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景気回復に懐疑的、二番底のリスク−モルガンSのローチ氏が寄稿
【bloomberg.co.jp:http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920021&sid=aGD2MnoJVXSY】
1月5日(ブルームバーグ):1年前は絶望さえ感じられた世界に、今では希望が芽生えている。政策当局は第2次世界大戦以後で最も痛みを伴う危機とリセッションの底入れに成功したからだ。ただ、先行きは依然として不透明感が残る。底入れの動きには勇気づけられるが、今後の景気回復局面がどのようなものなのか、わたしたちにほとんど何も教えてくれない。
世界経済の活力ある持続的な回復に懐疑的であるのには、4つ理由がある。
まず、国際通貨基金(IMF)の最新の試算では、不良債権の評価損が全世界で約3兆4000億ドル(約314兆円)規模に達する可能性が示されている。これまでに確定した損失額はそのわずか半分程度であり、これは金融機関の収益が一段と悪化すると同時に、貸し出し能力が制限されることを示唆する。
第2は、今回の世界的なリセッションが驚くほど広範囲に及んだことだ。最も厳しい局面だった2009年3月には世界経済の75%が縮小していた。この数値は一般的には50%前後だ。これはリセッションで疲弊した世界経済を好転させるのがいかに困難であるかを示している。
第3に、返済能力を超える債務を抱えた米国の消費者の買い控えが長期化し、世界の需要が抑制される公算が大きい。労働市場では雇用や賃金が激しい衝撃に見舞われ、そこに不動産や信用バブルの破裂が重なった。米国内総生産(GDP)に占める個人消費の割合は、現在の記録的な71.2%からバブル発生前の標準的な66%へと5ポイント落ち込む可能性が強い。
米国の消費の弱さ
これにより米国の消費の伸びは実質ベースで危機前の10年間のほぼ4%から、向こう3−5年間は1.5−2%に減速するだろう。世界中どこの消費者もこの穴を埋めることはできない。
そして第4は、世界経済の供給サイドが極度な不均衡に見舞われていることだ。特に中国を中心とするアジアの開発途上国がこれに該当する。表面上、危機後の中国経済の回復力は目覚ましいが、09年1−9月に達成した前年同期比7.7%の経済成長のうち95%は固定投資分野に依存し、GDPの45%を占める前代未聞の状況となっている。
今回の政府主導の銀行融資の記録的な伸びは、既存の不均衡をさらに増幅させることも手伝って、中国は誤った資本配分や融資の質の一段の悪化というリスクに直面している。
不安定な回復
このような強烈な逆風を考えれば、世界経済の向こう3年間の平均成長率は約2.5%と、近代で最も力強さを欠く景気回復局面になると予想される。重大なのは、こうした結果が70兆ドル規模の世界経済の「失速」につながりかねないことだ。つまりある衝撃がいとも簡単に景気を逆回転させる引き金となり、恐ろしい二番底に導く可能性があることを意味している。
通常の循環的な回復局面では、それまで抑制されていた需要が景気回復で十分なクッションとなり、経済は周期的に訪れる衝撃に持ちこたえられる。
対照的に、こうしたクッションがない景気回復は予想外の衝撃に耐える力がはるかに小さい。当然ながら現状ではこうした懸念はむなしく響く。在庫循環に伴う一時的な押し上げ効果で、活気に満ちたV字型回復の希望や夢が突如として信ぴょう性のあるもののように見え始めているからだ。ただし、在庫効果がいつもと同じようにはげ落ち、需要の基調の弱さが再び浮かび上がってくれば、危機後の回復はすぐさま不安定な状態に変わるだろう。
出口戦略のリスク
こうした不安定な状況を招く潜在的なショックは2つある。その1つは大規模な景気対策からの誤った出口戦略だ。政策当局は世界の救済を目的に導入した異例の財政・金融刺激策を解除する手段や戦術を欠いているのではない。
残念ながら当局には政治的意思が欠けているのだ。米連邦準備制度理事会(FRB)は、危機発生後にフェデラルファンド(FF)金利の引き下げを急ぐ一方で、景気回復局面では正常化に時間をかけるという「非対称」の出口戦略を再び採用する可能性が高い。
これでは正常化が遅れた02−06年の繰り返しになる。この遅れが新たなバブルや不均衡をあおる主な役割を果たし、今回の危機の土台を作ったのではないか。
中国バッシング
第2の潜在的な衝撃は貿易摩擦と保護主義の高まりであり、特に米政府が主導する中国バッシングだ。今年の米中間選挙に向けて、同国の失業率は9.5%を上回って推移する公算が大きく、党派を超えて再び中国の為替問題がやり玉に挙がる可能性がある。
米政府が貿易制裁措置を発動すれば、中国政府のドル建て資産の購入意欲は間違いなく減退し、ドルだけでなく恐らく米実質長期金利に深刻な影響を及ぼすだろう。
こうした衝撃の予測は誰もできないが、二番底説には1つの重要な点で極めて明確なことがある。それは衝撃が活気のない回復局面に致命的な一撃になり得るということだ。依然もろさが残る危機後の経済環境では、これが現実のリスクとして存在する。世界経済が今年のある時期に二番底をつける可能性は40%程度あるとわたしは予想している。
(スティ−ブン・ローチ)
(スティーブン・ローチ氏はモルガン・スタンレー・アジアの会長です。この寄稿文の内容はローチ氏自身の見解です)