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赤字削減と経済成長の均衡回復が鍵−タイソン米大統領経済顧問が寄稿 1月8日
(ブルームバーグ):
歴史を振り返ると、金融危機とそれを引き金としたリセッション(景気後退)はこれまで政府の財政に悲惨な影響を及ぼしてきたが、2008年後半に米国で発生した信用危機も例外ではない。
先例のない規模の財政刺激策と大胆かつ革新的な金融緩和策により、金融市場の安定は取り戻され、新たな大恐慌に突入する事態は食い止められた。しかし、救済策と景気回復が進むなか米政府の抱える赤字は国内総生産(GDP)比で11%を超え、第2次大戦後最悪の水準に達した。
これらの流れは気掛かりではあるものの、今赤字削減に着手するのは時期尚早だろう。家計は財布のひもを引き締めて貯蓄を増やし、借金を減らして資産内容の見直しを進めている。こうしたなか失業率は数年にわたり7%以上の水準にとどまる公算が大きく、個人所得や信頼感、消費を押し下げるだろう。米国では大半の世帯で当面、浪費よりも倹約ムードが優勢となりそうだ。
信用は依然として引き締め気味の状態が続く見込みで、銀行は引き続きレバレッジ解消とバランスシートの修復に取り組んでいる。引き締め気味の融資条件は一段の規制でさらに厳しくなっており、個人消費が力強い回復を遂げていく上で相当の向かい風になりそうだ。住宅用・商業用不動産物件の売れ残り在庫が大量にあるため、従来は景気回復の原動力だった建設業界の力強い成長は妨げられよう。
不確実
こうした状況では力強い自律回復は確実だと言うには程遠く、性急に歳出抑制や増税に踏み切って財政赤字削減を進めれば、米経済を再びリセッション(景気後退)に陥れかねない。
政策当局者は巨大かつ複雑な課題に直面している。将来の赤字を削減するとともに、健全な雇用創出を伴う経済成長を持続させる必要がある。
この課題に取り組むには2つのことを実施しなければならない。まず、議会は米経済が潜在成長力をかなり下回り、個人消費が抑制されている限り、大規模な財政支援を提供し続けるべきだ。10年の雇用創出を促進する追加の財政刺激策が望ましい。
こうした環境が続いても、多額の財政赤字がクラウディングアウト(政府の借り入れ増大で民間の資金調達を圧迫する現象)効果で個人消費を絞らせたり、金利やインフレ期待の上昇を招いたりする危険性はほとんどない。現在は、米国民の貯蓄率上昇により、連邦政府の膨らむ赤字のカバーに必要な貯蓄が賄われている状況にある。その結果、政府の借り入れ必要額が多額であるにもかかわらず、長期金利は歴史的低水準にとどまり、インフレ懸念は抑制されている。
財政引き締め先送り
次に政策当局者は、民間需要が回復し米経済が潜在成長力に近づき次第自動的に実行される財政引き締めに向けた確かな計画を今策定すべきだ。
この計画が成立すれば、景気回復後も財政赤字が続くとの投資家の懸念から長期金利が上昇するような事態を防止できるだろう。さらに、この計画が進めば、米政府の信用力の欠如とドル離れによる新たな金融危機が発生する可能性を低減することになろう。
緩やかな赤字削減を伴う米経済の健全な回復は国内の政策選択だけでなく、諸外国の政策選択にも左右される。米国の個人消費は数年にわたり低迷する見通しであるため、米政府が財政的な支援を抑制すれば、米国の財・サービスに対する海外からの需要で補完されない限り、経済成長は鈍化する公算が大きい。
経済成長の均衡回復
内需の低迷は、力強い外需で埋め合わせされねばならない。02年から08年にかけて海外からの低コストの資本流入に後押しされるなか、米国の世帯が借金して支出したため、中国などアジアの輸出主導型経済の成長に拍車が掛かった。
このような世界経済の成長パターンはもはや実現可能ではなくなっている。米経済は多額の債務を抱えるため、中国などの黒字国はもっと内需に頼る必要があり、対米輸出への依存度を下げるべきだ。世界の経済成長は不均衡を是正しなければならない。生産は米国の内需を上回るペースで伸びる必要があり、内需は巨額の貿易・経常黒字を抱える中国などの国々の生産の伸びを上回るペースとならねばならない。
勇気付けられる兆し
不均衡の是正が進展している明るい兆しが幾つか見られる。世界不況による輸出の急激な落ち込みに対応するため、中国は大型の財政刺激策と銀行融資の急拡大により内需を喚起している。中国の09年7−12月(下期)の劇的な景気回復は大方が銀行融資からの投資によるものだったと説明できる。こうした投資の大部分は、輸出能力の向上を狙ったものではなく、都市化や農村部開発を支援するインフラ整備に向けられているようだ。
この種の投資は中国の世帯による消費を将来押し上げるだろう。同じ目標を共有する中国当局も教育や医療、高齢者向け社会保障に投資する意欲的な計画に乗り出している。
ゴールドマン・サックス・グループのエコノミストらによると、中国の力強い内需の伸びは09年と10年の米国を含めた世界の輸出の主要な原動力になる可能性が高い。
こうした著しい短期的改善にもかかわらず、中国の成長戦略が永続的に変化していくには数年を要する見通しで、実質ベースで1998年当時より高くはない人民元相場を切り上げる問題など議論の多い政策も必要になってくるだろう。
元を通貨バスケットに対して緩やかに管理された調整に回帰させれば、消費主導の新たな成長モデルに取り組む中国の姿勢を打ち出す説得力あるシグナルになる。このモデルは中国と米国などの貿易相手国の双方に恩恵をもたらす。中国はよりバランスが取れ、かつより持続的な成長を享受することになり、中国の輸出に対する保護主義者からの圧力は弱まるだろう。米国は一層の外需を享受し、景気の二番底リスクや追加的な財政刺激策の必要性は低下する。そして世界経済は健全かつ持続的な回復の見通しが強まるだろう。(ローラ・タイソン)
(ローラ・タイソン氏はカリフォルニア大学バークレー校ハース・ビジネススクールでグローバル・マネジメントを専門とする教授を務めており、元米大統領経済諮問委員会(CEA)委員長。この寄稿文の内容はタイソン氏自身の見解です)
http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920021&sid=aarUljMVzhMM