20〜30代の自殺、過去最悪 失業や過酷な労働条件で追い込まれ
2010.5.19 07:27■周囲の「おせっかい」も必要
若年世代の自殺が深刻化している。警察庁が13日に発表した自殺統計によると、昨年の20〜30代の自殺率は過去最悪を記録。動機面では仕事に関係する項目が目立ち、厳しい経済情勢の中、職場や就職で若い世代が追いつめられている状況が浮かび上がる。若者が死に追いつめられないよう、自殺対策に取り組む関係者は心のサポートの必要性を強調している。(森本昌彦)
◆増える若者の相談
「相談事業をやっていない私たちの団体でも、若い世代からの相談が増えている。事態は相当切迫しているのではないか」。自殺対策に取り組むNPO法人「ライフリンク」の代表、清水康之さんは話す。NPO法人「自殺防止ネットワーク風」理事長で長寿院(千葉県成田市)住職、篠原鋭一さんは15年以上前から自殺を考える人の相談に乗っているが、「ここ最近、20〜30代からの相談は増える一方だ」という。
自殺統計によると、昨年の自殺者3万2845人のうち、20代は3470人、30代は4794人。自殺者数で見れば、30代は前年に比べて減ったが、自殺率(人口10万人当たりの自殺者数)は両年代とも前年を上回り、過去最悪となった。問題の背景の一つとして清水さんは経済情勢の悪化を挙げ、「失業だけでなく、職場に残った人も過酷な労働環境の中で追い込まれている」と分析する。
今回の自殺統計からも仕事をめぐる20〜30代の深刻な状況がうかがえる。「勤務問題」が自殺の原因・動機となっているのは30代がトップ。具体的に見ると、「職場の人間関係」や「仕事疲れ」で30代が全年代のトップ、20代でも「就職失敗」がすべての年代で最も多かった。
◆孤独から孤立に
若い世代の精神状況も背景として挙げられるという。篠原さんは「本質的には孤独から人間関係が絶たれる孤立状態になり、『生きていてもしようがない』『消えてしまいたい』と考え、死を選ぶ。リストラされたからといって、すぐに自殺ということではない」。清水さんも「若い人たちの場合、『この社会は生きるに値するのか』『生きる意味があるのか』と感じている側面があるように思う」と指摘する。
20〜30代の自殺を防ぐにはどんな対策が必要なのか。清水さんは「地域の特性、職業の特性など実態を踏まえた支援を戦略的に取っていくことが必要だ。そういった対策を通じて、命に価値があることを若い世代に見せていくしかない」と話す。若者の孤立を防ぐため、篠原さんは「自分と他人とがかかわれる“有縁社会”を構築しないといけない」と話す。
行政機関だけでなく、普段からの周囲のサポートも必要だ。篠原さんは大人たちが若者にかかわる必要性を挙げ、こう訴える。
「大人たちは、今の若者がおせっかいを嫌がっているのではないかと思っているが、本当はうれしいと思っている。若者に対し、もっとおせっかいを焼いてほしい」
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■厚労省サイトでも支援
今回の自殺統計では、20〜30代だけでなく、全年代で経済情勢悪化に伴う動機が目立っている。「生活苦」が前年同期比34.3%増、「失業」が65.3%増と大幅に伸び、働く人の精神面対策の必要性が浮かび上がっている。
昨年10月に開設された厚生労働省のサイト「こころの耳」は働く人のメンタルヘルスに関する情報を集めている。働く人、家族、事業者、支援者それぞれのニーズに合わせた情報を掲載。相談機関の連絡先、疲労やストレスの蓄積度をチェックするツール、おすすめの本などを紹介している。