脳のどの部位であるか」を問うべきだと思っています。 質問. ご自身の発見が誤用されることに対する懸念は? 答え. この発見を私がこれまで2〜3年のあいだ伏せてきたのは、それが事実であることを確認するためです。私が一番心配するのは、薬を必要としている人たちが服用をやめてしまうことです。 質問. この発見が持つ方針的含意は何でしょう? 答え. 含意その1:これらの薬剤は可能な限り少量で用いるべきですが、現実にはそうでないことが非常に多い。患者にどんどん薬を飲ませて、さっさと退院してもらおうという経済的に大きなプレッシャーがあります。含意その2:脳の他の系統や部位に働きかける新しい薬を見つける必要があります。含意その3:どのような薬剤を使うにしろ、同時に薬剤を使わない治療のほうに軸足を移動させる、たとえば認知療法や社会療法など。 質問. あなたの経時的研究では、正常な脳がどのように老化するかも調べていらっしゃいますか? 答え. はい、調べています。「どの時点で脳の熟成が止まり、いつから下降線をたどって組織が減少していくか」を調べています。わかったことは、人間の脳は25歳ぐらいまで熟成が続き、その後20年ほど一定の状態が続きます。そして45歳ぐらいで脳組織の減少が始まるということです。 でも興味深いのは、脳組織が減少するからと言って、必ずしも認知能力が衰えるわけではないことです。50、60、70、あるいは80歳になっても、極めて明晰な方が多数いらっしゃいます。たとえば45歳の人の脳組織を調べてみて、正常な人の脳に比べるとずいぶん脳組織が減少していても、認知能力はまったく衰えていないこともあります。 |