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日本観察記(3) 帰国して感じる中国の食堂
文=薩蘇
日本から帰国して二日目の朝、起き上がるとすぐさま、そわそわと食堂にでかけ、油条(小麦粉を棒状に練って、油で揚げたもの)と豆腐脳(おぼろ豆腐)を食べた。実のところ、油条も、豆腐脳も別に高級な食べ物というわけではない。油条は、パンのてんぷら、豆腐脳は、あんかけの絹ごし豆腐といったところで、中国人の伝統的な朝食である。けれど、日本に来て見ると、売っているところがなく、豆腐脳を送ることができる郵便局もない。ゆえに、この簡単な食事が我々中国人にとっては、三本足のロバのような、極めて珍しく貴重なものとなる。
日本人の食事は、自宅か、または「外食」である。中国人には、このほか、「食堂で食べる」という選択がある。
日本にも「食堂」という言葉があるが、中国と含まれる意味に違いがある。中国の食堂は、とても面白い場所で、ここの食事は、普通の「外食」よりも安いうえに質もいい。例えば、ここで朝食を食べると、油条2本、豆腐脳1碗、目玉焼き一つ、さらに漬物で、全部で3.5元、日本円でおよそ50円である。中国の食費は、日本より安いとはいえ、もし同じような食事を街のレストランでとれば、倍にはなるだろう。中国人の多くは、外食には無駄に金を使いたくなく、かといって自分で作るのも面倒だと考え、一日三食を食堂で解決する。ここにはいつも美味しくかつ、アツアツの食物がある。この一点は、毎日、冷えた弁当を食べる日本の公務員や会社員には羨ましいものだろう。
けれど、食堂で食事をするのは簡単なことではない。主食、副食は、買わなければならないが、お金を払うのではなく、「飯票」と呼ばれるものを払う。どうしてこうなるのか、話は長くなる。
食堂は、政府機関、あるいは会社が設けているもので、所属する内部の人々のためのものである。内部の人々には、スタッフとその家族も含まれる。私は日本で仕事しているが、私の家族は、中国科学院で仕事をしており、ゆえに私も中国科学院の食堂で食事する権利がある。食堂は内部の人々のためにサービスにあたるとはいえ、腕のよいコックをやとい、衛生管理をし、そのうえ利益をむさぼってはならない。ゆえに、食事は安く、質がいい。そのため、外部の人間が内部の人間を装い、得をしようとすることがある。多くなれば、食堂ではそれほどの量の料理はまかなえない。どうすべきか?というので、中国人が考え出した対策が、食堂で食事のできる人間には、あらかじめ内部で「飯票」を購入させ、外部の人間の食事を制限する方法である。そのおかげで、食堂は、中国の領土上で数少ない、人民元が使用できない場所となった。
私の子供時代、両親はともに仕事で忙しく、長い間、食堂で食事していたので、そこにいくと、いつも親しみを感じる。
中国の食堂は、外見はどこもよく似ている。どこも講堂のような建物で、実際のところ、多くの食堂は、政府機関や会社において講堂の役割も果たしている。食堂の内部は十分に空間があり、中間には、方形または円形のテーブルが並び、イスかベンチが置かれ、レストランよりもずっとスケール感がある。まわりに窓口が幾つもあり、その上には赤い紙の標示で、この口から提供されるのは、炒めものなのか、冷菜あるいは主食なのかが説明されている。炒めものであれ、ご飯であれ、すでに調理済みで、大仰な大鍋からお客にサービスされる。「小炒」と書いてある窓口でのみ、コックはお客の好みに応じて、その場で炒めてくれる。「小炒」であっても、ひとつの料理は、たったの6、7元であり、日本円で100円以下である。レストランと違い、食堂では料理は提供するが、容器は提供せず、食事をする人間は自分で携帯する。食堂に行く中国人は琺瑯の容器を食器とする。かつては、食堂で使う食器が洗面器くらいに大きい人間もいて、料理を盛る人間は、思わずその量を多くしたりしたものだ。いまは食品も豊かになったのでこのような超級食器は見られなくなった。多くの食堂では、ご飯とスープは無料である。けれど、多くの食堂では、主な対象はスタッフなので、アルコール類は売らず、酔って仕事に影響することがないようになっている。
私自身の経験でいえば、食堂の良さは前述した事柄のほかに、勤務先に対する帰属感が育まれることである。欠点は、といえば、食堂はレストランではないので、サービスの態度が特に良くはない。食堂が開く時間になると、多くの人々が手に食器を持ってその外に行列をする滑稽な場面がみられる。もし、レストランでこんなことが起きたら、翌日、テレビのニュースになるだろう。
けれど、中国の食堂はすべて良いとは限らない。時には、厨房スタッフの怠慢や私憤により、食事の水準が下がることもある。そして、結果として多くの人の抗議を呼ぶ。このようなことは周期的に起きる。例えば、北京の各大学の食堂は、経営上の、または衛生上の問題で、学生の不満を引き起こし、学生たちがこの問題に対して学校側に意見をぶつける頻度は、驚くほど高い。
中国の食堂のこれほどの繁栄は、往時の軍隊式管理と相似点があるのかもしれない。大鍋の料理、福利的な価格、内部のみへのサービスは往時の軍隊の炊事場の影響が感じられる。
この習慣は、中国における外国企業にも影響している。例えば、グーグルの北京支社では、食堂を始め、その食事は素晴らしい。このことから、中国の食堂は、将来、世界に羽ばたくものといえるだろう。
薩蘇
2000年より日本を拠点とし、アメリカ企業の日本分社でITプログラミングプロジェクトのマネジャーを務める。妻は日本人。2005年、新浪にブログを開設、中国人、日本人、およびその間の見過ごされがちな差異、あるいは相似、歴史的な記憶などについて語る。書籍作品は、中国国内で高い人気を誇る。文学、歴史を愛するITプログラマーからベストセラー作家という転身ぶりが話題。
「人民中国インターネット版」 2010年1月2日
http://j1.people.com.cn/94473/6860780.html