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http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20091222/202415/?P=1
2009年12月24日
前回はドバイショック直後の現地の状況をリポートした。「ドバイの街は十分に賑わっている」と書いたように、すでに出来上がっている魅力あるリゾート施設やショッピングモールなどで今後やっていけそうな印象を受けた。未完成の施設や古くなった施設を処理すれば問題は解決するだろうし、それはUAE(アラブ首長国連邦)の一員であるドバイ首長国にとっては難しいことではない。
しかし、ドバイで「ショック」が沈静化しつつあるとしても、他の国に目をやれば事情は違ってくる。実は現在、ドバイショックの影響をもっとも強く受けているのがヨーロッパだ。そして、いずれヨーロッパから日本へと飛び火する可能性もある。
今回はドバイショックが他国へ波及する可能性について考えてみよう。
【ドバイショックの余波はまずギリシャに飛び火した】
現在、ヨーロッパで問題になっているのがギリシャの財政悪化だ。これが金融市場に動揺を広げたため、EU(欧州連合)加盟国や欧州委員会はギリシャに対し、財政再建へ直ちに対応するよう強く求めた。また格付け機関フィッチ・レーティングスは12月8日、ギリシャの格付けをA−からBBB+に下げた。アメリカの格付け機関スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)も9日、スペインの格付けの見通しを「安定的」から「ネガティブ」へ見直したと発表した。
もっとも私自身は、格付け機関の判定はいい加減なものだと考えている。問題が起こる前に的確な状況判断をして「ギリシャのランクを下げる」と発表してくれていたらいいのだが、格付け機関はなぜかそうはしない。必ず問題が起こってからランクを変える。まさに後出しジャンケンであり、その結果、さらに状況悪化に拍車がかかることになる。
これら格付け機関の対応はサブプライムローンのときも同じだった。問題が起こってから、AAAのランクを付けていた会社を「的確ではない。BBに格下げ」と発表していたのだ。その程度のことなら専門家がやる必要はなく、アマチュアでもできる。格付け機関のいい加減さには腹が立つばかりである。
本題に戻ろう。前述の通り、ドバイショックの一番の被害者はヨーロッパ勢である。ドバイには同じUAE内の兄貴分であるアブダビ首長国がいた。石油産出量が豊富なアブダビが助け船を出してくれれば、ドバイの信用不安をかき消すことが可能だ。信用不安が無駄に拡大することはなく、世界への影響は最小限に止められる。現にすでに先週アブダビは100億ドルの金融支援をドバイに対して行うと発表している。
しかし、ヨーロッパにはアブダビのような豊かな国はない。一国の経済危機の影響をダイレクトに受け止めることになる。もしもギリシャの財政が破綻してしまったら、その対応は極めて難しく、周囲の国に飛び火していく可能性が高い。なぜなら、財政に不安を抱える国はギリシャだけではなく、アイルランドやスペインも財政悪化の問題が度々ニュースになっているからだ。このような状況にあって、ギリシャの財政破綻が現実味を帯びることは極めて危険なのである。
【12年前のアジア通貨危機を思い出せ】
1997年に世界を揺るがしたアジア通貨危機を思い出していただきたい。アジア通貨危機の発端は、タイの通貨バーツが売り浴びせられ、通貨下落を招いたことである。その余波を受けてマレーシア、インドネシアなどアジア各国の通貨が暴落した。マレーシアは当時のマハティール首相がリンギットの兌換性を封鎖して乗り切った。シンガポールや香港は放置することで逆に鞘取り業者(アービトラージャー)を撃退した。
だが、この影響をもっとも強く受けたのは韓国とロシアだった。
韓国に飛び火するまでにはタイムラグがあった。タイで通貨下落が起こったのは6月から7月にかけてであった。ASEAN(東南アジア諸国連合)へはすぐに波及したが、通貨危機が韓国を襲ったのは12月で、少し時間差があった。その夏から冬までの間は平穏な印象があったのだが、「あれ、そういえば韓国も借金が多いのではないか。米国の銀行が韓国に貸しすぎているのではないか」という連想によって通貨危機が再燃して、韓国はIMF(国際通貨基金)の手を借りるところまで追い込まれた。
さらに通貨危機はロシアへと波及した。財政が悪化していたロシアにアジア通貨危機と韓国の財政危機が続けて襲いかかり、ロシアはデフォルト(債務不履行)に追い込まれた。翌98年の8月のことだ。そのあおりを受けて、アメリカの大手ヘッジファンドであるロングターム・キャピタル・マネージメントまでもが破綻することになり、アメリカ国内はクリスマスもニューイヤーも楽しめないほど暗い森閑とした状況に見舞われたのである。こうしてタイから始まった通貨危機は世界中を巻き込んだのだった。
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まさに連想ゲームのように、問題を抱える国を見つけては危機を拡大していった。危機に見舞われた国はすべて以前から何らかの問題やトラブルを抱えていたわけだが、最初の兆しが見えてから次第に各国の問題が顕在化していったのだ。そして被害の規模は、震源地となったタイよりも、余波を受けたインドネシアのほうの打撃が大きかった。さらに韓国、ロシアはもっと大きかった。被害は次第に拡大していったのである。ロシアは借金が支払えずデフォルトとなりエリツィン政権は倒れた。ロシアの財政はプーチンになって大幅に改善し、最後にドイツへの繰り延べ借金を支払ったのは6年後である。
【ヨーロッパを経由して危機が日本を直撃する可能性もある】
さて今回のドバイショックだが、アジア通貨危機と同じ連想ゲームで被害が飛び火していくなら、一番危険なのは日本である。「次に危ない国、もっと危ない国はどこか」という連想の先にあるのが日本だからだ。それを解説するために、まずフィッチによる主要国のソブリン格付けを見ていこう。
一番上のAAAには米国、イギリス、ドイツ、フランスに並んで、スペインまで顔を出している。もっともスペインについては本稿冒頭で述べたようにS&Pが格付けを見直しているので、フィッチもいずれ下げてくるだろう。ギリシャは現在のところBBBだが、いずれBB+かBB−(ジャンク債)に変わる可能性がある。
次に財政収支の国際比較(対GDP比)を見てみよう。
アイルランドをのぞくと、ヨーロッパではギリシャとスペインの財政悪化が目立つ。今回は最初にギリシャの名前が挙がったわけが、スペインが問題視されるのは時間の問題であろう。「スペインは大丈夫か?」「いや、それほど大丈夫ではない」「では、その次に悪いフランスはどうか?」「ポルトガルはどうなのか?」という具合に、財政収支の悪い方から順番にターゲットにされることになる。
このグラフには参考までに米国と日本を掲載しているが、世界的な財政悪化スピードのチャンピオンは米国、それに続くのが日本である。日本は累積では圧倒的に世界記録を塗り替えているし、今後は財政赤字の累計がGDPの200%を超えると予想されている。下図を見ていただければわかるように、かつての劣等生イタリアの累積財政赤字(120%程度)を10年ほど前に抜いたと思ったら、あっという間に200%に近づいているのである。
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そんな日本が今でも世界中から安全だと信じられているわけだが、それは国家財政が認められているのではなく、国民が持つ個人金融資産によって財政危機を乗り越えることができると思われているからに過ぎない。もし国民が賢くなり、自分の財産が国家にかすめ取られるのは納得できないと態度に表したら、一気に日本の信用は失われてしまう。
【赤字国債の発行額を抑えるべきだ】
現在日本では、亀井金融担当大臣の「モラトリアム制度」発言などが市場に悪影響を及ぼしていると言われている。だがあえて言えば、亀井氏の発言など「かわいいもの」だ。もしヨーロッパから飛び火したら、その被害は亀井金融担当大臣の発言によるものとは桁が違う規模のものとなるだろう。もちろんそうなれば格付け機関は日本のランクを大幅に下げるに決まっている。
民主党の予算編成を見ていると、とても財政危機を前提にしたものとは思えない。一つには自民党が昨年作った予算で使った税収に約10兆円もの不足があったことである。自民党が民主党、そして国民に置いていった土産は10兆円の歳入不足である。
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しかしそれが明らかになっているのに、民主党は今ここで史上最大の歳出計画を立てようとしている。55兆円程度の赤字国債を出すことになるが、これを埋蔵金でまかない、何とか44兆円というところに持っていこうとしている。しかし、そのトリックの一つは自民党に習って来年度の歳入を過大に見ることであろう。結果として足りなかった、ということになれば、しょうがない、とその時点で赤字国債を出すのだろう。上のグラフを見れば、日本の税収はこの20年間少しも増えていないことがわかる。一方、歳出は小泉政権の頃に足踏みしたが、押しなべて上昇気味である。その間のギャプが財政赤字の累積増、というこことになる。
こうした無節操な経済運営にようやく気がついたのか、格付け機関は一斉に日本についてネガティブな方向に見直しを始めている。すでに複数の機関が「国債発行額が44兆を超えるのが現実となれば見直す」と表明済みだ。マイナス方向に格付けを変更するのは、すなわち「日本の財政を市場が制裁する」ということである。
だから、この連想ゲームによる信用不安の拡大はどこかで止まってほしいと考える。できればギリシャ、スペインあたりで踏みとどまってほしい。仮にフランスまでもが信用不安に巻き込まれるようなら、ヨーロッパ中央銀行(ECB)としても手が付けられなくなる。そうなるとアジア通貨危機の再来が現実味を帯び、全世界を巻き込む巨大な金融危機が再来する可能性もある。
今、我々にできるのは民主党が予算編成で明確な規律をもつように監視していくことであり、格付け機関が余計なことをしないようにチェックすることだ。世界全体の経済状況が悪い中、後出しジャンケンのように問題が起こってからネガティブな方向に評価を変えていくのは、火に風を送って勢いをあおることにしかならない。現在問題となっているスペインの格付けが最上位のAAAであることからもいかに格付け機関がさぼっていたかが分かるだろう。もし評価を変えるなら、もっと早い段階で正当な評価をしておいてもらわないと格付け機関としての意味がない。
経済危機は韓国の場合も、去年のサブプライムでも、年末年始にまたがることが多い。鳩山首相の迷走と連立政権の危うさが市場に制裁されないことを祈るのみである。
よいお年を!